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本はごはん。
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41vHs5vvvkL._SL160_.jpg  タイトルにちょっとびっくりしてしまいますが、愛猫家の詩人による
 ねこにまつわるエッセイです。

 タイトルの意味は言葉通りの意味ではなく、前頭葉問題のことを
 言っています。

 詩人というカテゴリーに属する人たちは、なんて軽やかに言葉と戯れ、
 なんと的確に言葉を操り、なんと豊穣な世界を紡ぎ出すのだろう。
 うっとりするような美しい文章が、リズミカルに綴られています。

 30年以上前に刊行されたものなので、今のように避妊もしくは去勢手術
 &完全室内飼いがあたりまえ、という時代ではなく、ねこは自由に家と
 外を出入りし、野良猫も多かった、ある意味おおらかな時代の話ですが、
 
 とにかく文章表現のセンスが良く、ちょっと絵本のような雰囲気も漂っている良書です。


 「ねこに未来はない」 長田 弘 ★★★★
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129472.jpg  雪沼という地域を舞台にした連作集です。

 ドラマティックな展開や運命的な出会いもなにもなく、淡々と市井の人々の
 暮らしを穏やかに描いています。

 淡々とした筆致ではありますが、情景が目に浮かぶ美しい文章ですね。

 どの短編も、「モノ」に対する拘りを持った人が出てきます。
 それは現代の大量生産されたモノではなく、「古いけど良いもの」を
 大切にしている人たち。

 20世紀的な価値観が音を立てて崩れ、壊れ続けている今、こういう感覚がまた
 蘇りつつあるように思います。 

 連作集ではあるけれどそのつながり具合は、この小説に出てくる人たちの関わり合いと
 同じくらい緩やかです。

 特に何が起こるわけでもなく、言ってしまえば地味な作品集ですが、
 不思議と心に残ります。


 「雪沼とその周辺」 堀江 敏幸 ★★★★
32157499.JPG  短編集です。
 さすがだなぁ、という感じ。
 どれも長編にもできそうなのに、短編ですっきりと描ききっています。

 ジャンルとしたらホラーになってしまうのかもしれませんが、怖いと言うより
 哀しみを優しさでふんわり包んだ感じ。

 朱川湊人っぽい感じもしないでもないですが、それをもうすこしまろやかと
 いうか、ユーモラスにした感じでしょうか。

 ミステリー風なものやブラックジョーク風なものなどバラエティに富んでいて
 楽しめる1冊でした。


 「押入れのちよ」 荻原 浩 ★★★★
31070811.jpg  歳を取れば、悩みだの苦労だのといったモノから解放されるものかと思えば、
 いやそうあって欲しいと思っていますがなかなか現実はそうはいかない
 らしい。

 それよりも「年寄りならではの苦労、悩み」というものが発生してくるわけ
 ですね。

 この主人公のじいさんは、ある日突然、頭の上にサルが乗っていることに
 気づきます。このじいさんがいつの間にか頭の上に乗っているサルの存在を
 受け入れてしまったように、
 
 歳を取ると言うことはなんともみっともなく哀しいことであるけれども、
 それもこれもひっくるめて引き受けていかなければならないんだ、本人も
 周りの人たちも。

 ということなのかもしれません。

 私もいつの日か、頭の上にサルを乗せることになるのかもしれません。


 「走るジイサン」 池永 陽 ★★★
32174838.jpg  ノンフィクションの名手が書いた回顧録。
 面白くないはずはありません。

 行きつけのバーのママ「バァさん」を中心に回想録は展開していきます。
 ちょっとノスタルジックな雰囲気ですが、
 「ジャーナリズムが生きていた時代」だなぁと思います。

 「古き良き時代」といってしまえばそれまでですが、当時の全てを肯定する
 つもりはないです。しかし何というかジャーナリズムというのは、それを
 担う人のなかに多少未熟だろうが荒削りだろうが、その人なりの「芯」が
 なければそれはジャーナリズムたり得ないのではないか、などと思いました。

 はっきり言ってここにでてくる「バァさん」とは私は絶対にお付き合い
 できない自信があります。しかし著者を含め彼女に関わる人たちは
 「優しい」というよりもとにかく「度量が深い」。

 残念ながら環境は大きく変わり、今に生きる私はこの著書の「当時」は生きられないでしょうし、
 「バァさん」も今の時代だったら当時とはまた別の大きな苦労をすることになるのかも
 しれません。


 「警察(サツ)回り」 本田 靖春 ★★★★
32150230.jpg  すいません。最初に謝っときます。
 (良い意味ではなく)衝撃を受けました。これは…。

 設定が現実的でないことは別に良いと思います。小説ですから。
 しかし薄っぺらい会話と懊悩を表現しきれていない心理描写では
 非現実的な設定がどんどん浮いてしまいます。
 
 著者が伝えたいメッセージは何となく判るような気がしないでもないですが、
 でもこれは小説(の完成度)としてどうなんだろう。文章も結構「え?」と
 思うところがあるし、伏線の張り方も…。

 確かに映画なんかのストーリィとしてはありかもしれません。
 しかし、「小説」という文章世界での表現に達していないとしか
 思えず、全体的な底の浅さ感を露呈しているように思えてしまいますすいません。


 「スイッチを押すとき」 山田 悠介 ★★
4121016777.jpg  裁判官という職業上、事件に対する自分の心情を吐露することは
 できないのであろうことは仕方のないことなのでしょうが、この本ではその
 心情の一端を垣間見ることができます。
  
 量刑相場についてはいまひとつ納得できない部分もあるんですが、確かに
 「刑の公平性」については必要な部分もあるのかもしれません。

 また、刑が先か立法が先か、という問題(法律制定当時は強姦罪より窃盗罪の
 方が重罪であると世論も認知しており、法律上も窃盗罪の方が重罪であるが、
 最近は強姦罪の重罪性が認知されてきているのに法律は古いまま)など、

 法律制定当時と現在では環境も世論も大きく変わってきている中で、
 法律が変わるまで現状法規の枠内で裁くのか、それとも法解釈をどこまで
 広げるべきなのか、など様々な問題も提起されています。

 おしなべて言えるのは、どの裁判官も相当に悩みながら判決を下しているということなんで
 しょう。ひとりの裁判官の下した判決に対する他の裁判官の反論などもきちんと挙げられて
 いたり、判決の背後にあるものやその意味がきちんと解説されているのがとても良いと思います。

 ただ、裁判の全容、例えば警察とか検事とか弁護士とか、はたまた陪審員制度まで見据えた
 日本の裁判制度の全体にまでは話が及んでいるわけではないところがすこし残念ではありますが、
 冒頭に挙げたとおり、裁判官の胸中の一部を垣間見られるだけでもなかなか面白かったし、
 いろいろと考えさせられます。

 そして正直なところ、裁判官によって刑の軽重は変わってしまう可能性があるんだな…
 という気がしたのも事実です。


 「ドキュメント 裁判官―人が人をどう裁くのか」 読売新聞社会部 ★★★
image_prof.jpeg  前半はまったく救いがないですね。

 家庭内の不和、業績の悪化、借金、使い込み、クビ…。
 まあこれでもかこれでもかと陰鬱になるくらいですが、結局は
 夫婦関係から逃げ家庭から逃げ、仕事からも親の死からも逃げまくり、
 酒と女に逃げ込んでいただけのことなんですが。
 
 後半の展開は実は早い段階から読めてしまうんですが、前半に陰鬱な描写を
 淡々とかつリアルに積み重ねた結果か、さほど突拍子もないという感じを
 与えないように思います。

 程度の差こそあれ、こういう感じの家庭は多いのかしら。
 逃げることが必ずしも悪いことだとは思わないんですが、しかしやはり
 逃げ続けるのは本人もますます辛くなるんじゃ…

 とここまで書いて思い出したのは、友人に
 「専業主婦願望があったくせに(今もある)、何故いまだに結婚せず仕事(ばかり)してるの?」
 と聞かれたときに自分で答えたこと。

 「どこかで大きく舵を切ったことは一度もない。ただ、そのときそのとき、例えば5度とか
  10度とか舵をきってきて、その積み重ねが今あたしがいるところ。
  正直なところ、こんなところにくるとは思ってなかった。」

 少しずつ少しずつの積み重ねが、気がついたときには大きな隔たりになってしまっている
 ということもあるんだろう。
 ただ、その隔たりに気がついたときにその人自身が問われるのかもしれない。
  

 「月のない夜」 鳴海 章 ★★★
32157690.JPG  前にも書きましたが、双葉文庫ってこういう路線を狙って
 るんでしょうか?

 なんだかなー。思いきって言ってしまえば「薄っぺらい癒しもの」にしか
 思えないんだよなぁ。
 あたくしが年を取って捻くれたせいでしょうかきっとそうです
 それでいいです。

 なんか質感も薄いしコンセプトも展開も浅い。
 この底の浅さ感はどこから来るんだろうと考えてみると、どの短編もみんな
 自己完結型というか思い込み型というか、そこにあるんじゃなかろうか。

 ちょっと物足りないです。好みの問題だと思いますすいません。

 
 「家族の言い訳」 森 浩美 ★★
408316.gif  基本的に恋愛小説はあまり読まないんですが。

 大人の恋愛小説。
 とても乾いた空気を感じる文体ですが、しかしハードな恋愛小説です。

 大人の恋愛ってなんだろう、と考えてみると、それは価値観と価値観の
 ぶつかり合いではないか、と。当然それには「会話」というのが非常に
 重要なキィになりますが。

 楽しいことや辛いこと、おもしろいことや哀しいことなんかをそれなりに
 経験して、そして得た「とりあえずの結論」を「自分の言葉で」語り
 それに「感応」する人同士が恋に落ちるのかなぁ。

 面白いフレーズがたくさん出てきます。
 しかしこの著者も既に亡くなってしまっているんですね。
 残念です。

 
 「一九七二年のレイニー・ラウ」 打海 文三 ★★★★
201993s.jpg  元刑事である著者が自分の経験を元に著した小説ですが、目の前で事件が
 展開していくというわけではなく、退職間際の刑事が居酒屋で若い後進に
 自分の経験やそこで得た教訓などを伝えていく「語り小説」です。

 それなりに面白いんですが、設定がいつも、
 「いつもの居酒屋で○○刑事は若い△△刑事を前に…」
 というパターンなので、ちょっと飽きてくると言うか…。

 登場人物のキャラクターの作り込みもちょっと浅いかな。
 刑事の経験談というか、事例集として読むのがいいかもしれません。

 

 「捜査夜話」 石神 正 ★★★
9784167531072.jpg  とても不思議な小説。
 ミステリに入るのかな。何といっていいか判らない不思議さ。

 「日常」とか「ささやかな幸福」とかの裏には実は様々なことが隠れていて、
 案外脆いものなのかもしれない。
 
 全てを知ることは必ずしも良いこととは限らないけれど、知ることによる
 哀しみもあるけど、でも変わらないものもあるはずだから、それを
 乗り越えることによって自分の信じるものを更に強く信じられるように
 なれれば、 本当はそれがいちばん幸せなのかもしれない。

 ラストが何とも割り切れないような切ないような、
 いややっぱりこれは「救済」なのか…。

 
 「月への梯子」 樋口 有介 ★★★★
201992b.jpg  私が『噂の真相』を毎月読んでいたのは、90年代前半から後半に
 かけてだったと思うから、「特捜部事件」のすこし前からだったと思う。

 本当に「タブー」というものが存在しない雑誌で、皇室モノを読んで
 のけぞったのを覚えている。あとナンシー関が連載が好きだったなぁ。

 編集部の内側とか実情なんかもおもしろいのだけれど、この時代を振り返る
 という意味でもとても面白かった。

 大きな事件だけではなく、当時の出版業界はまだまだ元気で、バブルが
 はじけたといってもまだ、メディア業界は(いろんな意味で)元気だった頃の
 匂い。

 もうこういう雑誌は出ないだろうなぁ。

 
 「噂の女」 神林 広恵 ★★★
32142972.jpg  恐らく永遠に答えの出ない問いなのではないでしょうか。
 しかし答えを求めずはいられないものでもあり。

 個人的には「何故死んではいけないのか」というより、
 「何故生きて行かなきゃいけないのか」というほうがしっくりくるんですが。

 「死」を求めてやまない熱病のような時期を過ぎ、感性を切り捨てたんだか
 切り売りしたんだか、いやもともとそんなに大層なものは持ち合わせて
 いなかったんだとか思いながらなんとか生き永らえて(と言うほどの年寄り
 でもないけど)この齢になってみると、

 昨今耳にするような「よく生きる」だの「よく死ぬ」だのそんな贅沢な
 余裕はなく、ただただひたすら目の前の厄介ごとをどうにかこうにか
 だましだましやり過ごしてきただけという以外のなにものでもなくて、

 しかしあたしは何かを探しているんだろうなぁと思う。
 何を探しているのかすら判らないけれど。
 きっと見つからないのだろうけれど。

 哲学的見地に於ける「私」の(時間軸との)定義がとても面白く、また
 「何故死んではいけないのか」という問いに対するひとつの回答として、後書きに書かれて
 いることがとてもしっくりきました。

 
 「どうせ死んでしまうのに、なぜいま死んではいけないのか?」 中島 義道 ★★★★
200805000465.jpg  「バチスタシリーズ(?)」3作目です(もしかしたら番外編かも)。

 「バチスタ」はすごく良かったのですが、2作目の「ナイチンゲール」で
 ちょっとうーん…と思い、どうしようかと思ったのですが、この作品は
 なかなか良かったです。
 
 1作目の「バチスタ」はエンタテインメントの小説としての完成度は高かった
 ものの、やはり著者が推進する「AI(死亡時画像診断)」に対する説明臭さを
 多少感じたのですが(まあ1作目なのでちゃんと説明しなきゃいけなかったんで
 しょうが)、この作品では「AI」を全く逆の視点(死因を隠すためのAI)で
 表現していたり、

 「原罪」の概念を絡めてきたり、「バチスタ」騒動そのものや高階病院長に
 対する世俗の評価なんかが複眼で絡んできて、より世界観が重厚になった
 ように思います。

 上巻の頭のから伏線張られまくり、内容盛り沢山のエンタテインメント小説ですが、ちょっと
 距離を置いて俯瞰してみると、著者の「医療」とか「生命」に対する「想い」みたいなものや、
 基本的なことに対するスタンスみたいな物が見えてきます。

 相変わらずキャラクターのたてかたが鮮やか。
 星の数は非常に悩むところだけれど、ぎりぎり4つということで。

 
 「螺鈿迷宮 上」「螺鈿迷宮 下」 海堂 尊 ★★★★
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