本はごはん。
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この著者の作品は初めてで、上・下巻の長編ゆえ、最後まで
ちゃんと引っ張ってってくれるかしら、とすこし不安でしたが、
なかなかどうして面白い作品でした。
「カインとアベル」を引き合いに出すまでもなく、同性同士の兄弟、
姉妹は、同性ならではの気安さと信頼が存在する一方で、やはり同性
ならではの葛藤や確執も存在するのでしょう(残念ながら異性兄弟
しかもっていないため、そのあたりは想像するしかないのですが)。
すべてにおいて秀逸である兄と、すべてにおいて平均以下である弟。
出生の秘密を巡り、「血」とは何か、「救い」とは「赦し」とは何か、
なかなか重いテーマを扱っています。
テーマの割に平易な少し軽めの文章で展開されているのは、テーマが重い故なのか。
私は「若年層にも(というかむしろ若年層にこそ)読んでほしい」という著者の希望のなせる
技かと想像するのですが、この著者はそもそもこういう文体なんでしょうか。
正直なところ先の展開は読めてしまうし、一点「うーん」と思うところもないではないのですが
それでもなかなか良い作品だと思います。
「いつもの朝に 上」「 いつもの朝に 下」 今邑 彩 ★★★
ちゃんと引っ張ってってくれるかしら、とすこし不安でしたが、
なかなかどうして面白い作品でした。
「カインとアベル」を引き合いに出すまでもなく、同性同士の兄弟、
姉妹は、同性ならではの気安さと信頼が存在する一方で、やはり同性
ならではの葛藤や確執も存在するのでしょう(残念ながら異性兄弟
しかもっていないため、そのあたりは想像するしかないのですが)。
すべてにおいて秀逸である兄と、すべてにおいて平均以下である弟。
出生の秘密を巡り、「血」とは何か、「救い」とは「赦し」とは何か、
なかなか重いテーマを扱っています。
テーマの割に平易な少し軽めの文章で展開されているのは、テーマが重い故なのか。
私は「若年層にも(というかむしろ若年層にこそ)読んでほしい」という著者の希望のなせる
技かと想像するのですが、この著者はそもそもこういう文体なんでしょうか。
正直なところ先の展開は読めてしまうし、一点「うーん」と思うところもないではないのですが
それでもなかなか良い作品だと思います。
「いつもの朝に 上」「 いつもの朝に 下」 今邑 彩 ★★★
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三島由紀夫関連で読みたい本があるのです。
しかしよく考えてみると、以前から三島に興味を持ちつつも三島自身の著書を
数冊読んだ経験しかなく、また「楯の会事件」についても概要をなんとなく
知っているという程度の知識しかないことに気づき、まずは事実関係を
おさえるべく「ドキュメンタリー」と銘打ってあるこの本から入りたいと
思います。
冒頭に有名な「檄文」(三島が自決直前にバルコニーからばらまいたビラに
書かれていた文)が掲載されていますが、この文章がもう、
良いとか悪いとか、正しいとか間違ってるとか、好きとか嫌いとかそれ以前
に、それらを判断させるいとますら与えず、
ものすごく強い強いエネルギーを発しながら迫ってくるため、頭がくらくらしてきます。
それを押して「檄文」を読み通してみると、これは…
「ものすごく熱烈で、ものすごく悲壮な恋文ではないか」
と言うのが正直な感想です。いったい何が彼をしてここまで書かせしめたのか。
本書は多数の資料と当時の時代背景をきちんと整理してあり、「楯の会事件」についての
事実をきちんと纏めながら、(結局のところ推論となってしまうのかもしれませんが)三島の
心理的変遷を丁寧に追いかけています。
一連の流れについては理解したんですが、でもまだ判らない。
文学者としての三島と、楯の会隊長としての三島、このふたつの顔が並立すること自体には
さしたる矛盾も疑問も感じないのですが、でも判らない。
もちろん他人のことが100%判るなんてことはないことは100も承知ででも
判らなさすぎる。
しばらく追いかけます。
「三島由紀夫と楯の会事件」 保阪 正康 ★★★★
しかしよく考えてみると、以前から三島に興味を持ちつつも三島自身の著書を
数冊読んだ経験しかなく、また「楯の会事件」についても概要をなんとなく
知っているという程度の知識しかないことに気づき、まずは事実関係を
おさえるべく「ドキュメンタリー」と銘打ってあるこの本から入りたいと
思います。
冒頭に有名な「檄文」(三島が自決直前にバルコニーからばらまいたビラに
書かれていた文)が掲載されていますが、この文章がもう、
良いとか悪いとか、正しいとか間違ってるとか、好きとか嫌いとかそれ以前
に、それらを判断させるいとますら与えず、
ものすごく強い強いエネルギーを発しながら迫ってくるため、頭がくらくらしてきます。
それを押して「檄文」を読み通してみると、これは…
「ものすごく熱烈で、ものすごく悲壮な恋文ではないか」
と言うのが正直な感想です。いったい何が彼をしてここまで書かせしめたのか。
本書は多数の資料と当時の時代背景をきちんと整理してあり、「楯の会事件」についての
事実をきちんと纏めながら、(結局のところ推論となってしまうのかもしれませんが)三島の
心理的変遷を丁寧に追いかけています。
一連の流れについては理解したんですが、でもまだ判らない。
文学者としての三島と、楯の会隊長としての三島、このふたつの顔が並立すること自体には
さしたる矛盾も疑問も感じないのですが、でも判らない。
もちろん他人のことが100%判るなんてことはないことは100も承知ででも
判らなさすぎる。
しばらく追いかけます。
「三島由紀夫と楯の会事件」 保阪 正康 ★★★★
この著者の作品は「都市伝説セピア」がとにかく出色であると
思っていますが、この作品もなかなかいいです、
東京のある町を舞台にした連作ですが、どの短編も「死」というものと、
ひとの「想い」がテーマになっているように思います。
同じ町が舞台でも、話によって年代が変わっているのも面白いところ。
「花まんま」や「いっぺんさん」を読んだときはちょっと「あれ?」と
思ったのですがこの本はそんなこともなく。
その違いは何だろうと考えてみるにやはり全体の、連作としての構成の
完成度が高いように思います。
「ひと」に張り付いている「死」をいうものを様々な形で描きながら、
最後は「生」で終わるのもいい感じです。
「かたみ歌」 朱川 湊人 ★★★★
思っていますが、この作品もなかなかいいです、
東京のある町を舞台にした連作ですが、どの短編も「死」というものと、
ひとの「想い」がテーマになっているように思います。
同じ町が舞台でも、話によって年代が変わっているのも面白いところ。
「花まんま」や「いっぺんさん」を読んだときはちょっと「あれ?」と
思ったのですがこの本はそんなこともなく。
その違いは何だろうと考えてみるにやはり全体の、連作としての構成の
完成度が高いように思います。
「ひと」に張り付いている「死」をいうものを様々な形で描きながら、
最後は「生」で終わるのもいい感じです。
「かたみ歌」 朱川 湊人 ★★★★
アメリカに留学し、現地の男性と結婚しそのままアメリカで生活を続けて
いる日本人女性の目から見た「アメリカでの日常」が綴られています。
「ミリタリー・ワイフ」というタイトルですが、ミリタリー・ワイフならでは
の話ももちろんありますがそれがすべてではなく(むしろ全体の半分も
占めていない)、
あのゴージャスなクリスマス・ツリーにまつわる苦労とか、
アメリカの子供が抱える、日本の子供とはまた違った大変さなどの
アメリカでの日常が、
「アメリカ最高!」というわけではなく、また「やっぱり日本よ!」という
わけでもなく、文化の違うアメリカでの生活について、その大変さも含めて
自然に語られています。
そして、やはり異文化に暮らすことによって見えてくる祖国、というものがあるのだなぁと
おもいます。
「正義か平和か」。
正義を守るために戦争になってしまったのが20世紀であるならば、
正義を貫きながら平和を維持できる21世紀であってほしいと、
著者同様、思います。
「ミリタリー・ワイフの生活」 ジョンソン桜井 もよ ★★★
いる日本人女性の目から見た「アメリカでの日常」が綴られています。
「ミリタリー・ワイフ」というタイトルですが、ミリタリー・ワイフならでは
の話ももちろんありますがそれがすべてではなく(むしろ全体の半分も
占めていない)、
あのゴージャスなクリスマス・ツリーにまつわる苦労とか、
アメリカの子供が抱える、日本の子供とはまた違った大変さなどの
アメリカでの日常が、
「アメリカ最高!」というわけではなく、また「やっぱり日本よ!」という
わけでもなく、文化の違うアメリカでの生活について、その大変さも含めて
自然に語られています。
そして、やはり異文化に暮らすことによって見えてくる祖国、というものがあるのだなぁと
おもいます。
「正義か平和か」。
正義を守るために戦争になってしまったのが20世紀であるならば、
正義を貫きながら平和を維持できる21世紀であってほしいと、
著者同様、思います。
「ミリタリー・ワイフの生活」 ジョンソン桜井 もよ ★★★
久しぶりに新選組ものです。
「史伝」とあるとおり、かなりの資料を当たって書かれているようです。
歴史は勝者が書く、もしくは書き換えますし、幕末から明治にかけては
まさしく「勝てば官軍」ですから、残っている資料でも明らかに間違って
いるもの、当事者のものであっても記憶違いなものなどが多数で、
しかし丁寧に各資料をつきあわせ、矛盾や資料による相違を拾い上げ、
またなぜそのように記述されたのかも推測しています。
新選組について描かれたものを読むたびに思うのは、近藤があのとき、
流山で捕まっていなかったら彼はどう生きたのでしょうか?
高台寺党の残党に狙撃されて、以前のように剣を持てなくなった彼は。
それ以前にそれ(剣を使えないこと)を知ったとき近藤は、何を思ったのでしょうか?
そしてなにより、土方の孤独。
それにしても、何を読んでも松平容保はいい人です。本当に誠実な人だったんでしょうね。
その人柄や会津藩の気質などが相まって、悲劇へとなだれ込んでしまったようにも思います。
幕末および新選組の経緯をひととおりさらってからの方が、本書は楽しめると思います。
「史伝 新選組」 三好 徹 ★★★
「史伝」とあるとおり、かなりの資料を当たって書かれているようです。
歴史は勝者が書く、もしくは書き換えますし、幕末から明治にかけては
まさしく「勝てば官軍」ですから、残っている資料でも明らかに間違って
いるもの、当事者のものであっても記憶違いなものなどが多数で、
しかし丁寧に各資料をつきあわせ、矛盾や資料による相違を拾い上げ、
またなぜそのように記述されたのかも推測しています。
新選組について描かれたものを読むたびに思うのは、近藤があのとき、
流山で捕まっていなかったら彼はどう生きたのでしょうか?
高台寺党の残党に狙撃されて、以前のように剣を持てなくなった彼は。
それ以前にそれ(剣を使えないこと)を知ったとき近藤は、何を思ったのでしょうか?
そしてなにより、土方の孤独。
それにしても、何を読んでも松平容保はいい人です。本当に誠実な人だったんでしょうね。
その人柄や会津藩の気質などが相まって、悲劇へとなだれ込んでしまったようにも思います。
幕末および新選組の経緯をひととおりさらってからの方が、本書は楽しめると思います。
「史伝 新選組」 三好 徹 ★★★
かなり久しぶりに萩尾望都を読みました。
あたくしのなかで萩尾望都といえば、「半神」がナンバーワンで、続いて
「百億の昼と千億の夜」、そして「ポーの一族」と、不動の位置を占めていて
それで満足していたのでありました。
久しぶりに読んでみましたが(しかしこれももう10年以上前の発行ですね。
そんな古さは感じさせませんが)、やっぱり萩尾望都だなぁ。
あの世とこの世の「狭間」に立つホテルが舞台です。そこに迷い込んだ
ものの、表門から再び「現世」へと戻っていく人、そのまま中庭を抜けて
「あの世」へ旅立つ人。じたばたする人、あきらめる人。
それぞれのドラマ、涙、決断があるのですが、単なるドラマに収まらない
のが萩尾望都のすごいところです。
この人の作品は「漫画」という表現手段でそれ以上の世界を表現している、
ということをいつも感じます。
「あぶな坂HOTEL」 萩尾 望都 ★★★★
あたくしのなかで萩尾望都といえば、「半神」がナンバーワンで、続いて
「百億の昼と千億の夜」、そして「ポーの一族」と、不動の位置を占めていて
それで満足していたのでありました。
久しぶりに読んでみましたが(しかしこれももう10年以上前の発行ですね。
そんな古さは感じさせませんが)、やっぱり萩尾望都だなぁ。
あの世とこの世の「狭間」に立つホテルが舞台です。そこに迷い込んだ
ものの、表門から再び「現世」へと戻っていく人、そのまま中庭を抜けて
「あの世」へ旅立つ人。じたばたする人、あきらめる人。
それぞれのドラマ、涙、決断があるのですが、単なるドラマに収まらない
のが萩尾望都のすごいところです。
この人の作品は「漫画」という表現手段でそれ以上の世界を表現している、
ということをいつも感じます。
「あぶな坂HOTEL」 萩尾 望都 ★★★★
たとえばある日突然死んでしまうのと、「あと半年の命です」と余命宣告
されるのとではどちらがいいんでしょうか。その人の性格にもよると
思いますが、私は余命宣告をしてほしいクチであります。精神的に耐えられる
かどうか自信はありませんが。
この本は、緩和ケア専門医による正しい緩和ケアの紹介です。
著者も繰り返し訴えていますが、「緩和ケアに対する誤解」がまだ強いようで
すね。
何を隠そうあたくしも、さすがに緩和ケアが寿命を縮めることはないとは
知っていましたが最後の手段、「モルヒネで楽に死ねる」のではないかと
思いこんでおりました。
医療現場で正しく投与されるモルヒネでは死なない(死ねない)そうですよ。
(そりゃ静注でもすりゃ別でしょうが、それでは犯罪になってしまうでしょうし)。
しかし「麻薬(モルヒネ)を使うなんて言語道断!」と、患者が苦しがっていても投与して
くれない医療従事者すらいるということですから、一般的な正しい認識度はやっぱり
まだまだなんでしょう。
そして「緩和ケア」ですから当然その先には避けられない「死」があるわけで、そういう
意味でもこの本は単に緩和ケアの紹介だけではなく、
「さてあたなはそのときどうしますか?」という命題をそれぞれに突きつけてもいます。
とても印象深かった映画「死ぬまでにしたい10のこと」(どうでもいいことですがこの映画は、
原題である「my life without me」のほうがしっくりきます)の主人公のアンは、まだ20代前半、
子供ふたりもまだとても小さいうちにガンで生涯を終えますが、そのラストでアンが、
「失った人生に未練はない」
と見事に言い切ります。
果たしてそのように毅然として自分の人生の終幕を迎えることができるのかどうか。
それには著者の言うとおり、目をそらし避け続けるのではなく、
時々はきちんと考え、大切な人とその考えを共有しておくことが必要なのかもしれません。
そしてその前提として、正しい知識が必要なのは言うまでもないことでしょう。
ドラマのようなきれいで静かな死など、殆ど望めないということも含めて。
「余命半年 満ち足りた人生の終わり方」 大津 秀一 ★★★★
されるのとではどちらがいいんでしょうか。その人の性格にもよると
思いますが、私は余命宣告をしてほしいクチであります。精神的に耐えられる
かどうか自信はありませんが。
この本は、緩和ケア専門医による正しい緩和ケアの紹介です。
著者も繰り返し訴えていますが、「緩和ケアに対する誤解」がまだ強いようで
すね。
何を隠そうあたくしも、さすがに緩和ケアが寿命を縮めることはないとは
知っていましたが最後の手段、「モルヒネで楽に死ねる」のではないかと
思いこんでおりました。
医療現場で正しく投与されるモルヒネでは死なない(死ねない)そうですよ。
(そりゃ静注でもすりゃ別でしょうが、それでは犯罪になってしまうでしょうし)。
しかし「麻薬(モルヒネ)を使うなんて言語道断!」と、患者が苦しがっていても投与して
くれない医療従事者すらいるということですから、一般的な正しい認識度はやっぱり
まだまだなんでしょう。
そして「緩和ケア」ですから当然その先には避けられない「死」があるわけで、そういう
意味でもこの本は単に緩和ケアの紹介だけではなく、
「さてあたなはそのときどうしますか?」という命題をそれぞれに突きつけてもいます。
とても印象深かった映画「死ぬまでにしたい10のこと」(どうでもいいことですがこの映画は、
原題である「my life without me」のほうがしっくりきます)の主人公のアンは、まだ20代前半、
子供ふたりもまだとても小さいうちにガンで生涯を終えますが、そのラストでアンが、
「失った人生に未練はない」
と見事に言い切ります。
果たしてそのように毅然として自分の人生の終幕を迎えることができるのかどうか。
それには著者の言うとおり、目をそらし避け続けるのではなく、
時々はきちんと考え、大切な人とその考えを共有しておくことが必要なのかもしれません。
そしてその前提として、正しい知識が必要なのは言うまでもないことでしょう。
ドラマのようなきれいで静かな死など、殆ど望めないということも含めて。
「余命半年 満ち足りた人生の終わり方」 大津 秀一 ★★★★
聴いた話によると、葬儀屋さん曰く
「昔に比べると遺体に使う防腐剤の量が圧倒的に今は減っている」そうで、
それは即ち、昔は大量の防腐剤を遺体に使う必要があったのだが、現代の
人間は日頃防腐剤が使われている食品を多く摂取しているがために、
さほど防腐剤を使わなくとも遺体が腐らない、ということのようです。
これが果たして事実なのか、それともまことしやかな都市伝説の一種で
あるのかは定かではありませんが、なんとなく説得力があるというか。
さてこの本は、CM制作会社から湯灌師へとずいぶんな異業種転職(?)を
果たした著者の体験記であります。異業種も異業種。
イメージもサービス対象も、何より業務内容が違いすぎます。
しかし読み進めていくうちに彼ら(夫婦で湯灌師)は彼らなりのポリシーを持ってきちんと
仕事、遺体そのものや遺族と向き合っていることがよく判り、きっとなるべくしてこの職業
に就いたのであろう、と思います。
特筆すべきは「湯灌」というプロセスを通して遺族はどう癒され、身内の死を受け入れて
いくのか。
そして何より、遺族に寄り添いその癒しを手伝うことにより自分たちも癒されていくこと
をよく自覚していることだと思います。
なかなかできる仕事ではないと思うんですが、静かにしかし誠実に取り組まれている
ことに好感を持つと同時にすこし安心したり。ああ、まだまだ捨てたもんでもないのかな、と。
「死体とご遺体 夫婦湯灌師と4000体の出会い」 熊田 紺也 ★★★
「昔に比べると遺体に使う防腐剤の量が圧倒的に今は減っている」そうで、
それは即ち、昔は大量の防腐剤を遺体に使う必要があったのだが、現代の
人間は日頃防腐剤が使われている食品を多く摂取しているがために、
さほど防腐剤を使わなくとも遺体が腐らない、ということのようです。
これが果たして事実なのか、それともまことしやかな都市伝説の一種で
あるのかは定かではありませんが、なんとなく説得力があるというか。
さてこの本は、CM制作会社から湯灌師へとずいぶんな異業種転職(?)を
果たした著者の体験記であります。異業種も異業種。
イメージもサービス対象も、何より業務内容が違いすぎます。
しかし読み進めていくうちに彼ら(夫婦で湯灌師)は彼らなりのポリシーを持ってきちんと
仕事、遺体そのものや遺族と向き合っていることがよく判り、きっとなるべくしてこの職業
に就いたのであろう、と思います。
特筆すべきは「湯灌」というプロセスを通して遺族はどう癒され、身内の死を受け入れて
いくのか。
そして何より、遺族に寄り添いその癒しを手伝うことにより自分たちも癒されていくこと
をよく自覚していることだと思います。
なかなかできる仕事ではないと思うんですが、静かにしかし誠実に取り組まれている
ことに好感を持つと同時にすこし安心したり。ああ、まだまだ捨てたもんでもないのかな、と。
「死体とご遺体 夫婦湯灌師と4000体の出会い」 熊田 紺也 ★★★
クーデンホーフ=カレルギー光子 を初めて知ったのは小学生の頃、
彼女の生涯を描いた、確か大和和紀のコミックだったと思う。
今でもストーリィはもちろん、場面場面の画まではっきりと覚えている
くらいだから、当時の私にとても強い印象を与えたのだと思う。
基本的に恋愛ストーリィで(少女向けコミックだからそりゃそうなんで
しょう)、婚家に嫁として認めてもらえず苦労もするんだけど、
社交界の花形になっていくというある種のシンデレラストーリィで、
しかし伯爵が死んでしまった後、一人で領地を切り盛りする自立した女性へ
成長するという、まあ女性のある種の理想の生き方、みたいな描かれ方で
あったように思う。
この本では、「イメージ」と「(判明している)事実」の違いがきちんと指摘されています。
確かにこの時代(明治)、異人との恋愛というのはちょっと考えにくいかも。
しかしそれでも、伯爵に大事にされてそれなりに幸せな時期が確かにあったように思う。
伯爵の心の内に住む人が別に居ようと。
思うに彼女のいちばんの苦難は、子供たちとの不仲、子供たちとの間にできた溝だったんじゃ
ないかと思う。確かに彼女の子供たちは、文学者として立ったり、現EU構想の基となる
理念を提唱したひとであったりみんな優秀なんだけど、
母としての彼女は幸せだったのかどうか。
そして子供たちは子供たちで、それぞれ辛酸をなめる。
しかし自分や家族、家柄に傷がつきそうなことは一切書き残さず(伯爵が数十年にわたって
書き続けた日記も、彼が死んでわずか数時間のうちに焼き捨てている)、文字通り地獄まで
持って行くかのような覚悟はさすが明治女の気質なのか、薄っぺらい感情をブログに書き殴って
ぺらぺらな自尊心を何とか保っている自分の精神的未熟さを改めて思い知る。
「ミツコと七人の子供たち」 シュミット村木 眞寿美 ★★★
彼女の生涯を描いた、確か大和和紀のコミックだったと思う。
今でもストーリィはもちろん、場面場面の画まではっきりと覚えている
くらいだから、当時の私にとても強い印象を与えたのだと思う。
基本的に恋愛ストーリィで(少女向けコミックだからそりゃそうなんで
しょう)、婚家に嫁として認めてもらえず苦労もするんだけど、
社交界の花形になっていくというある種のシンデレラストーリィで、
しかし伯爵が死んでしまった後、一人で領地を切り盛りする自立した女性へ
成長するという、まあ女性のある種の理想の生き方、みたいな描かれ方で
あったように思う。
この本では、「イメージ」と「(判明している)事実」の違いがきちんと指摘されています。
確かにこの時代(明治)、異人との恋愛というのはちょっと考えにくいかも。
しかしそれでも、伯爵に大事にされてそれなりに幸せな時期が確かにあったように思う。
伯爵の心の内に住む人が別に居ようと。
思うに彼女のいちばんの苦難は、子供たちとの不仲、子供たちとの間にできた溝だったんじゃ
ないかと思う。確かに彼女の子供たちは、文学者として立ったり、現EU構想の基となる
理念を提唱したひとであったりみんな優秀なんだけど、
母としての彼女は幸せだったのかどうか。
そして子供たちは子供たちで、それぞれ辛酸をなめる。
しかし自分や家族、家柄に傷がつきそうなことは一切書き残さず(伯爵が数十年にわたって
書き続けた日記も、彼が死んでわずか数時間のうちに焼き捨てている)、文字通り地獄まで
持って行くかのような覚悟はさすが明治女の気質なのか、薄っぺらい感情をブログに書き殴って
ぺらぺらな自尊心を何とか保っている自分の精神的未熟さを改めて思い知る。
「ミツコと七人の子供たち」 シュミット村木 眞寿美 ★★★
前々から気になっていたのですが、ここで1巻から6巻まで一気読み。
画像は一番気に入ってる1巻の表紙を貼っておきます。
自宅の庭に集まってくる鳥たちや、移ろいゆく自然の観察日記を
4コマ漫画で表現しています。
途中から実家を出て庭付きの一軒家へ引っ越し、その広い庭を畑にしたり
ちょっと羨ましい(いや、あたくしのとりあえずの目標はルーフバルコニー)。
東京より北の地域での生活経験がないので、雪国の冬の日常もあたくしには
興味深かったりします。
なんというか全体に独特のトーンが漂っていて、本人には「エコ」だの
「ロハス」だのという感覚が全くないのもいいです。
個人的には3巻の最終話「北の国から 2006つぐみん」がいちばん好きです。
「とりぱん 6」 とりの なん子 ★★★★
画像は一番気に入ってる1巻の表紙を貼っておきます。
自宅の庭に集まってくる鳥たちや、移ろいゆく自然の観察日記を
4コマ漫画で表現しています。
途中から実家を出て庭付きの一軒家へ引っ越し、その広い庭を畑にしたり
ちょっと羨ましい(いや、あたくしのとりあえずの目標はルーフバルコニー)。
東京より北の地域での生活経験がないので、雪国の冬の日常もあたくしには
興味深かったりします。
なんというか全体に独特のトーンが漂っていて、本人には「エコ」だの
「ロハス」だのという感覚が全くないのもいいです。
個人的には3巻の最終話「北の国から 2006つぐみん」がいちばん好きです。
「とりぱん 6」 とりの なん子 ★★★★
酒の席などで男性に、
「どうして女性は相手の浮気にすぐ気がつくのか」などという質問を受ける
ことがありますが、これに対する答えはひとつしかなく、それは即ち、
『判るものは判る』。
そう答えると男性は至って不満げでありますが、そうとしか言いようがない。
この本にはそのあたりも非常に丁寧に描写されていますが、秀逸なのは
その時々の女性心理が繊細に描かれているところでしょう。
この「美しい妻」はあたくしとはまったく性格が違いますが、それでも
そこに描かれている心理はとても理解できる。
最後に、彼女が最愛のものを取り戻すために神に「引き替え」に差し出したものはある種の
矛盾を一瞬感じるのだけれど、それによって永遠に自分の中に閉じこめるという発想は得てして
あるもので、そういう意味でも彼女は本当は自分のことしか愛していないのかもしれない。
それにしても。
このひとの作品は、いつもあたしの内側を引っかき回す。
井上作品としては今のところ、本作が最高峰であると思います。
「誰よりも美しい妻」 井上 荒野 ★★★★
「どうして女性は相手の浮気にすぐ気がつくのか」などという質問を受ける
ことがありますが、これに対する答えはひとつしかなく、それは即ち、
『判るものは判る』。
そう答えると男性は至って不満げでありますが、そうとしか言いようがない。
この本にはそのあたりも非常に丁寧に描写されていますが、秀逸なのは
その時々の女性心理が繊細に描かれているところでしょう。
この「美しい妻」はあたくしとはまったく性格が違いますが、それでも
そこに描かれている心理はとても理解できる。
最後に、彼女が最愛のものを取り戻すために神に「引き替え」に差し出したものはある種の
矛盾を一瞬感じるのだけれど、それによって永遠に自分の中に閉じこめるという発想は得てして
あるもので、そういう意味でも彼女は本当は自分のことしか愛していないのかもしれない。
それにしても。
このひとの作品は、いつもあたしの内側を引っかき回す。
井上作品としては今のところ、本作が最高峰であると思います。
「誰よりも美しい妻」 井上 荒野 ★★★★
いうならば京都と東京の比較文化論、でしょうか。
近年ではどの地方都市もだいたい同じような店が並び、さほど違いはないのでは
ないかと思ってしまいますが、「ケンミンショー」(かなりお気に入りの番組)
を観ても、やはり地域ごとの特徴はあるわけで。
この本は「京都」と「東京」を比較分解していますが、いちいちおもしろい。
著者は京都大好きであるらしいけれど、京都もしくは東京のどちらかに肩入れ
するのではなく、どちらのいいところもちょっとなぁ…というところも指摘
しています。
そしてそのような文化の背景についての著者の解説も、なるほどなぁと思うところが多く。
それにしても、名古屋のゴージャスな結婚式や北海道の会費制結婚式については結構耳にする
ことも多いですが、京都女性の嫁入りの際の儀礼にに則ったやりとりに、
ああなんと大変なことだなぁと思う私は、やっぱり東女なんでしょう。
「都と京」 酒井 順子 ★★★
近年ではどの地方都市もだいたい同じような店が並び、さほど違いはないのでは
ないかと思ってしまいますが、「ケンミンショー」(かなりお気に入りの番組)
を観ても、やはり地域ごとの特徴はあるわけで。
この本は「京都」と「東京」を比較分解していますが、いちいちおもしろい。
著者は京都大好きであるらしいけれど、京都もしくは東京のどちらかに肩入れ
するのではなく、どちらのいいところもちょっとなぁ…というところも指摘
しています。
そしてそのような文化の背景についての著者の解説も、なるほどなぁと思うところが多く。
それにしても、名古屋のゴージャスな結婚式や北海道の会費制結婚式については結構耳にする
ことも多いですが、京都女性の嫁入りの際の儀礼にに則ったやりとりに、
ああなんと大変なことだなぁと思う私は、やっぱり東女なんでしょう。
「都と京」 酒井 順子 ★★★
短編集です。
この著者の作品はいつも、背景には音や色彩がちゃんとあるんだけれども、
なんとも静謐な雰囲気が漂っているように思います。
たとえばこの作品の中に「バタフライ和文タイプ事務所」という作品が
ありますが、和文タイプ事務所ですから、和文タイプを打つ音、それは英
文タイプのかしゃかしゃした音よりももっと重たい音ですが(学生時代に
やったことがある)、
そういう音に囲まれた場面を描きながらもどこか、海の底のような「しん」と
した気配を感じる。
現実の持つ理不尽さとか残酷さとか、そういうことを覆い隠してしまうのではなく、
それらをきちんと見つめながらそれらとも共存できるファンタジーを紡いでいるかのようにも思う。
2番目の短編、「風薫るウィーンの旅六日間」がなんとも、悲劇のような喜劇というか、
喜劇のような悲劇というか。
でも、人生ってこんなもんだよね。とも思う。
「海」 小川 洋子 ★★★
この著者の作品はいつも、背景には音や色彩がちゃんとあるんだけれども、
なんとも静謐な雰囲気が漂っているように思います。
たとえばこの作品の中に「バタフライ和文タイプ事務所」という作品が
ありますが、和文タイプ事務所ですから、和文タイプを打つ音、それは英
文タイプのかしゃかしゃした音よりももっと重たい音ですが(学生時代に
やったことがある)、
そういう音に囲まれた場面を描きながらもどこか、海の底のような「しん」と
した気配を感じる。
現実の持つ理不尽さとか残酷さとか、そういうことを覆い隠してしまうのではなく、
それらをきちんと見つめながらそれらとも共存できるファンタジーを紡いでいるかのようにも思う。
2番目の短編、「風薫るウィーンの旅六日間」がなんとも、悲劇のような喜劇というか、
喜劇のような悲劇というか。
でも、人生ってこんなもんだよね。とも思う。
「海」 小川 洋子 ★★★
この作家は小説よりエッセイが秀逸だと思ったのだけど、よく考えてみると
まだ小説は2冊、エッセイはこの作品がはじめてなので、そう断言する
資格はあたくしにはないのであった。
とにかく買い物というか、ものの値段にまつわるエッセイ、というより
「考察」にあたくしには思えたのだけれども、どーしてこれが面白い。
特に、「携帯電話」に関する考察は秀逸だと思います。
あと「男値段」と「女値段」とか、「母親との温泉旅行」とか。
「バレンタインデー」に関する考察は、まったくもって以前から自分も
そう思っていたことを簡潔に歯切れよく「すぱん」と言い切ってくれて
いてなんとも気持ちがいい。
それにしても、考え方の傾向が似ているというか反応する、感じるツボみたいなものが近い
のは同年代だからかなぁと思いながら読み進め、「あとがき」を読むと、育ち方がまったく一緒
で驚いた。
私の親も決して「お金がない」と言わなかった人で、初めて「お金がないからだめ」と
言われた確か私が高校生だったとき、私はまったくその言葉を信じなかったのであった。
おかげで私も著者の言うところの「お金とは水道の蛇口のようなもので、断水などで出の悪く
なることはあっても、地下水脈と蛇口は繋がっていて、いついかなるときも水は出続ける」
というゆがんだ金銭感覚を持っていて、
もちろん今はそんなことないと頭では判っているものの、どーしてもそういう「感覚」が
すっぽり身体を覆っているのであります。
つまりたとえば、
「今自分は窮状にあるのにそれを正しく窮状として認識できていない自分に対する不安」
みたいなややこしい不安を抱くことになるのです。
20代のお金の使い方がその人の30代を決める、と著者は言っていますが、自分を振り返っても
たしかにそうなのかもしれません。
「しあわせのねだん」 角田 光代 ★★★
まだ小説は2冊、エッセイはこの作品がはじめてなので、そう断言する
資格はあたくしにはないのであった。
とにかく買い物というか、ものの値段にまつわるエッセイ、というより
「考察」にあたくしには思えたのだけれども、どーしてこれが面白い。
特に、「携帯電話」に関する考察は秀逸だと思います。
あと「男値段」と「女値段」とか、「母親との温泉旅行」とか。
「バレンタインデー」に関する考察は、まったくもって以前から自分も
そう思っていたことを簡潔に歯切れよく「すぱん」と言い切ってくれて
いてなんとも気持ちがいい。
それにしても、考え方の傾向が似ているというか反応する、感じるツボみたいなものが近い
のは同年代だからかなぁと思いながら読み進め、「あとがき」を読むと、育ち方がまったく一緒
で驚いた。
私の親も決して「お金がない」と言わなかった人で、初めて「お金がないからだめ」と
言われた確か私が高校生だったとき、私はまったくその言葉を信じなかったのであった。
おかげで私も著者の言うところの「お金とは水道の蛇口のようなもので、断水などで出の悪く
なることはあっても、地下水脈と蛇口は繋がっていて、いついかなるときも水は出続ける」
というゆがんだ金銭感覚を持っていて、
もちろん今はそんなことないと頭では判っているものの、どーしてもそういう「感覚」が
すっぽり身体を覆っているのであります。
つまりたとえば、
「今自分は窮状にあるのにそれを正しく窮状として認識できていない自分に対する不安」
みたいなややこしい不安を抱くことになるのです。
20代のお金の使い方がその人の30代を決める、と著者は言っていますが、自分を振り返っても
たしかにそうなのかもしれません。
「しあわせのねだん」 角田 光代 ★★★
大人の絵本、ですかね。
まだ何も持たない子供の頃、アンネ(の日記)には「キティ」がいたように、
空想上の親友を持っていた人は多いのではないでしょうか。
社会化していくにしたがって、自立していく課程でその存在は
薄れていきますが決してなくなってしまうわけではなく、
そしてそれは、独立して孤独と対峙していくためのベースとなる
力を与えてくれる、重要なステップなのでしょう。
見えないだけで、美しい草原は存在する。
「目では何も見えないよ。心で探さなきゃ」と星の王子さまも言っていましたね。
「モーラとわたし」 おーなり 由子 ★★★
まだ何も持たない子供の頃、アンネ(の日記)には「キティ」がいたように、
空想上の親友を持っていた人は多いのではないでしょうか。
社会化していくにしたがって、自立していく課程でその存在は
薄れていきますが決してなくなってしまうわけではなく、
そしてそれは、独立して孤独と対峙していくためのベースとなる
力を与えてくれる、重要なステップなのでしょう。
見えないだけで、美しい草原は存在する。
「目では何も見えないよ。心で探さなきゃ」と星の王子さまも言っていましたね。
「モーラとわたし」 おーなり 由子 ★★★
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