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本はごはん。
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22df30c0.gif  あまり期待しないで読んだんですが、思ったより良い本でした。
 謎についてはいろんな解釈があり得ると思います。
 私には私の解釈がありますが、それを書くのは控えておきます。

 主人公は教師、しかも障害児教室の教師という所謂「聖職」に就きながら
 極めて「俗物」でありますが、現実的にはこんなもんでしょう。教師としての
 経験を積むうちに、対象(学校そのものや障害児、その親)との距離の
 置き方や自分の気持ちの割り切り方、なんかを身につけていかないと、
 身がもたないのかも知れません。

 一方で、現実に障害児と対峙し連日悪戦苦闘している身からすれば、自分の
 手は一切汚さないくせに正論ばかり吐かれたら反発したくなる気持ちも
 わかります。
 反発しながら口には出せない小市民的なところも。

 つまり結構リアルです。

 しかしこの主人公の奥さん、夫(主人公)に「見下されている」という劣等感を拭うことが
 出来ず苦しんできましたが、重度障害者の自宅介護を進んで請け負ったり、最終的に
 「殺人未遂の犯人である夫(と彼女は信じている)」を待つことによって、
 自分を見下してきた夫に、自分を認めてもらおうとしているように感じます。
 
 愛は縮んでも、そこまで執着できるものなんでしょうかね。

 そんな妻の想いを感じつつ、自分は無実であるにも関わらずその役(=妻が信じるところの
 殺人未遂犯)を演じようとしている夫は、かつてのように妻を見下していると言うよりは、
 彼女が真実を知ることから守ろうとしているのかもしれません。

 と、いうことは。
 その「真実」は彼女に、「夫が殺人未遂犯である」以上の大きなインパクトを与えかねない
 もの、ということなのかもしれません。
 
 そしてそして。
 更にもしかしたら、他の誰かも同時に守ってるかもしれませんね。

 あ、著者がいちばん書きたかったのは「障害者と社会」だそうで、そういう意味でも
 良書だと思いますが、もうすこしリズム感というかメリハリというか、そういうのを
 出して欲しい気がします。


縮んだ愛」 佐川 光晴 ★★★
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40908.jpg  何気なく手に取ったのですが(なにぶんあたくしは「猫」がついて
 いるものに滅法弱い)、最近これ系からは遠ざかっていたのでうっかりして
 いました。
 長野まゆみさんじゃないですか。男子系じゃないですか。

 いやあ、久しぶりだなぁこの世界。しかし「少年」とか「青年」だけで
 なくて、「おじさん」も出てきますよ。
 最近はおじさんもこの世界で活躍しているのか。

 隠語も飛び交っていますが、この著者はやっぱり、
 とても叙情的な風景描写が美しい。

 こういった作風もテーマも嫌いじゃないんですが、ちょっと深みが足りないと
 いうか…。


猫道楽」 長野 まゆみ ★★
M00243796-01.jpg  「氷点」に続いて続編も行ってみましょう。

 ううむ。ううむ。
 「氷点」のテーマは「原罪」でしたが、続編のテーマは「赦し」みたいですね。

 「人間が人間を赦せるのか」ということはつまり「人間は人間を裁けるのか」
 ということと同義だと思います。個人的には無理に赦す必要はないのでは
 ないか、ほっとけばいつの間にか赦せるようになってるかも知れないし、
 人間に出来るのは所詮はその程度のことしかないと思うのですが。

 そもそも「赦そう」と努力するその動機は、「赦し得ない醜い自分」とか
 「辛い」という状況からの逃避と紙一重のような気がするのですよどうしても。

 逆に「赦しを乞う」のもまったく同じで、これは下手すると脅迫になりかねません
 (実際相変わらず主人公の妻は幼すぎで、自分が自殺にまで追い込んだ事実なんかは全て棚に
  上げて逆ギレするもんだからまったくムカつきます。誰かに似てるような気がしていましたが
  あれです、アガサ・クリスティの「春にして君を離れ」のオバさんにそっくりです)。

 また、「愛」についての考察が出てきますが、これにはあたくし、ちょっと肯首できません。
 愛は意志だからと、結局自分をかばって片足を失ったひととの結婚を決意するのですが、
 確かに「好き」ということと「愛」はイコールではないと思います。

 「恋愛」というところの「恋」は感情(=好き)であって、「愛」は意志であると思います。
 しかしそれは、感情のないところに意志で愛を咲かせるのではなくて、「恋」という幼い感情を
 意志を持って「愛」に育て、ともに成長していくということだと思うのです。

 「あなたはわたしのために犠牲になってくれたので、いちばん好きな人は他にいるんですけども
  私は意志の力であなたを愛することにします」
 って言ってるみたいで、それってずいぶん失礼じゃないかしらと思うんですが。


続 氷点(上)」「続 氷点(下)」 三浦 綾子 ★★★
721b5eba.jpg  久しぶりに、良い小説を読んだなぁと思います。
 「良い」というのは小説としての「完成度が高い」だけでなく、
 読んで温かい気持ちになる、嫌みのない、かといって最近よく見かける
 薄っぺらい癒し本ではないという意味です。

 この著者には独特の「清涼感」みたいなものがあって、「明日の記憶
 (ちなみにこの本はあたくし的にはは文句なしの ★★★★★ )は
 若年性アルツハイマーをテーマとした、この本とは対照的な「悲劇」がテーマ
 でしたが、それにも、この本と似たような爽やかさ、つまりは優しさみたいな
 ものが流れていたように思います。

 併せて、最近は若者に「蟹工船」が売れているらしいですが、
 「座敷わらし」と「シャボン玉」の意味をきちんと受け止めることが
 生きている者の勤めだということを静かに訴えているようにも思います。


愛しの座敷わらし」 荻原 浩 ★★★★

51H-n55VoqL._SL160_.jpg  ノンフィクション・ライターの第一人者であり、
 「千年、働いてきましたー老舗企業大国ニッポン」の著者でもある野村氏による
 「ノンフィクション・ライター入門講座」のような実用書です。

 しかし内容が濃い。ものすごく濃い。
 もともとこの著者は、風景とか背景とかから入っていく書き方が特徴的だと
 思っていましたが、やはりそこには著者の信念と、膨大で地道な作業が背後に
 あるのだということがよくわかります。

 実用書としてだけではなく、後半かなり多くのノンフィクションが「例文」と
 して引用されておりその面白さは尋常ではなく、参考文献リストともに
 「名ノンフィクションの紹介書」としても秀逸だと思います。

 更に言うならば、これは「ノンフィクション・ライターを目指す人」以外の多くのひとにも
 役に立つ、言い換えれば通常のビジネスにも応用可能なことがたくさんつまっています。

 現代の経済社会に於ける優秀なビジネスマンというのは、基本的に課題解決型提案のできる
 ひとのことであり、課題解決型提案をするにはまず、先方のことを知らなければ話に
 なりません。「御社の課題は何ですか?」と聴いて、「それは○○です」というような
 ことではなくて、先方の潜在意識の中にはあるのだけれど顕在化されていない、もしくは
 無意識のうちに眼をそらしているような課題をすくい上げ、その解決策と同時に提案する
 のが、本来のホワイト・カラーの仕事であります。

 そういった先方も意識していない、顕在化していないような、しかし漠然とした不安のような
 ものを引きずり出し(事前調査とインタビュー、取材)、企画(構成)し、プレゼン(最終文章化)
 するという一連のビジネス・プロセスにそのまま転用可能です。

 しかし。
 実行は難しいなきっと。

 ほんと、さすがにプロだなぁと唸らせる名著です。


調べる技術・書く技術」 野村 進 ★★★★
a0b45cb0.jpg  冤罪ものですが、あまりにリアルで読んでいる途中で何度も
 「これは実話ではなくて小説だよね?」と思わず確認してしまうほどです。

 いくつかの偶然と運とで、いとも簡単に冤罪は作り上げられ、それを覆すのは
 途方もなく大変で、実際殆ど不可能に近いということがよくわかります。

 本の主題とは離れるのですが、あたしは今でも「無知は罪である」と思って
 いますが、しかし無知なるが故に背負わなければならない運命の過酷さ、
 みたいなものを考えると
 「無知は罪である」という考え方そのものは変わらないのですが同時に
 「無知は試練」でもあるのかもしれません。

 「原島弁護士の愛と悲しみ」とセットでオススメしたい本です。


死亡推定時刻」 朔 立木 ★★★★
828ac311.jpg<br />  ライター北尾氏の新刊ですが。
 まあ仕事もそこそこ順調で、諦めかけていた(?)子供も出来て、
 幸せなんだけれど、死んだ父親の年に近づきなんだかもやもやした
 ものを抱えて…。
 身も蓋もない言い方をしてしまえば、「おっさんの自分探し」ですな。

 しかしまあ、男性も面倒ですね。
 いろんなものを受け入れるのに、結構じたばたしています。でもまあ無意識に
 逃げていたことに自分で対峙しようとしたことは良いのではないでしょうか。

 それに男性というのは、やっぱり「立場」というものをかなり意識するんですね。
 文中でも著者は女友達にはっきり言われていますが、つきあってれば
 「その人そのもの」
 ってのは自然と判るもんです。名前や立場は付属品でしかないのにね。

 しかし、新しい場所で素の自分で、新たに人間関係を築きたいという指向は、さんざん書いて
 いるように引きこもり指向の高い私にはなかなかない発想で、新鮮でした。


男の隠れ家を持ってみた 」 北尾 トロ ★★
3342520.gif<br />   引き続き下巻です。

 この時代の通訳外交官は、拳銃をもって戦場を走り回るんですね。
 すごいなぁ。
 食事に招かれたときの当時のお作法(床の間の前の上座を勧められても
 3回は断る)とか、すごく丁寧に紹介されています。

 とくにびっくりしたのは「切腹」のお作法。
 切腹するときに諸肌を脱いで(片肌脱ぐのが遠山の金さんですね)、
 垂れ下がった袖を正座した脚の下にたくし込むのだそうですが、
 これは切腹したときに「ぱたん」と後ろに倒れてしまうのを防ぐためだ
 そうですよ。まあ日本人の考えそうなことと言うか、拘りそうなことですね。

 背後にイギリスとフランスの日本外交政策に於ける勢力争いがかいま見える中、日本は
 明治維新に突っ込んでいきます。勝海舟や西郷隆盛、岩倉具視や大久保利通など、そうそう
 たるメンバーとの会談の様子などが、リアルに表現されています。

 また、明治維新後の組閣についても相談され「高貴な家柄の"人形”によって占められている
 官僚があまりにもおおく、実際の仕事は下僚がやるのだ」と率直に書かれているのですが、
 これは現代をも象徴しているようにも思えます。

 「アーネスト・サトウ」という名前を見て、「日本に長くいて日本が好きになっちゃって
 日本の娘さんのところに婿養子にでも行ったのかしら」と思いましたが、本名というか
 もともとそういう名前なのだそうです。めずらしいですね。

 それから、著者は「野口」という名の会津藩出身者を従者として使っていましたが、この
 「野口」さん、たとえば、

 『翌朝、出航時間になっても“案の定”野口は現れず遅刻したので、野口を待たずに船は
 出航した。』

 とか、いたるところで良い味を出しているのですが(ちなみに上記に引用した部分のところは、
 野口さんは小船で追っかけて追いついたようですよ)、著者が6年の日本滞在を終えて
 イギリスに帰国する際、彼を同道させています。

 野口さんは、そのあとどんな人生を歩んだのでしょうね。


一外交官の見た明治維新〈下〉」 アーネスト サトウ ★★★★
3342510.gif<br />   明治維新の直前、日本に通訳としてやってきたイギリス人が書いた
 戦前の日本では禁書であった本です。

 実質の権限はもはや持たないものの日本の頂点として君臨する天皇と、
 実質的な最高執政者でありながら朝廷の臣下である幕府(将軍)の二重構造
 は、合理的発想を旨とする欧米の人々にはなかなか理解が難しかったようで、
 初めのうちは、

 「実質の最高権力者であり最高施政者である幕府(将軍)を、名実共にトップ
  にしてしまえばよいではないか。不満分子であるいくつかの大名は、我々が
  手を貸して黙らせてしまえばいい」

 と、ストレートに考えていたみたいですね。
 
 事実幕府にそのように申し入れもしたようですが(断られ)、瀬戸内海の通航を巡って
 長州と戦争した後、数々の交渉を重ねながら彼らは長州と薩摩に対して親近感を抱いてきます。
 やっぱり対話は大事ですね。

 しかしまあこの時代のことですから、いたって本には無邪気に書かれていますが、英、仏、米、蘭ら
 の言い分(戦争に負けた長州に連合軍の戦費を負担させるとか。これは最終的に幕府が負担する
 ことになりますが)は何ともまあ傲慢というかなんというか。通商条約と言いながら、実は武力を
 背景に行け行けどんどんの植民地化思想の延長線上ではないか。これに対して日本は、長いこと
 鎖国なんかしてたもんだから世間知らずな小娘みたいにいいようにやられてます。
 そもそも国中がぐちゃぐちゃでそれどこじゃないしね。

 かたや日本に初めてやってきてから2〜3年で、諸大名の情勢はもちろん、幕府の
 かなり正確な情報まで入手するルートを構築し、幕府にも必要以上には肩入れせず時局を冷静に
 判断して進めていくイギリスの政治手腕はもう芸術的(老練)ですね。

 また、彼らは「天皇」「将軍」「女王」などをどのように翻訳するかに心を砕いています。
 当初「将軍(大君)」を「His Majesty(陛下)」と英文化しており、これは 「Queen」と
 同レベルの地位を示す敬称であったようですが、これだと「将軍」より上位である「天皇」は、
 「将軍」と同格である「Queen」よりも同時に上位であるということになってしまうので、
 「Queen」を「女王」ではなく「皇帝(Emperor)」と訳すことにしたようです。

 さらりと書かれていますがこのこの名称決定プロセスを通して、彼らは同時に
 「日本のEmperorは天皇であり、将軍は執政の代行者にすぎない」
 と、明確な定義を確定し表明した重要な決定であったということになるのでしょう。
 言語化による定義の持つ力の強さを改めて感じます。

 当時の日本の風景や生活する人々の姿が生き生きと描かれ、また人名や地名にはカタカナで
 ルビ(よみ)が ふられていますが、このルビは原文の読み方をそのまま
 ふってあるとのことで(「天皇(ミカド)」「大坂(オーザカ)」など)、
 ということはつまり、当時彼らはそう読(呼)んでいたのであろうと思われ、
 なかなか興味深いです。


一外交官の見た明治維新〈上〉」 アーネスト サトウ ★★★★
BPbookCoverImage.jpeg<br />   著者はコミックのモデルにもなった日本では有数の心臓外科医だそうです。
 ここに書かれていることが全て本当だとしたら、まったくうんざりしてきます。
 怖くて大学病院なんかにはかかれません。手術なんてもってのほか。

 学術と臨床と切り離して、それぞれを尊重してやっていくことは
 できないんでしょうか?
 論文ばっかり書いてて一度も手術したことがない外科部長だの、新しい器具や
 薬剤ばっかり使いたがる、患者を学会発表用のネタとしか見てないような医者
 には絶対当たりたくないなぁ。

 しかしここにも書かれているとおり、患者サイドが賢くなっていくしかない
 のかもしれませんね。

 この本は医療/医学の世界および、医療サービスの消費者である患者(およびその可能性のあるひと
 =全ての人)に対して警鐘を鳴らしていますが、同時に、
 「素人に判りやすく説明しプレゼンするのがプロである」とか、閉鎖社会について社会学的
 切り口から検証していたりして、医療/医学界だけでなく一般的にも共通する検証が多く
 為されていると思います。

 そして、こういう風に現場で頑張りながらおかしいことはおかしいと言える医師が
 少ないかもしれないけど実在する、ということが数少ない救いかもしれません。


心臓外科医の挑戦状」 南淵 明宏 ★★★
02996801.jpg<br />  「カラフル」の著者の、大人小説とのことで読んでみました。

 うーん、上手いなぁ。
 日常の断片から、「ホンモノ」というか真理みたいなものを、ひょいひょいと
 切り取っていく。

 全く面白いのは、主人公とその兄弟が亡くなった父親のルーツを求め歩く
 中で、ドラマティックな事実が明らかになるどころか、むしろ「なーんだ」と
 思うような「現実」を知っていくことです。
 実際、「現実」にはそうそうドラマティックなことなんてないんですよね。
 自分にとっては重大なことであっても、世間では「よくある話」だったり。

 そういった「現実」をきちんと受け止めて受け入れて、「どれだけ愛したら許してもらえるのか」
 とか「どれだけ受け入れれば、自分を受け入れてもらえるのか」と途方に暮れながら
 それでも泥沼を歩いていくのが人生だ! と、あっけらかんと言い放っていて気持ちいいです。

 その強さはどこから来るのかと考えてみると、いろいろと面白い表現をしているのですが、例えば

 「…なにがしらの前向きな意志を抱えてそこにいる。それでいて、真剣さの如何を問わず、
  誰もがどこかしら浮かれている。ブランドモノのバッグを持ったり、エステで脚を細くしたり
  するのにも似た、上滑りのエネルギー。地球をきらきらと輝かせているのは意外とそんなもの
  なのではないかと私は思ったりするのだ。」

 に代表されるように、「上滑り」とものすごく冷静に見ていながら、しかし同時に、
 「地球をきらきらと輝かせているのは意外とそんなもの」と、人間そのものとか、人間の持つ
 力やエネルギーみたいなものを、信じているからなのかもしれません。

 それは「カラフル」もそうですし、この作品の中でもいたるところに、最後の少女との会話
 にまで表現されています。

 そしてこのひとは、難しい年頃の子供(と大人の中間年齢層?)の扱いが抜群に上手いですね。
 相手(子供)を見下すのではなくおもねるのでもなく、こういうのが「対等」な扱いなんだ
 ろうなぁと思います。


いつかパラソルの下で」 森 絵都 ★★★
3038656-1.jpg<br />  日本の技術力には定評があるようですが、しかしまあ、企業の継続年数と
 いうのはなかなか面白い切り口ですね。

 100年以上続いている企業を老舗と定義して20社近く紹介されていますが、
 その背後にある日本の文化的、地理的特異性なども含めて考察されているため、
 単なる長命企業レポートではなく「日本文化論」としての色合いもあります。

 どの企業もユニークかつ個性的で、たいへん引き込まれます。
 企業の良さと知名度は一致しているとは限らないということを改めて思い
 出します。

 老舗というと「古い」イメージですが、なんとみんな最先端の技術を持っている
 のが何ともすごい。「最先端を走る企業」は「新しい企業」というイメージ
 でしたが、それは「老舗」だったんですね。
 なんか「歴史」とか「看板」で商売しているように勝手に思いこんでいましたが、常に新しい
 ことをしてきたから、生き残って老舗になったんですね。

 ハイテクの象徴であり、軽量、小型化、超多機能化を実現しているケータイをひとつのテーマ
 にしているため、製造業の老舗企業が中心です。なので小売業(デパート)とか旅館とか、
 サービス業の老舗企業編も読みたいんですが、同時に、

 この本はとても軽く書かれていて読みやすい反面、もっと深く追求してほしいし、追求できる
 テーマ(企業文化人類学みたいな)だと思うので、是非とももっと突っ込んだバージョンを
 期待します。

 本の中で紹介されている韓国人の学者が書いた『「縮み」指向の日本人』という日本人論がある
 らしいのですが、非常に興味をそそられました(ちょっと古いみたいですけどね)。


千年、働いてきました―老舗企業大国ニッポン 」 野村 進 ★★★
4101167559.jpg<br />  有吉佐和子の 「悪女について 」(名著ですよね)みたいな感じかなぁと
 思って読んでみましたが、なるほどちょっと違うんですね。

 不変なものは「死」のみであって、
 命だけではなくて、「幸福」にも「感情」にも永遠なんてモノはなくて、
 それを思い知らされた人たちはそれぞれに「幸せの記憶」だったり
 「この世で一番醜く美しい結晶」であったりまたは「諦観」であったりを
 胸に抱いて、新たに歩き出す。

 「彼」を語ることで自分を語り、そして「君の話をきかせてほしい」という
 切な願いに行き着く。

 当たり前に、永遠に続くと思っていた幸せな時間、愛の時はもう戻らないけれど
 それでも人はそれぞれの「結晶」を胸に抱き、語ることによって
 生きていかなければならないのかもしれません。

 このあたりのテーマが「むかしのはなし」に繋がっていっているように思います。


私が語りはじめた彼は」 三浦 しをん ★★★
02999070.jpg<br />  実はあたくし、「雑談」というのがとっても苦手です。
 お天気の話が終わっちゃったら、もう何を話せばいいものやら途方に暮れる。
 クライアントと打ち合わせしてる分にはいいんですが、打合せが終わって
 いきなり「じゃっ!」と席を立つわけにもいかないし、仕事に直結
 しないコミュニケーションが適度にあった方が良いことは判っているのですが。
 (しかし「雑談」そのものが仕事である場合は出来るんですよ。
  たとえば面接とか)。

 なんか、どこまで踏み込んで良いモノやら判んないんですよねぇ。
 世の中には屈託なくふわりと相手の中に入り込める人がいたりして、
 非常に羨ましく思い、同時にやっぱりあたしは他人には興味を持てない
 自己愛人間かしらと落ち込んだりもするんですが。

 この本はインタビュアーをインタビューした本ですが、さすがにプロの方々だあって、それぞれの
 スタイルを確立されております。スタイルはそれぞれですが、基本的なことはかなり共通して
 いるように思います。
 言葉遣いとか、誠実さであるとか。

 きちんと下調べをして、想定質問事項なんかもたーくさん作って、しかしインタビュー本番
 ではそれをいちどまっさらにして挑む、という方も複数いらっしゃいますが、やっぱりそれは
 入念な下調べをして、ベースをしっかり作っているから出来ることなんだろうと思います。

 言葉遣いとか相手に対する興味とかがベースにあって、その上に「傾聴」と「引き出す」
 というのふたつのテクニックが必要なんですね。コミュニケーションの本質ですが、
 当たり前だけど難しいですね。

 この本の面白いところは広義のインタビュアーを拾っているところで、つまりは心理療法の
 カウンセラーや建築家、刑事にもインタビューしていることです。
 ただ残念なことに(恐らく紙面の都合からかと思いますが)どのインタビューもちょっと
 短い気がします。面白い話が他にもたくさんあったに違いない。特にICレコーダーを
 止めてから。


聞き上手は一日にしてならず」 永江 朗 ★★★
75841072.jpg<br />  殺されてしまった女性が、年に一度だけ自分の命日に他人の身体を
 借りてこの世に戻ってくるという連作短編集です。
 
 自分を殺した犯人を追い求めるのかと思えばさにあらず。
 やっぱり「死んだ」という事実が動かし難いモノである以上、
 犯人を捜すよりも愛した人や家族がその後どうなっているのか
 そちらのほうが重要なのかもしれません。

 一年前(の命日)に身体を借りた人がどうなっているかケアするあたりも
 なんか面白いです。

 人間の心の裏や、時とともに変遷する姿とか、コンセプト自体も悪く
 ないと思うんですが、なんというか、もう一声。


彼女の命日」 新津 きよみ ★★★
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