本はごはん。
×
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こちらも読まず嫌いしていた作家のなのですが、「代筆屋」という
企画に惹かれて読んでみました。
実際に著者が小説家だけでは食えなかったころ、アルバイトとして代筆屋を
やっていて、そのとき代筆したものをサンプルとした「手紙の書き方」の本
なのだそうですが、「ノンフィクションの体裁をしたフィクション」だと思う
ので、小説のカテゴリに入れておきます。
企画としては、とてもおもしろいと思います。ああ、この手があったか、
という感じ。
内容も悪くないんだけど…。なんだろう? 好みの問題かなぁ。
薄い…というと語弊があるし、なんというか、「ある種の浅さ」みたいなものが
ひっかかる。
ちょっと村上春樹ぽい感じがしないでもないんだけど、それにしては圧倒的に深みが足りない。
それにしてもこの本の薄さで、この巨大な級数(=字がでかい)はどうなんだろう?
★の数は迷いましたが、大成した老実業家の孤独な遺書に敬意を表して、ぎりぎりみっつ。
「代筆屋」 辻 仁成 ★★★
企画に惹かれて読んでみました。
実際に著者が小説家だけでは食えなかったころ、アルバイトとして代筆屋を
やっていて、そのとき代筆したものをサンプルとした「手紙の書き方」の本
なのだそうですが、「ノンフィクションの体裁をしたフィクション」だと思う
ので、小説のカテゴリに入れておきます。
企画としては、とてもおもしろいと思います。ああ、この手があったか、
という感じ。
内容も悪くないんだけど…。なんだろう? 好みの問題かなぁ。
薄い…というと語弊があるし、なんというか、「ある種の浅さ」みたいなものが
ひっかかる。
ちょっと村上春樹ぽい感じがしないでもないんだけど、それにしては圧倒的に深みが足りない。
それにしてもこの本の薄さで、この巨大な級数(=字がでかい)はどうなんだろう?
★の数は迷いましたが、大成した老実業家の孤独な遺書に敬意を表して、ぎりぎりみっつ。
「代筆屋」 辻 仁成 ★★★
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読んでみたら、ミステリだった。
短編集ですが、ふたつはオチが予測できてしまった。
しかしそれにしても、警察モノ、法廷モノ大好きなあたくしですので
面白く読めましたよ。
こういう題材だからなのか、ちょっと文章が堅めな感じもしないでも
ないですが(感情過多な小説よりは全くこっちのほうがいいですが)。
表題にもなっている短編ですが、前々からちょっと疑問に思っている
「弁護士のありかた」みたいなモノを、また考えさせられます。
確かに冤罪なんかはあってはいけないけれど、とにかく被告の罪をちょっとでも軽くさせることが
使命みたいな。極端な話、弁護士次第で死刑にも無罪にもなってしまうのなら、その人の犯した
「罪という事実」をどう認識すればいいんでしょう?
また障害者と地域社会との共生がテーマになっている短編がありますが、これを読みながら
「免役の意味論」を思い出しました。
免役は外部から侵入したウイルスや病原菌と戦うけれど、全のウイルスを殲滅してしまうわけでは
なく、ある程度のラインにまで減少したらばあとは共生をしていく。そうして共生することにより、
「自己」と「非自己」のバランスを取っており、逆説的に言えば「非自己」があるから「自己」が
認識できる。しかし近年の公衆衛生の向上などにより、免疫学上では「無菌状態」に近い環境が
出来てきたことにより、「自己」と「非自己」のバランスが崩れてきて…。
上記はかなりおおざっぱに要約していますが、つまり多様性を失いバランスを崩した免疫は、
攻撃対象ではないはずの「自己」を攻撃したりさまざまな機能障害をおこしつつある、という
ことです。
「自分からみて」異質なものは排除する。存在を認めない。子供にも見せない。
死刑は隔離された密室の中。
確かに排除しちゃうのがいちばん簡単だし手っ取り早いですけどね。
しかしそうやってどんどん多様性を排除していった社会って、どうなるんでしょう?
排除すべきモノがなくなったら?
排除すべきモノを自ら創り出すしかないですね。
「原島弁護士の愛と悲しみ」 小杉 健治 ★★★
短編集ですが、ふたつはオチが予測できてしまった。
しかしそれにしても、警察モノ、法廷モノ大好きなあたくしですので
面白く読めましたよ。
こういう題材だからなのか、ちょっと文章が堅めな感じもしないでも
ないですが(感情過多な小説よりは全くこっちのほうがいいですが)。
表題にもなっている短編ですが、前々からちょっと疑問に思っている
「弁護士のありかた」みたいなモノを、また考えさせられます。
確かに冤罪なんかはあってはいけないけれど、とにかく被告の罪をちょっとでも軽くさせることが
使命みたいな。極端な話、弁護士次第で死刑にも無罪にもなってしまうのなら、その人の犯した
「罪という事実」をどう認識すればいいんでしょう?
また障害者と地域社会との共生がテーマになっている短編がありますが、これを読みながら
「免役の意味論」を思い出しました。
免役は外部から侵入したウイルスや病原菌と戦うけれど、全のウイルスを殲滅してしまうわけでは
なく、ある程度のラインにまで減少したらばあとは共生をしていく。そうして共生することにより、
「自己」と「非自己」のバランスを取っており、逆説的に言えば「非自己」があるから「自己」が
認識できる。しかし近年の公衆衛生の向上などにより、免疫学上では「無菌状態」に近い環境が
出来てきたことにより、「自己」と「非自己」のバランスが崩れてきて…。
上記はかなりおおざっぱに要約していますが、つまり多様性を失いバランスを崩した免疫は、
攻撃対象ではないはずの「自己」を攻撃したりさまざまな機能障害をおこしつつある、という
ことです。
「自分からみて」異質なものは排除する。存在を認めない。子供にも見せない。
死刑は隔離された密室の中。
確かに排除しちゃうのがいちばん簡単だし手っ取り早いですけどね。
しかしそうやってどんどん多様性を排除していった社会って、どうなるんでしょう?
排除すべきモノがなくなったら?
排除すべきモノを自ら創り出すしかないですね。
「原島弁護士の愛と悲しみ」 小杉 健治 ★★★
しばらく、いや、ずいぶん前に買ったのですが、これも読んでいませんでした。
名著だとの評判は嘘じゃなかった。「面白い」という形容詞は、こういう本に
対して与えられるべき物だと思います。1993年初版発行で、2006年には46刷り
というこの手の本にしてはかなりの爆発ぶりも頷けます。
難解な免疫システムを非常にわかりやすく解説してあり、それは会社での組織論
なんかにも適用でき、つまりはある種の普遍的真理なのかもしれません。
この本は様々な読み方が出来(これは名著のひとつの条件であると
思うのですが)、私はメインテーマの「免疫学の理解」のほかに、
(気がついたら)ふたつの読み方をしていました。
ひとつは「組織論」としての読み方で、
T細胞とB細胞とマクロファージは「免疫部」で、部長はT細胞、花形はキラーT細胞チーム、
免疫部管理系がヘルパーT細胞チーム。
B細胞は免疫部制作チーム。各チーム間の連絡係は「サイトカイン部」在籍のインターロイキンが
兼任、というように組織化して考えると、この組織の脆弱性はどこにあり、リスクはどの当たりに
潜んでいそうか。
そしてもうひとつが「アイデンティティ論」として。
かなり乱暴に言い切ってしまうと、
■一卵性双生児は遺伝子上は同一人物である。
■しかし、B細胞が抗体パターンをランダムに生成したり、感染症等に対する免疫経験により、
一卵性双生児であっても、免疫パターン上の「個性」が確立する。
■この免疫「超」システムがよって経つところは「自己同一性」であり、この「自己同一性」を
保つのが免疫部の仕事であるが、そもそも「自己」は時間や環境によって変化してしまうし、
「免疫部」が常に「自己」と「非自己」を完全に認識し分けるのは「不可能」である。
■従って免疫学上にも絶対の「自己」という物は存在せず、自己とはつまり
自己の「行為そのもの」である。
だそうですよ。
びっくりというか、やっぱりというか。
遺伝子上でも免疫学上でも「自己」なんてアイデンティティはなくて、結局のところ「何を為すか」
というところにしかアイデンティティはないという結論は非常に興味深い物であります。
いろいろ考えさせられる本です。「免疫学」でこんなに考えされられることになるとは
思ってもいませんでした。名著です。
(注:この本が出版された当時はまだ解明されていなかったことのいくつかが、現状では
解明されています。B細胞の生成場所とか。)
「免疫の意味論」 多田 富雄 ★★★★★
名著だとの評判は嘘じゃなかった。「面白い」という形容詞は、こういう本に
対して与えられるべき物だと思います。1993年初版発行で、2006年には46刷り
というこの手の本にしてはかなりの爆発ぶりも頷けます。
難解な免疫システムを非常にわかりやすく解説してあり、それは会社での組織論
なんかにも適用でき、つまりはある種の普遍的真理なのかもしれません。
この本は様々な読み方が出来(これは名著のひとつの条件であると
思うのですが)、私はメインテーマの「免疫学の理解」のほかに、
(気がついたら)ふたつの読み方をしていました。
ひとつは「組織論」としての読み方で、
T細胞とB細胞とマクロファージは「免疫部」で、部長はT細胞、花形はキラーT細胞チーム、
免疫部管理系がヘルパーT細胞チーム。
B細胞は免疫部制作チーム。各チーム間の連絡係は「サイトカイン部」在籍のインターロイキンが
兼任、というように組織化して考えると、この組織の脆弱性はどこにあり、リスクはどの当たりに
潜んでいそうか。
そしてもうひとつが「アイデンティティ論」として。
かなり乱暴に言い切ってしまうと、
■一卵性双生児は遺伝子上は同一人物である。
■しかし、B細胞が抗体パターンをランダムに生成したり、感染症等に対する免疫経験により、
一卵性双生児であっても、免疫パターン上の「個性」が確立する。
■この免疫「超」システムがよって経つところは「自己同一性」であり、この「自己同一性」を
保つのが免疫部の仕事であるが、そもそも「自己」は時間や環境によって変化してしまうし、
「免疫部」が常に「自己」と「非自己」を完全に認識し分けるのは「不可能」である。
■従って免疫学上にも絶対の「自己」という物は存在せず、自己とはつまり
自己の「行為そのもの」である。
だそうですよ。
びっくりというか、やっぱりというか。
遺伝子上でも免疫学上でも「自己」なんてアイデンティティはなくて、結局のところ「何を為すか」
というところにしかアイデンティティはないという結論は非常に興味深い物であります。
いろいろ考えさせられる本です。「免疫学」でこんなに考えされられることになるとは
思ってもいませんでした。名著です。
(注:この本が出版された当時はまだ解明されていなかったことのいくつかが、現状では
解明されています。B細胞の生成場所とか。)
「免疫の意味論」 多田 富雄 ★★★★★
浅田次郎はもういいやと思っていたのですけれども、「連作」とあったので
つい手を出しました(連作好き)。
なんと言いましょうか。「黄金の浅田次郎パターン」とでも言うべきか。
しかし残念ながら、それ以上ではないなぁ。
と、これだけでは何なのでつらつらと書いてみれば。
登場人物の全員ではないですが、多くの人が「過去」をさっぱり捨てて
舞台となった霧笛荘へやって来るのですが。
「過去」つまりは、今までの生活も名前も全て捨てるわけですが、過去って
捨てられるもんなのかしら。
結局「過去」を捨てたつもりでも、その「過去」もしくは「記憶」に縛られている以上は、
いくら持ち物や名前や家族や友人を捨てても「過去」を捨てたことには
ならないんじゃないか。
「過去」を捨てるには、忘れるしかないんじゃないかと、そんなふうに思ったりしました。
「霧笛荘夜話」」浅田 次郎 ★★
つい手を出しました(連作好き)。
なんと言いましょうか。「黄金の浅田次郎パターン」とでも言うべきか。
しかし残念ながら、それ以上ではないなぁ。
と、これだけでは何なのでつらつらと書いてみれば。
登場人物の全員ではないですが、多くの人が「過去」をさっぱり捨てて
舞台となった霧笛荘へやって来るのですが。
「過去」つまりは、今までの生活も名前も全て捨てるわけですが、過去って
捨てられるもんなのかしら。
結局「過去」を捨てたつもりでも、その「過去」もしくは「記憶」に縛られている以上は、
いくら持ち物や名前や家族や友人を捨てても「過去」を捨てたことには
ならないんじゃないか。
「過去」を捨てるには、忘れるしかないんじゃないかと、そんなふうに思ったりしました。
「霧笛荘夜話」」浅田 次郎 ★★
どうも以前取りあげた有吉佐和子とこの三浦綾子は、大衆作家と誤解されて
いるような気がして落ち着きません。いや、大衆作家が悪いと言ってる
わけではなくて。
で、この「氷点」ですが。
「原罪」がテーマになっていることは広く知られていますが、
では「原罪」とは何ぞや。
ああ、学生時代の「キリ概」の授業を思い出します。
あれは特筆すべき面白さであった。
「天国への階段」や「放蕩息子」、それから人類初の殺人事件は実は
兄弟間殺人であったという「カインとアベル」それらと共に
「原罪とは何ぞや」ということもやったのですが。
実はあたくし、原罪「だけ」はちょっと納得しきれない部分があって、それでちょっとこの本に手を
出してみましたよ。
ちょっとメロドラマっぽい感じがありますが、テーマは重厚です。
逆に言えば、これだけ重厚なテーマをここまで俗っぽくブレイクダウンできるのはすごい。
「原罪」だけではなく「エロスとアガペー」なども日常生活の中で表現されています。
しかし主人公(?)である病院長の妻(夏枝)が、致命的に幼い。
これ、もう40年も前の作品ですが、日本人女性は相変わらずこの主人公の妻のように精神的に
幼いように思います。ええ、自分にも思い当たるフシがあります。痛い。
どうして日本の女性は(いや、海外の女性をよく知らないので)いつまでも自立出来ないんで
しょうか(少し前に取りあげた橋本治なんかは、そういうことをかなり遠回しに、繰り返し繰り返し
言ってると思うんですが)。
経済的自立を果たしつつある今、次には精神的自立を図れるんでしょうか?
こういうことをいうと「だってそんな教育受けてない」と言われるんでしょうが、20歳過ぎたら
全ては自分の責任だし、無知も立派な罪だと思うんですが
(しかしPVが少ないって好きなこと書けて良いなぁ)。
で、「原罪」とは何ぞや、というところに戻ると。
現実として人間には「罪」というものが付きまとっており、それが「原罪」のなせる技なのか
そもそも「原罪」とは何なのか、だって神様は人間を「自分に似せて」創り「極めて良かった」と
自画自賛していたのに、アダムはいとも簡単にそそのかされて原罪を背負ってしまったと
いうことはやっぱり人間は神様の失敗作だったのか、そのあたりの納得しきれない感は
解消されてはいませんが、因縁はともかく「人間」と「罪」は密接というかセットみたいなものだと
いうのが事実なのかも知れません。
ええ、あたくしクリスチャンではないもので。
「塩狩峠」とはまた違った意味で(文章なんかはちょっと荒いところもありますが)、
良書だと思います。
「氷点(上)」「氷点(下)」」 三浦 綾子 ★★★★
いるような気がして落ち着きません。いや、大衆作家が悪いと言ってる
わけではなくて。
で、この「氷点」ですが。
「原罪」がテーマになっていることは広く知られていますが、
では「原罪」とは何ぞや。
ああ、学生時代の「キリ概」の授業を思い出します。
あれは特筆すべき面白さであった。
「天国への階段」や「放蕩息子」、それから人類初の殺人事件は実は
兄弟間殺人であったという「カインとアベル」それらと共に
「原罪とは何ぞや」ということもやったのですが。
実はあたくし、原罪「だけ」はちょっと納得しきれない部分があって、それでちょっとこの本に手を
出してみましたよ。
ちょっとメロドラマっぽい感じがありますが、テーマは重厚です。
逆に言えば、これだけ重厚なテーマをここまで俗っぽくブレイクダウンできるのはすごい。
「原罪」だけではなく「エロスとアガペー」なども日常生活の中で表現されています。
しかし主人公(?)である病院長の妻(夏枝)が、致命的に幼い。
これ、もう40年も前の作品ですが、日本人女性は相変わらずこの主人公の妻のように精神的に
幼いように思います。ええ、自分にも思い当たるフシがあります。痛い。
どうして日本の女性は(いや、海外の女性をよく知らないので)いつまでも自立出来ないんで
しょうか(少し前に取りあげた橋本治なんかは、そういうことをかなり遠回しに、繰り返し繰り返し
言ってると思うんですが)。
経済的自立を果たしつつある今、次には精神的自立を図れるんでしょうか?
こういうことをいうと「だってそんな教育受けてない」と言われるんでしょうが、20歳過ぎたら
全ては自分の責任だし、無知も立派な罪だと思うんですが
(しかしPVが少ないって好きなこと書けて良いなぁ)。
で、「原罪」とは何ぞや、というところに戻ると。
現実として人間には「罪」というものが付きまとっており、それが「原罪」のなせる技なのか
そもそも「原罪」とは何なのか、だって神様は人間を「自分に似せて」創り「極めて良かった」と
自画自賛していたのに、アダムはいとも簡単にそそのかされて原罪を背負ってしまったと
いうことはやっぱり人間は神様の失敗作だったのか、そのあたりの納得しきれない感は
解消されてはいませんが、因縁はともかく「人間」と「罪」は密接というかセットみたいなものだと
いうのが事実なのかも知れません。
ええ、あたくしクリスチャンではないもので。
「塩狩峠」とはまた違った意味で(文章なんかはちょっと荒いところもありますが)、
良書だと思います。
「氷点(上)」「氷点(下)」」 三浦 綾子 ★★★★
何気なく手に取った1冊だったのですが、すごい短編集でびっくりしました。
とにかく上質な小説です。
この短編集でつづられる世界は特別なものではなく、山や山に済む動物たち、
海などの大自然と対峙して生きる人々の姿であり、むしろ朴訥で地味な
世界なのですが、生活のあらゆるハード面が発達した今日であっても、
しかし人間のソフトの面はあまり変わらないのではないか、
むしろこんな風に自然と対峙して生きていた頃の方が、自然と向き合うことに
よって自ずと自分や家族、コミュニティとも向き合って生きることができ
ていたのではないか、
そして人間というものは、ここまで逞しく豊かに成長できるものなのだ。
ここに描かれている人々は一様に貧しく苦労をしていますが、しかしある意味において
現代に生きる我々よりも遙かに豊かなのではないか。
そんなふうに感じるのです。
「山背郷」 熊谷 達也 ★★★★
とにかく上質な小説です。
この短編集でつづられる世界は特別なものではなく、山や山に済む動物たち、
海などの大自然と対峙して生きる人々の姿であり、むしろ朴訥で地味な
世界なのですが、生活のあらゆるハード面が発達した今日であっても、
しかし人間のソフトの面はあまり変わらないのではないか、
むしろこんな風に自然と対峙して生きていた頃の方が、自然と向き合うことに
よって自ずと自分や家族、コミュニティとも向き合って生きることができ
ていたのではないか、
そして人間というものは、ここまで逞しく豊かに成長できるものなのだ。
ここに描かれている人々は一様に貧しく苦労をしていますが、しかしある意味において
現代に生きる我々よりも遙かに豊かなのではないか。
そんなふうに感じるのです。
「山背郷」 熊谷 達也 ★★★★
久しぶりに阿刀田先生です。一時期よく読んだなぁ。
ウィットの効いたしゃれた感じは相変わらずですね。
しかしはっきり言ってこの短編集は「地味」です。
若い頃に読んだらあんまりぴんと来なかったかも知れない。
いまでもこの小説の感覚を完全に判っているのかもあやしい。
でもたとえば、20代前半で読むのと今読むのとでは、感じ方がきっと
ずいぶん違ったんじゃないかと思います。
そういう意味でも「大人の小説」だとおもいます。
「こころ残り」 阿刀田 高 ★★
ウィットの効いたしゃれた感じは相変わらずですね。
しかしはっきり言ってこの短編集は「地味」です。
若い頃に読んだらあんまりぴんと来なかったかも知れない。
いまでもこの小説の感覚を完全に判っているのかもあやしい。
でもたとえば、20代前半で読むのと今読むのとでは、感じ方がきっと
ずいぶん違ったんじゃないかと思います。
そういう意味でも「大人の小説」だとおもいます。
「こころ残り」 阿刀田 高 ★★
だれもが知っている「かぐや姫」とか「桃太郎」がモチーフになった
短編集ですが、単に昔話を現代に置き換えたというものではなく。
なんというか昔話というのは過去のことで、過去のことを「ものがたった」もの
と、勝手に思いこんでいるフシが自分にもありましたが、それだけではなくて
「ものがたり」は語り紡がれるものであり、現代の自分たちは昔話の「消費者」
であるけれども、同時に「紡ぎ手」でもあるということを思い出させて
くれます。
短編集ではありますが、ひとつの出来事に向かって、それぞれのひとたちの
「ものがたり」が語られていきます。
「語られる」わけですから、全ての短編が様々なかたちの一人称で語られます。
それぞれの「語られ方」が自然で、かつ、ひとつの出来事に向かっていく全体の構成と併せて、
秀逸だと思います。
なにより、「人は寂しさを通してしか他人とは繋がれない」と(それは当たり前のことですが)
ストレートに表現する一方で、「かぐや姫」をはじめとする様々な昔話が一筋縄ではいかない
アレンジになっていて、なかなかおもしろい作家だと思います。
それにしても。
「しをん」って名前、いいなぁ。
「むかしのはなし」 三浦 しをん ★★★
短編集ですが、単に昔話を現代に置き換えたというものではなく。
なんというか昔話というのは過去のことで、過去のことを「ものがたった」もの
と、勝手に思いこんでいるフシが自分にもありましたが、それだけではなくて
「ものがたり」は語り紡がれるものであり、現代の自分たちは昔話の「消費者」
であるけれども、同時に「紡ぎ手」でもあるということを思い出させて
くれます。
短編集ではありますが、ひとつの出来事に向かって、それぞれのひとたちの
「ものがたり」が語られていきます。
「語られる」わけですから、全ての短編が様々なかたちの一人称で語られます。
それぞれの「語られ方」が自然で、かつ、ひとつの出来事に向かっていく全体の構成と併せて、
秀逸だと思います。
なにより、「人は寂しさを通してしか他人とは繋がれない」と(それは当たり前のことですが)
ストレートに表現する一方で、「かぐや姫」をはじめとする様々な昔話が一筋縄ではいかない
アレンジになっていて、なかなかおもしろい作家だと思います。
それにしても。
「しをん」って名前、いいなぁ。
「むかしのはなし」 三浦 しをん ★★★
もう20年前に書かれた物ですが、何で当時気がつかなかったんだろう?
ああもっと早く読むべきだった(自分が若かったウチに)と悔やまれます。
しかしほんと天才ですこのひとは。噛んで含めるようにやさしく丁寧に
(そのあたりがちょっとまわりくどく感じるところでもありますが)、
しかし突っ込みようのない論理展開。美しいとしか言いようがない。
「シェルブールの雨傘」と「風と共に去りぬ」の解説なんてほんと秀逸です。
とくに「風と共に去りぬ」は大好きな映画なのですが、この解説がいちばん
しっくりきます。
タイトルは「貞女への道」ですが、「恋」、つまりは人間としての成長論ですね。
「そうそう、そうなのよ!」と読みながら思い、そしてそれをこれほど美しく言語展開できなかった
自分の凡庸さを思い知り、激しく落ち込むのでありました。
「貞女への道」 橋本 治 ★★★★★
ああもっと早く読むべきだった(自分が若かったウチに)と悔やまれます。
しかしほんと天才ですこのひとは。噛んで含めるようにやさしく丁寧に
(そのあたりがちょっとまわりくどく感じるところでもありますが)、
しかし突っ込みようのない論理展開。美しいとしか言いようがない。
「シェルブールの雨傘」と「風と共に去りぬ」の解説なんてほんと秀逸です。
とくに「風と共に去りぬ」は大好きな映画なのですが、この解説がいちばん
しっくりきます。
タイトルは「貞女への道」ですが、「恋」、つまりは人間としての成長論ですね。
「そうそう、そうなのよ!」と読みながら思い、そしてそれをこれほど美しく言語展開できなかった
自分の凡庸さを思い知り、激しく落ち込むのでありました。
「貞女への道」 橋本 治 ★★★★★
彼の生き方や人生そのものがもうドラマのようでありますが。
俳優「松田優作」。
初めは、元奥様が著者であるため確かに素の松田優作が描かれているの
かもしれないけど、文章のプロではない人が描いたのだとするとちょっと…と
躊躇しましたが、それは全く杞憂でした。ノンフィクション・ライターとして
自立されているとは知りませんでした。
松田優作が帰化申請のときに書いた「(帰化の)動機書」の文章が、
胸を突きます。
彼にここまで書かせた当時の社会背景と、それによって彼が受けたであろう
心の傷に、ほんとうに胸が詰まります。
役者として譲れない信念と、それと裏腹のような人間としての弱さ。
走り抜けるように生き急いでしまった彼と、いつしか彼のペースについてこれなくなってしまった
廻りの人たちとのあいだに出来てしまった溝に、人一倍寂しがり屋の彼が何とも思わなかったことは
ないと思うのですが、でも彼は自分の走るペースを落とすことは出来なかったのでしょう。
それにしても。桃井かおりはやっぱりイイオンナですね。
「越境者 松田優作」 松田 美智子 ★★★
俳優「松田優作」。
初めは、元奥様が著者であるため確かに素の松田優作が描かれているの
かもしれないけど、文章のプロではない人が描いたのだとするとちょっと…と
躊躇しましたが、それは全く杞憂でした。ノンフィクション・ライターとして
自立されているとは知りませんでした。
松田優作が帰化申請のときに書いた「(帰化の)動機書」の文章が、
胸を突きます。
彼にここまで書かせた当時の社会背景と、それによって彼が受けたであろう
心の傷に、ほんとうに胸が詰まります。
役者として譲れない信念と、それと裏腹のような人間としての弱さ。
走り抜けるように生き急いでしまった彼と、いつしか彼のペースについてこれなくなってしまった
廻りの人たちとのあいだに出来てしまった溝に、人一倍寂しがり屋の彼が何とも思わなかったことは
ないと思うのですが、でも彼は自分の走るペースを落とすことは出来なかったのでしょう。
それにしても。桃井かおりはやっぱりイイオンナですね。
「越境者 松田優作」 松田 美智子 ★★★
生涯、女性を描き続けた作家ですね。ずーっと女性だけを描き続け、
初めて男性を描いてみようかと、源義経を描こうとした矢先に逝ってしまった
と、確か橋本治の「恋愛論」のなかの、「誰が彼女を殺したか」で
読んだことがあります。
この「和宮様御留」は、いわゆる和宮替え玉説でありますが、そして著者は
その替え玉説を信じていたようでありましたが、その真偽の程はまったく
どうでもいいくらい、圧倒的かつ完成度の高い作品であります。
緻密に重ねられた時代考証、美しくしかし激しい日本語、
情景が目に浮かぶ描写力。
彼女はずっと、「女性」というものを「時代」を通して浮き彫りにしてきた作家だと思います。
それは「女性」という性(さが)と、「時代」=「男性」の性(さが)との対峙に他なりません。
「華岡青洲の妻」を単なる(壮絶なる)嫁姑戦争としか受け止めていない人が多いらしい
ことには驚きましたが、この作品は、最後の数行を書きたかったがために生まれてきた作品
としか私には思えないのです。
そしてこの「和宮様御留」も、自分の意志で自分の生き方を決められなかった当時の女性たちへの
レクイエムであるのだと思います。
「和宮様御留」 有吉 佐和子 ★★★★★
初めて男性を描いてみようかと、源義経を描こうとした矢先に逝ってしまった
と、確か橋本治の「恋愛論」のなかの、「誰が彼女を殺したか」で
読んだことがあります。
この「和宮様御留」は、いわゆる和宮替え玉説でありますが、そして著者は
その替え玉説を信じていたようでありましたが、その真偽の程はまったく
どうでもいいくらい、圧倒的かつ完成度の高い作品であります。
緻密に重ねられた時代考証、美しくしかし激しい日本語、
情景が目に浮かぶ描写力。
彼女はずっと、「女性」というものを「時代」を通して浮き彫りにしてきた作家だと思います。
それは「女性」という性(さが)と、「時代」=「男性」の性(さが)との対峙に他なりません。
「華岡青洲の妻」を単なる(壮絶なる)嫁姑戦争としか受け止めていない人が多いらしい
ことには驚きましたが、この作品は、最後の数行を書きたかったがために生まれてきた作品
としか私には思えないのです。
そしてこの「和宮様御留」も、自分の意志で自分の生き方を決められなかった当時の女性たちへの
レクイエムであるのだと思います。
「和宮様御留」 有吉 佐和子 ★★★★★
ホラー小説のようですが、日常生活に潜む闇というか恐怖というか、
あれよあれよという間に転落してく怖さは結構リアル。
多かれ少なかれ「人生なんてこんなもんだ」と多少の不満も含めて受け止めて
いた日常のなかに実は、ぽっかり大きな穴が空いていて、吸い込まれるように
落ちていく。
主人公の日常はリアリティがあり、どこにでもいそうなサラリーマンです。
それなのに理不尽。
人生とは理不尽なものなのでしょう。
「壊れるもの」 福澤 徹三 ★★★
あれよあれよという間に転落してく怖さは結構リアル。
多かれ少なかれ「人生なんてこんなもんだ」と多少の不満も含めて受け止めて
いた日常のなかに実は、ぽっかり大きな穴が空いていて、吸い込まれるように
落ちていく。
主人公の日常はリアリティがあり、どこにでもいそうなサラリーマンです。
それなのに理不尽。
人生とは理不尽なものなのでしょう。
「壊れるもの」 福澤 徹三 ★★★
「ベーコン」ですこしがっかりした井上荒野でしたが、この連作集は
なかなか良かったです。
冷静な観察眼をベースに、ちょっとずれてる、軋んでいる人を描かせると、
このひとはピカイチですね。本人が気がつかないうちに、また気づいても
どうしようもないうちにそのずれやきしみはだんだん大きく、そして
致命的になっていく。
ちょっとミステリぽい部分も含んでいて、連作を読み進めていくと
初めのうちは秘されていたことがすこしずつ明らかになっていきます。
本のタイトルはもちろん、連作の個々のタイトルの付け方が素晴らしい。
ここまでぴったりくるタイトル(たち)と出会ったのは久しぶりかもしれません。
そして「連作」というスタイルをとても効果的に使って全体を構成しています。
最後の短編が、いろんな意味で秀逸です。
さすがに解説でも「説明」なんて野暮なことはしていませんので、私も余計なことは書きませんが。
「しかたのない水」 井上 荒野 ★★★★
なかなか良かったです。
冷静な観察眼をベースに、ちょっとずれてる、軋んでいる人を描かせると、
このひとはピカイチですね。本人が気がつかないうちに、また気づいても
どうしようもないうちにそのずれやきしみはだんだん大きく、そして
致命的になっていく。
ちょっとミステリぽい部分も含んでいて、連作を読み進めていくと
初めのうちは秘されていたことがすこしずつ明らかになっていきます。
本のタイトルはもちろん、連作の個々のタイトルの付け方が素晴らしい。
ここまでぴったりくるタイトル(たち)と出会ったのは久しぶりかもしれません。
そして「連作」というスタイルをとても効果的に使って全体を構成しています。
最後の短編が、いろんな意味で秀逸です。
さすがに解説でも「説明」なんて野暮なことはしていませんので、私も余計なことは書きませんが。
「しかたのない水」 井上 荒野 ★★★★
読んでみたら実用書でした。いや実用書だろうとは思ったけど、論文とか
レポートを書くためには、どのように本を読むべきかと言うことが中心。
なので、文学にはあんまり触れられていません。
いちばん期待していた本との出会い方とか探し方は、既に自分が実践して
いることばかりで、新しいアプローチ方法は発見できませんでした。
読書の段階を、「学校読書」→「若年読書」→「青年読書」→「成熟読書」と
区分けするのは、なるほどなぁと思いました。
少し前にここで取りあげた「カラフル」なんて、若年読書で読むべきだと
思います。
そして(「カラフル」も含め)ほんとに良い作品は、成熟読書の段階で新たな発見を
もたらしてくれる物だと思うのです。
しかしこの本は『論文を書くための読書術』なら異議はないですが、
『打たれ強くなるための読書術』という内容ではないように思います。
まあ、本を読む意味や目的は人それぞれでしょうし、同じ人でも時期によって変わるでしょうし、
それで良いと思うのですが。
「打たれ強くなるための読書術」 東郷 雄二 ★★
レポートを書くためには、どのように本を読むべきかと言うことが中心。
なので、文学にはあんまり触れられていません。
いちばん期待していた本との出会い方とか探し方は、既に自分が実践して
いることばかりで、新しいアプローチ方法は発見できませんでした。
読書の段階を、「学校読書」→「若年読書」→「青年読書」→「成熟読書」と
区分けするのは、なるほどなぁと思いました。
少し前にここで取りあげた「カラフル」なんて、若年読書で読むべきだと
思います。
そして(「カラフル」も含め)ほんとに良い作品は、成熟読書の段階で新たな発見を
もたらしてくれる物だと思うのです。
しかしこの本は『論文を書くための読書術』なら異議はないですが、
『打たれ強くなるための読書術』という内容ではないように思います。
まあ、本を読む意味や目的は人それぞれでしょうし、同じ人でも時期によって変わるでしょうし、
それで良いと思うのですが。
「打たれ強くなるための読書術」 東郷 雄二 ★★
その昔、『花咲く乙女たちのキンピラゴボウ』を読んで激しい衝撃を受け、
この著者の作品を片っ端から読み倒したのは確か学生時代だったか。
好きな作家、を通り越して、この人は天才だと思っております。
で、この「蝶のゆくえ」ですが。
女とは? 妻とは? 母親とは? 家とは?
前回、前々回と書いた(なんか引きずってるみたいに取られそうですね)
「女という病」を文学として昇華するとこうなるのだな、という小説集です。
短編集ですが、どれも長編としても充分扱えるテーマで、それをテンポ良く
凝縮して展開されています。
ま、いつもの通りちょっとくどいかな、と思うところもないではないですが。
やっぱり天才だと思います。
「蝶のゆくえ」 橋本 治 ★★★★
この著者の作品を片っ端から読み倒したのは確か学生時代だったか。
好きな作家、を通り越して、この人は天才だと思っております。
で、この「蝶のゆくえ」ですが。
女とは? 妻とは? 母親とは? 家とは?
前回、前々回と書いた(なんか引きずってるみたいに取られそうですね)
「女という病」を文学として昇華するとこうなるのだな、という小説集です。
短編集ですが、どれも長編としても充分扱えるテーマで、それをテンポ良く
凝縮して展開されています。
ま、いつもの通りちょっとくどいかな、と思うところもないではないですが。
やっぱり天才だと思います。
「蝶のゆくえ」 橋本 治 ★★★★
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