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本はごはん。
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123517.jpg  世界的にも有名なクライマーである山野井夫妻の、ヒマラヤにある
 ギャチュンカン北壁への挑戦を中心としたドキュメンタリーです。

 しかしまあ、あまりにも凄まじくて、もう呆然とします。
 奥様は結婚前の登山で重い凍傷にかかり、手足の指20本のうち18本の
 第一関節から先を失っています。
 それでもご主人と一緒にクライミング(氷の崖や岩肌をよじ登る)しながら
 登るんですよ。

 指先をちょっと包丁で切った(というか削った)だけでぎゃーぎゃー騒いでる
 あたくしは…。

 ギャチュンカンでも雪崩や吹雪に遭い、死んでもおかしくないような状況に
 次々とおそわれ、それでも二人で生還します。

 ご主人も少なくない手足の指を失い、奥様も残っていた手の指を全て失います。それでも、
 また山を、壁を目指すんですね。

 もう精神力云々とかでは説明のしようもないように思います。
 やっぱりそれほど山が好きなんでしょうね。
 そこまで好きなことに出会えたことは幸せなことなのかもしれません。

 登山やクライミングについては素人ですが、簡潔な文章でとても判りやすく、まるで本人が
 書いているかのようです。
 「登山隊が登頂成功」というニュースを見たりすると、よく「第一次アタック隊」とか
 出てきて、なんでみんなで登頂しないんだろう、登頂させてもらえないのってどうなの
 かしら、などと思っていましたが、登山スタイルの種類やその違いなどもきちんと
 解説されています。

 ドキュメンタリーとして秀逸ですが、しかしほんと、唖然とするほど凄まじい人たちです。


 「」 沢木 耕太郎 ★★★★
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32130206.JPG  カテゴリー分けに困って、とりあえず「ドキュメンタリー」の
 カテゴリにいてておきましたが、実際の事件をベースにしてはいるものの、
 ちょっとドキュメンタリーとは言い切れません。

 取材もしているようですが、なにしろ必ず「濡れ場」が出てきますし
 (濡れ場シーン必須指示が編集部から出ていたらしい)、実際の事件を元に
 作家(書き手)のイマジネーションで大いに動機や心理描写を補って
 出来上がった、事件ものの「読み物」ですね。

 しかしライター陣がなかなかすごい。新田次郎や重松潔、内田春菊や
 ビートたけしまでいます。

 特に内田春菊は、素材である事件が彼女にぴったりであり、加害者が実際に
 そういう心理状態であったのかどうかは別にして、ものすごく説得力がある
 というか、完成度の高いものになっていると思います。

 巻末の対談は、あたくしには蛇足のように思えました。


 「黒い報告書」 週刊新潮編集部 ★★★
200808000226.jpg  この本の姉妹編とも言うべき「警視庁捜査一課特殊班」が
 とても面白かったので、迷わず手に取りました。

 花形と言われている警視庁捜査一課。「取り調べ」はドラマなどの影響で
 ある程度イメージがついてしまっていますが、いろんな形の取り調べの
 パターンがあることが良くわかります。

 それは結局、人間対人間の対話なんですね。
 ものすごく淡々と綴られているのですが、刑事と犯罪者それぞれの人間性
 みたいなものが、くっきりとあぶり出されています。

 ー課のなかの組織や、他の部署との連携などもわかり易く整理されており
 警視庁の内部構造をかいま見れた気がします。

 所々現状に対する意見も述べられており、それは警察に対するものだけではなく、
 我々一般人に対しても同様だと思いました。

 次回作も期待しています。


 「警視庁捜査一課殺人班」 毛利 文彦 ★★★★
c7652eda.jpg  現在、写本が1冊しか残っていない(見つかっていない)という古文書から
 水戸光圀をはじめとする大名の素顔を追っています。

 いちばん面白いのは、本の中でも多くのページを割かれている加賀前田家と
 徳川家との駆け引きです。前田利家からの3代にスポットが当たっていますが、
 『主君への忠誠』と『家の存続』とに引き裂かれながら、非常に見事な政治力
 を発揮しています。

 しかし政治としては見事ですが、人間的にはとても哀しいものでもあります。

 最後の『本多作左衛門』は、「忠誠心」というものと「為政者のあり方と孤独」
 についていろいろ考えさせられます。
 
 政略結婚の本当の恐ろしさ(嫁入りでついてくる乳母とか局とかがみんなスパイ)とか、
 赤穂浪士の討ち入りは『殿の遺言』説とか、なかなか面白かったです。

 どれももう少し膨らませれば小説にもなるんじゃないかしら、と思いました。


 「殿様の通信簿」 磯田 道史 ★★★
aec947a2.jpeg  この著者の作品は初めて手に取りましたが
 (正直なところ「恋愛小説」ぽかったのでちょっと躊躇した)、
 高い洞察力に基づくしっかりした文章を書く人ですね。

 それぞれの年代の女性の恋愛を描いていますが、特にドラマティックという
 わけでもなくむしろ淡々と描かれており、そのなかで女性の持つプライドや
 見栄、したたかさや寂しさなんかが上手く表現されていると思います。

 あとがきに総括されている著者の世代観が、短い言葉で上手く纏められていて
 頭のいいひとだなぁと思いました。

 以前掌の中に確かにあって、しかし今は失ってしまったもの。
 そしてそれはもう戻ることはないということ。
 そういうことを受け入れて、前を向いて歩いていくのが大人なのかもしれません。


 「月とシャンパン」 有吉 玉青 ★★★
02bdcf0e.jpeg  キルケゴールは「絶望」を「死に至る病」と現しましたが。

 光市の母子殺害事件。死刑判決を獲得するまで9年。
 今なにげに「死刑判決獲得」と書きましたが、まさしく「獲得」するもの
 なのだと、この本を読むと痛感します。
 
 被害者遺族は大切なものを卑劣な手段で奪われて身も心もずたずたになって
 それでも戦い続けないといけない現状。
 司法とはこれほど頼りなく、形式だけで成立しているものなのか、という
 ことに暗澹たる思いがします。 

 時折ニュースで裁判の進捗具合や、記者会見の様子を垣間見るにつけ、
 見る度に顔つきや物言いが深いものになっていく被害者遺族の姿に人間的な成長が
 表れているように思っていましたが、周りの人に支えられながらも途方もない闘い

 (事件当初被害者遺族の闘いの相手は「被告人(犯人)」でしたが、やがてそれだけではなく
  「司法制度」という強大な相手との闘いになっていきます)

 を続けながら「死」というものと正面から対峙してきた姿が描かれています。

 しかし9年。
 被害者遺族は大きな人間的成長を遂げたと思いますが、しかしこの9年間は時間が
 止まってしまっていたのではないでしょうか。
 この死刑判決を機に、また新しい時がゆっくりと流れだし、その行く先が
 暖かい光に満ちていることを切に願います。

 エピローグに書かれていることにはちょっと懐疑的です。


 「なぜ君は絶望と闘えたのか」 門田 隆将 ★★★★★
9784167493042.jpg  「AV女優」を読んだのはもう10年くらい前だろうか。
 当時異色の本で、とても印象に残っています。
 これはインタビューではなく、日記形式の散文なので、著者自身のことが
 ストレートに表現されています。
 ガンを患い、苦痛に対する恐怖、妻や友人や大切なものに対する想い、
 そして死に対する熱望と拒絶。

 辛いとことはストレートに辛いと綴られていますが、全編等してある種の
 ユーモアというか、時には自虐的に、時にはとぼけたような、
 そんな明るさが漂っています。
 
 著者の死因はガンではなく、お酒による肝機能障害(?)だったというところが
 なんとも著者らしいのかもしれません。


 「声をなくして」 永沢 光雄 ★★★
32112371.jpg  一見、「体の贈り物」とはずいぶんと違うなぁという印象ですが、
 しかし淡々と見つめる視線はああやはりこの著者だなぁと思います。

 いろいろなカップルの、いろいろな愛の形を描いています。

 表題にもなっている短編は冒頭からなかなかショッキングですが、
 ふたりの関係性だけに閉じこもって生きていこうとする愛の狂気、
 そのふたりの閉じられた安全な関係をじわじわと侵略する「社会」や
 ふたりの、というより人間個人個人が抱えている「社会性」。

 そういった愛による狂気や関係性の壊れていく様を、
 独特の(それは例えば夢と現実の間を彷徨っているかのような)表現で
 描いていきます。

 なんともいえない切なさを漂わせた、ある種の「究極」なのかもしれない。


 「私たちがやったこと」 レベッカ・ブラウン ★★★
M03650249-01.jpg  ああ、これはバイク乗りにはたまらない小説ではないでしょうか。
 もちろんバイク乗りじゃなくても楽しめます。

 個々の短編も良いし、単なる連作短編集よりもストーリィ同士が
 乱反射し合う感じが面白いんですが、
 残念ながら結末がちょっと…かも。
 主人公の奥さんのキャラクターの作り込みがちょっと…かも。
 しかし現実にはこんな感じの人が多いんでしょうか…。

 「バイク乗りは心に穴ぼこを抱えている」というような表現がありましたが、
 この「バイク」のところは、他の単語にも転用可能だと思います。

 著者は「山背郷」のような「大自然と対峙する素朴な人々」みたいなものが
 テーマの人だとおもっていたら、
 こんな現代的な小説も書くんですね。びっくりしました。


 「虹色にランドスケープ」 熊谷 達也 ★★★
03051702.jpg  懇意にしていた漫画家(ねこぢる)、先輩であり頼りにしていた優秀な
 ライター、そして妻と、立て続けに身近な3人を自殺でなくした著者の
 慟哭の記。

 亡くなった3人に対して、非常に客観的に観察しています。共通しているのは
 高すぎるプライド、逃避癖、強い感受性、他人を見下す傲慢さ、
 大人になっても親に溺愛されているなど。それらを抱えてサブカル全盛時代を
 走り抜けてしまったひとたち。

 著者の嘆きは充分伝わってくるのだけれど、ちょっと冷めてみてしまうのは
 何故だろう。
 やはり「哀しみ」というのは極個人的なことなんだと思う。

 そしてなにより、自死した人たちに対して、理解できるところはなくもないけれど
 その考え方や行動パターンに共感できないところが大きいのかもしれない。
 「文庫本版のあとがき」を読むと、ますますそう思う。出版後の反応のひとつに著者は
 以下のことを挙げている。
 「僕が苦しんだことにより、その(=妻)の死は理想的な形となったようなのだ。」
 これはちょっと理解に苦しむ。依存/支配の究極の形? 

 それでも悲しさも苦しさも全部ひっくるめて背負いながらこちらの世界に踏みとどまった著者には、
 また立ち上がって欲しいなぁと思う。

 しかしあのサブカル全盛時代、鬼畜だのエログロだのドラッグだのが氾濫した時代は一体
 何だったんだろう?

 あ、春日武彦氏の解説が一刀両断で、でもほんのり優しさが漂っていて、いいです。


 「自殺されちゃった僕」 吉永 嘉明 ★★★
32130099.JPG  うーん。小説としては悪くないと思います。
 銀行の業務内容とか日常とか業界用語も結構リアルだし、
 昔を思い出しました。
 が。何かがちょっと引っかかる。

 妻子持ちの銀行マンの不倫物語ですが、なんというか、ずいぶんと都合が
 良い。
 美しくしかも仕事の出来る優秀な部下(OL)、しかし自分(主人公)の
 立場を脅かすほどには仕事はできない(←これはすごく重要)。
 憎からず思っていたら相手からも想いを寄せられ想いを遂げて、
 そしてあっという間に妻にばれて家庭崩壊の危機。

 ここで全力で家庭を守るのですが、その理由がよく判らない。
 妻への愛を再確認したわけでもないようだし、子供のため?
 しかも愛人は深追いせず、昔の彼と結婚すると言って、あっさり身を
 引いてくれます。
 
 「香水」のエピソードは思った通りでしたが、この主人公の妻は、夫が浮気を認めることと、
 自分が使っていた香水を夫は長いこと認識せず、愛人に買い与えた香水が同じものであった
 ことを知ることと、どちらがショックなんでしょうか。

 あと、茜(主人公の愛人)の立場からこのストーリィを描くと、全く違ったストーリィに
 なるのではないかと思いました。是非それを読みたい。


 「ありふれた魔法」 盛田 隆二 ★★★
03467831.jpg  基本的に海外文学は得意ではないのです。
 実際、めったに読みませんし。

 しかし同時に、海外文学であっても深い感銘を受ける著作は少なくないのも
 事実で、結局のとこと生活習慣とか表出的な情動の違いがピンとこない
 というのを言い訳にして食わず嫌いをしているというのが本当のところ
 なのかもしれません。

 この作品は、突然の交通事故で妻を亡くした主人公が、それによって
 自分が知らなかった妻のもうひとつの顔を知ってしまうという
 ものですが、

 読み終わって思うのは、この夫と妻と、どちらがより罪深いのか。
 結局はどちらも思い上がっていたということなんでしょうけれど
 「思い上がり」と「愛」は何がどう違うのか。

 もちろんそのふたつはぜんぜん別物なんだけど、じゃあ自分も含めて一体どれだけの人が
 きちんと「認識」し、「実践」できているのだろうか。

 気がつけばいろいろと想いを巡らせています。


 「妻は二度死ぬ」 ジョルジュ・シムノン ★★★★
4166605828.jpg  読み終わると溜息が出ますよ。

 この国は年間2,000億円を超える税金を「犯罪者」のためにつぎ込み、「更正」
 のためのプログラムを実施していますが、再犯率は50%を超えるとか。

 一方で、裁判の時は「一生をかけて償います」と言っておきながら、裁判が
 終われば賠償金どころか治療費さえ支払わない加害者も多いとか。

 確かに現状の「更正システム」は、性善説に基づいた「犯罪者を真人間に変え
 られる」という思想であり、たしかにそういうケースもあるかも知れませんが
 一方、これはかなりおこがましい考え方でもあるように思うし、現状、
 個人的に見聞きする範囲ではやはりどうしても被害者の人権より加害者の
 人権の方に重きを置かれているようにしか思えない事象が多すぎるように思うのです。

 著者の訴える「人権論」はちょっと過激なところもありますが、「賠償モデルへの転換」とか
 「付帯私訴(刑事裁判と民事賠償審理を同時に行うこと)」の導入など、真剣に検討すべき提案も
 多いように思います。

 歴史的な背景、譜の部分も含めたアメリカの現状なども踏まえた上での著者の主張は明快で、
 一読の価値はあると思います。


 「この国が忘れていた正義」 中嶋 博行 ★★★★
32029189.JPG  小説か詩か散文か。
 独特のリズムで女というもの、その女と対峙する男というものを
 えぐっていきます。

 情念、諦観、嫉妬、虚実、さまざまなものが言葉の背後に透けて見えますが、
 いちばん大きなものは「怒り」ではないか。
 淡々としていながら、しかしそこにはとても熱く、如何ともし難い
 強い怒りが潜んでいるように思います。

 特に、次の一文にはまったくドキリとさせられた。

 「何も言わないで生きているくらいなら、死んだ方がましだ、というより、
  生きるということは、それが危険だとわかっていても言ってしまうことに違いない
  と、女はいつの頃からか思うようになったのだ。」

 この作家を知らなかったとは、まったく迂闊だった。
 

 「むかし女がいた」 大庭 みな子 ★★★★
4-08-747837-8.jpg  第二次世界大戦中のフィリピン・ルソン島での日本軍の悲劇、
 いや悲劇というのは生やさしい表現で、まさしく地獄を描いた作品です。
 
 淡々と紡がれる文章とは対照的に、容赦ない展開です。
 敗走を重ね食糧は尽き、米軍だけでなくゲリラや同胞からも狙われる。
 読みながら、読み終わっても溜息が出る。何とも言えないやり切れなさ。

 正直なところ、内容的にあまり読みやすい本ではないとおもいます。文章の
 問題ではなく、内容が辛いという意味で。
 しかし同時に、読まれるべき本でもあると思います。
 答えが出なくても考えるべきことだと思います。

 この著者は、「七月七日」もそうですが、まるで戦場を見てきたかのような
 情景描写、まるで自分が経験したかのような心理描写で、1970年生まれと
 あるのをみてとても驚きました。

 最後の方に出てくるドイツ語の意味が、想像はつくんですが正確なところがわかりません。
 知ってる人は教えてください。
 

 「ルール」 古処 誠二 ★★★★

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