本はごはん。
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あれよあれよという間に転落してく怖さは結構リアル。
多かれ少なかれ「人生なんてこんなもんだ」と多少の不満も含めて受け止めて
いた日常のなかに実は、ぽっかり大きな穴が空いていて、吸い込まれるように
落ちていく。
主人公の日常はリアリティがあり、どこにでもいそうなサラリーマンです。
それなのに理不尽。
人生とは理不尽なものなのでしょう。
「壊れるもの」 福澤 徹三 ★★★
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なかなか良かったです。
冷静な観察眼をベースに、ちょっとずれてる、軋んでいる人を描かせると、
このひとはピカイチですね。本人が気がつかないうちに、また気づいても
どうしようもないうちにそのずれやきしみはだんだん大きく、そして
致命的になっていく。
ちょっとミステリぽい部分も含んでいて、連作を読み進めていくと
初めのうちは秘されていたことがすこしずつ明らかになっていきます。
本のタイトルはもちろん、連作の個々のタイトルの付け方が素晴らしい。
ここまでぴったりくるタイトル(たち)と出会ったのは久しぶりかもしれません。
そして「連作」というスタイルをとても効果的に使って全体を構成しています。
最後の短編が、いろんな意味で秀逸です。
さすがに解説でも「説明」なんて野暮なことはしていませんので、私も余計なことは書きませんが。
「しかたのない水」 井上 荒野 ★★★★
この著者の作品を片っ端から読み倒したのは確か学生時代だったか。
好きな作家、を通り越して、この人は天才だと思っております。
で、この「蝶のゆくえ」ですが。
女とは? 妻とは? 母親とは? 家とは?
前回、前々回と書いた(なんか引きずってるみたいに取られそうですね)
「女という病」を文学として昇華するとこうなるのだな、という小説集です。
短編集ですが、どれも長編としても充分扱えるテーマで、それをテンポ良く
凝縮して展開されています。
ま、いつもの通りちょっとくどいかな、と思うところもないではないですが。
やっぱり天才だと思います。
「蝶のゆくえ」 橋本 治 ★★★★
48歳のおやじのささやかな抵抗です。
抵抗する前から、抵抗しきれず有るべき場所へ帰ることが判って
いながら、ささやかな抵抗を試みます。
世代感の違いというか、当時の48歳と今の48歳はちょっと違うとは
思うんですが、抱えている物というか漠然とした不満というか、
そういうものは今も昔もあまり変わらないように思います。
そしてそれは、男性にも女性にも共通の物で、
「こんなはずではなかった」
「本当の自分はこんなではない」
ということから始まる。
ひとつまえの中村うさぎの「女という病」で、男も女も「承認欲求」を満たすために生きており、
女性は「愛される」という手段でその「承認欲求」を満たそうとする傾向が高いのではないかと
書きましたが、男性の場合の「承認欲求」を満たす手段は、上手い表現が見つかりませんが
「頼られる」ということなのではないかと。
そしてその「頼られる」ためには、腕力であったり経済力であったり影響力(カリスマ性も含め)
であったりとか、つまりは「POWER」を必要とするのではないか、と。
(あ、ヒモもそうですよ。ヒモというのは女を依存させてなんぼですから)。
で、女性の場合は「愛されない」ことが致命的になったときに「女という病」を発症し、
男性の場合は「頼られる」ためのパワーが足りないときに、それを何とかして手に入れようとして
「男という病」を発症するのではないかと思ったりしました。
そんなことをつらつらと考えながら、しかしまだちょっと浅いのでもう少しこれは考えてみたい
テーマであります。
あ、あとこの本を読んでいて、マーク トウェイン の「不思議な少年」を思い出しました。
「四十八歳の抵抗」 石川 達三 ★★
文庫になっていたので読んでみました。
何というのか独特のリズム感と、短編にしては凝縮性の高い作品が
詰まっているように感じます。
が、この著者の特筆すべき点は、対象(この場合は「生」つまりは「死」で
あり、「死」であるところの「生」)との絶妙な距離感ではないかと思います。
これ以上距離を置けば何も訴えてこないし、これ以上近寄れば(判りやすく
なるとはおもいますが)よくある話に落ちてしまいそうな、ぎりぎりの距離感。
なかなか面白い作家です。
「かなしぃ。」 蓮見 圭一 ★★★★
井上荒野さんですね。
食べ物と愛、がテーマですが、確かに「食べる」という行為と「性愛」
という行為は、根源的に同種の物なんじゃないかと思います。
直木賞候補作ということで期待して読んだんですが、正直なところ、
直木賞本賞はもちろん、候補作になったのもちょっとどーなんでしょうか、
という感じ。
なんかちょっと甘い、薄い。
短編集なんですが、多くの短編が「不倫」関係にあるのもちょっと食傷してくるし、
特に男性の描き込みが薄いというか。出てくる男性はみんな、ぺらんぺらんで
薄っぺらい感じ。
テーマである「食べ物」も、各短編のキーワードとしては弱く、とりあえず
なにか食べ物を出しておきましたみたいにしか思えない。
ちょっと残念。
「ベーコン」 井上 荒野 ★★
次から次へと女を作る男は、結局のところ、自分しか愛していないのだろう。
それは最後に自分に還ってくる。「もう切るわ」と。
次から次へと女を作る男を、一時でも愛してしまった女は迫られる。
自分は本当に愛していたのか。
自分は本当は誰を愛しているのか。
構成はシンプルだけど、独特のリズムを刻んで進む。
「あとがき」は蛇足。解説は秀逸。
自分の内面と対峙させられてしまう、怖い小説。
「もう切るわ」 井上 荒野 ★★★★
そのとき思わずうなったことを覚えています。これは面白いし、いい作家
だなあと思っていましたが、その後 「花まんま」 で直木賞を受賞し、
一躍有名になりましたね。
読みたいと思いつつなんとなく機会を逸していたので、休みを機に
「わくらば日記」「花まんま」「いっぺんさん」の3冊をイッキ読みです。
どの作品にも言えることですが【昭和】という時代とそれにたいする
ノスタルジックな哀愁みたいなものがベースにあって、誰もが胸の奥に
ひっそりと抱えている過去に犯した小さな罪みたいなものとか傷みたいな
ものとか、そういうものが繊細に表現されていて、上質な大人の
ファンタジーという感じ。
この3冊、どれも良書でありますが、「都市伝説セピア」に比べるとちょっと丸くなってると
いうか、とがった部分がやや薄くなってるというか。「都市伝説セピア」ほどの衝撃はなく、
正直なところ、ちょっと「あれ?」と思ったりもしました。
まあこのほうが万人ウケはすると思うんですが。もしかして賞狙い?
「いっぺんさん」朱川 湊人 ★★★
読まないんですが、エンタメ小説としても充分面白い作品です。
過去に戻れるんですが、自在にというわけにはいかず、戻れるのは
約10ヶ月前のある時点のみ。なんともビミョーです。
しかし10ヶ月といえど「戻る」ということはつまり「歴史をやり直す」
ことで、しかし「戻る」という新規要素が加わっているために、
「全く同じ」ということはあり得ません。まさしくカオス理論そのもの。
あたくしは読みながら「パラレル・ワールド」を想像したんですが、
やっぱり考えるのは、自分にそのチャンスがあったらどうするだろうか、ということ。
いずれにしても「戻る」場合、今の世界の自分はどうなるんでしょうか。
正確には書いてありませんが、やっぱり死んじゃうんだろうなぁ。
そうすると「今の世界」であたくしと関わりのある人は悲しむかもしれないし
なにより上のおじょうさん(ねこ)を置いていくわけにはいかないなぁ。
それにこの10ヶ月は激動だったので、正直、戻りたくないです。この10ヶ月の経験をもとに
多少上手く立ち回れるとしても。
それに何より、同じだけの時を重ねたい相手もいるし。
単なるタイムトラベラーものではなく、自分が引き裂かれる葛藤の中で結局自分が
何を選ぶのか、また自分では一度選んだつもりでも「これでもか」と究極の選択を迫られた
ときに、人はどんな判断を下すのか、そしてそれを責められる人はいるのか、そして
手に入れたものと失ったもの。
いろんな要素が「タイムトラベル」を上手く使って演出されています。
いやー、面白かった。
星の数は結構悩みました。限りなく★★★★に近い。
「リピート」乾 くるみ ★★★
だったか…。
不思議なお話ばかりの短編集。
しかし相変わらず、表現方法というか特に比喩が独特で、併せて彼は「苦労」
とか「努力」とかをまず表現しませんし(したとしてもかなりさらりと)、
「負の感情」すら独特の表現で表してしまうため(それらがいわゆる
「村上ワールド」の演出の基盤になっていると思うのですが)好き嫌いの
分かれるところなんだろうなぁと思います。
ただそれは読者の側の解読力みたいなものもあって「あーんなに苦労した」
とか「こーんなにタイヘンだったんだから!」とか「悲しみで息も出来ないくらい
ぼろぼろでそれは体重がこのくらい落ちて他人からは別人と見られるような」とかはっきり書かれて
ないとわからないのかな、というか、あまり想像しないのかな、と思うような感想もときどき見受け
ますが。まあ実生活でも、悲しみというのは極個人的なことなのに、しかし万人に判りやすい
悲しみ方をしないと、「あの人は案外冷たい」とか言われてしまうんでしょうしね。
この作家は、さらりと真理(らしきもの)を明瞭簡潔な言葉でずばっと突いてきますね相変わらず。
読んだ方は「あたりまえ」と思うかも知れないけれど、最大限にそぎ落とした言葉で簡潔に表現
するのは結構難しいことだと思うんですが。
相変わらずテーマは「死と再生」だと思うんですが、それを「ものがたり」としてうまく展開して
いると思います。個人的には最後の短編が好きかも。
★はみっつとよっつでちょっと迷いました。
「東京奇譚集」村上 春樹 ★★★★
行ってもあんまり読みたい本がない…)。
盛田氏の著作は、最初に「おいしい水」を読んで、ストーリィ展開自体は
ちょっと上手く行きすぎてるような気がしつつも、かなりリアルな
ディティールおよび心理描写が展開されていて、ちょっとやそっとの
取材ではここまでの女性心理は描けないのではないかと思い、
続いて「湾岸ラプソディ」を読んで、ちょと
「ふーん」「うーん」と思って遠ざかっていたのでした。
で、この「ラスト・ワルツ」ですが。
悪くないんですが…。なんて言えばいいのかな。ちょっと中途半場な感じというか。
好みの問題かなぁ。現在と12年前とが描かれていますが、どちらも同じ葛藤を抱えていて
それはいいんですが、葛藤は同じだとしても12年前と今とでは抱えるものも環境も
ぜんぜん違っているはずで、そのあたりの描き込みが薄いような気がするのは、
あたしが年を取って感性が鈍くなっているからなんでしょうか。
悪くないんですけどねー。
「ラスト・ワルツ」盛田 隆二 ★★★
出てきたなぁと思っていたのですが、「私という運命について」を読んで、
うーんちょっと違うかもと思ってしばらく遠ざかっていました。
この本も、実はずいぶん前に買ってそのまま読んでなかったのですが
(実は買ったはいいが読んでない本が家には山積み)、久しぶりに
手に取ってみましたよ。
3編の中編が入っていて、1編目は若いんだけどちょっとリタイアというか、
人生をポーズしている男性、2編目は老境に入った文学者、3編目は現役の
新聞記者の話です。
1編目と2編目はテーマが似ていて、言わんとしていることは判らないでも
無いんですが、なんというかちょっと弱いというか。
3編目がいちばん面白かったなぁ。
そう思うのは私がまだまだ人生に対して甘いのか。
もしくは私は今のところ現場の人間だから、よりそちらに共感するのか。
恐らく1編目と2面目にこの作家の普遍的なテーマがよりストレートに現れて
いるのだと思うのですが、現場の臨場感なしにそれを表現するのは難しいのかなぁ。
悪くはないんだけど、もう一歩という感じが否めません。しかしこのテーマを
追求してより深く表現して欲しいと思うし、それが出来る作家ではないかと思います。
「草にすわる」白石 一文 ★★★
とくにこのひとは、高いクオリティでディティールを掬い上げる。
彼女は女性同士の恋愛を多く描くけど、恋愛小説としてとても上質。
この作家のオススメはこの作品と、「弱法師」のなかの中篇「卒塔婆小町」。
この手の本を読んでいつも思うのは、セクシャリティとは何か、ということ。
「エロス」は「性愛」であって、「異性愛」ではなかったよな確か。
エーリッヒ・フロムの「愛するということ」を読んでも、飯田史彦の
「愛の論理」を読んでも、やっぱり愛というものはセクシャリティごときに
縛られてしまうようなヤワなもんじゃないんだろう。
そしてそして。あたくしにはそっち(ビアン)系の素養はあるのだろうか。
…ないな。
「サグラダ・ファミリア-聖家族」 中山 可穂 ★★★★
個々の短編より、連作が集まった全体の完成度が高い作品。
母親、子供、妻、夫、女子高生、通りすがりの人それぞれが「とりつく」
ものはやはりそれぞれですが、特に、
夫を残して若くして亡くなった「妻」と、
妻と幼い子供を残して亡くなった「夫」の
コントラストが鮮やかでした。
「とりつくしま」 東 直子 ★★★★
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