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本はごはん。
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4-08-747837-8.jpg  第二次世界大戦中のフィリピン・ルソン島での日本軍の悲劇、
 いや悲劇というのは生やさしい表現で、まさしく地獄を描いた作品です。
 
 淡々と紡がれる文章とは対照的に、容赦ない展開です。
 敗走を重ね食糧は尽き、米軍だけでなくゲリラや同胞からも狙われる。
 読みながら、読み終わっても溜息が出る。何とも言えないやり切れなさ。

 正直なところ、内容的にあまり読みやすい本ではないとおもいます。文章の
 問題ではなく、内容が辛いという意味で。
 しかし同時に、読まれるべき本でもあると思います。
 答えが出なくても考えるべきことだと思います。

 この著者は、「七月七日」もそうですが、まるで戦場を見てきたかのような
 情景描写、まるで自分が経験したかのような心理描写で、1970年生まれと
 あるのをみてとても驚きました。

 最後の方に出てくるドイツ語の意味が、想像はつくんですが正確なところがわかりません。
 知ってる人は教えてください。
 

 「ルール」 古処 誠二 ★★★★

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31325952.JPG  「安楽死」と「尊厳死」の違い。
 家族との契約か、本人との契約かー。
 難しい問題ですね。
 
 この手のテーマはいくら考えても結論が出るようなものではないですが、
 結論は出ずとも時折考えることは必要なんだろうと思います。

 「山中静夫氏の尊厳死」のほかにもう1編、タイでの医療奉仕を描いた作品が
 収録されていて、このふたつの作品の世界はとても対照的というか、
 相当に世界が違う話でありますが、そのいずれも「現実」なんだろうと
 思いました。



 「山中静夫氏の尊厳死 」 南木 佳士 ★★★★
4087463087.jpg  太平洋戦争時に於ける日系二世の、アイデンティティを引き裂かれる苦悩を
 描いた名作には、山崎 豊子の「二つの祖国」がありますが、
 それに負けず劣らずの名作であるとおもいます。

 淡々としかし繰り返し描き出される戦争の悲惨さの中で、著者は声高に何かを
 叫ぶわけではありませんが、深く考えさせられる作品です。




 「七月七日」 古処 誠二 ★★★★★
32083753.JPG  期待してなかったんですが、ちょっと驚きました。
 面白いです。

 ちょっとミステリぽいような、ソフトホラーのような、そんな要素も
 孕んでいます。
 
 「カタブツ」というのか、とにかく拘りを持った人たちのストーリィです。
 ちょっと病的な範疇では? と思う人もいます。
 ここまでじゃないけど、こういう人はいるなぁ、と思う人もいます。

 そういう人たちの、ほんとに良くある日常の中での出来事なのに、すごく面白い。

 それから、文章がしっかりしていているのがいいです。緻密というか、
 引き合いに出してくるものも面白い。

 良い出会いでありました。


 「カタブツ 」 沢村 凛 ★★★★
9784167628024.jpg  「披虐待児童」とか「障害者」問題など、難しいテーマを正面から取りあげて
 いますね。
 そこに当然存在する偽善や独善やエゴやどうしようもない現実や限界なんかも
 きちんと描かれていると思います。
 
 例えば、虐待されて養護施設に引き取られた不幸な子供たちは必ずしも
 天使ではないし、
 そこで働く先生たちも聖人ではなく、また高齢者だって他人の目をはばかる
 趣味を持っていたりとか、

 自分が保護するつもりで引き取った知的発達に問題のある子供に、
 いつのまにか自分のほうが依存していたりとか。

 つまり、養護施設の先生は慈悲深きマリアさまのような人(であって欲しい)とか、
 老人は全てを達観して迷いもなく(であって欲しい)とか、
 自分は保護する側の人間で、相手は保護される側の人間(であって欲しい)とか、

 そういったこちらの一方的な思いこみというか「レッテル」というか、そういうものも見事に
 剥がしてくれた上で、 

 ひとりよがりだったり、自己満足的、押しつけ的「優しさ」ではない、ほんとうの優しさとは
 こういうものなのではないか、と、思わせてくれる良書です。

 (あ、もちろん養護施設にはマリアさまのような先生もいると思うし、迷いのないお年寄りも
  いると思いますよ。しかし必ずしも全てがそうではないし、何より、人間はお互いに支えたり
  支えられたり、という関係であり、その相手が一般的に言われる社会的弱者だってまったく
  関係ないのだ、ということです。)

 「バケツ 」 北島 行徳 ★★★★
daaa5d27.jpeg  「コンビニ・ララバイ」以来、この著者の作品はあたくしには2作目です。

 コンビニ・ララバイでも感じたことですが、全般的にちょっと荒いところが
 あるかなぁ。
 設定とか悪くないのになぁ。

 何というか人間を見つめる眼差しというのが本当の意味で優しいと思います。
 本当の意味の「弱さ」というものをしっかり見つめているように思います。

 しかし。
 もうちょっと突っ込んで欲しいなぁ。文章と展開。
 結構良いんだけどなぁ。勿体ないなぁ。


 「殴られ屋の女神 」 池永 陽 ★★★
79666358.jpg  「チーム・バチスタの栄光」の続編? なんですかね。
 バチスタ面白かったので当然読んでみましたが。

 うーん。バチスタのインパクトが強かったのでどうしても比べて
 しまうんですが、ちょっとファンタジー入ってる?
 悪くはないですが、前作がリアルな医療現場をひしひしと感じたのに対し、
 今回はずいぶんとくだけてるというか、バラエティぽいというか。

 ただ、このシリーズは続いているみたいなので、単品ではなく、シリーズ全体で
 見ないといけないのかもしれません。

 これはこれで悪くないのにどうしても物足りなさが残るのは、やっぱり無意識に
 「バチスタ」風を期待していたからなのでしょう。

 しかし見方を変えれば、やっぱり著者の目的はAIの導入を始め、医学界の問題提起であろうと
 思われ、それを前作バチスタのようにリアルに描いたり、今回のようにすこしコミカルと
 いうか軽めに描いたりと、確信的にやっているのであれば非常に幅が広いなぁと思いました。


 「ナイチンゲールの沈黙 」 海堂 尊 ★★★
134652.jpg  「みのもんた」をはじめ、著名人と同姓同名の強烈なキャラクターが
 繰り広げる、大笑いしちゃうんだけどなんともシュールな世界です。

 かなりきわどい世界を、きわどい文体で展開していてなかなかにすごい。
 なんというか、これ以上崩したらぐちゃぐちゃになる一歩手前のところ
 というか。

 しかし乱一世の「11PM」ネタとか、イマドキの人に判るのだろうか。

 「実在の人物とは何の関係もなく、同じ名前の別の人、としてお読み下さい」
 とありますが、はっきり言って無理です。どーしても本人と重ねてしまいます。
 しかしこっちのキャラクターのほうが強烈です。


 「同姓同名小説 」 松尾 スズキ ★★★
30992384.JPG  若手弁護士を主人公とした連作短編集です。

 この弁護士の設定が、人間くさくてなかなかいいです。
 お金がなくて毎月月末には四苦八苦していて、手間ばかりかかってお金に
 ならない「当番弁護士」をとても嫌がっていたり、安易な策で手を打とうと
 したり。

 5編の短編は、ちょっと都合が良いのではと思う部分もなくはないけれど
 どれもなかなか面白く、とくに「鑑定証拠」というDNA鑑定をテーマとした
 短編がとても印象に残りました。

 DNA鑑定の盲点というか落とし穴が判りやすく説明されており、何より法定で
 検察側証人であるDNA鑑定士に、弁護士が反対尋問するシーンが圧巻です。
 弁護士が反対尋問に於いて証拠崩し、心証形成、新たな証言を引き出す場合、
 このように畳みかけていくのであろう実際のテクニックを垣間見たように思います。

 しかしこの手の本を読むといつも、相対的な正義ではなく、絶対的な正義って何なのだろうか、
 そもそもそんなもんが存在するんだろうかと考えてしまいます。


 「第一級殺人弁護 」 中嶋 博行 ★★★★
31636565.JPG  前にも書いたとおり、浅田次郎はもういいやと思っていたのですが、
 「明治維新直後、激動に晒されたの名もない武士たちの姿を描く」、
 などと言われるともう弱いのです。

 鳥羽伏見の戦い、戊辰戦争、函館戦争という動乱を経て明治維新。
 明治維新とはそれまでに人々の生活どころか、価値観までも
 ひっくり返してしまいます。

 そのなかで、新しい価値観の中を生きることに適わず途方に暮れながらも
 しかしそれぞれの「始末」のつけかたが鮮やかです。

 これは小説ですが、こういう話はきっと在野にたくさんあったのでは
 ないかなぁ。

 しかし相変わらず「浅田節」炸裂です。「浅田節」は特に歴史ものと特に
 相性がいいですね。

 付録に当時の地図がついてたんですが、これがもう楽しいのなんのって。


 「五郎治殿御始末 」 浅田 次郎 ★★★
02350566.jpg  著者は現役のお医者さんで、うつ病を患っていらっしゃるようです。
 
 タイトルにもなっているひとつ目の短編「家族」は、限りなく自叙伝に近い
 ようですね。
 死を目前にした年老いた父親をめぐり、息子(著者)、姉、義母、そして
 死にゆく父本人のそれぞれの心情が展開されていきますが、
 
 同じ状況の中にあって、家族でありながらも思うことはばらばらで、そして
 事実に対する認識ですら異なる「家族の現実」が描かれています。
 しかしそれでも「家族」なんでしょう。
 
 エッセイ風の短編も収められていますが、そのなかでとても驚愕することが。

 80歳を超えるおばあちゃん、長年働き続けて首のしわの中まで真っ黒に日焼け
 しています。
 このおばあちゃん、自分の主治医である著者の作品(著書)はすべて読んでいます。
 これだけでもびっくりなのに、ある日このおばあちゃんは

 「あんたの文章は静かでいいけれど、書くことがみんな後ろ向き過ぎていけない。
  これはあたしが若いころに読んで、力をもらった本だからあんたも読みなさい」
 
 と、岩波文庫の『自省録 』(マルクス・アウレリウス著)を、著者に差し出すのです。
 
 これが驚愕せずにいられようか。
 古い時代に生き、嫁ぎ先に仕え子供を育て、働きずめでありながら、お風呂をまきで焚きながら
 本を読んでいたのです。そして今も。
 
 おそらく暮らしはさほど豊かでもなく、自由も自分の時間も持てなかったであろうおばあさん
 ですが、なんと心は豊かで、自由だったのか。
 こういう人を本当の文化人というのではないかと思う。

 あたしも「自省録」読んでみよう。


 「家族 」 南木 佳士 ★★★
31352440.jpg  映画化されるそうですね。

 「幼児売買」「幼児売買春」「臓器売買」ー。
 これは小説ではありますが、実際にこのようなことはあるのでしょう。
 8歳で売られ、調教されて客を取らされ、エイズが発症すればゴミ袋に
 入れられて捨てられてしまう。確かにショッキングなことです。

 確かにそれに近い事実が現実にあるのだと思いますが、この小説を現実と
 同一視するのはちょっと危険だなぁと思います。

 実際、タイで心臓移植手術というのは聴いたことがないし、また新聞社の
 記者が取材をするときに一般人を同行させたりしてますが、それはちょっと
 あり得ないのではないか、特にこのようなケースでは…、とか。
 
 あとどうしても気になったのは、
 息子が心臓病でもって半年、恐らくその間にドナーは現れないので4,000万円でタイで臓器移植を
 決めた母親に、NGOの職員が、

 「生きた子から臓器を取り出して移植することになるのでやめて欲しい」と言うと、母親が
 「うちの子供に死ねと言うのですかっ!」と激高するシーンがあるのですが、いくら小説とはいえ
 ちょっとそれは世の中の母親に対して酷すぎないか。

 それに、こんな書かれ方されて世の中のNGOの関係者は怒らないんだろうか。
 あまりにも無能な書かれ方をされてるようにしか思えない。

 しかしまあそれらは些末なことで、恐らくこの本は最後の2ページのために書かれたのでしょう。

 確かにあたしは「こちら側」の人間で「あちら側」には行けないけど
 でも全員が「あちら側」に行けば問題は解決するのか。
 「こちら側」で出来ることをしていくしかないしそのためにはまず「知る」「知らしめる」
 ということが必須ではないのか。

 現実から目を逸らすのではなく、「何も出来ない(に等しい)自分」という現実も含めて
 背負っていくしかないんじゃないかと、そんな風に思いました。


 「闇の子供たち 」 梁 石日 ★★★★
276109-1.gif  ぜんぜん期待してなかったんですが、というかタイトルからしてダメだろう
 くらいに思っていたのですけども、いやー面白かったです。
 著者が現役の法律家だけあって、(あたくしの大好きな法定シーンとか)
 かなりリアルだし。

 弁護側反対尋問で証人が血祭りに挙げられるとか、
 それで心証形成に失敗した検察側証人に対して検察官は冷たいとか、
 被告側被害者側それぞれの弁護士同士のバトル(罵り合い)とか、

 特に、
 「背中から刺される」つまり、弁護士が依頼人(被告人)に裏切られるリスク
 とか。

 更に弁護士の理想と現実、司法試験に通っただけでもう選民意識にとらわれてしまう新人とか
 苛烈な生存(出世)競争とか、裁判員制度の現実的な一面とか、いろんな問題が冷静かつ
 客観的に取りあげられています。

 しかし面白かった。こういうの好きなんですよ。
 この著者、しばらく追っかけてみようかな。


 「ホカベン ボクたちの正義」 中嶋 博行 ★★★★
32099005.JPG  日常のミステリの短編集。うーん、悪くないんだけどなぁ。
 どれもほんとに日常の些細なことから展開されているところとか、
 人間関係の機微とかほんと悪くないんだけど、なにか物足りないというか、
 きれいに纏まりすぎてるというか。

 タイトルにもなっているいちばん最初の短編(歳を取ってきて物忘れが
 激しくなってきたじーさんのケース)なんかほんとテーマとしてはすごく
 良いんだけどなんか終わり方もきれい事みたいというか、

 これが初の短編集らしいのですが
 こぢんまりと纏まりすぎててまるで賞狙いで書かれたような気が
 してしまいます。

 「僕の行く道」とか「未来の息子」なんかと似たような感覚。「決して悪くないんだけど…」。

 そしてこの3冊、全て双葉文庫。偶然か。


 「陽だまりの偽り」 長岡 弘樹 ★★★
9784167719029.jpg  正直なところ、第1章を読み始めて「これはもしや失敗したかも」と
 おもいました。
 ポップと言えばポップなんだけど、これはただ単に「軽い」だけでは?
 と思ったんですがさにあらず。
 なかなか面白かったです。

 ある日父親が失踪してしまい、残された末っ子14歳男子、17歳長女、
 27歳長男、42歳母親、73歳舅(小ぼけ)それぞれの心の内が、連作で
 展開されていきます。

 読み進めるうちに様々なヒミツが明らかになっていきますが、こういう
 テーマを軽やかにしかし「きちんと」描けるということが本当の意味での
 「ポップ」なんだと思います。

 この国が背負ってきた歴史と必死で立て直してきた人たちの想い、実際のところ現実は
 その想いとはぜんぜん別物になってしまったところもありますが、しかし

 そういう歴史や様々な想いのうえに「今」があるのであって、そして「家族」というものは
 大なり小なりこんなもんで、そして「家族」というものは与えられるモノではなくて
 そこに参加した人たちで「創り上げていくモノ」であるということですね。
 「血」を否定するわけではありませんが、「血」だけではないというか。

 さまざまな想いを呑み込んで、いろいろなことに折り合いを付けて大人になっていく過程というか。

 しかしこの73歳のじいさん、ボケてきていますが大した人物だし良い味出してます。


 「厭世フレーバー」 三羽 省吾 ★★★★
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