本はごはん。
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面白い。果てしなく面白い。
早稲田のフロなしトイレ共同三畳一間家賃1万2千円の野々村荘で暮らした
11年間のあれやこれやが綴られています。
コンゴの奥地に怪獣を探しに行ったり、山形(だっけ?)の雪山にUFOの基地を
探しに行ったりする著者なので、著者自身、また仲間の早稲田探検部のメンバー
が個性的なのはともかく、
アパートのほかの入居者や大家のおばさんまでまあなんとキャラの立っている
ことでしょう。
若さってのはすごいもので、お金なんかなくても、というかお金がない方が
「若い」ってことを堪能でき、その力を最大限に出せるように思います。
後から考えて「ばかなことしてたなー」と思うような、そんな経験が
後々、歳を重ねるごとに効いてくるようにも思います。
世の中がバブルに浮かれていた頃、こんなにも真っ当な「セイシュン」を送っていた
人が居た、ということもなんかいいです。
「ワセダ三畳青春記」 高野 秀行 ★★★★★
早稲田のフロなしトイレ共同三畳一間家賃1万2千円の野々村荘で暮らした
11年間のあれやこれやが綴られています。
コンゴの奥地に怪獣を探しに行ったり、山形(だっけ?)の雪山にUFOの基地を
探しに行ったりする著者なので、著者自身、また仲間の早稲田探検部のメンバー
が個性的なのはともかく、
アパートのほかの入居者や大家のおばさんまでまあなんとキャラの立っている
ことでしょう。
若さってのはすごいもので、お金なんかなくても、というかお金がない方が
「若い」ってことを堪能でき、その力を最大限に出せるように思います。
後から考えて「ばかなことしてたなー」と思うような、そんな経験が
後々、歳を重ねるごとに効いてくるようにも思います。
世の中がバブルに浮かれていた頃、こんなにも真っ当な「セイシュン」を送っていた
人が居た、ということもなんかいいです。
「ワセダ三畳青春記」 高野 秀行 ★★★★★
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この著者の作品は初めてです。なるほど、こういう雰囲気ですか。
始まりのあたりは結構良くて期待したんだけどな…。
何というか、まあありきたりに恋愛だの不倫だのが本当のテーマではない
小説なのだと思うけれど、登場人物の誰もが「判らない」ということを
一見受け入れているようでいて実は放り出しているように思う。
「判らない」ことを放り出して自分の足では立てないんじゃないか。
と、そんな風に思ってしまうのだけれど。
妻の親友と浮気する男の「認識されないものは存在しない」という考え方
だけが、ああ、男性にはこういう人多いよねぇ、とリアルでした。
「夜の公園/」 川上 弘美 ★★★
始まりのあたりは結構良くて期待したんだけどな…。
何というか、まあありきたりに恋愛だの不倫だのが本当のテーマではない
小説なのだと思うけれど、登場人物の誰もが「判らない」ということを
一見受け入れているようでいて実は放り出しているように思う。
「判らない」ことを放り出して自分の足では立てないんじゃないか。
と、そんな風に思ってしまうのだけれど。
妻の親友と浮気する男の「認識されないものは存在しない」という考え方
だけが、ああ、男性にはこういう人多いよねぇ、とリアルでした。
「夜の公園/」 川上 弘美 ★★★
安定感があって、基本的に安心して読める著者でありますが、
今回ちょっと、表現としてくどい感じがあるかなぁ…。
「青い鳥」というある意味定番のテーマを扱う場合、どうしても筆力が
求められると思うのですが、あまりにきれいに落ちをつけてしまうと
嘘っぽくというか絵空事になってしまうし、
それを避けるためにあえて「個人的逡巡」を丁寧に描いていて、
そのあたりがちょっとくどく感じてしまうのかもしれません。
銀行に辞表をたたきつけてタクシードライバーになった主人公が、
「あそこでああしていたら」とか「あのとき会社を辞めていたら」とか
「そもそも学生時代に野球を続けていたら」とか、『あり得たかもしれない未来』を
思い描いていきますが、
個人的に、私はそんな風に思ったことが殆どないので、そう思う気持ちを「理解」は出来ても
個人的体験を伴う感情に還元できないのですが、
なんというか、「40代のおじさんの自分探し」みたいな感もあって、この著者はサラリーマンを
描かせたら秀逸ですね。悪くないと思います。
「あの日にドライブ」 荻原 浩★★★
今回ちょっと、表現としてくどい感じがあるかなぁ…。
「青い鳥」というある意味定番のテーマを扱う場合、どうしても筆力が
求められると思うのですが、あまりにきれいに落ちをつけてしまうと
嘘っぽくというか絵空事になってしまうし、
それを避けるためにあえて「個人的逡巡」を丁寧に描いていて、
そのあたりがちょっとくどく感じてしまうのかもしれません。
銀行に辞表をたたきつけてタクシードライバーになった主人公が、
「あそこでああしていたら」とか「あのとき会社を辞めていたら」とか
「そもそも学生時代に野球を続けていたら」とか、『あり得たかもしれない未来』を
思い描いていきますが、
個人的に、私はそんな風に思ったことが殆どないので、そう思う気持ちを「理解」は出来ても
個人的体験を伴う感情に還元できないのですが、
なんというか、「40代のおじさんの自分探し」みたいな感もあって、この著者はサラリーマンを
描かせたら秀逸ですね。悪くないと思います。
「あの日にドライブ」 荻原 浩
まず、とにかくタイトルが秀逸です。
好き嫌いはともかくとして、タイトルとして素晴らしい。
「恋愛(を全面に出した)もの」はあまり期待しないで読む癖がいつの
まにかついてしまったのですが(たぶんにそれは年齢によるものと認め
ざるを得ない)、思った以上に良い本でありました。
この本の秀逸なところは、単なる失恋話に終結していないところです。
恋愛を通しての自分の姿、自分と周りとの関係、その中にある真理、
変化と普遍性、「信じる」ということと「愛」の不可分性、「信じる」
ということと「盲信」の違い、諦めること忘れることと昇華することの違い、
などなど、
恋愛(失恋)がテーマではありますが著者が本当に表現したかったのは
「(自分の過去の)恋愛そのもの」ではない、のではないかともふと思ったりするのです。
「婚活」流行りの昨今。
こんな恋愛は「贅沢なもの」になってしまったんでしょうか。
それとも「面倒なもの」になってしまったんでしょうか。
「あなたが私を好きだった頃」 井形 慶子 ★★★★
好き嫌いはともかくとして、タイトルとして素晴らしい。
「恋愛(を全面に出した)もの」はあまり期待しないで読む癖がいつの
まにかついてしまったのですが(たぶんにそれは年齢によるものと認め
ざるを得ない)、思った以上に良い本でありました。
この本の秀逸なところは、単なる失恋話に終結していないところです。
恋愛を通しての自分の姿、自分と周りとの関係、その中にある真理、
変化と普遍性、「信じる」ということと「愛」の不可分性、「信じる」
ということと「盲信」の違い、諦めること忘れることと昇華することの違い、
などなど、
恋愛(失恋)がテーマではありますが著者が本当に表現したかったのは
「(自分の過去の)恋愛そのもの」ではない、のではないかともふと思ったりするのです。
「婚活」流行りの昨今。
こんな恋愛は「贅沢なもの」になってしまったんでしょうか。
それとも「面倒なもの」になってしまったんでしょうか。
「あなたが私を好きだった頃」 井形 慶子 ★★★★
山田詠美の選んだ短編が8本収められています。
中上健次や半村良、遠藤周作などそうそうたる作家陣で、どれも「さすが」と
思わせます。
そのなかでも非常に印象的であったのは赤江瀑の「ニジンスキーの手」。
この限りなく神に近い天才は、おそらくは生ある限り救われない。
その哀しい美しさと強さにうっとりしてしまいます。
草間彌生の「クリストファー男娼窟」。
道を踏み外し、黄昏の街に身を横たえて、
滅びの道を進むごとに輝きを増す哀しい美しさ。
収録されている短編はもちろん、選評眼も確かなものであると思いました。
「幸せな哀しみの話―心に残る物語 日本文学秀作選」 山田 詠美(編) ★★★
中上健次や半村良、遠藤周作などそうそうたる作家陣で、どれも「さすが」と
思わせます。
そのなかでも非常に印象的であったのは赤江瀑の「ニジンスキーの手」。
この限りなく神に近い天才は、おそらくは生ある限り救われない。
その哀しい美しさと強さにうっとりしてしまいます。
草間彌生の「クリストファー男娼窟」。
道を踏み外し、黄昏の街に身を横たえて、
滅びの道を進むごとに輝きを増す哀しい美しさ。
収録されている短編はもちろん、選評眼も確かなものであると思いました。
「幸せな哀しみの話―心に残る物語 日本文学秀作選」 山田 詠美(編) ★★★
引き続き直木賞ものを。
粒揃いの短編集ですね。すべての短編がここまで立っているのもめずらしい。
6本の短編が収められています。
見なかったことにして、自分の心の疼きすら気がつかなかったことにして
生きていくこともできるのかもしれません。
しかしそれを無視できない因果な(?)性格を持ってしまっていたら、
あとはもうじたばたと足掻くしかなく、
この短編集は、そんな人たちがそれぞれのやりかたで「じたばたと足掻き」、
むっとしたりため息をついたりしながらも新しい明日を見つける、
というより創りあげていく。
それぞれの短編は登場人物の置かれた立場もその環境も、表層的な部分はもちろん雰囲気も
全部違うのですが、全編通して、自分にとっての「大切な何か」とは何なのかを自覚して
しまった人たちがそれから目をそらさず、対峙していく哀しみと希望が鮮やかに描かれています。
表題にもなっている「風に舞い上がるビニールシート」のなかに、
「どんなに激しく交わっても、毎日のように愛をささやきあっても、どこか本質のところで
他人を切り離しているような、一番生身の暖かい部分は誰にも触れさせないような。」
という表現が出てきますが、親子であろうと夫婦であろうと、恋人であろうと親友であろうと
「一番生身の暖かい部分に触れること」なんてできるんでしょうか。
自分の一番生身の暖かい部分を「触れさせることができない」から、
相手の一番生身の暖かい部分も「触れることができない」んでしょうか。
それとも、
「愛しぬくことも愛されぬくこともできな」いから、なんでしょうか。
「風に舞いあがるビニールシート」 森 絵都 ★★★★
粒揃いの短編集ですね。すべての短編がここまで立っているのもめずらしい。
6本の短編が収められています。
見なかったことにして、自分の心の疼きすら気がつかなかったことにして
生きていくこともできるのかもしれません。
しかしそれを無視できない因果な(?)性格を持ってしまっていたら、
あとはもうじたばたと足掻くしかなく、
この短編集は、そんな人たちがそれぞれのやりかたで「じたばたと足掻き」、
むっとしたりため息をついたりしながらも新しい明日を見つける、
というより創りあげていく。
それぞれの短編は登場人物の置かれた立場もその環境も、表層的な部分はもちろん雰囲気も
全部違うのですが、全編通して、自分にとっての「大切な何か」とは何なのかを自覚して
しまった人たちがそれから目をそらさず、対峙していく哀しみと希望が鮮やかに描かれています。
表題にもなっている「風に舞い上がるビニールシート」のなかに、
「どんなに激しく交わっても、毎日のように愛をささやきあっても、どこか本質のところで
他人を切り離しているような、一番生身の暖かい部分は誰にも触れさせないような。」
という表現が出てきますが、親子であろうと夫婦であろうと、恋人であろうと親友であろうと
「一番生身の暖かい部分に触れること」なんてできるんでしょうか。
自分の一番生身の暖かい部分を「触れさせることができない」から、
相手の一番生身の暖かい部分も「触れることができない」んでしょうか。
それとも、
「愛しぬくことも愛されぬくこともできな」いから、なんでしょうか。
「風に舞いあがるビニールシート」 森 絵都 ★★★★
基本的に史実をきちんと踏まえているもの以外、殆ど時代小説は読まないの
ですが、直木賞受賞作でもあるので読んでみます。
構成は有吉佐和子の名著「悪女について」と同じで、関係者の証言から
ある花魁の輪郭を浮き彫りにしていきます。
その過程で、吉原の文化や風習、しきたりなどが解説臭くなく紹介されていく
ところはよくできている上、しきたりやシステムなどの説明よりも廓文化が
前面に出ているせいか、下世話な話に落ちずに、
絢爛で奢侈な絵巻をみているかのような、ほんのり哀しい、豪奢な世界が
繰り広げられていて、
この「吉原」という舞台とその世界が見事に展開されているところは秀逸です。
ただ、「小説」として考えたときに、前掲の「悪女について」が、読み進めるうちに該当者の
持つ「違う顔」が次々と明らかになっていくダイナミズムに対し、こちらは展開がやや
大人しめというか。
まあ構成が同じだからと言って単純に比べられるものではないですけども。
ただいずれにしても、「悪女について」では多彩な仮面を持ちながらも彼女が抱え続けた
「変わらない孤独」、
「吉原手引草」では環境が変わろうと時が移ろおうと花魁が持ち続けた
「孤独な意志」
が描かれているように思うのです。
彼女たちが抱え続けたもの。それを「女の業」なんて言葉で片付けたくないなぁ。
「吉原手引草」 松井 今朝子 ★★★★
ですが、直木賞受賞作でもあるので読んでみます。
構成は有吉佐和子の名著「悪女について」と同じで、関係者の証言から
ある花魁の輪郭を浮き彫りにしていきます。
その過程で、吉原の文化や風習、しきたりなどが解説臭くなく紹介されていく
ところはよくできている上、しきたりやシステムなどの説明よりも廓文化が
前面に出ているせいか、下世話な話に落ちずに、
絢爛で奢侈な絵巻をみているかのような、ほんのり哀しい、豪奢な世界が
繰り広げられていて、
この「吉原」という舞台とその世界が見事に展開されているところは秀逸です。
ただ、「小説」として考えたときに、前掲の「悪女について」が、読み進めるうちに該当者の
持つ「違う顔」が次々と明らかになっていくダイナミズムに対し、こちらは展開がやや
大人しめというか。
まあ構成が同じだからと言って単純に比べられるものではないですけども。
ただいずれにしても、「悪女について」では多彩な仮面を持ちながらも彼女が抱え続けた
「変わらない孤独」、
「吉原手引草」では環境が変わろうと時が移ろおうと花魁が持ち続けた
「孤独な意志」
が描かれているように思うのです。
彼女たちが抱え続けたもの。それを「女の業」なんて言葉で片付けたくないなぁ。
「吉原手引草」 松井 今朝子 ★★★★
この著者の作品は、いつも思わずため息が出るほど美しい。
女性同士の恋愛自体には興味がありませんが、この人が描く性愛は
エロティシズムに溢れていながら下品ではない、というところが特異です。
そして何気ない日常のシーンの中から、それぞれの人がもつ根源的な性格を
さらりと吸い上げていく筆力がすごい。
「脳髄の裏側に白い薔薇が咲く」ーこれ以上の表現があるだろうか。
「白い薔薇の淵まで」 中山 可穂 ★★★
女性同士の恋愛自体には興味がありませんが、この人が描く性愛は
エロティシズムに溢れていながら下品ではない、というところが特異です。
そして何気ない日常のシーンの中から、それぞれの人がもつ根源的な性格を
さらりと吸い上げていく筆力がすごい。
「脳髄の裏側に白い薔薇が咲く」ーこれ以上の表現があるだろうか。
「白い薔薇の淵まで」 中山 可穂 ★★★
この著者の作品は初めてで、上・下巻の長編ゆえ、最後まで
ちゃんと引っ張ってってくれるかしら、とすこし不安でしたが、
なかなかどうして面白い作品でした。
「カインとアベル」を引き合いに出すまでもなく、同性同士の兄弟、
姉妹は、同性ならではの気安さと信頼が存在する一方で、やはり同性
ならではの葛藤や確執も存在するのでしょう(残念ながら異性兄弟
しかもっていないため、そのあたりは想像するしかないのですが)。
すべてにおいて秀逸である兄と、すべてにおいて平均以下である弟。
出生の秘密を巡り、「血」とは何か、「救い」とは「赦し」とは何か、
なかなか重いテーマを扱っています。
テーマの割に平易な少し軽めの文章で展開されているのは、テーマが重い故なのか。
私は「若年層にも(というかむしろ若年層にこそ)読んでほしい」という著者の希望のなせる
技かと想像するのですが、この著者はそもそもこういう文体なんでしょうか。
正直なところ先の展開は読めてしまうし、一点「うーん」と思うところもないではないのですが
それでもなかなか良い作品だと思います。
「いつもの朝に 上」「 いつもの朝に 下」 今邑 彩 ★★★
ちゃんと引っ張ってってくれるかしら、とすこし不安でしたが、
なかなかどうして面白い作品でした。
「カインとアベル」を引き合いに出すまでもなく、同性同士の兄弟、
姉妹は、同性ならではの気安さと信頼が存在する一方で、やはり同性
ならではの葛藤や確執も存在するのでしょう(残念ながら異性兄弟
しかもっていないため、そのあたりは想像するしかないのですが)。
すべてにおいて秀逸である兄と、すべてにおいて平均以下である弟。
出生の秘密を巡り、「血」とは何か、「救い」とは「赦し」とは何か、
なかなか重いテーマを扱っています。
テーマの割に平易な少し軽めの文章で展開されているのは、テーマが重い故なのか。
私は「若年層にも(というかむしろ若年層にこそ)読んでほしい」という著者の希望のなせる
技かと想像するのですが、この著者はそもそもこういう文体なんでしょうか。
正直なところ先の展開は読めてしまうし、一点「うーん」と思うところもないではないのですが
それでもなかなか良い作品だと思います。
「いつもの朝に 上」「 いつもの朝に 下」 今邑 彩 ★★★
この著者の作品は「都市伝説セピア」がとにかく出色であると
思っていますが、この作品もなかなかいいです、
東京のある町を舞台にした連作ですが、どの短編も「死」というものと、
ひとの「想い」がテーマになっているように思います。
同じ町が舞台でも、話によって年代が変わっているのも面白いところ。
「花まんま」や「いっぺんさん」を読んだときはちょっと「あれ?」と
思ったのですがこの本はそんなこともなく。
その違いは何だろうと考えてみるにやはり全体の、連作としての構成の
完成度が高いように思います。
「ひと」に張り付いている「死」をいうものを様々な形で描きながら、
最後は「生」で終わるのもいい感じです。
「かたみ歌」 朱川 湊人 ★★★★
思っていますが、この作品もなかなかいいです、
東京のある町を舞台にした連作ですが、どの短編も「死」というものと、
ひとの「想い」がテーマになっているように思います。
同じ町が舞台でも、話によって年代が変わっているのも面白いところ。
「花まんま」や「いっぺんさん」を読んだときはちょっと「あれ?」と
思ったのですがこの本はそんなこともなく。
その違いは何だろうと考えてみるにやはり全体の、連作としての構成の
完成度が高いように思います。
「ひと」に張り付いている「死」をいうものを様々な形で描きながら、
最後は「生」で終わるのもいい感じです。
「かたみ歌」 朱川 湊人 ★★★★
酒の席などで男性に、
「どうして女性は相手の浮気にすぐ気がつくのか」などという質問を受ける
ことがありますが、これに対する答えはひとつしかなく、それは即ち、
『判るものは判る』。
そう答えると男性は至って不満げでありますが、そうとしか言いようがない。
この本にはそのあたりも非常に丁寧に描写されていますが、秀逸なのは
その時々の女性心理が繊細に描かれているところでしょう。
この「美しい妻」はあたくしとはまったく性格が違いますが、それでも
そこに描かれている心理はとても理解できる。
最後に、彼女が最愛のものを取り戻すために神に「引き替え」に差し出したものはある種の
矛盾を一瞬感じるのだけれど、それによって永遠に自分の中に閉じこめるという発想は得てして
あるもので、そういう意味でも彼女は本当は自分のことしか愛していないのかもしれない。
それにしても。
このひとの作品は、いつもあたしの内側を引っかき回す。
井上作品としては今のところ、本作が最高峰であると思います。
「誰よりも美しい妻」 井上 荒野 ★★★★
「どうして女性は相手の浮気にすぐ気がつくのか」などという質問を受ける
ことがありますが、これに対する答えはひとつしかなく、それは即ち、
『判るものは判る』。
そう答えると男性は至って不満げでありますが、そうとしか言いようがない。
この本にはそのあたりも非常に丁寧に描写されていますが、秀逸なのは
その時々の女性心理が繊細に描かれているところでしょう。
この「美しい妻」はあたくしとはまったく性格が違いますが、それでも
そこに描かれている心理はとても理解できる。
最後に、彼女が最愛のものを取り戻すために神に「引き替え」に差し出したものはある種の
矛盾を一瞬感じるのだけれど、それによって永遠に自分の中に閉じこめるという発想は得てして
あるもので、そういう意味でも彼女は本当は自分のことしか愛していないのかもしれない。
それにしても。
このひとの作品は、いつもあたしの内側を引っかき回す。
井上作品としては今のところ、本作が最高峰であると思います。
「誰よりも美しい妻」 井上 荒野 ★★★★
短編集です。
この著者の作品はいつも、背景には音や色彩がちゃんとあるんだけれども、
なんとも静謐な雰囲気が漂っているように思います。
たとえばこの作品の中に「バタフライ和文タイプ事務所」という作品が
ありますが、和文タイプ事務所ですから、和文タイプを打つ音、それは英
文タイプのかしゃかしゃした音よりももっと重たい音ですが(学生時代に
やったことがある)、
そういう音に囲まれた場面を描きながらもどこか、海の底のような「しん」と
した気配を感じる。
現実の持つ理不尽さとか残酷さとか、そういうことを覆い隠してしまうのではなく、
それらをきちんと見つめながらそれらとも共存できるファンタジーを紡いでいるかのようにも思う。
2番目の短編、「風薫るウィーンの旅六日間」がなんとも、悲劇のような喜劇というか、
喜劇のような悲劇というか。
でも、人生ってこんなもんだよね。とも思う。
「海」 小川 洋子 ★★★
この著者の作品はいつも、背景には音や色彩がちゃんとあるんだけれども、
なんとも静謐な雰囲気が漂っているように思います。
たとえばこの作品の中に「バタフライ和文タイプ事務所」という作品が
ありますが、和文タイプ事務所ですから、和文タイプを打つ音、それは英
文タイプのかしゃかしゃした音よりももっと重たい音ですが(学生時代に
やったことがある)、
そういう音に囲まれた場面を描きながらもどこか、海の底のような「しん」と
した気配を感じる。
現実の持つ理不尽さとか残酷さとか、そういうことを覆い隠してしまうのではなく、
それらをきちんと見つめながらそれらとも共存できるファンタジーを紡いでいるかのようにも思う。
2番目の短編、「風薫るウィーンの旅六日間」がなんとも、悲劇のような喜劇というか、
喜劇のような悲劇というか。
でも、人生ってこんなもんだよね。とも思う。
「海」 小川 洋子 ★★★
ホラーですね。
ホラーものって滅多に読まないのであまり意識したことがなかったんですが、
筆力がいりますね。まあ一歩踏み外せば奇想天外な世界ですから当然かも
しれませんが。
短編集なんですが、好き嫌いが分かれるかもしれませんね。
最後の短編なんか特にミステリぽい雰囲気もあって悪くないと思います。
どの短編にも同じ名前の別人(女性)が出てくるのも著者の仕掛けのひとつ
でしょう。
悪くないと思います。
でも個人的に、気持ち悪いのはちょっと苦手なんです。
「眼球綺譚」 綾辻 行人 ★★★
ホラーものって滅多に読まないのであまり意識したことがなかったんですが、
筆力がいりますね。まあ一歩踏み外せば奇想天外な世界ですから当然かも
しれませんが。
短編集なんですが、好き嫌いが分かれるかもしれませんね。
最後の短編なんか特にミステリぽい雰囲気もあって悪くないと思います。
どの短編にも同じ名前の別人(女性)が出てくるのも著者の仕掛けのひとつ
でしょう。
悪くないと思います。
でも個人的に、気持ち悪いのはちょっと苦手なんです。
「眼球綺譚」 綾辻 行人 ★★★
短編集ですが、思っていたよりも面白かったです。
1作目の男性心理の描き込みが良くできているように思います。
実際、こういうひと、いるし。
11作の短編が収められていますが、当たり外れの幅が殆どなく、
全体的に安定した印象を受けます。
日常の延長線上で展開されるストーリィはしっかりした心理描写に
支えられ、単なるサスペンスに終わっていないという感じ。
短編ではありますがいろいろ詰め込まれていたり、
先が読めてしまうものもあるものの、
最後に「あ、そっち?」みたいな作品もあって、なかなか楽しめました。
「悪女の秘密」 新津 きよみ ★★★
1作目の男性心理の描き込みが良くできているように思います。
実際、こういうひと、いるし。
11作の短編が収められていますが、当たり外れの幅が殆どなく、
全体的に安定した印象を受けます。
日常の延長線上で展開されるストーリィはしっかりした心理描写に
支えられ、単なるサスペンスに終わっていないという感じ。
短編ではありますがいろいろ詰め込まれていたり、
先が読めてしまうものもあるものの、
最後に「あ、そっち?」みたいな作品もあって、なかなか楽しめました。
「悪女の秘密」 新津 きよみ ★★★
うーん。芥川賞か…うーん。
ページを開いてまず驚くのはその級数の大きさ(=文字がでかい)。
まあそれはいいとして…。
表題にもなっている2品目がいちばんいいかなと思いますが、こういうテーマで
あれば、もう一歩筆力を期待したいところ。悪くないと思うんですけどねぇ…。
なんというか、「淡々」ということと「深さ」とか「描き込み」ということは
決して矛盾せず両立するものだと思うのです。そのあたりをもう一声、是非。
「日本企業」における「男女同期」というものの関係性、というテーマは
すごくいいと思うのです。だから尚更。
期待してます。
「沖で待つ」 絲山 秋子 ★★★
ページを開いてまず驚くのはその級数の大きさ(=文字がでかい)。
まあそれはいいとして…。
表題にもなっている2品目がいちばんいいかなと思いますが、こういうテーマで
あれば、もう一歩筆力を期待したいところ。悪くないと思うんですけどねぇ…。
なんというか、「淡々」ということと「深さ」とか「描き込み」ということは
決して矛盾せず両立するものだと思うのです。そのあたりをもう一声、是非。
「日本企業」における「男女同期」というものの関係性、というテーマは
すごくいいと思うのです。だから尚更。
期待してます。
「沖で待つ」 絲山 秋子 ★★★
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