本はごはん。
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映画(アニメ)を先に見ました。
いつものごとくストーリィは書きませんが。
思春期以降、成長することも死ぬこともなく、唯一戦争でのみ死ぬ
「キルドレ」である「僕」の語りでストーリィは展開していきますが、
この本を読んでいると、自然と「老師と少年」が思い出されます。
「スカイ・クロラ」のタイトル通り、空に張り付いて、空にはいつくばって
しか生きていけない「キルドレ」、
『僕たちは、神に祈るか、それとも、殺し合いをするか、そのどちらかを
選択しなければならない。それがルールだった。』
つまりは「神に祈る」=既に確立された価値観を丸ごと受け入れてそれに依存して生きるか、
「殺し合いをする」=生存競争のただ中で他者をけ落として生きていくか、結局のところ
世の中とはその通りで、
そのなかで、直接的に殺すのも間接的に殺すのも同じ、と。確かにその通り。
そこに何の疑問も抱かなければ生きていける。少なくとも毎日は過ぎていく。
日常のちょっとした変化を頼りに。
『僕はまだ子どもで、 ときどき、 右手が人を殺す。その代わり誰かの右手が僕を殺して
くれるだろうー。』
そんな風にしか生きられなかったのに、つまりは与えられた生をただ生きるだけだった
のに、いつしか彼は他人の、そして自分のために歩き出す。それは即ち、「自分の生」を
自ら生きることであり、ただ生きているのではなく、他人も引き受けながら自分の命を
引き受ける生き方。
映画とは大きくラストが違うのだけれど、メッセージは同じ。
そういう意味では映画は良くできてると思います。メッセージを損なわず、より判りやすく
表現していると思う。
そしてこの「スカイ・クロラ」を物語ったのが工学博士だということが、また感慨深いものが
あります。
しかし。
この本もかなり評価が分かれるでしょうね。
「スカイ・クロラ」 森 博嗣 ★★★★
いつものごとくストーリィは書きませんが。
思春期以降、成長することも死ぬこともなく、唯一戦争でのみ死ぬ
「キルドレ」である「僕」の語りでストーリィは展開していきますが、
この本を読んでいると、自然と「老師と少年」が思い出されます。
「スカイ・クロラ」のタイトル通り、空に張り付いて、空にはいつくばって
しか生きていけない「キルドレ」、
『僕たちは、神に祈るか、それとも、殺し合いをするか、そのどちらかを
選択しなければならない。それがルールだった。』
つまりは「神に祈る」=既に確立された価値観を丸ごと受け入れてそれに依存して生きるか、
「殺し合いをする」=生存競争のただ中で他者をけ落として生きていくか、結局のところ
世の中とはその通りで、
そのなかで、直接的に殺すのも間接的に殺すのも同じ、と。確かにその通り。
そこに何の疑問も抱かなければ生きていける。少なくとも毎日は過ぎていく。
日常のちょっとした変化を頼りに。
『僕はまだ子どもで、 ときどき、 右手が人を殺す。その代わり誰かの右手が僕を殺して
くれるだろうー。』
そんな風にしか生きられなかったのに、つまりは与えられた生をただ生きるだけだった
のに、いつしか彼は他人の、そして自分のために歩き出す。それは即ち、「自分の生」を
自ら生きることであり、ただ生きているのではなく、他人も引き受けながら自分の命を
引き受ける生き方。
映画とは大きくラストが違うのだけれど、メッセージは同じ。
そういう意味では映画は良くできてると思います。メッセージを損なわず、より判りやすく
表現していると思う。
そしてこの「スカイ・クロラ」を物語ったのが工学博士だということが、また感慨深いものが
あります。
しかし。
この本もかなり評価が分かれるでしょうね。
「スカイ・クロラ」 森 博嗣 ★★★★
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この本は評価が分かれるかもしれませんね。
SFのようであり、ファンタジーのようでもあり、しかしその
「どちらでもない」のだと思います。
一つの町が消滅してしまう。そこに住む人々が消滅してしまう。
それに関わる人たちがそれぞれの立場で描かれています。
この「町の消滅」という設定自体かなり突拍子がないので、この設定自体を
受け入れ難い人はこの小説をあまり評価しないかもしれません。
しかし「町の消滅」というのはつまり、人生に起こりうる、直面せざるを
得ない「理不尽」なものを現しているのであり、そのときどうするか、
どんな風に生きるのか、
生まれながらに背負わされた重荷や、ある日突然降りかかってくること、それぞれに対し
どう対峙していくのか、ということが物語られているのだと思います。
構成が秀逸です。恐らく主人公の女性を中心に展開すれば、もっと判り易く描けると思い
ますが、これ以上いじるとしつこくなる直前で最高の構成がなされています。
最終章に「(消滅せずに)残る人も町が決める」というフレーズがありますが、これは「運命」
という言葉にそのまんま置き換えられるのではないかと。
それぞれがどう「運命」と対峙していくのか、立ち向かうのか逃げるのか委ねるのか。
見なかったことにするのか。
そして人生に何を見いだすのか。
「バスジャック」も面白かったですが、それ以上。
でも最初にも書きましたが、好みの別れる作家かもしれません。
「失われた町」 三崎 亜記 ★★★★★
SFのようであり、ファンタジーのようでもあり、しかしその
「どちらでもない」のだと思います。
一つの町が消滅してしまう。そこに住む人々が消滅してしまう。
それに関わる人たちがそれぞれの立場で描かれています。
この「町の消滅」という設定自体かなり突拍子がないので、この設定自体を
受け入れ難い人はこの小説をあまり評価しないかもしれません。
しかし「町の消滅」というのはつまり、人生に起こりうる、直面せざるを
得ない「理不尽」なものを現しているのであり、そのときどうするか、
どんな風に生きるのか、
生まれながらに背負わされた重荷や、ある日突然降りかかってくること、それぞれに対し
どう対峙していくのか、ということが物語られているのだと思います。
構成が秀逸です。恐らく主人公の女性を中心に展開すれば、もっと判り易く描けると思い
ますが、これ以上いじるとしつこくなる直前で最高の構成がなされています。
最終章に「(消滅せずに)残る人も町が決める」というフレーズがありますが、これは「運命」
という言葉にそのまんま置き換えられるのではないかと。
それぞれがどう「運命」と対峙していくのか、立ち向かうのか逃げるのか委ねるのか。
見なかったことにするのか。
そして人生に何を見いだすのか。
「バスジャック」も面白かったですが、それ以上。
でも最初にも書きましたが、好みの別れる作家かもしれません。
「失われた町」 三崎 亜記 ★★★★★
ジャンルわけすればホラーなんでしょうが、上手いですね。
かなり上手い。
8編の短編が収められていますが、どれも、判りやすい怖さというより、
人の心に潜む闇とか、闇を見る側が恐怖を投影してしまう、そんな
描かれ方をしています。何というか、人間が根源的に持つ畏れのようなもの。
死というものを畏怖しながら、同時に穢れとしてもみてしまうような
説明のしようがないけれど自然に抱いてしまう感情。
「ここで終わりだろう」と思ったら更に続きがある、という短編がいくつか
あります。何故続きが? と考えてみると恐らくこの著者は単なるホラー小説を
書きたかったのではないのだ、ということに気付きます。
日本古来の文化風習と密接に絡み合いながら物語は進んでいきますが、描かれているとおり
「彼岸」と「此岸」には明確な境目などないのかもしれません。
「澪つくし」 明野 照葉 ★★★★
かなり上手い。
8編の短編が収められていますが、どれも、判りやすい怖さというより、
人の心に潜む闇とか、闇を見る側が恐怖を投影してしまう、そんな
描かれ方をしています。何というか、人間が根源的に持つ畏れのようなもの。
死というものを畏怖しながら、同時に穢れとしてもみてしまうような
説明のしようがないけれど自然に抱いてしまう感情。
「ここで終わりだろう」と思ったら更に続きがある、という短編がいくつか
あります。何故続きが? と考えてみると恐らくこの著者は単なるホラー小説を
書きたかったのではないのだ、ということに気付きます。
日本古来の文化風習と密接に絡み合いながら物語は進んでいきますが、描かれているとおり
「彼岸」と「此岸」には明確な境目などないのかもしれません。
「澪つくし」 明野 照葉 ★★★★
アンソロジーというものは、普段なら手に取らないような作家や作品との
出会いとしてのみ期待しており、「アンソロジーそのもの」としての
出来とか、完成度みたいなものは従来あまり意識してきませんでしたが、
この本は、収録されている各作品が一級品であることはもちろん、
アンソロジーとしての完成度がとても高いと思います。
既読の作品が数点ありましたがそんなことはまったく関係なく、
選ばれた作品の組み合わせやその並びによってか、既読の作品であるにも
関わらず、新しい読み方が出来たように思います。
そうそうたる作品が並べられていますが、私にとって印象的だったのは
太宰治の「水仙」と、谷崎潤一郎の「鍵」。
太宰は久しぶりに読みましたが、よくもまあここまで自分をさらけ出せるな、
と(蜆のお味噌汁の場面とか)。そして自分をさらけ出したふりをして、
影でニヤッと笑っていそうな、そんな作家としての凄み、みたいなものを感じます。
そして谷崎。美しい文章で綴られるエキセントリックな内容にはじめは目を奪われますが、
段々と彼のひんやりとした目線を意識せずにはいられません。
そして。タイトルも秀逸です。
「我等、同じ船に乗り 心に残る物語―日本文学秀作選」 桐野 夏生(編) ★★★★
出会いとしてのみ期待しており、「アンソロジーそのもの」としての
出来とか、完成度みたいなものは従来あまり意識してきませんでしたが、
この本は、収録されている各作品が一級品であることはもちろん、
アンソロジーとしての完成度がとても高いと思います。
既読の作品が数点ありましたがそんなことはまったく関係なく、
選ばれた作品の組み合わせやその並びによってか、既読の作品であるにも
関わらず、新しい読み方が出来たように思います。
そうそうたる作品が並べられていますが、私にとって印象的だったのは
太宰治の「水仙」と、谷崎潤一郎の「鍵」。
太宰は久しぶりに読みましたが、よくもまあここまで自分をさらけ出せるな、
と(蜆のお味噌汁の場面とか)。そして自分をさらけ出したふりをして、
影でニヤッと笑っていそうな、そんな作家としての凄み、みたいなものを感じます。
そして谷崎。美しい文章で綴られるエキセントリックな内容にはじめは目を奪われますが、
段々と彼のひんやりとした目線を意識せずにはいられません。
そして。タイトルも秀逸です。
「我等、同じ船に乗り 心に残る物語―日本文学秀作選」 桐野 夏生(編) ★★★★
結論。池永陽は、時代物を著すべきである。
と思う。まあ、この著者の時代物はまだこの作品しか読んでいないので、
断定するにはまだちょっと早いけど。
なんだかんだと池永作品は結構読んでいるのですが、そして間違いなく
好きな作家のひとりではあるのですが、いつも何かがちょっと足りない
というかあと一歩というかあと一声というか、そんな読後感であることが
否めなかったのですが、
この作品、つまり時代物(での表現)というのが、この著者の文体が持つ
ウエットな空気感とか、甘さとぎりぎり紙一重の優しさ、みたいなものが
とても良く合っているように思います。
仇討ちのために江戸へ出てきた武士が、自分の首に懸賞金をかけられたり周りの貧しい人々を
救ったりという所謂「人情もの」ですが、彼が最後に出した結論が、非常に現代的だと思う。
当時の武士は、こんな結論は出したくても出せなかったんじゃないかとも思う。
でもそこもひっくるめて、この著者の持つ、「甘ったるいと言われかねない優しさ」や
「折れてしまいそうな強さ」が、「時代物」「人情もの」ととても相性が良いように
思ったのでありました。
「雲を斬る」 池永 陽 ★★★★
と思う。まあ、この著者の時代物はまだこの作品しか読んでいないので、
断定するにはまだちょっと早いけど。
なんだかんだと池永作品は結構読んでいるのですが、そして間違いなく
好きな作家のひとりではあるのですが、いつも何かがちょっと足りない
というかあと一歩というかあと一声というか、そんな読後感であることが
否めなかったのですが、
この作品、つまり時代物(での表現)というのが、この著者の文体が持つ
ウエットな空気感とか、甘さとぎりぎり紙一重の優しさ、みたいなものが
とても良く合っているように思います。
仇討ちのために江戸へ出てきた武士が、自分の首に懸賞金をかけられたり周りの貧しい人々を
救ったりという所謂「人情もの」ですが、彼が最後に出した結論が、非常に現代的だと思う。
当時の武士は、こんな結論は出したくても出せなかったんじゃないかとも思う。
でもそこもひっくるめて、この著者の持つ、「甘ったるいと言われかねない優しさ」や
「折れてしまいそうな強さ」が、「時代物」「人情もの」ととても相性が良いように
思ったのでありました。
「雲を斬る」 池永 陽 ★★★★
小学6年生の女の子が、父親の実家、それも幽霊がでそうな古い大きな
お屋敷で、結果的に一族の過去を明らかにしていくミステリーです。
彼女はこの家が恐ろしくて仕方ないんですが、その感覚、確かに自分にも
あったなぁと思い出します。幼い頃、夏休みによく遊びに行った父親の
実家は、トイレに行くのも本当に怖かった。
ふんわりしていてあったかくて悪くないんですが、ちょっと大げさかなぁ。
とくにラスト近づくにつれ、説明が多すぎる感じがどうしてもしてしまう。
あと何だろう。何というか、読み物としては読みやすいしほのぼのしてるん
だけど何か物足りないような気がするのは何だろう。
やっぱあれかな、「片耳うさぎはもともと家の内にいる」というあたり。
そのあたりをもう一歩…と思っちゃうのかな。悪くないんですけどね。
「片耳うさぎ」 大崎 梢 ★★★
お屋敷で、結果的に一族の過去を明らかにしていくミステリーです。
彼女はこの家が恐ろしくて仕方ないんですが、その感覚、確かに自分にも
あったなぁと思い出します。幼い頃、夏休みによく遊びに行った父親の
実家は、トイレに行くのも本当に怖かった。
ふんわりしていてあったかくて悪くないんですが、ちょっと大げさかなぁ。
とくにラスト近づくにつれ、説明が多すぎる感じがどうしてもしてしまう。
あと何だろう。何というか、読み物としては読みやすいしほのぼのしてるん
だけど何か物足りないような気がするのは何だろう。
やっぱあれかな、「片耳うさぎはもともと家の内にいる」というあたり。
そのあたりをもう一歩…と思っちゃうのかな。悪くないんですけどね。
「片耳うさぎ」 大崎 梢 ★★★
なるほど。なるほどー。
一人の女性が殺された。
殺された女、女が殺されるきっかけを作った男、殺した男、
殺した男の周辺の人たち、そして殺した男を愛した女。
さて、誰が一番の悪人なんでしょう。
一般的な、ごくふつうの生活を営むいわゆる「善人」の中に潜む
悪意、歪んだ思い。それと、衝動的な殺意(による殺人)と、
どちらが悪人なのか、判断できる人はいるのだろうか。
悪人に徹することによって相手を解放し、それによって相手を守ることを選んだ男は
悪人なのか。
彼女が、相手はおろか自分(の想い)すら信じ切ることができなかったことは、彼女にとって
幸せだったのか。盲信するのではなく正しく信じることは、特に自分を信じることはやはり
難しいのか。むしろ今の世の中、そのほうが生きやすいのか。
なかなか良い作品だと思いますが、特にプロットが良いと思うのですが、強いてあげると
ちょっと冗長かなぁ。もうすこし上手く(短く)スピーディに纏めてもらっても
良いように思います。
「悪人(上)」「悪人(下)」 吉田 修一 ★★★
一人の女性が殺された。
殺された女、女が殺されるきっかけを作った男、殺した男、
殺した男の周辺の人たち、そして殺した男を愛した女。
さて、誰が一番の悪人なんでしょう。
一般的な、ごくふつうの生活を営むいわゆる「善人」の中に潜む
悪意、歪んだ思い。それと、衝動的な殺意(による殺人)と、
どちらが悪人なのか、判断できる人はいるのだろうか。
悪人に徹することによって相手を解放し、それによって相手を守ることを選んだ男は
悪人なのか。
彼女が、相手はおろか自分(の想い)すら信じ切ることができなかったことは、彼女にとって
幸せだったのか。盲信するのではなく正しく信じることは、特に自分を信じることはやはり
難しいのか。むしろ今の世の中、そのほうが生きやすいのか。
なかなか良い作品だと思いますが、特にプロットが良いと思うのですが、強いてあげると
ちょっと冗長かなぁ。もうすこし上手く(短く)スピーディに纏めてもらっても
良いように思います。
「悪人(上)」「悪人(下)」 吉田 修一 ★★★
「君たちに明日はない」の続編です。
相変わらず歯切れ良くテンポ良く、かといって足りないわけではない。
エンタテインメント小説として必要な要素を過不足無く満たしている
と思います。
前作から経験も積み、中堅どころとなった主人公。相変わらずリストラ屋
をやっていますが、リストラ候補に挙がってしまった登場人物たちが
よく居そうな人たちばかりというのが良いと思います。
そして相変わらず、ディティールや女性の表現が上手いです。
この観察眼は凄いと思う。そして必ず、じんわりさせてくれます。
伏線貼られてますね。続刊が楽しみです。
「借金取りの王子ー君たちに明日はない2ー」 垣根 涼介 ★★★★
相変わらず歯切れ良くテンポ良く、かといって足りないわけではない。
エンタテインメント小説として必要な要素を過不足無く満たしている
と思います。
前作から経験も積み、中堅どころとなった主人公。相変わらずリストラ屋
をやっていますが、リストラ候補に挙がってしまった登場人物たちが
よく居そうな人たちばかりというのが良いと思います。
そして相変わらず、ディティールや女性の表現が上手いです。
この観察眼は凄いと思う。そして必ず、じんわりさせてくれます。
伏線貼られてますね。続刊が楽しみです。
「借金取りの王子ー君たちに明日はない2ー」 垣根 涼介 ★★★★
面白い。
短編種ですがどれも戯曲風に書かれていて、文章でもとても面白いのだけれど
これ、イッセー尾形が演じてくれたりしたら最高に面白いと思う。
「はたらく青年」に描かれていた著者のバイト経験がベースになっていると
思われますが、
誰も彼も明るいんだけどちょっとクセがあって、でもよくよく耳を傾けて
いると、ビルの夜間清掃のアルバイトを束ねるおじさんには移民先の
ブラジルで辛酸を舐めた過去があり、
老歯科医のおばあさんは、自分自身の被爆とそれによってたくさんの
友人知人を無くした過去が、
そして、あっけらかんと明るく笑い飛ばしながらも、それぞれがそれぞれの過去をバネに
苦労を重ねて生きてきた軌跡が、じんわりと胸に染み、力が沸いてくるようにも思うのです。
とくに、3つめのアメリカ人和尚と著者(と思われる)とのやりとりが、豪快でそして深いです。
短い独り芝居の戯曲のなかに、沢山のものが詰まっている短編集です。
「私、という名の人生」 原田 宗典 ★★★★★
短編種ですがどれも戯曲風に書かれていて、文章でもとても面白いのだけれど
これ、イッセー尾形が演じてくれたりしたら最高に面白いと思う。
「はたらく青年」に描かれていた著者のバイト経験がベースになっていると
思われますが、
誰も彼も明るいんだけどちょっとクセがあって、でもよくよく耳を傾けて
いると、ビルの夜間清掃のアルバイトを束ねるおじさんには移民先の
ブラジルで辛酸を舐めた過去があり、
老歯科医のおばあさんは、自分自身の被爆とそれによってたくさんの
友人知人を無くした過去が、
そして、あっけらかんと明るく笑い飛ばしながらも、それぞれがそれぞれの過去をバネに
苦労を重ねて生きてきた軌跡が、じんわりと胸に染み、力が沸いてくるようにも思うのです。
とくに、3つめのアメリカ人和尚と著者(と思われる)とのやりとりが、豪快でそして深いです。
短い独り芝居の戯曲のなかに、沢山のものが詰まっている短編集です。
「私、という名の人生」 原田 宗典 ★★★★★
「八朔の雪―みをつくし料理帖」の続編です。続編というか、
シリーズものになるのかしら?
前作より「説明臭さ」みたいなものがかなり軽減されてきているように
思います。
相変わらずいい人達ばっかりで、傷つきながら強くなっていく過程が
さわやかに描かれていて、読み物として上質です。
そして伏線の貼り方がうまいなぁ、と思う。
あまりべたべたの人情ものは好きではないのですが、この作品はきりり
とした筋が通っていて、
たとえば、貧しさを背負って必死に働く幼い奉公人に対して新しい着物をあてがって
やりたいと思いながらもそれを実行には移さない。たった着物一枚で簡単に自己満足も
得られれば、恩も売れる。
なによりその幼い貧しい姿を眼にして自分の心が痛む毎日からも解放されるのに。
そういった揺るぎない部分が丁寧に描き込まれているところがいいです。
前作では仄めかされていた「恋」が今回はっきり「恋心」として認識されていますが、
この、A は B が好きなんだが B は C が好きで、でも C が好きなのは D…
これをどうするつもりなのか楽しみです。
一方で、この著者の「出世花」を読んだときにも思ったのですが、完璧にいい人が揃っている、
という設定ではなくて、たとえばどーしようもないひとだとか、勧善懲悪的ではないもの、
そんなものも読んでみたくなります。
「花散らしの雨 みをつくし料理帖」 高田 郁 ★★★★
シリーズものになるのかしら?
前作より「説明臭さ」みたいなものがかなり軽減されてきているように
思います。
相変わらずいい人達ばっかりで、傷つきながら強くなっていく過程が
さわやかに描かれていて、読み物として上質です。
そして伏線の貼り方がうまいなぁ、と思う。
あまりべたべたの人情ものは好きではないのですが、この作品はきりり
とした筋が通っていて、
たとえば、貧しさを背負って必死に働く幼い奉公人に対して新しい着物をあてがって
やりたいと思いながらもそれを実行には移さない。たった着物一枚で簡単に自己満足も
得られれば、恩も売れる。
なによりその幼い貧しい姿を眼にして自分の心が痛む毎日からも解放されるのに。
そういった揺るぎない部分が丁寧に描き込まれているところがいいです。
前作では仄めかされていた「恋」が今回はっきり「恋心」として認識されていますが、
この、A は B が好きなんだが B は C が好きで、でも C が好きなのは D…
これをどうするつもりなのか楽しみです。
一方で、この著者の「出世花」を読んだときにも思ったのですが、完璧にいい人が揃っている、
という設定ではなくて、たとえばどーしようもないひとだとか、勧善懲悪的ではないもの、
そんなものも読んでみたくなります。
「花散らしの雨 みをつくし料理帖」 高田 郁 ★★★★
すごい作家が出てきた。
読後、複雑なんて言葉では表しきれないようなさまざまな感情の坩堝に
放り込まれます。なんとも整理がつかない。
主人公の女性ははっきり言えば「嫌な女」で、結婚はしていないものの
相手の男性に経済的に頼り切って生きていながら、相手にひどい言葉
を浴びせ続け、どうやらそうすることによってなんとか精神的なバランスを
保っているらしい。
その男性に同情はするものの、描写されるその男性には生理的嫌悪感を
ぬぐいきれず、またどんな仕打ちを受けようと甘やかし続けるその態度に
更なる嫌悪感が増幅されていきます。
そんな、解説で言うところの「愛せない男と共感できない女」、そういう(必ずしも読みやす
くはない)設定でありながら、しっかり読ませる筆力。
醜悪な部分ですらも乾いた目線で淡々とリアルに綴られていく世界の果ては、優しさという
ものはこんなにも哀しいものなのか、と。
もしかしたら哀しみを伴わない優しさは、本当の優しさではないのかもしれない。
「彼女がその名を知らない鳥たち」 沼田 まほかる ★★★★★
読後、複雑なんて言葉では表しきれないようなさまざまな感情の坩堝に
放り込まれます。なんとも整理がつかない。
主人公の女性ははっきり言えば「嫌な女」で、結婚はしていないものの
相手の男性に経済的に頼り切って生きていながら、相手にひどい言葉
を浴びせ続け、どうやらそうすることによってなんとか精神的なバランスを
保っているらしい。
その男性に同情はするものの、描写されるその男性には生理的嫌悪感を
ぬぐいきれず、またどんな仕打ちを受けようと甘やかし続けるその態度に
更なる嫌悪感が増幅されていきます。
そんな、解説で言うところの「愛せない男と共感できない女」、そういう(必ずしも読みやす
くはない)設定でありながら、しっかり読ませる筆力。
醜悪な部分ですらも乾いた目線で淡々とリアルに綴られていく世界の果ては、優しさという
ものはこんなにも哀しいものなのか、と。
もしかしたら哀しみを伴わない優しさは、本当の優しさではないのかもしれない。
「彼女がその名を知らない鳥たち」 沼田 まほかる ★★★★★
実話がベースのようですね。
ドキュメンタリーかノンフィクションみたいな感じかなぁと思って
いましたが、「私小説」というのがぴったりなように思います。
絶望的な病を背負い、その最後の数ヶ月間の交流を描いていますが、
このような不思議な縁みたいなものがあるのだなぁ、と思います。
これが小説だったら「ちょっとこれは都合が良すぎるのでは」と思って
しまうような。
タイトルにもなっている「優しさ」の本当の意味を考えさせられます。
4編の短編は「死」から「誕生」へと繋がっていきますが、
「死」を看取り「誕生」を迎え、やがて自分も死んでいく。
人生というのはつまるところ、それだけなのかもしれません。
だからこそその合間に挟まっている「出会い」とか、何を見て何を聴き、何を成すのかという
ことに、意味があるのかもしれません。
「優しい子よ」 大崎 善生 ★★★★
ドキュメンタリーかノンフィクションみたいな感じかなぁと思って
いましたが、「私小説」というのがぴったりなように思います。
絶望的な病を背負い、その最後の数ヶ月間の交流を描いていますが、
このような不思議な縁みたいなものがあるのだなぁ、と思います。
これが小説だったら「ちょっとこれは都合が良すぎるのでは」と思って
しまうような。
タイトルにもなっている「優しさ」の本当の意味を考えさせられます。
4編の短編は「死」から「誕生」へと繋がっていきますが、
「死」を看取り「誕生」を迎え、やがて自分も死んでいく。
人生というのはつまるところ、それだけなのかもしれません。
だからこそその合間に挟まっている「出会い」とか、何を見て何を聴き、何を成すのかという
ことに、意味があるのかもしれません。
「優しい子よ」 大崎 善生 ★★★★
今更感がなくもないですが読んでみました。
ジブリのアニメより大人しめの展開ですが、そのぶんじんわりと心に染みる
感じですね。
魔法使いといいながらも、空を飛ぶことくらいしか魔法が使えないところが
かえって親近感の沸く設定となっているように思います。
そこには、ちょっとしたことで落ち込んだり、イライラしたり、そしてまた
ちょっとした優しさに触れて元気になったり、ふつうの女の子の成長が
描かれています。
子供のウチに読みたかったなぁ。
「魔女の宅急便」 角野 栄子 ★★★
ジブリのアニメより大人しめの展開ですが、そのぶんじんわりと心に染みる
感じですね。
魔法使いといいながらも、空を飛ぶことくらいしか魔法が使えないところが
かえって親近感の沸く設定となっているように思います。
そこには、ちょっとしたことで落ち込んだり、イライラしたり、そしてまた
ちょっとした優しさに触れて元気になったり、ふつうの女の子の成長が
描かれています。
子供のウチに読みたかったなぁ。
「魔女の宅急便」 角野 栄子 ★★★
死を目前にした患者の願いをひとつだけかなえてくれるー。
そんな設定の連作短編集です。
しかし短編が進むにつれ、その噂の本当の意味はー。
というミステリ風の要素も加わっています。
死を目の前にしたからといって、人は聖人になれるわけではなく、恨み
とか復讐とか強い負の感情に飲み込まれることだってあるでしょう。
むしろ、「死の恐怖」と対峙するためには、強い負の感情を必要とする
ことだってあるのかもしれません。
死を目の前にしたからといって、いきなり世の中すべてが清い物に見える
わけでも、今までの自分の人生の全てを肯定できるワケでもないでしょう。
そういったことを正面から描いており、単純に死を巡る場面を美化していないところが
とても評価できます。
ただ、このラストはどうなんだろう…。ラストでいきなり青春小説になっちゃったような。
「死を美化しないが故の後味の苦さ」で突っ走って欲しかったように思います。
「MOMENT」 本多 孝好 ★★★
そんな設定の連作短編集です。
しかし短編が進むにつれ、その噂の本当の意味はー。
というミステリ風の要素も加わっています。
死を目の前にしたからといって、人は聖人になれるわけではなく、恨み
とか復讐とか強い負の感情に飲み込まれることだってあるでしょう。
むしろ、「死の恐怖」と対峙するためには、強い負の感情を必要とする
ことだってあるのかもしれません。
死を目の前にしたからといって、いきなり世の中すべてが清い物に見える
わけでも、今までの自分の人生の全てを肯定できるワケでもないでしょう。
そういったことを正面から描いており、単純に死を巡る場面を美化していないところが
とても評価できます。
ただ、このラストはどうなんだろう…。ラストでいきなり青春小説になっちゃったような。
「死を美化しないが故の後味の苦さ」で突っ走って欲しかったように思います。
「MOMENT」 本多 孝好 ★★★
ここまで容赦のない青春小説も珍しい。
パラレルワールドものですが、主人公が紛れ込んだ世界には、彼の元々の
世界には存在していなかった「姉」がいて、それがまるで彼とコインの表裏
のような性格。
その世界で彼は、若さ故の自意識、根拠無きプライド、傲慢さなんかを、
完膚無きまでに叩きのめされます。
しかし。コインの表裏ということは、一体だということ。
そして、生きるってことは確かに、
「失望のままに終わらせるか、絶望しながら続けるか」
かもしれないけれどそれでも。
まだまだ取り返しはつくとおもうよ。
自分の存在価値に疑問をもったことのないひとなんて、いないんじゃないかな。
「ボトルネック」 米澤 穂信 ★★★★★
パラレルワールドものですが、主人公が紛れ込んだ世界には、彼の元々の
世界には存在していなかった「姉」がいて、それがまるで彼とコインの表裏
のような性格。
その世界で彼は、若さ故の自意識、根拠無きプライド、傲慢さなんかを、
完膚無きまでに叩きのめされます。
しかし。コインの表裏ということは、一体だということ。
そして、生きるってことは確かに、
「失望のままに終わらせるか、絶望しながら続けるか」
かもしれないけれどそれでも。
まだまだ取り返しはつくとおもうよ。
自分の存在価値に疑問をもったことのないひとなんて、いないんじゃないかな。
「ボトルネック」 米澤 穂信 ★★★★★
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