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本はごはん。
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116654.jpg  禅僧による小説です。

 23歳で自殺してしまった女性の周りの人たちの視点を通して女性が描かれて
 いきます。それを通して、彼女もいろいろあったんだなぁと思うのですが、
 しかし死ぬほどのことだったんだろうか、とも同時に思うのです。

 つまり何人かの(もしくは何人もの)見方を重ねてみたところで、
 「自殺の理由」なんて判らないわけです。誰にも。もしかしたら本人にも。
 
 副題についている「神の庭」というのは、そういうことを指しているの
 かなぁ、と思います。人間には見ることも聴くことも識ることもできない
 神の領域、みたいなもの。

 「シンクロニシティ」についても描かれていますが、これも「神の庭の遊戯」なのかも。

 宗教的哲学的な見地と、それに物理学(?)的な考え方と、沖縄の宗教観(死生観)まで
 織り重なっていてちょっと整理するのに手間取りますが、結局本質は一緒なんだろうなと。

 ただ、「慈悲」というのは難しいな、と。「赦し」もまたしかり。
 「甘え」とか「逃避」とか「思い上がり」とか「傲慢さ」みたいなものが簡単にすり替わって
 しまう危険を、どうしても感じる。


リーラ―神の庭の遊戯」 玄侑 宗久 ★★★★
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9784167739010.jpg  短編集です。
 不条理ものというか、現代のおとぎ話のような。
 
 淡々とした文章ながら、言葉の使い方が確信的ですね。
 同じ場面を想起させるいくつかの言葉のなかから、「これ」というものを
 確信的に選別している感じがします。

 ただ、なんというか不条理ストーリィが強すぎて、肝心の主題が見えにくい
 ような気もするんですが。 

 悪くないと思うのですが…。
 好みの問題かな。


ぬかるんでから」 佐藤 哲也 ★★★
111751.jpg  知らずに手に取りましたが、遺稿集でした。

 この著者の歴史物を読むといつも、過去の美しい日本の風景が目の前に
 ありありと浮かぶのは(それは荒ぶる海だったり、強風に耐える松の緑
 だったり一面金色に輝く稲穂の波であったり様々ですが)、

 ここ(肺結核で養生した湯治場)に著者の原風景があるのかもしれない
 と思いました。
 殊に「死」と隣り合わせで見る自然は、普段我々が見過ごしている
 たくさんのことを心に焼き付けるのかもしれません。

 著者が人生の中で経験した様々な「死」を通して培った死生観、
 つまりは哲学が凜とした言葉で綴られています。

 それにしても著者の死に様はもう見事と言うしかなく。
 悲壮感も絶望感もなく、正しく見事というのはこういうことなんだろうと思います。
 そばで見守るしかない親族は辛いと思いますが…。

 美しい日本語を奏でる作家の新作がもう読めないのが、非常に残念です。


死顔」 吉村 昭 ★★★★
32247507.jpg  うーん。

 池永作品を読む度に思うんですが、この著者、何かを持ってる。
 それは確かだと思う。
 そう思うんだけど、それがいつも作品に表現されきってない。
 そんな、なんとも歯がゆいような気がするのです。

 これは沖縄を舞台にした恋愛小説ですが、正直なところ沖縄の持つ哀しみ、
 あの底抜けに明るい太陽の影が実はどれほど暗いものなのか、いまひとつ
 表現し切れていないような、ここにあるのはちょっと表層的なような。

 内地(ヤマト)の身勝手さは、主人公の女性の身勝手さに表現しているの
 かなぁとも思うのだけれど。
 
 結局著者は、「沖縄を舞台にした恋愛」を描きたかったのか「恋愛を通して沖縄」を描き
 たかったのか。どっちにしてもちょっと中途半端なような…。

 「沖縄」のようなそれ自身が強力なネタの場合、相当な覚悟と想いとテクニックが要ると
 思うのです。どれかが致命的に欠けている、とは思いませんが、いずれにしてももう一声。
 是非。


でいごの花の下に」 池永 陽 ★★★
4758434034.jpg  面白いです。
 連作時代小説でしかも、全編通して料理が絡んできます。

 事情を抱えて上方から江戸へやってきた料理人(女性)の話ですが、
 これだけ情報網と高速移動手段が発達した現代でも「ケンミンショー」
 なんかを見るとびっくりする食べ物や習慣に出会うワケですから、
 当時の人たちが受けるカルチャーショックは今の比ではないでしょう。

 そういった当時の目から見た比較文化論的目線と、当時の人情とか風俗など、
 そしてキャラクター配置が秀逸でそれぞれのキャラがしっかり立っており、
 更に「料理」というテーマが物語に奥行き感、立体感を作り出しています。

 なんかTV局が飛びつきそうな、ドラマ化には格好の作品という感じ。
 
 続くのかな。続くといいな。



八朔の雪―みをつくし料理帖」 高田 郁 ★★★★
116901.jpg  ううむ。びっくりした。これはすごい。

 第二次世界大戦中、徴兵忌避して逃亡生活を続けてきた主人公の、現在と
 過去(逃亡時代)が交互に描かれていきます。

 なりより構成が巧みで、現在のことが描かれていたのに、いつの間にか過去の
 描写へ移っていたりするのですが、それでストレスを感じることもない。

 『徴兵忌避』なんて言葉でしか知りませんでしたが、逃亡生活がディテール
 豊かに描かれており、特高警察に対する恐れや、そして戦傷者や招集に応じた
 者たちへの『引け目』『後ろめたさ』などの精神面も緻密に描かれる一方、

 いやいやながらも徴兵に応じ、理不尽な軍隊内での仕打ちや、最前線の南洋の
 島で食べるものもなく、先ほどまで一緒に笑っていた同胞が次の瞬間死んで
 いたり、部隊全滅の中、からくも生き延びた文字通り「死線をかいくぐってきた」
 経験を持つ者の独白との対比が鮮やかです。

 それにしても。
 緊張の連続であった逃亡生活も敗戦によって終わりを告げ、今や結婚し仕事も持ち、
 いち庶民として安定した生活を営んでいた主人公ですが、結局のところ戦前はもちろん、
 戦後にも彼の安息の場所はない。

 ラストはやはり、主人公のこれからを暗示しているのでしょう。

 タイトルも秀逸だと思います。


笹まくら」 丸谷 才一 ★★★★
40964.jpg  「ねこもの」だというだけで飛びつくのはもうやめようと心に強く誓い、
 店頭で見つけておそるおそるぱらぱらめくってから購入しました。

 結論からすると、なかなか良かったです。

 詩人とその妻が、じわじわと猫の魔力にとりつかれていく経緯が、
 美しい日本語で綴られています。
 
 同時に、猫だけでなく、うつろいゆく季節、失われていく時代を
 哀しくも暖かい眼差しで見つめています。

 とても言葉に対する感度が高い、というより強い印象を受けるのは、やはり
 著者が詩人だからなのでしょうか。


猫の客」 平出 隆 ★★★
32247420.jpg  「カタブツ」以来(読むのは)2作目です。

 「カタブツ」でも思いましたが、面白い作家です。この「あやまち」も
 はっきり言って地味めなんですが、リフレインしていく構成が「日常」を
 上手く表現していたり、

 なんといってもこの29歳独身OLの心理描写が秀逸で、かなりリアルです。
 何気なく取っている日常の行為、行動をうまく心理解説つきで描写しており、
 「現代」がよく表現されていると思うのです。

 タイトル通り、主人公が恋した相手がかつて犯した「あやまち」、そして
 主人公が犯した「あやまち」、社会的、法的に「罪」に重軽はありますが、
 あやまちには重いも軽いもないのかもしれません。

 主人公が犯した「あやまち」は、恋愛関係にある相手に対して、という限りではなく、
 「ひととして」自分ならどう対峙するだろうか、ということを考えさせられます。

 そういう意味でもこの29歳OLは現代の一般的な人間の姿かもしれません。
 しかし同時に、彼女は自分の「あやまち」を正しく認識してはいますが、彼女の愛は果たして
 本当だったのだろうか、とも思うのです。


あやまち」 沢村 凛 ★★★
276378-2.gif  「おくりびと」の脚本を書いた小山薫堂氏の短編小説です。

 どの作品も小山氏の性格が良く出ているというか、暖かくて、でも
 現実的な展開です。
 ちょっとしたことで元気を貰って、だけどシンデレラのように生活が
 一転するのではなくて、元の自分の生活に戻っていくというような、

 いわゆる「夢物語」ではなく「現実」のなかに潜むほのかな優しさ、
 みたいなものが全編を通して描かれています。

 例えば自分を捨てた父親が死んだ後、ひょんなことから自分も父親にしっかり
 愛されていたということを思い出し、父親を赦し受け入れる話がありますが、
 これも、

 父親はものすごくドラマティックな人生でやむに止まれず自分を捨てたのではなく、ありがちな
 どーしようもないことで自分と母親を捨てています。

 実際のところ、そんなもんでしょう。そうそうドラマティックな展開なんてなくて、「日常」の
 なかで泣いたり笑ったり、やるせなくなったりしながらそのなかで、赦せなかったりどうしても
 消化できないことが澱のように溜まって行くものだと思うのです。

 その「澱」が、人との出会いやそれこそ「何かの弾み」で「氷解」していくような、
 「人生もそう捨てたもんでもないよ」みたいな、そんなメッセージ集のように思います。

 ただ、個人的にはセレンディピティネタがちょっと勿体なかったような気がして。
 是非もう一声。


フィルム」 小山 薫堂 ★★★
133252.jpg  この本を読むにあたって、夏目漱石の「夢十夜」を読み返して
 みましたが、いやあやっぱり面白いなぁ。
 美しい日本語で語られる夢幻の世界に、ある種の本能的な恐怖感みたいな
 ものを、さーっとひと撫でされる心地がします。

 しかし結論から言うと、漱石の「夢十夜」を先に読み返したのは失敗で
 あった…。

 で、この本ですが、10人の作家がそれぞれ「こんな夢を見た」で始まる
 短編を寄せています。まあ、野中柊と道尾秀介両氏の作品は悪くないか
 なぁ。野中氏の作品は、視点や視座や目的がころころと転移していく
 夢の特性を良く生かしていると思います。

 しかし漱石が、短い文量かつシンプルな設定でありながらその情景が奥行き感をもって立ち
 上がってくる世界を展開しているのに対し、こちらは上記の2作品を含め、(最近の全般的な
 傾向でもあるのかもしれませんが)全体的にいじりすぎかと。
 そして文量のわりに、残るものが薄いというか…。
 
 比べてはいけないとは思うモノの、こんなタイトルだと比べるなという方が無理では…。
 作家には酷な企画ではないかと思いました。

 (漱石の「夢十夜」は、ココで読めます。)


眠れなくなる夢十夜」 「小説新潮」編集部 (編さん) ★★★
08747792.jpg  相川らず面白いです。

 「ワセダ三畳青春記」の時も思いましたが、この著者が不思議な
 吸引力をもってキャラの立ったひとたちを吸い寄せているとしか思えない。
 しかしまあ私も外国へ行けば、「ヘンな日本人」もしくは「日本人はヘン」
 と思われてるかもしれない。

 今回は日本に居る外国人とともに、彼らと居ることによって見慣れた東京
 ではなく、外国人から観た「トーキョー」を描き出しています。

 最後の話がいいです。  
 すごくいいです。


異国トーキョー漂流記」 高野 秀行 ★★★★
32232056.JPG  温泉繋がり連作です。
 どれも違う温泉ですが、全部実在の温泉みたいですね。

 日本人にとっての温泉というのは、なんかこう特別のものですね。
 年代にあんまり関係なく、若くて史跡なんかにはあまり興味がなくても
 「温泉」というものに対してはちょっと特別感を抱くというか。

 この短編集では、いろんな事情を抱えた夫婦やカップルやその片われが
 温泉を訪れますが、旅というのは例えそれが1泊であってもちょっとした
 「非日常」だと思うんだけれど、

 この短編集を読んでいると、温泉は「非日常」というより、日常が「Side-A」
 だとすると、温泉は「Side-B」のような、そんな表裏一体感を感じます。

 この短編集の最初の作品と2番目の作品に顕著に表れている対立する軸の対比みたいなものが、
 より強くそう感じさせるのかもしれません。

 悪くないです。


初恋温泉」 吉田 修一 ★★★
32232020.JPG  ジャンルとしては法廷ミステリになるのだと思いますが、
 昭和の初め、日本に陪審員制度が導入されていた際の裁判の様子が
 良くわかります。

 無罪を証言するはずであった証人が法廷内で射殺されるというミステリでは
 ありますが、はっきり言ってその謎解きは(私にとっては)どうでもよく、

 それよりも、

 陪審員制といっても、とりあえず欧米からその制度を取り入れただけで、
 検察は判事と同様に壇上にいる(弁護士より偉い)とか、事前に判事から
 密室で調書を取られる、それも恫喝されたもしながらだとか、

 現在では撤廃されている(お隣韓国ではまだ生きているようですが)姦通罪などが、当時の
 世情と併せて展開されておりとても興味深いです。

 この当時、裁判員に選出されることは(抽選とはいえ)名誉なことであったなど、現在との
 違いもくっきりと浮かび上がっています。

 なかなか面白かったです。


陪審15号法廷」 和久 峻三 ★★★
1qa.JPG  文句なし。
 ここ1〜2年で出会った小説のなかで間違いなく最高クラス。
 足りないものはひとつもなく、過剰なものもまったくない。

 この作品で、著者は明らかに大きく変わったように思う。

 今までは「脳髄の裏側に咲く白い薔薇」を愛しながら、
 同時に強い不安と深い孤独を抱えていたように思うけれど、
 この作品でそこから大きな一歩を踏み出しているように思う。

 何というか、著者の考える「愛」というものが広く深く、そして強くなったような。

 親の子に対する愛、子供の親に対する、師が後進に対する、かつて愛した人に対する、そして
 現在の思い人に対する、などなど、様々な愛がここにある。
 そしてその愛も、盲目的かつ一方的なものから広く深い愛まで。

 モーツァルトのソナタが、レクイエムが、シンフォニーが、絶え間なく行間から流れてくる。

 個人的にはショパンのほうが好きですけど。


ケッヘル 上」「ケッヘル 下」 中山 可穂 ★★★★★
40957.jpg  タイトルの「佐川君」とは、1981年に留学先のパリで、同じく留学して
 いた女性を殺して食べちゃったという、まあすごいことをした人です。
 (Wiki

 で、このタイトルからすると、佐川君から手紙を貰って、やりとりをする
 うちに、かすかに真実の姿が見えてきて…みたいなドキュメントかなぁと
 思ったりするのですが、思いっきり小説です。

 著者がやっぱり舞台の人だけあるのか、小説と言うより戯曲的な印象です。
 佐川君の事件が引き金になって、著者が抱える原風景や原体験みたいな
 ものに収斂していき、やがてどっぷり虚構の世界になっていきますが、
 その描写はとてもシュールな印象です。

 ただ、何と言えばいいのか、「K・オハラ」という女性をはじめ、佐川君がその犯行に至る
 のに(無意識のうちに、もしくは結果として)手を貸してしまった人たちが(虚構の世界で)
 登場するのは、やはりその犯行に至った「意味」とか「理由」というものを、著者も無意識の
 うちに探しているのでしょうか。

 ただ同時にこの事件は、著者のごく個人的なこと(=彼の祖母)に収斂していき、そういう
 意味では「佐川君」そのものも「この事件」も、著者に取っては「刺激物」でしかなかった
 ような、そんな印象です。

 芥川賞か。うーん…。


完全版 佐川君からの手紙」 唐十郎 ★★
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Writer 【もなか】  Powered by NinjaBlog