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本はごはん。
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image_prof.jpeg  前半はまったく救いがないですね。

 家庭内の不和、業績の悪化、借金、使い込み、クビ…。
 まあこれでもかこれでもかと陰鬱になるくらいですが、結局は
 夫婦関係から逃げ家庭から逃げ、仕事からも親の死からも逃げまくり、
 酒と女に逃げ込んでいただけのことなんですが。
 
 後半の展開は実は早い段階から読めてしまうんですが、前半に陰鬱な描写を
 淡々とかつリアルに積み重ねた結果か、さほど突拍子もないという感じを
 与えないように思います。

 程度の差こそあれ、こういう感じの家庭は多いのかしら。
 逃げることが必ずしも悪いことだとは思わないんですが、しかしやはり
 逃げ続けるのは本人もますます辛くなるんじゃ…

 とここまで書いて思い出したのは、友人に
 「専業主婦願望があったくせに(今もある)、何故いまだに結婚せず仕事(ばかり)してるの?」
 と聞かれたときに自分で答えたこと。

 「どこかで大きく舵を切ったことは一度もない。ただ、そのときそのとき、例えば5度とか
  10度とか舵をきってきて、その積み重ねが今あたしがいるところ。
  正直なところ、こんなところにくるとは思ってなかった。」

 少しずつ少しずつの積み重ねが、気がついたときには大きな隔たりになってしまっている
 ということもあるんだろう。
 ただ、その隔たりに気がついたときにその人自身が問われるのかもしれない。
  

 「月のない夜」 鳴海 章 ★★★
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32157690.JPG  前にも書きましたが、双葉文庫ってこういう路線を狙って
 るんでしょうか?

 なんだかなー。思いきって言ってしまえば「薄っぺらい癒しもの」にしか
 思えないんだよなぁ。
 あたくしが年を取って捻くれたせいでしょうかきっとそうです
 それでいいです。

 なんか質感も薄いしコンセプトも展開も浅い。
 この底の浅さ感はどこから来るんだろうと考えてみると、どの短編もみんな
 自己完結型というか思い込み型というか、そこにあるんじゃなかろうか。

 ちょっと物足りないです。好みの問題だと思いますすいません。

 
 「家族の言い訳」 森 浩美 ★★
408316.gif  基本的に恋愛小説はあまり読まないんですが。

 大人の恋愛小説。
 とても乾いた空気を感じる文体ですが、しかしハードな恋愛小説です。

 大人の恋愛ってなんだろう、と考えてみると、それは価値観と価値観の
 ぶつかり合いではないか、と。当然それには「会話」というのが非常に
 重要なキィになりますが。

 楽しいことや辛いこと、おもしろいことや哀しいことなんかをそれなりに
 経験して、そして得た「とりあえずの結論」を「自分の言葉で」語り
 それに「感応」する人同士が恋に落ちるのかなぁ。

 面白いフレーズがたくさん出てきます。
 しかしこの著者も既に亡くなってしまっているんですね。
 残念です。

 
 「一九七二年のレイニー・ラウ」 打海 文三 ★★★★
201993s.jpg  元刑事である著者が自分の経験を元に著した小説ですが、目の前で事件が
 展開していくというわけではなく、退職間際の刑事が居酒屋で若い後進に
 自分の経験やそこで得た教訓などを伝えていく「語り小説」です。

 それなりに面白いんですが、設定がいつも、
 「いつもの居酒屋で○○刑事は若い△△刑事を前に…」
 というパターンなので、ちょっと飽きてくると言うか…。

 登場人物のキャラクターの作り込みもちょっと浅いかな。
 刑事の経験談というか、事例集として読むのがいいかもしれません。

 

 「捜査夜話」 石神 正 ★★★
9784167531072.jpg  とても不思議な小説。
 ミステリに入るのかな。何といっていいか判らない不思議さ。

 「日常」とか「ささやかな幸福」とかの裏には実は様々なことが隠れていて、
 案外脆いものなのかもしれない。
 
 全てを知ることは必ずしも良いこととは限らないけれど、知ることによる
 哀しみもあるけど、でも変わらないものもあるはずだから、それを
 乗り越えることによって自分の信じるものを更に強く信じられるように
 なれれば、 本当はそれがいちばん幸せなのかもしれない。

 ラストが何とも割り切れないような切ないような、
 いややっぱりこれは「救済」なのか…。

 
 「月への梯子」 樋口 有介 ★★★★
200805000465.jpg  「バチスタシリーズ(?)」3作目です(もしかしたら番外編かも)。

 「バチスタ」はすごく良かったのですが、2作目の「ナイチンゲール」で
 ちょっとうーん…と思い、どうしようかと思ったのですが、この作品は
 なかなか良かったです。
 
 1作目の「バチスタ」はエンタテインメントの小説としての完成度は高かった
 ものの、やはり著者が推進する「AI(死亡時画像診断)」に対する説明臭さを
 多少感じたのですが(まあ1作目なのでちゃんと説明しなきゃいけなかったんで
 しょうが)、この作品では「AI」を全く逆の視点(死因を隠すためのAI)で
 表現していたり、

 「原罪」の概念を絡めてきたり、「バチスタ」騒動そのものや高階病院長に
 対する世俗の評価なんかが複眼で絡んできて、より世界観が重厚になった
 ように思います。

 上巻の頭のから伏線張られまくり、内容盛り沢山のエンタテインメント小説ですが、ちょっと
 距離を置いて俯瞰してみると、著者の「医療」とか「生命」に対する「想い」みたいなものや、
 基本的なことに対するスタンスみたいな物が見えてきます。

 相変わらずキャラクターのたてかたが鮮やか。
 星の数は非常に悩むところだけれど、ぎりぎり4つということで。

 
 「螺鈿迷宮 上」「螺鈿迷宮 下」 海堂 尊 ★★★★
32142987.JPG  短編集です。

 ううむ。ううむ。
 全てが明らかにされる訳ではなく、(ミステリーではないですが)謎は謎の
 まま放り出されており、人によっては消化不良かもしれません。
 しかし私はこういうの嫌いじゃないです。本来読書というのは
 「自分の頭で考える」ことだと思うので。

 心に残る、印象的なフレーズも結構出てきます。
 そういうのはすごく良いと思うのです。

 が。

 なんというか、(他の著書も含め)ちょっとパターン化してきてやしないか…
 というのが正直な感想でもあります。
 
 うーん、悪くないんだけどなぁ。

 
 「誰の中にでもいる彼」 蓮見 圭一 ★★★
08.jpg  「心中もの」というジャンルは歌舞伎だけではもちろんないんですね。
 とにかく心中ものの名作が6本、一度に読めます。

 しかし「心中」とひとくちに言っても、親子心中もあれば、別々の場所で
 同時に死を選ぶもの、どちらかだけが生き残ってしまったなどの様々な
 ケース、また戦後の混乱期を背景にした物や、愛の不思議をベースに
 した物など、「心中」に至る道もまた色々です。

 後書きで「心中小説を書いているのは男性作家が圧倒的に多い」という
 コメントがあって、それにはなんとなく納得したようなしないような。
 やっぱり女性の方が現実的なんでしょうか。

 巻頭の川端康成の「心中もの」が圧倒的な力を持って迫ってきます。

 
 「心中小説名作選」 藤本 義一 ★★★
01.jpg  いやあ、面白かった。

 不条理ものとかナンセンスものとかって、かなりの筆力が要求されると
 思うんですが、ものすごい展開なのにちゃんと収めていてすごい。

 ナンセンスなんだけど、話はぶっ飛んだりしてるんだけど、細部がきっちり
 詰めてあったりして、そのあたりも面白い。

 短い作品はほんの数ページだったりするんですが、星新一を彷彿とさせる
 雰囲気も漂っています。

 最後の短編「送りの夏」はすごくいいんですが、主人公の女の子がちょっと
 子供らしくなくて、そこだけがすこし残念。

 他の作品も読んでみようかな。
 

 「バスジャック」 三崎 亜記 ★★★★
40934.jpg  「選考委員を震撼させた」とあったので、一体どんなものだろうと
 読んでみましたが。
 たしかにずいぶん刺激的ですね。

 「意志を持たない」「欲望をもたない」そうなったとき人は、だれかの
 思うままに振る舞うほか、生きようがないのかもしれない。

 それに「孤独ではない」状態を知らないと本当の「孤独」は判らないのかも
 しれない。
 「孤独ではない」状態を知らず「孤独」状態が続いたらそれは本人にとって
 「普通」のことなんだろう。

 とっても淡々と、透明感のあるイノセンスな、かつ孤独な世界。


 「履き忘れたもう片方の靴」 大石 圭 ★★★
02122482.jpg  若い見習刑事が熟練の刑事にくっついて事件を捜査しながら、
 刑事としても人間としても成長していく姿が描かれています。

 しかしあまりにリアルで、捜査本部が作られていく様とかその影響とか
 一斉指令が流れたときの刑事たちの反応とかとにかくリアルでびっくり 
 したのですが、著者は警視庁の警部補だった人なんですね。

 ものすごい仕掛けがあるわけではなく、むしろ淡々と綴られています。
 捜査や法律の限界みたいなものも表現されていますが、かといって
 救いがないというわけでもありません。

 残念ながら著者は数年前に亡くなってしまわれたようで、もう新作は
 読めないんですね。 


 「ショカツ」 佐竹 一彦 ★★★★
aec947a2.jpeg  この著者の作品は初めて手に取りましたが
 (正直なところ「恋愛小説」ぽかったのでちょっと躊躇した)、
 高い洞察力に基づくしっかりした文章を書く人ですね。

 それぞれの年代の女性の恋愛を描いていますが、特にドラマティックという
 わけでもなくむしろ淡々と描かれており、そのなかで女性の持つプライドや
 見栄、したたかさや寂しさなんかが上手く表現されていると思います。

 あとがきに総括されている著者の世代観が、短い言葉で上手く纏められていて
 頭のいいひとだなぁと思いました。

 以前掌の中に確かにあって、しかし今は失ってしまったもの。
 そしてそれはもう戻ることはないということ。
 そういうことを受け入れて、前を向いて歩いていくのが大人なのかもしれません。


 「月とシャンパン」 有吉 玉青 ★★★
M03650249-01.jpg  ああ、これはバイク乗りにはたまらない小説ではないでしょうか。
 もちろんバイク乗りじゃなくても楽しめます。

 個々の短編も良いし、単なる連作短編集よりもストーリィ同士が
 乱反射し合う感じが面白いんですが、
 残念ながら結末がちょっと…かも。
 主人公の奥さんのキャラクターの作り込みがちょっと…かも。
 しかし現実にはこんな感じの人が多いんでしょうか…。

 「バイク乗りは心に穴ぼこを抱えている」というような表現がありましたが、
 この「バイク」のところは、他の単語にも転用可能だと思います。

 著者は「山背郷」のような「大自然と対峙する素朴な人々」みたいなものが
 テーマの人だとおもっていたら、
 こんな現代的な小説も書くんですね。びっくりしました。


 「虹色にランドスケープ」 熊谷 達也 ★★★
32130099.JPG  うーん。小説としては悪くないと思います。
 銀行の業務内容とか日常とか業界用語も結構リアルだし、
 昔を思い出しました。
 が。何かがちょっと引っかかる。

 妻子持ちの銀行マンの不倫物語ですが、なんというか、ずいぶんと都合が
 良い。
 美しくしかも仕事の出来る優秀な部下(OL)、しかし自分(主人公)の
 立場を脅かすほどには仕事はできない(←これはすごく重要)。
 憎からず思っていたら相手からも想いを寄せられ想いを遂げて、
 そしてあっという間に妻にばれて家庭崩壊の危機。

 ここで全力で家庭を守るのですが、その理由がよく判らない。
 妻への愛を再確認したわけでもないようだし、子供のため?
 しかも愛人は深追いせず、昔の彼と結婚すると言って、あっさり身を
 引いてくれます。
 
 「香水」のエピソードは思った通りでしたが、この主人公の妻は、夫が浮気を認めることと、
 自分が使っていた香水を夫は長いこと認識せず、愛人に買い与えた香水が同じものであった
 ことを知ることと、どちらがショックなんでしょうか。

 あと、茜(主人公の愛人)の立場からこのストーリィを描くと、全く違ったストーリィに
 なるのではないかと思いました。是非それを読みたい。


 「ありふれた魔法」 盛田 隆二 ★★★
32029189.JPG  小説か詩か散文か。
 独特のリズムで女というもの、その女と対峙する男というものを
 えぐっていきます。

 情念、諦観、嫉妬、虚実、さまざまなものが言葉の背後に透けて見えますが、
 いちばん大きなものは「怒り」ではないか。
 淡々としていながら、しかしそこにはとても熱く、如何ともし難い
 強い怒りが潜んでいるように思います。

 特に、次の一文にはまったくドキリとさせられた。

 「何も言わないで生きているくらいなら、死んだ方がましだ、というより、
  生きるということは、それが危険だとわかっていても言ってしまうことに違いない
  と、女はいつの頃からか思うようになったのだ。」

 この作家を知らなかったとは、まったく迂闊だった。
 

 「むかし女がいた」 大庭 みな子 ★★★★
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