本はごはん。
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タイトルの通り、阪急電車を舞台とした連作です。
阪急電車に馴染みのある人にはもっとしみじみくるのかな。
阪急電車を利用する人々が、時にすれ違い時にささやかに交わって
いくのですが、何気ない日常の中に潜む機微を、簡潔に掬い上げて
いるのは見事です。
文体がちょっと軽いけど、それが合っているようにも思います。
ただ思うのは、電車が舞台ですからそれちょっとどうなんですか的
些細なトラブル(にまで至らないものも含めて)取り上げられていて、
それはバッグを放り投げて座席を確保するおばさんだったりするの
ですが、
これを読んだ人は私も含めて、「そんな非常識なことはしない!」と思っているのだと思うのです。
でも、一歩間違えれば(座席確保にバッグは投げないにしても)、自分も同じ側の人間に、
いつの間にかなってしまっていた、ということが往々にしてあり得るのではないかと。
それは「しない」という行為だけではなくて(非常識なことはしないのが当たり前)、必要な時には
声を挙げる、手をさしのべるということができなければ、結局そちら側の人間に賛同したことに
なって、気がついたら自分もそちら側の人間にすっかりなってしまっていた、というような。
そんな危険性を孕んでいるのだと言うことを忘れないでおこうと思う。
「阪急電車」 有川 浩 ★★★
阪急電車に馴染みのある人にはもっとしみじみくるのかな。
阪急電車を利用する人々が、時にすれ違い時にささやかに交わって
いくのですが、何気ない日常の中に潜む機微を、簡潔に掬い上げて
いるのは見事です。
文体がちょっと軽いけど、それが合っているようにも思います。
ただ思うのは、電車が舞台ですからそれちょっとどうなんですか的
些細なトラブル(にまで至らないものも含めて)取り上げられていて、
それはバッグを放り投げて座席を確保するおばさんだったりするの
ですが、
これを読んだ人は私も含めて、「そんな非常識なことはしない!」と思っているのだと思うのです。
でも、一歩間違えれば(座席確保にバッグは投げないにしても)、自分も同じ側の人間に、
いつの間にかなってしまっていた、ということが往々にしてあり得るのではないかと。
それは「しない」という行為だけではなくて(非常識なことはしないのが当たり前)、必要な時には
声を挙げる、手をさしのべるということができなければ、結局そちら側の人間に賛同したことに
なって、気がついたら自分もそちら側の人間にすっかりなってしまっていた、というような。
そんな危険性を孕んでいるのだと言うことを忘れないでおこうと思う。
「阪急電車」 有川 浩 ★★★
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SFですかね。近未来もの。
翻訳書を読んでるような感じがするのは渇いた文体のせいかと思ったんですが、
おそらく言葉の選び方と文章のリズム、これがとてもセンスよくまとまってる
からかもしれません。
言葉と肉。罪と赦し。生と死。遺伝子と魂。手応えのない生に、ありふれた死。
一人歩きをはじめるシステム。ぶつかり合う正義。
近未来を舞台にしたSFであるけれども、そこにあるテーマは人間にとって普遍
のもの。
様々な要素が惜しげもなく詰まっていて、これだけ盛り込んでも決して破綻
することなく織り上げる筆力。計算され尽くされた緻密さというよりも、
感覚的なものではないかと思わせる繊細さ。
いつかまた必ず読み返すであろう1冊。
「虐殺器官」 伊藤 計劃 ★★★★★
翻訳書を読んでるような感じがするのは渇いた文体のせいかと思ったんですが、
おそらく言葉の選び方と文章のリズム、これがとてもセンスよくまとまってる
からかもしれません。
言葉と肉。罪と赦し。生と死。遺伝子と魂。手応えのない生に、ありふれた死。
一人歩きをはじめるシステム。ぶつかり合う正義。
近未来を舞台にしたSFであるけれども、そこにあるテーマは人間にとって普遍
のもの。
様々な要素が惜しげもなく詰まっていて、これだけ盛り込んでも決して破綻
することなく織り上げる筆力。計算され尽くされた緻密さというよりも、
感覚的なものではないかと思わせる繊細さ。
いつかまた必ず読み返すであろう1冊。
「虐殺器官」 伊藤 計劃 ★★★★★
皆川博子氏です。1986年の直木賞受賞作ですが、古本を探すしか
ありませんでした。なんか淋しいですね。
時代物ですが、遊女屋の娘を通して吉原の内側と、吉原の外の世界
である芝居小屋の内側の両方を描き出しています。そして同時に、
江戸から明治へと移りゆく激動の時代背景をも上手く取り込んでいて、
この上なく重奏な世界を、淡々と紡いでいます。
遊女ものというと吉原の壁の内側だけが舞台のものが多いですが、
吉原だけでも膨大な資料になるであろうに、芝居文化や明治初期の
時代考証もきっちりとなされていて、そしてそれらが惜しげもなく
1冊に詰め込まれていて濃密。
この作品に限らず、著者の目線は常に一定の距離が保たれていて、それがいささかも
ぐらつくことないのがすごい。これだけの濃密な世界を、ここまで突き放して書けるのか。
遊女屋の一人娘、という立場ならではの苦悩と哀しみをかかえながら自分の道を模索していく
主人公の姿が品のある文章でりりしく描かれ、感傷を排除した凜とした空気が読後にも残る
作品だと思います。
「恋紅」 皆川 博子 ★★★★
ありませんでした。なんか淋しいですね。
時代物ですが、遊女屋の娘を通して吉原の内側と、吉原の外の世界
である芝居小屋の内側の両方を描き出しています。そして同時に、
江戸から明治へと移りゆく激動の時代背景をも上手く取り込んでいて、
この上なく重奏な世界を、淡々と紡いでいます。
遊女ものというと吉原の壁の内側だけが舞台のものが多いですが、
吉原だけでも膨大な資料になるであろうに、芝居文化や明治初期の
時代考証もきっちりとなされていて、そしてそれらが惜しげもなく
1冊に詰め込まれていて濃密。
この作品に限らず、著者の目線は常に一定の距離が保たれていて、それがいささかも
ぐらつくことないのがすごい。これだけの濃密な世界を、ここまで突き放して書けるのか。
遊女屋の一人娘、という立場ならではの苦悩と哀しみをかかえながら自分の道を模索していく
主人公の姿が品のある文章でりりしく描かれ、感傷を排除した凜とした空気が読後にも残る
作品だと思います。
「恋紅」 皆川 博子 ★★★★
この作家はもっと注目されて然るべきなのではないか。
短編集です。
どの作品も、一枚の薄い薄い紗を挟んで見る世界のような、ちょっと幻惑感を
覚える世界の中で、強烈な「寄る辺の無さ」を鮮やかに描き出しています。
舞台がみな戦前から戦後にかけてであるためか、すこし沈鬱であったり
どこか退廃的な妖艶さを漂わせていたりするなかで、一切の感傷を排した
「渇いた目」で淡々と語られていくのですが、もしかしてこの短編集は
作家自身の総括なのだろうか、と、ちらりと思う。
私が感じた印象は、
江戸川乱歩の空気感を谷崎潤一郎の文章で表現したような、
または太宰治から女々しさを排除したような、
もしくは朱川湊人の世界から感傷的な部分を一切排除したような、
そんな感じ。
どの短編も高い完成度を誇り、そして見事としか言いようのない文章。
とくに冒頭、導入部の文章は完璧というべきもの。
妖艶かつ幻想的な純文学、とでも言えばいいのだろうか。
この作家の作品は絶版が多いなぁ…。発掘の旅に出ます。
「蝶」 皆川 博子 ★★★★★
短編集です。
どの作品も、一枚の薄い薄い紗を挟んで見る世界のような、ちょっと幻惑感を
覚える世界の中で、強烈な「寄る辺の無さ」を鮮やかに描き出しています。
舞台がみな戦前から戦後にかけてであるためか、すこし沈鬱であったり
どこか退廃的な妖艶さを漂わせていたりするなかで、一切の感傷を排した
「渇いた目」で淡々と語られていくのですが、もしかしてこの短編集は
作家自身の総括なのだろうか、と、ちらりと思う。
私が感じた印象は、
江戸川乱歩の空気感を谷崎潤一郎の文章で表現したような、
または太宰治から女々しさを排除したような、
もしくは朱川湊人の世界から感傷的な部分を一切排除したような、
そんな感じ。
どの短編も高い完成度を誇り、そして見事としか言いようのない文章。
とくに冒頭、導入部の文章は完璧というべきもの。
妖艶かつ幻想的な純文学、とでも言えばいいのだろうか。
この作家の作品は絶版が多いなぁ…。発掘の旅に出ます。
「蝶」 皆川 博子 ★★★★★
小学校6年生の男の子たちのひと夏の冒険(=船を造る)を描いています。
児童小説とか、子供が中心の小説は、基本的には私は敬遠傾向にあるのです。
いつだったかも書きましたが、(それは仕方のないことなのだとは思い
ますが)どうしても「大人の考える子供目線」の範疇を出ていないように
思うので。なので本書も実はあまり期待せずに手に取ったのでありますが。
結論から言えば、「大人の考える子供目線」を完全に脱しているとは思え
ません(いやそれはそもそも無理なことなのだとは思うのです)が、
子供の社会の中にも厳然として存在する格差、嫉妬心、見栄、虚栄心、
絶望、死、一見普通の家庭に見えても、どの家庭にもそれぞれの形で
存在する「歪み」、そしてそれからくる「心に巣くう闇」などなど、
通常「なかったこと」「見なかったこと」にしてしまわれがちなことを正面から捉えていて、
綺麗事にまとめなかったところが高く評価できると思います。
ラストもこれ以外あり得ず、
「いろいろあったけど冒険して帰ってきてたくましくなりましたちゃんちゃん」で終わらせ
なかったことにこの作品の意味があるのではないかと。。
なかなか良い作品でありました。
「ぼくらは海へ」 那須 正幹 ★★★★
児童小説とか、子供が中心の小説は、基本的には私は敬遠傾向にあるのです。
いつだったかも書きましたが、(それは仕方のないことなのだとは思い
ますが)どうしても「大人の考える子供目線」の範疇を出ていないように
思うので。なので本書も実はあまり期待せずに手に取ったのでありますが。
結論から言えば、「大人の考える子供目線」を完全に脱しているとは思え
ません(いやそれはそもそも無理なことなのだとは思うのです)が、
子供の社会の中にも厳然として存在する格差、嫉妬心、見栄、虚栄心、
絶望、死、一見普通の家庭に見えても、どの家庭にもそれぞれの形で
存在する「歪み」、そしてそれからくる「心に巣くう闇」などなど、
通常「なかったこと」「見なかったこと」にしてしまわれがちなことを正面から捉えていて、
綺麗事にまとめなかったところが高く評価できると思います。
ラストもこれ以外あり得ず、
「いろいろあったけど冒険して帰ってきてたくましくなりましたちゃんちゃん」で終わらせ
なかったことにこの作品の意味があるのではないかと。。
なかなか良い作品でありました。
「ぼくらは海へ」 那須 正幹 ★★★★
遊郭を舞台にした連作集。
江戸という時代の、遊郭という舞台で、様々な哀しみが
美しい日本語によって情操的に繰り広げられる。
その哀しみとは単に性を売ることによってしか生き延びることができないとか
思い思われても添うことができないとか、そういった判りやすいことだけでは
なくて
たとえば第1話で主人公が、吉原が火事になってしまったため仮楼閣に
居る時、他の楼の女郎が身請けされて出て行くところをたまたま目にして、
「こんな仮宅からじゃなくて、どうして吉原に戻ってから見送って
貰わないのかしら。」と思うようなシーン、
つまり、幼い頃から吉原で女郎になるべくして育てられた彼女の哀しい価値観などにも
表されていて、このあたりの深みが単なる女郎小説と一線を画すものとしているように
思います。
重層的な構成、無駄な言葉を一切排除しながら奥行きのある世界を見せる文章、
哀切あふれる濡れ場、文句の付け所がありません。
「花宵道中」 宮木 あや子 ★★★★★
江戸という時代の、遊郭という舞台で、様々な哀しみが
美しい日本語によって情操的に繰り広げられる。
その哀しみとは単に性を売ることによってしか生き延びることができないとか
思い思われても添うことができないとか、そういった判りやすいことだけでは
なくて
たとえば第1話で主人公が、吉原が火事になってしまったため仮楼閣に
居る時、他の楼の女郎が身請けされて出て行くところをたまたま目にして、
「こんな仮宅からじゃなくて、どうして吉原に戻ってから見送って
貰わないのかしら。」と思うようなシーン、
つまり、幼い頃から吉原で女郎になるべくして育てられた彼女の哀しい価値観などにも
表されていて、このあたりの深みが単なる女郎小説と一線を画すものとしているように
思います。
重層的な構成、無駄な言葉を一切排除しながら奥行きのある世界を見せる文章、
哀切あふれる濡れ場、文句の付け所がありません。
「花宵道中」 宮木 あや子 ★★★★★
もう何作目ですかね、「バチスタ」シリーズ。
ジェネラル・速水が主人公らしいから、読まないわけにはいかない。
ただ、残念ながら番外編といった小品の趣。
ジェネラル誕生となった事件は、若き日の冴子が出てくるものの、
「ジェネラル・ルージュの凱旋」で語られた範囲に留まっており、
ボリューム感(ページ数)からしてもちょっと物足りない感じ。
しかも本の半分くらいは、海堂氏の個人史やら、自作解説やらで、
つまりこれはファンブックなのですね。
作品には興味がありますが、作家そのものにはあまり興味を持たない
私のような人にはちょっと物足りなさが残るかもしれません。
「ジェネラル・ルージュの伝説」 海堂 尊 ★★★
ジェネラル・速水が主人公らしいから、読まないわけにはいかない。
ただ、残念ながら番外編といった小品の趣。
ジェネラル誕生となった事件は、若き日の冴子が出てくるものの、
「ジェネラル・ルージュの凱旋」で語られた範囲に留まっており、
ボリューム感(ページ数)からしてもちょっと物足りない感じ。
しかも本の半分くらいは、海堂氏の個人史やら、自作解説やらで、
つまりこれはファンブックなのですね。
作品には興味がありますが、作家そのものにはあまり興味を持たない
私のような人にはちょっと物足りなさが残るかもしれません。
「ジェネラル・ルージュの伝説」 海堂 尊 ★★★
それぞれの道を歩いている、20代後半になったゼミ仲間たち。
久しぶりに再会し、それぞれが抱える迷いや悩みが交錯していきます。
なんとなく「ふぞろいの林檎たち」を思い出した。
20代後半って、どうだったかな…と思い返してみると。
もちろん今とは時代背景が違うけれど、でももうすっかり学生ではなくて
会社にも社会人にも馴れて、組織の不文律みたいなものも見えてきて、
こんなことするために会社に入ったんだろうか、とか
会社での自分の将来もなんとなく想像がついてしまったりとか
かといって転職するにもエネルギーが必要で、でもまだ今なら間に合う
かもとか、でも一体「何に」間に合うというのかすらよく判らず。
そんな時期だったように思います。
すべてが手に入ると思えるほど子供ではなく、
すべてを割り切って受け入れてしまえるほど年を取っているわけでもなく
そういうどっちつかずの焦燥感みたいなものに捕らわれる年代なのかもしれません。
テーマは良かったと思います。
ただ、ちょっと冗長かな。全体的に平坦な印象。もっと削る部分と、突っ込む部分とを、
あえて言うとバランスを崩してくれるくらいの方がよかったような気もします。
「月曜の朝、ぼくたちは」 井伏 洋介 ★★
久しぶりに再会し、それぞれが抱える迷いや悩みが交錯していきます。
なんとなく「ふぞろいの林檎たち」を思い出した。
20代後半って、どうだったかな…と思い返してみると。
もちろん今とは時代背景が違うけれど、でももうすっかり学生ではなくて
会社にも社会人にも馴れて、組織の不文律みたいなものも見えてきて、
こんなことするために会社に入ったんだろうか、とか
会社での自分の将来もなんとなく想像がついてしまったりとか
かといって転職するにもエネルギーが必要で、でもまだ今なら間に合う
かもとか、でも一体「何に」間に合うというのかすらよく判らず。
そんな時期だったように思います。
すべてが手に入ると思えるほど子供ではなく、
すべてを割り切って受け入れてしまえるほど年を取っているわけでもなく
そういうどっちつかずの焦燥感みたいなものに捕らわれる年代なのかもしれません。
テーマは良かったと思います。
ただ、ちょっと冗長かな。全体的に平坦な印象。もっと削る部分と、突っ込む部分とを、
あえて言うとバランスを崩してくれるくらいの方がよかったような気もします。
「月曜の朝、ぼくたちは」 井伏 洋介 ★★
すいませんすいませんすいません。
初めに謝っときますほんとーにすいません。いろんな意味ですいません。
この著者、「おとーさんたちに経済小説を書いているひと」という印象しか
なく、いままで読んだことなかったんですがたまにはと思って手に取って
みたのです。
銀行に辞表をたたきつけて経済評論的活動をしてきた主人公の元に、ある日
知らない女性からメールが舞い込み…と、ストーリィは始まるのですが。
前半をしばらく読んだ段階での感想は、
「これはお父さんたち向けのハーレクインロマンスか!?」。
おとーさんたちにとってのファンタジーって、こんな感じなんですかね?
自分と同年代の、しかしまだまだ美しい人妻と、そして若さ溢れかなり美しい娘。
母娘ですよ母娘! しかも母娘一緒に、つまり3P!
そして「今日は佐和子(=母親の方)を抱いてやりたい」って何ですかねこの傲慢さ。あちこち
尊大さが目立つんですが、50代くらいの男性の心の中ってこんな感じなんでしょうか。
ちょっと幻滅。
自分を慕ってくれていると信じていた過去の部下たちからの自分への評価が著しく低いということを
知って落ち込む場面がありますが、これは結構ありがちです。特に、「自分は指導上手、教育熱心
である」と自認しているひとほど、周りの評価は冷ややかだったりします。
お父さんたちへのサービスなのかもしれませんが、濡れ場をこんな即物的な感じじゃなくて
もうちょっと文学的に表現してくれたらもっと違った印象になったかもしれません。
併せて、「息子との和解」があまりにもご都合主義過ぎるんじゃないかなぁ。
恐らく私は著しく想定読者を外れているためにこんな感想になってしまったのだと思います。
ほんとすいません。
「 日暮れてこそ 」 江上 剛 ★★
初めに謝っときますほんとーにすいません。いろんな意味ですいません。
この著者、「おとーさんたちに経済小説を書いているひと」という印象しか
なく、いままで読んだことなかったんですがたまにはと思って手に取って
みたのです。
銀行に辞表をたたきつけて経済評論的活動をしてきた主人公の元に、ある日
知らない女性からメールが舞い込み…と、ストーリィは始まるのですが。
前半をしばらく読んだ段階での感想は、
「これはお父さんたち向けのハーレクインロマンスか!?」。
おとーさんたちにとってのファンタジーって、こんな感じなんですかね?
自分と同年代の、しかしまだまだ美しい人妻と、そして若さ溢れかなり美しい娘。
母娘ですよ母娘! しかも母娘一緒に、つまり3P!
そして「今日は佐和子(=母親の方)を抱いてやりたい」って何ですかねこの傲慢さ。あちこち
尊大さが目立つんですが、50代くらいの男性の心の中ってこんな感じなんでしょうか。
ちょっと幻滅。
自分を慕ってくれていると信じていた過去の部下たちからの自分への評価が著しく低いということを
知って落ち込む場面がありますが、これは結構ありがちです。特に、「自分は指導上手、教育熱心
である」と自認しているひとほど、周りの評価は冷ややかだったりします。
お父さんたちへのサービスなのかもしれませんが、濡れ場をこんな即物的な感じじゃなくて
もうちょっと文学的に表現してくれたらもっと違った印象になったかもしれません。
併せて、「息子との和解」があまりにもご都合主義過ぎるんじゃないかなぁ。
恐らく私は著しく想定読者を外れているためにこんな感想になってしまったのだと思います。
ほんとすいません。
「 日暮れてこそ 」 江上 剛 ★★
この著者の作品は初めて読みますが、1ページ目からもう、著者独特の
リズムに引き寄せられてしまうのだけれど、文章はかなりきわどいところに
あるように思う。計算の上のことかもしれないけれど、嫌う人もいるんじゃ
ないかな。
サブタイトル通り、母親と、ときどき父親も混じる関係を描いています。
実体験がかなりの部分を占めているものと思われ。
ぱっと読んだところでは母親との関係性、もしくは母親への思慕がストレート
に表現されているため、感情的に受け付けにくく感じるひともいるのでは
ないかと予想されるのですが、
私がこれを読んでいて思い出したのは「青春の門」。筑豊つながり。いえ、
それだけではなくて、青春の門が「上昇志向の塊オレはヤルぜ!的青春小説」
だとしたら、これは現代版の青春小説ではないかと。
食べるに困らない、豊かになった分だけ見えにくくなってしまった自分自身と将来。
やりたいことも、なりたいものも判らない。そのなかで生きいかなきゃならない現代。
そういう意味では、昔の方が貧しかったかもしれないけれどその分、判りやすかったのかも
しれません。
つまり、母親との関係性が前面に出てはいますが、これは、ひとりの人間の迷いと苦悩と自立への
悪戦苦闘の記ではないかと。そんな風に感じました。
なかなか良い作品でありました。
「東京タワー オカンとボクと、時々、オトン」 リリー・フランキー ★★★★
リズムに引き寄せられてしまうのだけれど、文章はかなりきわどいところに
あるように思う。計算の上のことかもしれないけれど、嫌う人もいるんじゃ
ないかな。
サブタイトル通り、母親と、ときどき父親も混じる関係を描いています。
実体験がかなりの部分を占めているものと思われ。
ぱっと読んだところでは母親との関係性、もしくは母親への思慕がストレート
に表現されているため、感情的に受け付けにくく感じるひともいるのでは
ないかと予想されるのですが、
私がこれを読んでいて思い出したのは「青春の門」。筑豊つながり。いえ、
それだけではなくて、青春の門が「上昇志向の塊オレはヤルぜ!的青春小説」
だとしたら、これは現代版の青春小説ではないかと。
食べるに困らない、豊かになった分だけ見えにくくなってしまった自分自身と将来。
やりたいことも、なりたいものも判らない。そのなかで生きいかなきゃならない現代。
そういう意味では、昔の方が貧しかったかもしれないけれどその分、判りやすかったのかも
しれません。
つまり、母親との関係性が前面に出てはいますが、これは、ひとりの人間の迷いと苦悩と自立への
悪戦苦闘の記ではないかと。そんな風に感じました。
なかなか良い作品でありました。
「東京タワー オカンとボクと、時々、オトン」 リリー・フランキー ★★★★
「バチスタシリーズ」は桜宮が舞台でしたが、今回の舞台は東京。しかし
この著者のことですから、どっかで繋がるのでしょう。この話もまだ種明かし
されてないネタもあるし、続いてってどっかで桜宮とも繋がるのかな。
人間界に於ける「託卵」というすごいテーマです。
人工授精や代理母はもちろん、生命倫理から「家族」の定義まで、なかなか
答えの出ない問題を真正面から取り上げています。
辛辣な厚生労働省批判は相変わらずです。毎度のことながらここまで酷いの
かと思う。
この著者の作品らしく全体的によくまとまっていてぐいぐい読ませるんですが、
今回の主人公である女性産婦人科医師にはちょっと感情移入がしにくい。
彼女の行為は、現状、そう簡単に正否を下しにくいものであるけれども、そもそも彼女が
その行為に至った動機が、行為が行為だけに相当なる動機が必要だと思うのだけれど、
なんというか。彼女の愛が感じられないんだよなぁ。夫にも、関係のある同僚医師にも、そして
自ら生み出した自分の子供に対してすら、愛が感じにくい。
では社会正義の実現のための行動か、となると、それもちょっとなぁ、と。
社会正義のためということが出発点だったとしても、勝手に他人を巻き込んだ時点で、もうその
大義名分は成立しないんじゃなかろうか。社会正義を正すために、身近な社会正義を
冒しちゃってるというか。
このあたりって、続編とか読めば解消されるのかしら?
と、まあ多少の違和感はありつつも「五体満足に生まれ落ちることの奇跡」というものを
考えさせてくれる良い本であるとおもいます。
「ジーン・ワルツ」 海堂 尊 ★★★
この著者のことですから、どっかで繋がるのでしょう。この話もまだ種明かし
されてないネタもあるし、続いてってどっかで桜宮とも繋がるのかな。
人間界に於ける「託卵」というすごいテーマです。
人工授精や代理母はもちろん、生命倫理から「家族」の定義まで、なかなか
答えの出ない問題を真正面から取り上げています。
辛辣な厚生労働省批判は相変わらずです。毎度のことながらここまで酷いの
かと思う。
この著者の作品らしく全体的によくまとまっていてぐいぐい読ませるんですが、
今回の主人公である女性産婦人科医師にはちょっと感情移入がしにくい。
彼女の行為は、現状、そう簡単に正否を下しにくいものであるけれども、そもそも彼女が
その行為に至った動機が、行為が行為だけに相当なる動機が必要だと思うのだけれど、
なんというか。彼女の愛が感じられないんだよなぁ。夫にも、関係のある同僚医師にも、そして
自ら生み出した自分の子供に対してすら、愛が感じにくい。
では社会正義の実現のための行動か、となると、それもちょっとなぁ、と。
社会正義のためということが出発点だったとしても、勝手に他人を巻き込んだ時点で、もうその
大義名分は成立しないんじゃなかろうか。社会正義を正すために、身近な社会正義を
冒しちゃってるというか。
このあたりって、続編とか読めば解消されるのかしら?
と、まあ多少の違和感はありつつも「五体満足に生まれ落ちることの奇跡」というものを
考えさせてくれる良い本であるとおもいます。
「ジーン・ワルツ」 海堂 尊 ★★★
久しぶりに小川洋子氏です。短編集。
やっぱり不思議な作家です。この著者はもちろん想像力もすごいなあと
思うけれど、それよりも「感性」の作家なのではないかと思う。
エロスとグロテスク。解放と孤独。永遠と一瞬。喪失と残存する想い。
それらが対立することなく補完し合いながら、タイトル通り「夜明けの縁」、
つまりはあちらでもなくこちらでもない空間に迷い込んだ人々の姿を、
時には情熱的に、時には残酷に、渇いた空気のなかに映し出しています。
この空気感が、彼女の感性が支配する世界ではないかと。
個人的にはいちばん最初の短編に出てくる「曲芸師」がメタファーするもの、
について、つらつらと思いを馳せてしまいます。
「夜明けの縁をさ迷う人々」 小川 洋子 ★★★★
やっぱり不思議な作家です。この著者はもちろん想像力もすごいなあと
思うけれど、それよりも「感性」の作家なのではないかと思う。
エロスとグロテスク。解放と孤独。永遠と一瞬。喪失と残存する想い。
それらが対立することなく補完し合いながら、タイトル通り「夜明けの縁」、
つまりはあちらでもなくこちらでもない空間に迷い込んだ人々の姿を、
時には情熱的に、時には残酷に、渇いた空気のなかに映し出しています。
この空気感が、彼女の感性が支配する世界ではないかと。
個人的にはいちばん最初の短編に出てくる「曲芸師」がメタファーするもの、
について、つらつらと思いを馳せてしまいます。
「夜明けの縁をさ迷う人々」 小川 洋子 ★★★★
これは難しいテーマですね。
妻が癌で入院。息子(と娘)に「死」というもの、命のつながりというものを
どうやって教えていくか。子供と一緒に考えながら、「化石」とか「宇宙」
とか「カメ」、そして自分(父親)で紡ぐストーリィで子供に伝えようと
しています。
とても難しいテーマに挑戦しているのはすごく良いと思うのですが、どうにも
「死生観」的なものがちょっと私には合わないかもしれない。
併せて、息子の描き方がちょっとどうだろうか。どうも「大人が考える子供」
の域を出ていないような。「親の死」というものに対する漠然たる不安、を
抱えているにしても、ちょっと違和感。
どうでもいいことなんですが、息子の会話を読んでると、どうしても「クレしん」を思い出して
しまって…。すいませんすいません。
「てのひらの中の宇宙」 川端 裕人 ★★★
妻が癌で入院。息子(と娘)に「死」というもの、命のつながりというものを
どうやって教えていくか。子供と一緒に考えながら、「化石」とか「宇宙」
とか「カメ」、そして自分(父親)で紡ぐストーリィで子供に伝えようと
しています。
とても難しいテーマに挑戦しているのはすごく良いと思うのですが、どうにも
「死生観」的なものがちょっと私には合わないかもしれない。
併せて、息子の描き方がちょっとどうだろうか。どうも「大人が考える子供」
の域を出ていないような。「親の死」というものに対する漠然たる不安、を
抱えているにしても、ちょっと違和感。
どうでもいいことなんですが、息子の会話を読んでると、どうしても「クレしん」を思い出して
しまって…。すいませんすいません。
「てのひらの中の宇宙」 川端 裕人 ★★★
またしても米澤穂信氏です。
ユーゴスラビアからやってきた少女との2ヶ月間。
日本の高校生たちは彼女と交流することによって、特に主人公は
閉塞されていた自分に風穴を開けられたように感じる…。
実際のユーゴスラビアの紛争を背景に書かれており、基本的には私の
好むジャンルなのでありますが。
そしてミステリと言っても、日常の延長線上にあるミステリなので
これも私の好むところなのでありますが。
ただそのいくつかの謎解きが、ちょっと突拍子もないような気がするんです。
とくに墓地のエピソードとか。
あと、ちょっとライトノベルっぽい感じも…(いや、ライトノベルが悪いと言ってるわけじゃ
ないんですが)。
なにより大刀洗の描かれかたがちょっと不満というか…。もうちょっと大刀洗の伏線貼っても
いいんじゃないかしら。「そういうヤツだから」でずっと済ませてきて、最後に「どん!」
って言うのは、来るだろうなと思っていたけどちょっと…。
筆力のある筆者なのでしっかり読ませますけどね。
好みの問題だと思います。
「さよなら妖精」 米澤 穂信 ★★★
ユーゴスラビアからやってきた少女との2ヶ月間。
日本の高校生たちは彼女と交流することによって、特に主人公は
閉塞されていた自分に風穴を開けられたように感じる…。
実際のユーゴスラビアの紛争を背景に書かれており、基本的には私の
好むジャンルなのでありますが。
そしてミステリと言っても、日常の延長線上にあるミステリなので
これも私の好むところなのでありますが。
ただそのいくつかの謎解きが、ちょっと突拍子もないような気がするんです。
とくに墓地のエピソードとか。
あと、ちょっとライトノベルっぽい感じも…(いや、ライトノベルが悪いと言ってるわけじゃ
ないんですが)。
なにより大刀洗の描かれかたがちょっと不満というか…。もうちょっと大刀洗の伏線貼っても
いいんじゃないかしら。「そういうヤツだから」でずっと済ませてきて、最後に「どん!」
って言うのは、来るだろうなと思っていたけどちょっと…。
筆力のある筆者なのでしっかり読ませますけどね。
好みの問題だと思います。
「さよなら妖精」 米澤 穂信 ★★★
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(07/23)
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