本はごはん。
×
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初めて読みました。なかなか良い作家ですね。
ホラー、らしいのですが、ホラーというジャンル「だけ」でみるとむしろ
ちょっと物足りないのではないかしら(私はホラーものはあまり読まない
のでよく判りませんが)。
本の表題にもなっている1作目がとてもいいです。ああ、そういうこと
なのか、とは思うものの、そこまでの描き込みがとてもしっかりしている
と思います。
併せて、ラストの短編。裏返しで見る絶望、みたいな表現が面白いです。
テーマは普遍的なものだと思うのですが、それをひっくり返して持ってきた
というか。
ただ、それ以外の短編はふつう、かな。
作品によってちょっとばらつきがあるようには感じますが、ここ最近の作家さんのようだし、
今後期待できるのではないでしょうか。
「夏光」 乾 ルカ ★★★★
ホラー、らしいのですが、ホラーというジャンル「だけ」でみるとむしろ
ちょっと物足りないのではないかしら(私はホラーものはあまり読まない
のでよく判りませんが)。
本の表題にもなっている1作目がとてもいいです。ああ、そういうこと
なのか、とは思うものの、そこまでの描き込みがとてもしっかりしている
と思います。
併せて、ラストの短編。裏返しで見る絶望、みたいな表現が面白いです。
テーマは普遍的なものだと思うのですが、それをひっくり返して持ってきた
というか。
ただ、それ以外の短編はふつう、かな。
作品によってちょっとばらつきがあるようには感じますが、ここ最近の作家さんのようだし、
今後期待できるのではないでしょうか。
「夏光」 乾 ルカ ★★★★
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なかなか面白かった。個人的には「平成大家族」より良かったように思う。
ツアー客の一人が迷子になる、という香港ツアーで迷子になってしまった
ひとりの青年を巡り、彼が想いを寄せいていた女性、一緒にツアーに
参加した会社員、添乗員、そしてライターとしてこの「迷子ツアー」を
追いかける青年、それぞれの立場で「迷子になった彼」を、いや、
正確に言えば「忘れてしまったこと」「置いてきてしまったこと」
「憶えておかなければならないこと」を探る連作。であると私は解釈した。
1989年といえば昭和から平成へと時代が移った年で、ほかにも天安門事件
やベルリンの壁の崩壊と大きな出来事が多かった年ですが、日本はバブル
経済ただ中で、そろそろバブルもやばいんじゃないかと言われつつも、
今日と同じ明日を信じていた頃ですね。
バブルというあの一種の狂乱の時代を中国への返還直前の香港に重ね、そこに
「迷子として置いてきた青年」。つまりバブルの時代から次の時代に移る段階で、みんなが
何かを置き去りにしたのかもしれません。
そして置き去りにした「なにか」は勝手に自己増殖を始める。エピソード3の「テディ・リー」
もその一種なのでしょう。自分でいくら日記を書き直しても、もう彼女(の記憶の範疇)では
手に負えない。
「迷子を見かけたら、帰り方を教えてあげること」
本当の自分なんてものはどこにもなくて、知らない地で見つけられるもんなんかでも
さらさならなくて、それはあるとしたら本来自分が在った場所、日常を築いた場所にしかない。
もしかしたらあそこに置いてきた、落としちゃったのが本当の自分だったのかもしれない
なんてことはない。
もっと言えば、「本当の自分」というのはどっかに落っこちてて見つけられるものなんかじゃ
なくて、「何かを置いてきた自分」もひっくるめて「自分で創り上げていく姿」だということ。
ミステリぽい構成をとっていますが、とても不思議な世界を構築しているところがなんとも
惹きつけられます。おもしろい作家です。
ただ、あんまり優しくない(懇切丁寧に説明してはくれていない)ので、好みの別れる
ところでしょう。
「ツアー1989」 中島 京子 ★★★★
ツアー客の一人が迷子になる、という香港ツアーで迷子になってしまった
ひとりの青年を巡り、彼が想いを寄せいていた女性、一緒にツアーに
参加した会社員、添乗員、そしてライターとしてこの「迷子ツアー」を
追いかける青年、それぞれの立場で「迷子になった彼」を、いや、
正確に言えば「忘れてしまったこと」「置いてきてしまったこと」
「憶えておかなければならないこと」を探る連作。であると私は解釈した。
1989年といえば昭和から平成へと時代が移った年で、ほかにも天安門事件
やベルリンの壁の崩壊と大きな出来事が多かった年ですが、日本はバブル
経済ただ中で、そろそろバブルもやばいんじゃないかと言われつつも、
今日と同じ明日を信じていた頃ですね。
バブルというあの一種の狂乱の時代を中国への返還直前の香港に重ね、そこに
「迷子として置いてきた青年」。つまりバブルの時代から次の時代に移る段階で、みんなが
何かを置き去りにしたのかもしれません。
そして置き去りにした「なにか」は勝手に自己増殖を始める。エピソード3の「テディ・リー」
もその一種なのでしょう。自分でいくら日記を書き直しても、もう彼女(の記憶の範疇)では
手に負えない。
「迷子を見かけたら、帰り方を教えてあげること」
本当の自分なんてものはどこにもなくて、知らない地で見つけられるもんなんかでも
さらさならなくて、それはあるとしたら本来自分が在った場所、日常を築いた場所にしかない。
もしかしたらあそこに置いてきた、落としちゃったのが本当の自分だったのかもしれない
なんてことはない。
もっと言えば、「本当の自分」というのはどっかに落っこちてて見つけられるものなんかじゃ
なくて、「何かを置いてきた自分」もひっくるめて「自分で創り上げていく姿」だということ。
ミステリぽい構成をとっていますが、とても不思議な世界を構築しているところがなんとも
惹きつけられます。おもしろい作家です。
ただ、あんまり優しくない(懇切丁寧に説明してはくれていない)ので、好みの別れる
ところでしょう。
「ツアー1989」 中島 京子 ★★★★
基本的に安心して読めますねこの著者の作品は。
短編集です。ユーモア系。
面白くて、そしてちょっとじんとくるものがある、という感じかな。
一生懸命働いているんだけどその努力の方向がちょっとズレてて笑えたり、
まあオチが読めてしまえるものが多かったのがちょっと残念。
表題にもなっている1編目がいちばん良かったかも。
ただどの作品もコンパクトにまとまっているというか、平均点的というか。
もう一声、というのが正直なところ。
「さよなら、そしてこんにちは」 荻原 浩 ★★★
短編集です。ユーモア系。
面白くて、そしてちょっとじんとくるものがある、という感じかな。
一生懸命働いているんだけどその努力の方向がちょっとズレてて笑えたり、
まあオチが読めてしまえるものが多かったのがちょっと残念。
表題にもなっている1編目がいちばん良かったかも。
ただどの作品もコンパクトにまとまっているというか、平均点的というか。
もう一声、というのが正直なところ。
「さよなら、そしてこんにちは」 荻原 浩 ★★★
読み終えてまず思ったのは、誰か舞台化しないかな、と。
映画でもTVドラマでもなく、芝居。小さな小屋(ハコ)で是非やって
もらいたい。
田村役は誰がいいかなぁと思った次の瞬間、二瓶役が鍵だな、と思う。
卒業して28年目の同窓会。再度顔を合わせるのも28年ぶり。みんな40歳。
荒天により到着の遅れている「田村」を待っている同級生たち。それぞれの
視点で連作が進んでいきます。
田村はなかなかやって来ず、その間、彼を待つ5人の、卒業後それぞれに
背負ったものやなくしたものが展開されていきます。
そして田村を待ち続ける。
つまり彼らが待っている田村は「田村そのもの」であると同時に、
「彼らにとっての田村」、小学校6年生の時の田村の言葉を確認したいがため
なのではないだろうか。
特筆すべきはタイトルの付けかた。表題もそうですが、2編目の「パンダ全速力」。
このセンスにはちょっと唸ってしまう。
そして。
「彼女」のことを著者は何故「かのじょ」と表記するのか、しばらく考えてみようと思う。
「田村はまだか」 朝倉 かすみ ★★★
映画でもTVドラマでもなく、芝居。小さな小屋(ハコ)で是非やって
もらいたい。
田村役は誰がいいかなぁと思った次の瞬間、二瓶役が鍵だな、と思う。
卒業して28年目の同窓会。再度顔を合わせるのも28年ぶり。みんな40歳。
荒天により到着の遅れている「田村」を待っている同級生たち。それぞれの
視点で連作が進んでいきます。
田村はなかなかやって来ず、その間、彼を待つ5人の、卒業後それぞれに
背負ったものやなくしたものが展開されていきます。
そして田村を待ち続ける。
つまり彼らが待っている田村は「田村そのもの」であると同時に、
「彼らにとっての田村」、小学校6年生の時の田村の言葉を確認したいがため
なのではないだろうか。
特筆すべきはタイトルの付けかた。表題もそうですが、2編目の「パンダ全速力」。
このセンスにはちょっと唸ってしまう。
そして。
「彼女」のことを著者は何故「かのじょ」と表記するのか、しばらく考えてみようと思う。
「田村はまだか」 朝倉 かすみ ★★★
この著者の作品、初めて読んでみましたが…。
病気で母を亡くし、両親が友人同士でもある同級生の女の子の母親も自殺して
しまいます。そのふたりの死、父親の変異、そして…というものですが、
正直な感想は、まあずいぶんとてんこ盛りに盛り込んだもんだなぁ、と。
精神病との関連、フラッシュバックする記憶にない情景、そして二転三転
しながら進んでいくストーリィ。ああミステリだもんね、と思いました。
文章は非常に読みやすい。描写が的確。そしてストーリーというか構成が
抜群に良くてぐいぐい読ませます。でもここまでてんこ盛りにしなくても…
かえって著者のテーマがぼけてしまうような気もするのですが。
なにもミステリにしなくても良いんじゃないか、というかミステリ以外の作品を
読んでみたいと(私には)思わせる作家です。
「シャドウ」 道尾 秀介 ★★★
病気で母を亡くし、両親が友人同士でもある同級生の女の子の母親も自殺して
しまいます。そのふたりの死、父親の変異、そして…というものですが、
正直な感想は、まあずいぶんとてんこ盛りに盛り込んだもんだなぁ、と。
精神病との関連、フラッシュバックする記憶にない情景、そして二転三転
しながら進んでいくストーリィ。ああミステリだもんね、と思いました。
文章は非常に読みやすい。描写が的確。そしてストーリーというか構成が
抜群に良くてぐいぐい読ませます。でもここまでてんこ盛りにしなくても…
かえって著者のテーマがぼけてしまうような気もするのですが。
なにもミステリにしなくても良いんじゃないか、というかミステリ以外の作品を
読んでみたいと(私には)思わせる作家です。
「シャドウ」 道尾 秀介 ★★★
小さな島で、それこそなんでも筒抜けになってしまうような、限定された
とても濃い人間関係のなかに夫と共に暮らす主人公の、秘めた恋、
というより強い情念の物語。
夫にも毎日の生活にも島の暮らしにも不満なものはなく。それでもどうしても
惹かれていく自分を止められない主人公。
妻の様子になにかを感じ、不安に思いながらもひたすら妻を見つめる夫。
恐らく何かを渇望して漂流する男。
情交シーンはおろか、キスすることもなく男は去るのだけれど、ここまで
官能的な空気を濃密に漂わせることができるのは著者ならでは。
相変わらず美しい文章と、心理描写も巧み。夫に対する心理なんてもうすごいとしか
言いようがない。
こういう作品って恐らく「大人の恋」って表されるのではないかと思うのですが、大人の恋って、
なんだろう。配偶者がいながら配偶者以外の異性に惹かれること?
私は、彼女が初めて男を見たとき「ミシルシ」だと思ってしまった、そのあたりが、良くも悪くも
大人の恋なんじゃないかと思ったりするのですが。
「切羽」とは、トンネルを掘っている最中の最先端箇所だそうで、トンネルが完成すると切羽は
消滅してしまう。タイトルが「切羽にて」ではなく、「切羽へ」であることを考えると、人生とは
常にトンネルを掘り続け「切羽」にあり続けることなのかもしれない。なんてことを考えました。
「切羽へ」 井上 荒野 ★★★
とても濃い人間関係のなかに夫と共に暮らす主人公の、秘めた恋、
というより強い情念の物語。
夫にも毎日の生活にも島の暮らしにも不満なものはなく。それでもどうしても
惹かれていく自分を止められない主人公。
妻の様子になにかを感じ、不安に思いながらもひたすら妻を見つめる夫。
恐らく何かを渇望して漂流する男。
情交シーンはおろか、キスすることもなく男は去るのだけれど、ここまで
官能的な空気を濃密に漂わせることができるのは著者ならでは。
相変わらず美しい文章と、心理描写も巧み。夫に対する心理なんてもうすごいとしか
言いようがない。
こういう作品って恐らく「大人の恋」って表されるのではないかと思うのですが、大人の恋って、
なんだろう。配偶者がいながら配偶者以外の異性に惹かれること?
私は、彼女が初めて男を見たとき「ミシルシ」だと思ってしまった、そのあたりが、良くも悪くも
大人の恋なんじゃないかと思ったりするのですが。
「切羽」とは、トンネルを掘っている最中の最先端箇所だそうで、トンネルが完成すると切羽は
消滅してしまう。タイトルが「切羽にて」ではなく、「切羽へ」であることを考えると、人生とは
常にトンネルを掘り続け「切羽」にあり続けることなのかもしれない。なんてことを考えました。
「切羽へ」 井上 荒野 ★★★
ああいったい何年ぶりでしょうか。学生の頃よく読みましたこの著者。
短編集を目にしたのでかーなーり久しぶりに読んでみます。
私がこの作家(の作品)に対して抱くイメージ、無味無色透明な世界で
ありながら同時に、鈴木英人の描くイラストのような色彩感と乾いた
空気感がそのままで、またこれは80年代の作品ということもあって、
なんとも懐かしいです。
アメリカの私立探偵ものの連作短編集ですが、この私立探偵が21歳という
設定自体、この著者でしかありえないと思います。そして事件を解決する
と言うよりも、淡々とストーリーテリングする傍観者でしかない。
「心温まる」とか「友情」とか「成長」とか、そんな言葉とも一切無縁。
これこそが片岡ワールドだと思う。
2編目の「旅男たちの唄」が最高に面白い。ある事象が、受け止める人によって悲劇にもなれば
喜劇にもなるということを、こんなにさらりと表現しているのはあまりないように思う。
「ミス・リグビーの幸福 ―蒼空と孤独の短篇」 片岡 義男 ★★★
短編集を目にしたのでかーなーり久しぶりに読んでみます。
私がこの作家(の作品)に対して抱くイメージ、無味無色透明な世界で
ありながら同時に、鈴木英人の描くイラストのような色彩感と乾いた
空気感がそのままで、またこれは80年代の作品ということもあって、
なんとも懐かしいです。
アメリカの私立探偵ものの連作短編集ですが、この私立探偵が21歳という
設定自体、この著者でしかありえないと思います。そして事件を解決する
と言うよりも、淡々とストーリーテリングする傍観者でしかない。
「心温まる」とか「友情」とか「成長」とか、そんな言葉とも一切無縁。
これこそが片岡ワールドだと思う。
2編目の「旅男たちの唄」が最高に面白い。ある事象が、受け止める人によって悲劇にもなれば
喜劇にもなるということを、こんなにさらりと表現しているのはあまりないように思う。
「ミス・リグビーの幸福 ―蒼空と孤独の短篇」 片岡 義男 ★★★
女性視点での小説ですが、以前読んだ同じ女性視点の
「私という運命について」よりも、ぐんと良くなっているように思います。
美しく仕事の才能にも恵まれた主人公が、ふたりの男の間で揺れ動く
わけですが、この「ふたりの男の間で揺れ動く」のは表面的な話であって、
実は彼女が自己肯定を掴むまでの話なのではないかと思うのです。
「モデルだって女優にだってなれた」と啖呵をきれるほどの彼女は
現実離れした小説ならではの存在と思いがちですが、実際のところ、
彼女の周りにいる人たちのように、表面だけしか見ない人は多いわけで。
まあそんな人は相手にしなければいいとは思うものの、社会生活を営む
以上、避けて通れない時だってあるわけです。
上っ面の、良いところしか見ずに、心に巣くう孤独や寂しさを理解するどころか、見ようとも
しない人たちばかり。そんなひとたちがしたり顔で言うセリフにうんざりしながら、自分の
存在価値を自分で認められない辛さ。
それとは対照的に、わかりやすい闇を背負った男。このふたりが、いかに自己肯定を獲得するか、
というのがテーマだと思いました。
しかしハッピーエンドはちょっと意外でした。でもまあ、バッドエンドだとよくある話に
なっちゃうかな。あと、結構野心的な構成のように感じました。
「心に龍をちりばめて」 白石 一文 ★★★
「私という運命について」よりも、ぐんと良くなっているように思います。
美しく仕事の才能にも恵まれた主人公が、ふたりの男の間で揺れ動く
わけですが、この「ふたりの男の間で揺れ動く」のは表面的な話であって、
実は彼女が自己肯定を掴むまでの話なのではないかと思うのです。
「モデルだって女優にだってなれた」と啖呵をきれるほどの彼女は
現実離れした小説ならではの存在と思いがちですが、実際のところ、
彼女の周りにいる人たちのように、表面だけしか見ない人は多いわけで。
まあそんな人は相手にしなければいいとは思うものの、社会生活を営む
以上、避けて通れない時だってあるわけです。
上っ面の、良いところしか見ずに、心に巣くう孤独や寂しさを理解するどころか、見ようとも
しない人たちばかり。そんなひとたちがしたり顔で言うセリフにうんざりしながら、自分の
存在価値を自分で認められない辛さ。
それとは対照的に、わかりやすい闇を背負った男。このふたりが、いかに自己肯定を獲得するか、
というのがテーマだと思いました。
しかしハッピーエンドはちょっと意外でした。でもまあ、バッドエンドだとよくある話に
なっちゃうかな。あと、結構野心的な構成のように感じました。
「心に龍をちりばめて」 白石 一文 ★★★
「君の名残を」がとても良い作品であったので、他の作品もと思って
手に取ったのが本書であります。
正直、あまり期待していなかったのであります。が。
姉と妹。いつの間にか開いてしまった心の距離。上手く言えない葛藤。
時にそれは、自分自身への苛立ちを相手に転嫁してしまったものである
ことに薄々気付きながらも、どうにも縮められない距離。
いくつかの死を乗り越え、姉妹という関係を再生していくというものです。
はっきり言って、地味なストーリィです。特に「君の名残を」の
あとに読むにはかなり地味なストーリィです。
しかしこれがきっちり読ませる。
それは、基本的には姉の視点で進むストーリィに、妹の(ラジオの)DJ を
定期的に挟むことによって、妹側の想いをかいま見せつつ全体にリズム感を
出す構成と、そして何より、文章の巧みさ、によるものだと思う。
本当にこの著者の文章の巧みさは特筆ものだと思う。著者買いリストに入れてもいいかも。
「北緯四十三度の神話」 浅倉 卓弥 ★★★
手に取ったのが本書であります。
正直、あまり期待していなかったのであります。が。
姉と妹。いつの間にか開いてしまった心の距離。上手く言えない葛藤。
時にそれは、自分自身への苛立ちを相手に転嫁してしまったものである
ことに薄々気付きながらも、どうにも縮められない距離。
いくつかの死を乗り越え、姉妹という関係を再生していくというものです。
はっきり言って、地味なストーリィです。特に「君の名残を」の
あとに読むにはかなり地味なストーリィです。
しかしこれがきっちり読ませる。
それは、基本的には姉の視点で進むストーリィに、妹の(ラジオの)DJ を
定期的に挟むことによって、妹側の想いをかいま見せつつ全体にリズム感を
出す構成と、そして何より、文章の巧みさ、によるものだと思う。
本当にこの著者の文章の巧みさは特筆ものだと思う。著者買いリストに入れてもいいかも。
「北緯四十三度の神話」 浅倉 卓弥 ★★★
「ハスビーン」って何だろうと思ったら、「has been」だったんですね。
「ああ見えて彼女、昔は○○だったらしいよ」みたいな。
なかなか上手いタイトルだと思います。
子供の時から努力を続け、東大から一流企業のキャリアへ、そして弁護士と
結婚と、所謂「勝ち組」のはずなのに、仕事を辞めて専業主婦となった彼女の
憂鬱は晴れないのであります。
このあとはネタバレを含みますので未読の方はご注意いただきたいのですが、
結局それは彼女が「逃げ」で結婚してしまったから。夫に押し切られた形には
なっているものの、初めて経験した仕事での「挫折」を、
彼女なりに消化せずに「働く」ことを辞めてしまったからではないかと思う。
それはやがて自分が疑いなく持っていた「勉強と仕事は裏切らない」という
価値観自体を揺るがし、彼女自身も揺るがしていきます。
読んでて痛ましいというか、はっきり言って痛いなぁとおもうのは、我が身にも覚えがあるからに
他ならず。特に、必要以上に攻撃的になって正論で出口のないところまでとことん追い詰めちゃう
ところなんか。
「has been」で終わるのか、新しい「wii be」を見つけて目指すのか。
新しい wii be は人によって、子供だったり新しい仕事だったりまたは、昔遠ざけてしまった趣味
だったりと様々なのだろうと思いますが、一度こういう生き方をしてしまった人は、やはり
新しい何かを見つけてまた歩き出すのだろうと、そう思うのでありました。
「憂鬱なハスビーン」 朝比奈 あすか ★★★
「ああ見えて彼女、昔は○○だったらしいよ」みたいな。
なかなか上手いタイトルだと思います。
子供の時から努力を続け、東大から一流企業のキャリアへ、そして弁護士と
結婚と、所謂「勝ち組」のはずなのに、仕事を辞めて専業主婦となった彼女の
憂鬱は晴れないのであります。
このあとはネタバレを含みますので未読の方はご注意いただきたいのですが、
結局それは彼女が「逃げ」で結婚してしまったから。夫に押し切られた形には
なっているものの、初めて経験した仕事での「挫折」を、
彼女なりに消化せずに「働く」ことを辞めてしまったからではないかと思う。
それはやがて自分が疑いなく持っていた「勉強と仕事は裏切らない」という
価値観自体を揺るがし、彼女自身も揺るがしていきます。
読んでて痛ましいというか、はっきり言って痛いなぁとおもうのは、我が身にも覚えがあるからに
他ならず。特に、必要以上に攻撃的になって正論で出口のないところまでとことん追い詰めちゃう
ところなんか。
「has been」で終わるのか、新しい「wii be」を見つけて目指すのか。
新しい wii be は人によって、子供だったり新しい仕事だったりまたは、昔遠ざけてしまった趣味
だったりと様々なのだろうと思いますが、一度こういう生き方をしてしまった人は、やはり
新しい何かを見つけてまた歩き出すのだろうと、そう思うのでありました。
「憂鬱なハスビーン」 朝比奈 あすか ★★★
この本に収録されている木曾義仲の短編が読みたくて古本を
探したのですが、他の短編も面白いです。もう15年前の作品のようですが、
ちょっとシニカルな、大人の言葉遊びといった感じ。
木曾義仲物の短編は、あの長い物語をコンパクトかつコミカルに、その
エッセンスをうまく纏めてあるように思います。きっとこんな感じだったん
だろうなと思わせる。
他の短編も身近な「ああ、あるよねこういうこと」というテーマを、鋭い
目線で切り取ってユーモアで包んで表現しており、ああ大人だな、と思う。
ただ、愛知県に住んだこともなければ知人もおらず、全く土地勘もないため、
「愛知妖怪辞典」の魅力を存分に味わえなかったのは残念であります。
「バールのようなもの」 清水 義範 ★★★★
探したのですが、他の短編も面白いです。もう15年前の作品のようですが、
ちょっとシニカルな、大人の言葉遊びといった感じ。
木曾義仲物の短編は、あの長い物語をコンパクトかつコミカルに、その
エッセンスをうまく纏めてあるように思います。きっとこんな感じだったん
だろうなと思わせる。
他の短編も身近な「ああ、あるよねこういうこと」というテーマを、鋭い
目線で切り取ってユーモアで包んで表現しており、ああ大人だな、と思う。
ただ、愛知県に住んだこともなければ知人もおらず、全く土地勘もないため、
「愛知妖怪辞典」の魅力を存分に味わえなかったのは残念であります。
「バールのようなもの」 清水 義範 ★★★★
この著者も初めてですが、うーむ。
連作短編集ですが、全編を通して「音楽」がテーマになっています。
最初の短編、なかなかいいなぁと思って読み進めましたが、最後に(読者に
対して)そこまでストレートに明示しなくても、せっかく連作であるの
だから他の短編を通して彼女の素性を透かして見せてもよかったのでは、
と思うのです。そもそも「きっとそうなんじゃなかしら」と思って読んで
いたところにあまりにもストレートに明かされるものだからちょっと
鼻白んでしまったというか。
ほかの短編も、悪くはないんですがもうちょっと深みが欲しいと思って
しまうのであります。全体的にちょっと都合が良いようにも感じるし…。
何というか最近流行りのハートウォーミングってやつなんでしょうかね。
決して悪くはないと思うのですが、個人的な好みとして、静かな中にも「どすん」とか
「がつん」とか迫る物を求めてしまうのであります。
「うたうひと」 小路 幸也 ★★★
連作短編集ですが、全編を通して「音楽」がテーマになっています。
最初の短編、なかなかいいなぁと思って読み進めましたが、最後に(読者に
対して)そこまでストレートに明示しなくても、せっかく連作であるの
だから他の短編を通して彼女の素性を透かして見せてもよかったのでは、
と思うのです。そもそも「きっとそうなんじゃなかしら」と思って読んで
いたところにあまりにもストレートに明かされるものだからちょっと
鼻白んでしまったというか。
ほかの短編も、悪くはないんですがもうちょっと深みが欲しいと思って
しまうのであります。全体的にちょっと都合が良いようにも感じるし…。
何というか最近流行りのハートウォーミングってやつなんでしょうかね。
決して悪くはないと思うのですが、個人的な好みとして、静かな中にも「どすん」とか
「がつん」とか迫る物を求めてしまうのであります。
「うたうひと」 小路 幸也 ★★★
この作家の作品は初めて読みましたが、とても文章が上手い作家ですね。
真っ当で読みやすい文章というのは、実は結構難しいものであると思う。
探偵物の連作ですが、タイトルにもあるとおりそういう組織の方々と
密接に関係しながら、いろんな事件…というよりトラブルに巻き込まれて
いきます。
この探偵が決してカッコイイわけではないところが魅力のひとつ。
そしてこの探偵をとりまく人たちの人物描写がよくできていて、例えば
最初の話では単なる嫌なヤツだった刑事の全く違う一面を、続く話の
なかで無理のない構成で展開していたり、人間の多面性みたいなものが
上手く現れています。
どの短編も結末はもちろん、パターンも全く違っていてとても楽しめます。
1点だけ挙げるとしたら、主人公である探偵の背景や原点心理みたいなものを、チラ見せでも
いいから出して欲しかったかも。
でもエンターテインメント小説としてかなり上質な作品だと思います。
「恋する組長」 笹本 稜平 ★★★
真っ当で読みやすい文章というのは、実は結構難しいものであると思う。
探偵物の連作ですが、タイトルにもあるとおりそういう組織の方々と
密接に関係しながら、いろんな事件…というよりトラブルに巻き込まれて
いきます。
この探偵が決してカッコイイわけではないところが魅力のひとつ。
そしてこの探偵をとりまく人たちの人物描写がよくできていて、例えば
最初の話では単なる嫌なヤツだった刑事の全く違う一面を、続く話の
なかで無理のない構成で展開していたり、人間の多面性みたいなものが
上手く現れています。
どの短編も結末はもちろん、パターンも全く違っていてとても楽しめます。
1点だけ挙げるとしたら、主人公である探偵の背景や原点心理みたいなものを、チラ見せでも
いいから出して欲しかったかも。
でもエンターテインメント小説としてかなり上質な作品だと思います。
「恋する組長」 笹本 稜平 ★★★
現代の中学生男女、そして小学生の男の子が、源平の時代に飛ば
されてしまい、巴御前と武蔵坊弁慶、そして北条義時として生きて
いくことになるタイムトラベルものです。
史実の隙間を見事な想像力と構成で埋めていきます。安徳帝が女性
だったりなど大胆な設定も結構ありますが、どれも無理なく繋げて
いるところは見事。
また、タイムトラベルした3人のうちのひとりが「北条義時」という
マニアックな選択にもしびれます。
「史実の隙間」という言い方をしましたが、それが本当に矛盾なく、ああ、そういうことだった
可能性もあるのではないか、とまで思わせる完成度の高さ。しかしまあ歴史物には特に重箱の隅
をつつく人もいるので、好みの別れるところなのかもしれません。
テーマは「時」と「想い」でしょうか。
「運命に逆らう事は出来ない」、言い方を変えれば「ひとにはそれぞれの役割がある」。
それらを変える事、時を止める事は出来ないけれどしかし、それ(運命/役割)に「想い」を
のせることは出来る。その「想いをのせる」ということこそ、「生きる/生きた」ということ
なのだ、という感じかな。
以下ちょっとネタバレですが。
ともえと武蔵の最後の別離の際(これ以前の義仲の最期の時と同様)ともえには武蔵に義仲が
重なって見えたということ、これこそが「時にのせた想い」なのかなと、そんな風に思うので
ありました。
「君の名残を(上)」「君の名残を(下)」 浅倉 卓弥 ★★★★★
されてしまい、巴御前と武蔵坊弁慶、そして北条義時として生きて
いくことになるタイムトラベルものです。
史実の隙間を見事な想像力と構成で埋めていきます。安徳帝が女性
だったりなど大胆な設定も結構ありますが、どれも無理なく繋げて
いるところは見事。
また、タイムトラベルした3人のうちのひとりが「北条義時」という
マニアックな選択にもしびれます。
「史実の隙間」という言い方をしましたが、それが本当に矛盾なく、ああ、そういうことだった
可能性もあるのではないか、とまで思わせる完成度の高さ。しかしまあ歴史物には特に重箱の隅
をつつく人もいるので、好みの別れるところなのかもしれません。
テーマは「時」と「想い」でしょうか。
「運命に逆らう事は出来ない」、言い方を変えれば「ひとにはそれぞれの役割がある」。
それらを変える事、時を止める事は出来ないけれどしかし、それ(運命/役割)に「想い」を
のせることは出来る。その「想いをのせる」ということこそ、「生きる/生きた」ということ
なのだ、という感じかな。
以下ちょっとネタバレですが。
ともえと武蔵の最後の別離の際(これ以前の義仲の最期の時と同様)ともえには武蔵に義仲が
重なって見えたということ、これこそが「時にのせた想い」なのかなと、そんな風に思うので
ありました。
「君の名残を(上)」「君の名残を(下)」 浅倉 卓弥 ★★★★★
尊厳死がテーマですね。
難しいテーマに正面から挑んでいるのはとてもいいですね。
ミステリ仕立て、なのかな。
婚約者がある日突然事故で植物状態となり、家族や婚約者が、尊厳死を巡って
苦悩し、そして…。というものですが。
日頃から、万が一そういう事態に遭遇した場合について家族もしくは近しい人と
話しておく事はとても大切なのだと、これを読むと思うのですが、一方で、人の
心なんて当然変わるわけだし、なにより平時に想像するのと、実際にそういう
非常事態に直面した時とでは考えが180度ひっくり返るなんてことも
あるんじゃないかと。そう考えるとほんと難しいですね。
尊厳死を語るという事は同時に「生」を語るという事だとおもうのですが、
そのあたりがちょっと物足りないかなぁ。
そして何より。ぶつ切れの文章、貧弱でリアルさを感じられない感情表現、強引すぎる展開、
極端な感情暴走などが、ちょっとなぁ。
コンセプトとストーリィだけで突っ走ってしまったように見受けます。とくに、このような
事態に直面した際の感情表現の貧弱さが返す返すも惜しい。ストーリーテラー、もしくは
問題提起としては良いけど、残念ながら「文学」のレベルには至っていないように感じます。
勿体ないなぁ。
「無言の旅人」 仙川 環 ★★★
難しいテーマに正面から挑んでいるのはとてもいいですね。
ミステリ仕立て、なのかな。
婚約者がある日突然事故で植物状態となり、家族や婚約者が、尊厳死を巡って
苦悩し、そして…。というものですが。
日頃から、万が一そういう事態に遭遇した場合について家族もしくは近しい人と
話しておく事はとても大切なのだと、これを読むと思うのですが、一方で、人の
心なんて当然変わるわけだし、なにより平時に想像するのと、実際にそういう
非常事態に直面した時とでは考えが180度ひっくり返るなんてことも
あるんじゃないかと。そう考えるとほんと難しいですね。
尊厳死を語るという事は同時に「生」を語るという事だとおもうのですが、
そのあたりがちょっと物足りないかなぁ。
そして何より。ぶつ切れの文章、貧弱でリアルさを感じられない感情表現、強引すぎる展開、
極端な感情暴走などが、ちょっとなぁ。
コンセプトとストーリィだけで突っ走ってしまったように見受けます。とくに、このような
事態に直面した際の感情表現の貧弱さが返す返すも惜しい。ストーリーテラー、もしくは
問題提起としては良いけど、残念ながら「文学」のレベルには至っていないように感じます。
勿体ないなぁ。
「無言の旅人」 仙川 環 ★★★
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