本はごはん。
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なかなか面白かったです。
もともとは「通い婚」時代が長かった日本ですが、武家社会になって
男性が「家」を継ぐ風習となり、「家」つまり「経営」継承のための
「お世継ぎ」施策を中心に、主に江戸時代の文化や統治システムの
一端を紹介しています。
ただ、同じ江戸時代であっても、武家は長男が家督相続、しかし商家では
娘に働き者の婿をとって相続、というのが一般的であったなど、とにかく
江戸時代の様々なことが羅列されてる、というのが正直な印象。
つまり、構成のしかたに難があるというか、話はあちこちに飛んで飛んだまま
帰ってこず、江戸時代についての散文を読んでいるかのような印象を受けます。
このタイトルで出すなら「お世継ぎの作り方と統治システム」について、もっちゃんと纏めて
体系立てて展開して欲しかったようにおもいます。
また、ときどき「えっ?」とおもう日本語(特に接続詞や助詞)があって、たびたび読書の
リズムを乱される。
あと、断定表現が多いんですが、そう断定するにはいささか根拠提示が薄いのでは…
と思うところも数カ所。
まあ、江戸時代についての雑学、という風に思えば面白いんですけどね。
せっかくのネタなので、ちゃんとまとめ上げればもっと面白いんじゃないかと
思うんですけれども。
「お世継ぎのつくりかた 大奥から長屋まで 江戸の性と統治システム」 鈴木 理生 ★★★
もともとは「通い婚」時代が長かった日本ですが、武家社会になって
男性が「家」を継ぐ風習となり、「家」つまり「経営」継承のための
「お世継ぎ」施策を中心に、主に江戸時代の文化や統治システムの
一端を紹介しています。
ただ、同じ江戸時代であっても、武家は長男が家督相続、しかし商家では
娘に働き者の婿をとって相続、というのが一般的であったなど、とにかく
江戸時代の様々なことが羅列されてる、というのが正直な印象。
つまり、構成のしかたに難があるというか、話はあちこちに飛んで飛んだまま
帰ってこず、江戸時代についての散文を読んでいるかのような印象を受けます。
このタイトルで出すなら「お世継ぎの作り方と統治システム」について、もっちゃんと纏めて
体系立てて展開して欲しかったようにおもいます。
また、ときどき「えっ?」とおもう日本語(特に接続詞や助詞)があって、たびたび読書の
リズムを乱される。
あと、断定表現が多いんですが、そう断定するにはいささか根拠提示が薄いのでは…
と思うところも数カ所。
まあ、江戸時代についての雑学、という風に思えば面白いんですけどね。
せっかくのネタなので、ちゃんとまとめ上げればもっと面白いんじゃないかと
思うんですけれども。
「お世継ぎのつくりかた 大奥から長屋まで 江戸の性と統治システム」 鈴木 理生 ★★★
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短編集です。
どれも部屋の中のお話。
心理描写が上手いですね。特に、本のタイトルにもなっている2編目。
恋の始まりに戸惑い疑い期待し不安になる女性心理を、ぎりぎりの文章で
上手く表現していると思います。
この著者、「イトウの恋」 にしても、「冠・婚・葬・祭」にしても、
そしてこの本にしても、『シチュエーション作家』と言いたくなりますが、
それは他の作品を読んでからにしましょう。
そして、どれも悪くないのですが、なんとなくもう一声というか、
もうちょっと読み応えを、と思ってしまうのは活字中毒者の欲でしょうか。
この著者の短編は、良くも悪くも読み易すぎるように感じてしまうので
あります。
もうすこし毒があったり、ずっしりと残ったり、喉の奥に刺さった魚の小骨のような、
そんな読後感を残すものを、長編でもいいので、もうすこしどっしりしたものを所望したい。
「さようなら、コタツ」 中島 京子 ★★★
どれも部屋の中のお話。
心理描写が上手いですね。特に、本のタイトルにもなっている2編目。
恋の始まりに戸惑い疑い期待し不安になる女性心理を、ぎりぎりの文章で
上手く表現していると思います。
この著者、「イトウの恋」 にしても、「冠・婚・葬・祭」にしても、
そしてこの本にしても、『シチュエーション作家』と言いたくなりますが、
それは他の作品を読んでからにしましょう。
そして、どれも悪くないのですが、なんとなくもう一声というか、
もうちょっと読み応えを、と思ってしまうのは活字中毒者の欲でしょうか。
この著者の短編は、良くも悪くも読み易すぎるように感じてしまうので
あります。
もうすこし毒があったり、ずっしりと残ったり、喉の奥に刺さった魚の小骨のような、
そんな読後感を残すものを、長編でもいいので、もうすこしどっしりしたものを所望したい。
「さようなら、コタツ」 中島 京子 ★★★
もうこのシリーズはですね、「バチスタ・シリーズ」同様、出たら読むしか
ないかと。
とにかく安心して読めます。
今回は思い人の母親が出てきたり、幼なじみが吉原に身を沈めることになった
経緯などがすこし明かされたりしながら、主人公の料理人としての成長が
引き続き描かれています。
物語はすこしずつすこしずつ進んでいく感じで、主役は「人情」や「想い」の
ような、登場人物たちもすべて脇役のような、そんな感じまでしてきます。
このまま大河ドラマのようになっていくのでしょうか。
どうやって終わりにするんでしょうか、めでたしめでたしなんでしょうか。
話は逸れるのですが、この作家は現代物は書かないのでしょうか。
現代物を書いたらどんな風になるのだろう。とても興味があります。
「猫鳴り」 高田 郁 ★★★
ないかと。
とにかく安心して読めます。
今回は思い人の母親が出てきたり、幼なじみが吉原に身を沈めることになった
経緯などがすこし明かされたりしながら、主人公の料理人としての成長が
引き続き描かれています。
物語はすこしずつすこしずつ進んでいく感じで、主役は「人情」や「想い」の
ような、登場人物たちもすべて脇役のような、そんな感じまでしてきます。
このまま大河ドラマのようになっていくのでしょうか。
どうやって終わりにするんでしょうか、めでたしめでたしなんでしょうか。
話は逸れるのですが、この作家は現代物は書かないのでしょうか。
現代物を書いたらどんな風になるのだろう。とても興味があります。
「猫鳴り」 高田 郁 ★★★
やっぱりこの作家はすごい。
人間の抱える負の感情というか、自分の内側で発酵し、どす黒く渦を巻く毒、
そんなものの描写がもの抜群に上手い。
更にそれは、読んでいて思わず嫌悪感を感じるほどなのにも拘わらず、
それでもぐいぐいと先を読ませる筆力もすごい。
猫の姿を描写することによって浮き彫りにされる人間の抱える空虚さや絶望。
猫とともにあることによって、
子を失った哀しみを、
訳の分からない自分自身と混沌としたこの世の中を、
そして近づきつつある人生の終焉を、
そういった様々なことを受け入れていく、受容のストーリーなのだと思います。
もっとどんどん書いてくれないかしら。
「猫鳴り」 沼田 まほかる ★★★★★
人間の抱える負の感情というか、自分の内側で発酵し、どす黒く渦を巻く毒、
そんなものの描写がもの抜群に上手い。
更にそれは、読んでいて思わず嫌悪感を感じるほどなのにも拘わらず、
それでもぐいぐいと先を読ませる筆力もすごい。
猫の姿を描写することによって浮き彫りにされる人間の抱える空虚さや絶望。
猫とともにあることによって、
子を失った哀しみを、
訳の分からない自分自身と混沌としたこの世の中を、
そして近づきつつある人生の終焉を、
そういった様々なことを受け入れていく、受容のストーリーなのだと思います。
もっとどんどん書いてくれないかしら。
「猫鳴り」 沼田 まほかる ★★★★★
この著者の作品は初めてです。作家自体、知らなかった。
驚いた。
被爆体験のないこの著者が描き出す被爆文学は、戦争体験を持たない
古処誠二が見事な戦争文学を著しているのと同様、完成度がものすごく高い。
6編の短編からなっていますが、どれもテーマは「信仰と苦難」では
ないかと。
苦難のベースには原爆という「非日常」の苦難があり、そしてそれぞれに
肉欲に振り回される苦難であったり子供を亡くした苦難であったり、愛憎で
あったり、つまりは「日常の苦難」。
それらの「苦悩」に対し「祈り(信仰)」は、固まったり揺れ動いたり、
疑ったりそして失ったり。
特に最後の作品がとても深い。この主人公の省察には、とても考えさせられるものが
あります。
真っ当な小説。著者買いリスト入り決定。
「爆心」 青来 有一 ★★★★★
驚いた。
被爆体験のないこの著者が描き出す被爆文学は、戦争体験を持たない
古処誠二が見事な戦争文学を著しているのと同様、完成度がものすごく高い。
6編の短編からなっていますが、どれもテーマは「信仰と苦難」では
ないかと。
苦難のベースには原爆という「非日常」の苦難があり、そしてそれぞれに
肉欲に振り回される苦難であったり子供を亡くした苦難であったり、愛憎で
あったり、つまりは「日常の苦難」。
それらの「苦悩」に対し「祈り(信仰)」は、固まったり揺れ動いたり、
疑ったりそして失ったり。
特に最後の作品がとても深い。この主人公の省察には、とても考えさせられるものが
あります。
真っ当な小説。著者買いリスト入り決定。
「爆心」 青来 有一 ★★★★★
タイトル通り、冠婚葬祭に関連した4つの連作短編集です。
冠婚葬祭というのは儀礼儀式の最たるものでありますが、世の中の変遷と共に
従来のありかたから変化を余儀なくされて来ているものでもあります。
それは例えば、成人式であれば出席率の低下、結婚であればお見合い結婚自体
の減少や、お見合いもビジネスとして業者が仕切るようになっていたり、
お葬式であれば生前葬や無宗教葬など、そして「お盆」という行事の簡略化、
などでしょう。
つまり、世の中の変遷とはコミュニティやコミュニケーションの在り方の
変化であって、それに付随して冠婚葬祭の在り方も変わらざるを得なかったと
いうことなのだと思います。
なかなかに面白い視点で描かれており、「冠婚葬祭」を通して現代というものをよく表現して
いると思う。
とても読みやすいのは内容や文章だけでなく、大きい級数で行間も大きく空いていて正直なところ
内容的にもボリューム的にももうちょっと詰め込んで欲しかったというか、もう一声読み応えが
欲しかったというか。
「冠・婚・葬・祭」 中島 京子 ★★★
冠婚葬祭というのは儀礼儀式の最たるものでありますが、世の中の変遷と共に
従来のありかたから変化を余儀なくされて来ているものでもあります。
それは例えば、成人式であれば出席率の低下、結婚であればお見合い結婚自体
の減少や、お見合いもビジネスとして業者が仕切るようになっていたり、
お葬式であれば生前葬や無宗教葬など、そして「お盆」という行事の簡略化、
などでしょう。
つまり、世の中の変遷とはコミュニティやコミュニケーションの在り方の
変化であって、それに付随して冠婚葬祭の在り方も変わらざるを得なかったと
いうことなのだと思います。
なかなかに面白い視点で描かれており、「冠婚葬祭」を通して現代というものをよく表現して
いると思う。
とても読みやすいのは内容や文章だけでなく、大きい級数で行間も大きく空いていて正直なところ
内容的にもボリューム的にももうちょっと詰め込んで欲しかったというか、もう一声読み応えが
欲しかったというか。
「冠・婚・葬・祭」 中島 京子 ★★★
びっくりした。
これは本当に桂望実の著作なのか(決して良い意味ではない)。
どうしちゃったんだろう…。
20代、30代、40代の4人の女性の、それぞれの葛藤のストーリィ。
ステレオタイプな「幸せな結婚」を目指して合コンに奔走するOLや、
同級生と比べて不安になる専業主婦、一人に馴れすぎて結婚を躊躇する
バリキャリなど…なんですけど。
この著作は単行本の段階では「女たちの内戦」というタイトルでしたが、
「内戦」というには情けなさ過ぎる内容。幸せを求めての内戦、なのかも
しれませんが、実際は、メディアや他人の幸せな結婚生活のいいとこ取り
をしようとじたばたしているだけであったり、結局の所、気楽な現状維持
に流されたいだけなのにその言い訳作りに一生懸命であったり、
それで「内戦」とはまあびっくりです。
今回のタイトル「あと少し、幸せになれるとしたら」なのだとしても、幸せは降ってくるもの、
一方的に与えられるもの、と信じて疑わないのは良いけれど、ちゃんと自分の頭で幸せを
考えもせずあーだこうだと言い訳ばかり連ねられて、これじゃ「女の欲望狂想曲」じゃないのか。
年齢に拘わらず、いくつになっても女には葛藤(内戦)があるものだということを言いたかったの
かもしれませんが、根本を変えない限り、何を手に入れたところで「こんなはずじゃ」とか
「これで良かったのか」とか、きりがないんじゃないでしょうか。
現代女性は、さほどまでに自己を失ってしまったのでしょうか。
「もしも、あと少し、幸せになれるとしたら。」 桂 望実 ★★
これは本当に桂望実の著作なのか(決して良い意味ではない)。
どうしちゃったんだろう…。
20代、30代、40代の4人の女性の、それぞれの葛藤のストーリィ。
ステレオタイプな「幸せな結婚」を目指して合コンに奔走するOLや、
同級生と比べて不安になる専業主婦、一人に馴れすぎて結婚を躊躇する
バリキャリなど…なんですけど。
この著作は単行本の段階では「女たちの内戦」というタイトルでしたが、
「内戦」というには情けなさ過ぎる内容。幸せを求めての内戦、なのかも
しれませんが、実際は、メディアや他人の幸せな結婚生活のいいとこ取り
をしようとじたばたしているだけであったり、結局の所、気楽な現状維持
に流されたいだけなのにその言い訳作りに一生懸命であったり、
それで「内戦」とはまあびっくりです。
今回のタイトル「あと少し、幸せになれるとしたら」なのだとしても、幸せは降ってくるもの、
一方的に与えられるもの、と信じて疑わないのは良いけれど、ちゃんと自分の頭で幸せを
考えもせずあーだこうだと言い訳ばかり連ねられて、これじゃ「女の欲望狂想曲」じゃないのか。
年齢に拘わらず、いくつになっても女には葛藤(内戦)があるものだということを言いたかったの
かもしれませんが、根本を変えない限り、何を手に入れたところで「こんなはずじゃ」とか
「これで良かったのか」とか、きりがないんじゃないでしょうか。
現代女性は、さほどまでに自己を失ってしまったのでしょうか。
「もしも、あと少し、幸せになれるとしたら。」 桂 望実 ★★
実はこの著者の作品は、今まで何度も店頭で手にしては、しかし何故か
読むことがなかったのであります。しかし。今回は。
「ジュリー」と言われれば避けて通れない。あのジュリーのバラードの名曲
「おまえがパラダイス」から取ったとしか思えないこのタイトルの本を
読まないわけにはいかない。のであります。
更年期を迎えた女性たち4人の、それぞれのストーリィです。共通している
のはジュリーのファンであるといるということ。
身体的変調が顕著に表れ、今までの人生、自分の生き方を振り返らざるを
得なくなります。この本の良いところは、女性たちが主人公であるからか、
それとも著者がそういう性格なのか、身の上に降りかかった不幸を嘆き
ながらも自分のいままでの生き方にきちんと対峙して前向きに歩き出す
ところかな。
更に、女性の心情描写がかなりリアル。ここに出てくる女性たちの年齢に至るのは私にはまだ
それなりの時間がかかるのだけれど、それでもリアルだと思う。そしてそのリアルさが
嫌らしくなく描かれているのは著者の筆力かそれともその眼差しの暖かさか。
結婚したってしなくったって、子供がいたっていなくたって、離婚したってしなくたって、
仕事の転換期だの子供のことだの夫との関係だの親の介護だの、いろいろあるところへ更年期。
しかし考えてみると、身体の不調によって一度立ち止まらざるを得ず、立ち止まることによって
いろいろ考える時間を与えられるのが更年期という時なのかもしれません。
ああそれにしてもジュリー。いまだかつて、この人以上の艶っぽい声、妖艶な美をもつ人が
現れないくらい圧倒的な存在であります。
ああ久しぶりにDVDを見よう。
「あなたがパラダイス」 平 安寿子 ★★★
読むことがなかったのであります。しかし。今回は。
「ジュリー」と言われれば避けて通れない。あのジュリーのバラードの名曲
「おまえがパラダイス」から取ったとしか思えないこのタイトルの本を
読まないわけにはいかない。のであります。
更年期を迎えた女性たち4人の、それぞれのストーリィです。共通している
のはジュリーのファンであるといるということ。
身体的変調が顕著に表れ、今までの人生、自分の生き方を振り返らざるを
得なくなります。この本の良いところは、女性たちが主人公であるからか、
それとも著者がそういう性格なのか、身の上に降りかかった不幸を嘆き
ながらも自分のいままでの生き方にきちんと対峙して前向きに歩き出す
ところかな。
更に、女性の心情描写がかなりリアル。ここに出てくる女性たちの年齢に至るのは私にはまだ
それなりの時間がかかるのだけれど、それでもリアルだと思う。そしてそのリアルさが
嫌らしくなく描かれているのは著者の筆力かそれともその眼差しの暖かさか。
結婚したってしなくったって、子供がいたっていなくたって、離婚したってしなくたって、
仕事の転換期だの子供のことだの夫との関係だの親の介護だの、いろいろあるところへ更年期。
しかし考えてみると、身体の不調によって一度立ち止まらざるを得ず、立ち止まることによって
いろいろ考える時間を与えられるのが更年期という時なのかもしれません。
ああそれにしてもジュリー。いまだかつて、この人以上の艶っぽい声、妖艶な美をもつ人が
現れないくらい圧倒的な存在であります。
ああ久しぶりにDVDを見よう。
「あなたがパラダイス」 平 安寿子 ★★★
初期の作品の復刻版のようです。
初期の作品とはいえ、文章がうまいなぁ。
兵舎から落下傘を拝借し、それを隠すために戦闘機に火をつけ、更にそれを
隠すためについには脱走し、飯場を渡り歩くはめになった少年兵の話です。
彼は死刑を畏れ、死刑から逃れるために逃亡するのですが、つまりそれは
「戦争」からの逃亡であって、従って逃亡しきれるものではなかったという
ことなのでしょう。実際に彼は終戦後今度は日本占領軍の支配下に置かれ
本当に自由を手にしたのは終戦から5年も経ってからなのであるから。
世の中が狂気に包まれていく時、「逃げる」という選択肢しかないというか
「逃げる」というのはもしかしたら本能なのかもしれません。
「逃亡<新装版>」 吉村 昭 ★★★
初期の作品とはいえ、文章がうまいなぁ。
兵舎から落下傘を拝借し、それを隠すために戦闘機に火をつけ、更にそれを
隠すためについには脱走し、飯場を渡り歩くはめになった少年兵の話です。
彼は死刑を畏れ、死刑から逃れるために逃亡するのですが、つまりそれは
「戦争」からの逃亡であって、従って逃亡しきれるものではなかったという
ことなのでしょう。実際に彼は終戦後今度は日本占領軍の支配下に置かれ
本当に自由を手にしたのは終戦から5年も経ってからなのであるから。
世の中が狂気に包まれていく時、「逃げる」という選択肢しかないというか
「逃げる」というのはもしかしたら本能なのかもしれません。
「逃亡<新装版>」 吉村 昭 ★★★
実際にあった事件をもとに、その背景を小説化したものです。
上手いなぁ、と思うんですけどね。やっぱりこの著者とは合わないような。
それは例えば、1編目からスジもオチも読めてしまうからとか、そういうこと
ではないと思うんだけど。
なんというか、この著者は女の愚かさみたいなものを描かせたらピカイチ
なのかもしれない、と思います。ただその「愚かな女」のパターンがいつも
似通っているような気がするからかもしれません。
友人はもちろん姉妹、母娘という女同士関係で、自分と相手とを比べて浸る
優越感とその上に築かれる相手への同情、それらによってしか今の自分を
肯定できない、そんなパターン。それがどうも私にはしっくり来ないのかも
しれない。
その気持ちは理解できないワケじゃないけど、そんなにみんな比べてばっかりいるのかな。
相対的なものでしか自分を肯定する手段を持たないのって、不安じゃないのかな。
正直なところ、このパターンが繰り返されるとちょっとうんざりしてくる。
好みの問題だと思いますすいません。
「三面記事小説」 角田 光代 ★★
上手いなぁ、と思うんですけどね。やっぱりこの著者とは合わないような。
それは例えば、1編目からスジもオチも読めてしまうからとか、そういうこと
ではないと思うんだけど。
なんというか、この著者は女の愚かさみたいなものを描かせたらピカイチ
なのかもしれない、と思います。ただその「愚かな女」のパターンがいつも
似通っているような気がするからかもしれません。
友人はもちろん姉妹、母娘という女同士関係で、自分と相手とを比べて浸る
優越感とその上に築かれる相手への同情、それらによってしか今の自分を
肯定できない、そんなパターン。それがどうも私にはしっくり来ないのかも
しれない。
その気持ちは理解できないワケじゃないけど、そんなにみんな比べてばっかりいるのかな。
相対的なものでしか自分を肯定する手段を持たないのって、不安じゃないのかな。
正直なところ、このパターンが繰り返されるとちょっとうんざりしてくる。
好みの問題だと思いますすいません。
「三面記事小説」 角田 光代 ★★
青春小説、ですかね。
ある事件をきっかけに、住んでいる団地の敷地内から出られなくなって
しまった男の子が主人公です。彼は小学校卒業と同時に、中学校へは通わず
団地に引きこもったまま成長していきます。
何故引きこもってしまったのか、何故執拗なまでに体を鍛えるのか、何故
パトロールを…というあたりは読み進めるにつれて明らかになっていきます
が、うーん、なんだろう。悪くないんですけどね…。
ちょっと冗長気味かなぁ。
団地の過疎化とか外国人問題とかまあいろいろ世相を反映しているところも
悪くないんだけれどなんとなく物足りなさが残るのは何故かしら。
やっぱり好みの問題かもしれません。
「みなさん、さようなら」 久保寺 健彦 ★★★
ある事件をきっかけに、住んでいる団地の敷地内から出られなくなって
しまった男の子が主人公です。彼は小学校卒業と同時に、中学校へは通わず
団地に引きこもったまま成長していきます。
何故引きこもってしまったのか、何故執拗なまでに体を鍛えるのか、何故
パトロールを…というあたりは読み進めるにつれて明らかになっていきます
が、うーん、なんだろう。悪くないんですけどね…。
ちょっと冗長気味かなぁ。
団地の過疎化とか外国人問題とかまあいろいろ世相を反映しているところも
悪くないんだけれどなんとなく物足りなさが残るのは何故かしら。
やっぱり好みの問題かもしれません。
「みなさん、さようなら」 久保寺 健彦 ★★★
遙か昔、児島襄の「東京裁判」を読んだことがあるのだけれど
もう記憶も定かではないので読んでみる。
東京裁判の全容を上手く纏めたダイジェスト版、という感じです。全体を
さらいたい場合にはいいかもしれません。が、詳細を深掘りしたい場合は
更に他の本にあたる必要があります。
裁判自体がかなり不公正であったことは明記されています。それは例えば、
和解済み決着済みであったはずの過去の事件まで裁判対象とされたり、
なにより事後法を適用するなど、また裁判官(つまりは戦勝国)側の
感情的な理論なども、まったく読んでいて気分の良いものではないですが、
知っておくべきことなのだと思います。
1点引っかかるのは、「不公正な裁判であったが、この裁判によって明らかになった事件
(南京大虐殺など)があるのだから、評価できる」という著者の意見。
確かに裁判によって明らかになった事件があることは事実だと思います。が、事実を明らかに
するために誰かの権利が犠牲となるのはおかしいんじゃないか。
事実が明らかになったからといって、不公正な裁判を認めるわけにはいかないんじゃないか。
あくまで公正な裁判をしつつ、事実を明らかにしていくべきなんじゃないかと、
理想論だと言われようとなんだろうと、そう思うんですけれどね。
「東京裁判の全貌」 平塚 柾緒 ★★★
もう記憶も定かではないので読んでみる。
東京裁判の全容を上手く纏めたダイジェスト版、という感じです。全体を
さらいたい場合にはいいかもしれません。が、詳細を深掘りしたい場合は
更に他の本にあたる必要があります。
裁判自体がかなり不公正であったことは明記されています。それは例えば、
和解済み決着済みであったはずの過去の事件まで裁判対象とされたり、
なにより事後法を適用するなど、また裁判官(つまりは戦勝国)側の
感情的な理論なども、まったく読んでいて気分の良いものではないですが、
知っておくべきことなのだと思います。
1点引っかかるのは、「不公正な裁判であったが、この裁判によって明らかになった事件
(南京大虐殺など)があるのだから、評価できる」という著者の意見。
確かに裁判によって明らかになった事件があることは事実だと思います。が、事実を明らかに
するために誰かの権利が犠牲となるのはおかしいんじゃないか。
事実が明らかになったからといって、不公正な裁判を認めるわけにはいかないんじゃないか。
あくまで公正な裁判をしつつ、事実を明らかにしていくべきなんじゃないかと、
理想論だと言われようとなんだろうと、そう思うんですけれどね。
「東京裁判の全貌」 平塚 柾緒 ★★★
何ともこの著者っぽいですね…。
じんわりくるもの、シュールなもの、おもわず笑っちゃうようなもの、
ちょっと怖いもの、いろんな短編がてんこ盛りです。
タイトルにもなっている1編目はタイムトラベルものですが、パラドックス
問題を完全にとはいえないまでも、上手く処理していると思います。
「時の風」というネーミングがセンス良いと思います。
個人的には「ミカ」というタイトルの猫の話がなんともいいです。
家族からもちょっと疎外されつつある中年おやじと、ねこ。このビミョーな
組み合わせ。ねこの魅力も端的に表現されていると思います。
全編通して、それこそ笑っちゃうような短編でもほんのりした切なさが
漂っているのがこの著者の特徴でしょうか。
しかしもう一声。を期待したいのであります。
「時の“風”に吹かれて」 梶尾 真治 ★★★
じんわりくるもの、シュールなもの、おもわず笑っちゃうようなもの、
ちょっと怖いもの、いろんな短編がてんこ盛りです。
タイトルにもなっている1編目はタイムトラベルものですが、パラドックス
問題を完全にとはいえないまでも、上手く処理していると思います。
「時の風」というネーミングがセンス良いと思います。
個人的には「ミカ」というタイトルの猫の話がなんともいいです。
家族からもちょっと疎外されつつある中年おやじと、ねこ。このビミョーな
組み合わせ。ねこの魅力も端的に表現されていると思います。
全編通して、それこそ笑っちゃうような短編でもほんのりした切なさが
漂っているのがこの著者の特徴でしょうか。
しかしもう一声。を期待したいのであります。
「時の“風”に吹かれて」 梶尾 真治 ★★★
執事小説。
というジャンルがあるのかどうか知りませんが、とにかく執事小説です。
相変わらず、上手いなぁと唸らせる構成と文章(翻訳の力も大きい)。
透明な世界観を立ち上らせる文章に、近い過去、現在、遠い過去と縦横無尽に
行き交いながらもなんのストレスも感じさせず、ストーリィにぐいぐい引き
こんでいく構成。
英国の正統派執事として長年主人に仕え、今は屋敷ごと買い取られ、
アメリカ人の主人に仕えている主人公。その設定からしてすでに予感させる
ものがありますが、彼が情熱をもって仕えてきた主人、勤めてきた執事という
仕事、つまり彼の今までの人生について晩年になって正面から向きあう、
というものです。
彼が今までに手に入れたもの。その代わりに失ったもの。
失ったことすら気付かなかったもの。そして、手に入れたと思っていたものが実は幻だったかも
しれないこと。
しかしストーリィはとても軽妙に、絶妙な面白味をあちこちにちりばめながら進んでいくので
決して重苦しいわけではないのですが、それだけにこの切ない哀しみがより一層深く心に響いて
くるのでしょう。
それでもラストで彼は、新しい主人であるアメリカ人のために、ジョークを習得しようと前向き
なのがすこしの救いでありますが、それに対しても「まじめに取り組む」という彼のやり方を
変えられないところが、おかしみと哀しみを上手く表現していると思います。
「彼自身」と、そして彼のような執事が活躍していた「古き良き時代の英国」の夕暮れ
(なにしろアメリカ人が執事ごと屋敷を買い取る時代になってしまったのだから)の両方を
重ね合わせたタイトルも秀逸。
ストーリーにも設定にも奇抜なところは全くないのですが、透き通った哀しみが心に残る作品
だと思います。
「日の名残り」 カズオ イシグロ ★★★★
というジャンルがあるのかどうか知りませんが、とにかく執事小説です。
相変わらず、上手いなぁと唸らせる構成と文章(翻訳の力も大きい)。
透明な世界観を立ち上らせる文章に、近い過去、現在、遠い過去と縦横無尽に
行き交いながらもなんのストレスも感じさせず、ストーリィにぐいぐい引き
こんでいく構成。
英国の正統派執事として長年主人に仕え、今は屋敷ごと買い取られ、
アメリカ人の主人に仕えている主人公。その設定からしてすでに予感させる
ものがありますが、彼が情熱をもって仕えてきた主人、勤めてきた執事という
仕事、つまり彼の今までの人生について晩年になって正面から向きあう、
というものです。
彼が今までに手に入れたもの。その代わりに失ったもの。
失ったことすら気付かなかったもの。そして、手に入れたと思っていたものが実は幻だったかも
しれないこと。
しかしストーリィはとても軽妙に、絶妙な面白味をあちこちにちりばめながら進んでいくので
決して重苦しいわけではないのですが、それだけにこの切ない哀しみがより一層深く心に響いて
くるのでしょう。
それでもラストで彼は、新しい主人であるアメリカ人のために、ジョークを習得しようと前向き
なのがすこしの救いでありますが、それに対しても「まじめに取り組む」という彼のやり方を
変えられないところが、おかしみと哀しみを上手く表現していると思います。
「彼自身」と、そして彼のような執事が活躍していた「古き良き時代の英国」の夕暮れ
(なにしろアメリカ人が執事ごと屋敷を買い取る時代になってしまったのだから)の両方を
重ね合わせたタイトルも秀逸。
ストーリーにも設定にも奇抜なところは全くないのですが、透き通った哀しみが心に残る作品
だと思います。
「日の名残り」 カズオ イシグロ ★★★★
東京で震度6の大地震が起きたというシチュエーションでの連作です。
地震直前から数ヶ月後まで、様々なひとたちの様々なシーンを描いています。
こういう非常事態には、人間のもつ精神的な貧しさや負の感情、そして
易々と悪事に流れてしまう弱さなどが露呈するものなのでしょうけれど、
そしてそういうこともきちんと描かれていますが、
特に印象的だったのは、公園で生き埋めになってしまう主婦の話。
助からないかもしれない、そんな状況の中で彼女は、夫へ連絡することを
早々に諦め、自分のブログを更新していく…というところ。
ひとは追い詰められて初めて認識する/できるものなのかもしれませんし、
目を逸らしてきたものを見つめざるを得なくなるのかもしれません。
全体のコンセプトや構成はすごく良いと思うし、何より、最後の最後で、最初と最後の
話が繋がって、そこからいくらでも膨らませることができるのに、
それは例えば、甘い物好きの友人は何故彼女という存在がありながらまるで東京と心中するかの
ように残ったのか、とか、
彼女がその事実を知ったらどう感じるか、とか、
彼女の存在があったのに自分だけ逃がした事実を知ったら彼はどう思うか、とか、
破綻しかけていた夫婦はこのあとどうなるのか、などなどたくさんありますが、
それをせずに、すべて読者の想像力に委ねたのはとても潔いし、こういう余韻とか、思わず
考えさせられてしまうものがしっかりあることが良書の条件であると思います。
一方で、文章力、切り込む深さの濃淡、特に全般的な描き込みの浅さとか、つまり表現力が
もうすこし…かな。
でも若い作家さんのようですし、期待してます。
「東京・地震・たんぽぽ」 豊島 ミホ ★★★
地震直前から数ヶ月後まで、様々なひとたちの様々なシーンを描いています。
こういう非常事態には、人間のもつ精神的な貧しさや負の感情、そして
易々と悪事に流れてしまう弱さなどが露呈するものなのでしょうけれど、
そしてそういうこともきちんと描かれていますが、
特に印象的だったのは、公園で生き埋めになってしまう主婦の話。
助からないかもしれない、そんな状況の中で彼女は、夫へ連絡することを
早々に諦め、自分のブログを更新していく…というところ。
ひとは追い詰められて初めて認識する/できるものなのかもしれませんし、
目を逸らしてきたものを見つめざるを得なくなるのかもしれません。
全体のコンセプトや構成はすごく良いと思うし、何より、最後の最後で、最初と最後の
話が繋がって、そこからいくらでも膨らませることができるのに、
それは例えば、甘い物好きの友人は何故彼女という存在がありながらまるで東京と心中するかの
ように残ったのか、とか、
彼女がその事実を知ったらどう感じるか、とか、
彼女の存在があったのに自分だけ逃がした事実を知ったら彼はどう思うか、とか、
破綻しかけていた夫婦はこのあとどうなるのか、などなどたくさんありますが、
それをせずに、すべて読者の想像力に委ねたのはとても潔いし、こういう余韻とか、思わず
考えさせられてしまうものがしっかりあることが良書の条件であると思います。
一方で、文章力、切り込む深さの濃淡、特に全般的な描き込みの浅さとか、つまり表現力が
もうすこし…かな。
でも若い作家さんのようですし、期待してます。
「東京・地震・たんぽぽ」 豊島 ミホ ★★★
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