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本はごはん。
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9784167773700.jpg  えーと。ミステリでした。いやこの著者はミステリ作家だということは
 もちろん知っていましたが、「ボトルネック」や「犬はどこだ」などを
 読む限り、

 ミステリという器を使ってはいるものの、それは日常の延長線上にある謎で
 あったり、ひとの心の繊細な機微だとか、そういったものが描かれている
 ところにとても興味を持っていたのであります。

 しかしこの作品はミステリど真ん中でありました。

 この作品は、極限状態に追い込まれながらも派閥を組まずにはいられな
 かったり、自分のポジションを有意に保つことに苦心したりする人間の性
 みたいなものなどがよく表現されていおり、

 かつミステリとしても「上手くできてるなぁ」というのが正直な感想であります。

 しかしながら。これは「ミステリ大好き」と「普段あんまりミステリ読まない」ひととでは
 相当読後感が違うのではないかと。つまりはミステリの大作に対するオマージュなのか、
 有名どころのミステリが絡められていたりします。

 そして。ミステリ嫌いというわけではないけれど、最初にその環境設定やら登場人物やらを
 覚えなきゃいけないのがちょっと面倒なのと、謎解きそのものよりも心理的なものであったり
 著者の信念的なものやメッセージ性を感じられるものの方を、私は好むようです。


インシテミル」 米澤 穂信 ★★★
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33474794.jpg  第二次世界大戦の「特攻」の話です。
 
 現代の若者(大学生)がゼミの課題で特攻を調べることになって、自分の
 祖母に話を聴くというスタイルになっています。冒頭、この若者が祖母に
 向かって、
 
 「9・11のテロは神風特攻と同じではないか」と言うシーンがあるので、

 そのあたり突っ込んでくるのかと思ったらそうではなく、であればわざわざ
 こういうスタイルを取る必要があったのかどうかは少し疑問です。

 スタイルはともかく、特攻で散らなければならなかったひとの数だけ
 知られざる葛藤やドラマがあったのでしょう。

 それから本書ではちらりとしか触れられていませんが、2世(日系2世や
 朝鮮系2世など)の苦悩やその立場ならではの哀しみや。

 はっきり言ってこの手の、つまりは戦争モノにはとても弱いことを自覚しています。
 それでも、どうしても読んでしまう。

 おそらくは多大な犠牲を払って得た、しかしながらちょっと違う方向へ走ってしまった
 平和の上に安穏と暮らしている自分に、なにか後ろめたさを感じてしまうからなのかも
 しれない。
 
 そしてもっと正直に言えば、多大な犠牲を払っても彼らが必死で守ろうとした日本は、おそらく
 現在の、こんな日本じゃなかったのじゃないか。そう思いながらも何もしない自分を
 認めたくないからなのかもしれない。

 本書については、この手の者としては恋愛が中心に据えられているためかとても読みやすく、
 多くの人が手に取りやすいのではないかと思います。しかし個人的には「永遠の0」とか
 「ふたつの祖国」とかを是非併せて読んで欲しいと思う。


二十歳の変奏曲」 稲葉 稔 ★★★
46704.jpg  初めて読みましたが、すごい筆力を持つ書き手ですね。

 一人の孤児(少女)が少女から女性へと成長していく過程で、「人間」とか
 「罪」とか「世間」、そして「倫理とは」というものを描写しています。

 殺人事件も絡んでいるのでミステリなのかもしれませんが、あまり
 ミステリには重点を置いていないように感じられます。

 何というか、翻訳小説を読んでいるかのような無駄のない文章でありながら
 表現はとても詩情豊かで、情景描写が秀逸です。自然や四季の移ろいを美しく
 謳いながら、少女から女性へと揺れながら変容を遂げる様子をここまで精密に
 描き出している作品は他にあまりないのではないか。

 ただ、基本的にシンデレラ・ストーリィというか、少女漫画的甘ったるさを
 感じる人もいるであろうと想像され、評価のわかれるところかもしれません。

 この作品を含め、「孤児シリーズ」なるものがあと3冊あるようなのですが、連作好き
 の私としても読むかどうかはちょっと微妙。この1冊でお腹いっぱいかもしれない。
 10代の時に読んでたらかなりハマッたであろうと思います。


雪の断章」 佐々木 丸美 ★★★★
32022087.jpg  中学校教師が屋根裏で見つけた手記、それは明治初期、日本にやってきた
 イギリス人女性探検家「I・B」の通訳を務めた日本人男性「イトウ」の手に
 よるものであった。

 しかし手記は前半部分しか残されておらず、彼は「イトウ」の子孫である
 女性マンガ原作者を捜し当て、一緒に手記の行方を追う、
 というものであります。

 この「I・B」と「イトウ」は実在の人物でありますが、そのほかは作者の
 フィクションのようですね。

 作中に展開されるイトウの手記が素晴らしく、ぐいぐい読ませます。
 反発しながらもどうしようもなく「I/B」に惹かれていくイトウの
 心情描写が秀逸です。

 それと対照的に、現代の展開が軽すぎるように感じるのですが、これは計算なのでしょうか?
 正直なところ、現代の展開はちょっと物足りない。

 あちこち含みを残したままの終わり方と、構成がなかなか良いと思いますが、なにより、
 この題材が素晴らしい。目の付け所がすごい。

 自分の人生を生きなさい、というメッセージは真新しいものではないですが、
 「おまえ自身の【不可思議な】人生を生きるのだ」というこの【不可思議】が深い味わいと
 なって残る作品であります。


忘却の河」 イトウの恋 ★★★★
111502.jpg  不覚にも、この作家を知りませんでした。
 読んでいて丸谷才一と似た匂いがするなぁと思ったのですが、
 同時代の人のようですね。

 この「忘却の河」は連作になっていて、初めは会社社長である父、そして
 その長女、次女、妻…と関係者の独白が続いていきます。

 「心に幕を下ろし」、「薄紙を挟んだような」家族関係ですが、それぞれが
 抱える「心の重荷」が展開されていきます。

 それにしても構成が絶妙です。現在と過去とが違和感なく交錯し、
 それぞれの章が見事に調和して、そして読後には各章(つまりは各人)の
 人生が万華鏡のように反射する。

 「罪」「魂」「救い」という重い、結論の出ないテーマを扱っていますが、破綻することもなく
 逃げることもなく。久しぶりに「真っ当な小説」を読んだ満足感が残ります。
 

忘却の河」 福永 武彦 ★★★★★
149010.jpg  子供時代、寂しさを紛らわせるために架空の友人を作り上げることは
 「アンネの日記」をみても判るとおり、洋の東西を問わず普遍的なこと
 なのかもしれません。自分もそんなことをしてたような気もしないでもない。

 で、大人になってからその子供時代の架空の友達「あねのねちゃん」が
 また現れ、自分にできない「復讐」をやってくれるのだけれど、
 その手法が…。そして…。というものですが。

 初めのうちは面白かったんだけどなぁ…。
 すごく良いと思ったんだけどなぁ…。後半の展開はどうなんだろう…。
 この解決の仕方ってどうなんだろう…。

 あねのねちゃんによって主人公が自分を肯定し自立していくところは
 いいと思うのですが、

 そもそも主人公の女性の描きたかがちょっと薄いところとか、恋愛がメインではないとは思う
 ものの、素敵な人が現れて「ええもうケッコンすか!?」な展開とか…。

 そしてこの(ラストではなくて)決着の付け方がどうしても、「なんだかなぁ」という感じが
 否めないのであります。


あねのねちゃん」 梶尾 真治 ★★
04379904.jpg  まもなく閉鎖される、78年続いた遊園地が舞台となっています。

 幼い頃この遊園地を訪れたことがあったけれどもう長いこと訪れること
 もなかったひとたちが、閉鎖されるということをきいてやってきて、
 ひととひとの線が時代をも超えて交錯していきます。

 連作になっているのですが、正直なところ、「閉鎖直前の遊園地」つながり
 だけで良かったのではないかと。つまり人物も無理に関連させなくても
 良かったんじゃないかなぁと、連作好きな私が思う。

 それぞれのストーリィも悪くないんだけど、なんか無理に他の短編の
 主人公を脇役で引っ張ってきてるような気がして…。

 まあもちろん、あちこちで出てきていながら肝心の本人同士がどうやら会えて
 いないらしい、というのもありますが、ものすごく狭い世界で完結させようとしているように見えてしまう。

 悪くないんですけどね。全般的に決して悪くないんだけど、もう一声期待したい。


世界でいちばん淋しい遊園地」 西田 俊也 ★★★
40611.jpg  「ハードボイルド・エッグ」の続編です。
 探偵なのに舞い込んでくる依頼は相も変わらずペット探し。
 新しいヒロインはなにやら訳ありだし、ヤクザにも絡まれるし。

 相変わらず面白いんですが、ちょっと冗長に感じてしまったのは
 なぜだろう。

 テーマは変わってませんね。心のよすがとする「理想」と、それとは
 ほど遠い「現実」。そのとき、人はどのように生きるべきなのかー。

 引きこもっちゃうのも世間に背を向けるのも簡単ですが(いや簡単じゃ
 ないのかな)、それでもやっぱり、自分が今ある場所でじたばたと
 足掻くしかなく、
 
 時にみっともなかろうが、滑稽だろうが、そして淋しかろうが、「生きる」ってことは
 そういうことなのかもしれません。


サニーサイドエッグ」 荻原 浩 ★★★
04366103.jpg  中山可穂という作家は不思議な作家であると思う。
 ビアンであることをカムアウトして、ビアン小説ばっかり書いているから、
 ということではなくて。 

 この本に収められている短編はどれも女性同士の恋愛を扱っていて、
 たとえば冒頭に収められている「夕鶴」は、乱暴にいってしまえば
 出会って別れる(その別れ方は悲劇的であるけれど)それだけの
 話であって。

 しかしこの話に限らずどのストーリィからも、「渇望の悲鳴」のような
 ものが聞こえてくるようで、そしてそれは何に対する渇望なのだろうか、と。

 それについて解説で酒井順子が、同性愛に付随する
 「子供の不在(子供を産み出せない愛)」に対する不安と指摘していますが
 それだけではないように思うのです。

 どちらかというと、同じく酒井順子が指摘している「いつ終わるともしれない」ものに対する
 不安と、そしてそれを求めずには生きていけない自分に対する悲鳴なのではないかと。

 「安定」と「安住の地」を渇望しながらも、きっとそこに安住することはできないであろう
 自分に対するもどかしさ。
 
 だとすれば、彼女はいつも同性愛をテーマに描いているけれども、そこで真に語られているのは
 性別も何も関係ない、普遍的なものであると思うのであります。


花伽藍」 中山 可穂 ★★★
276652-2.gif  ジャンル的にはミステリなんでしょうかね。連作になってます。

 未来が見えてしまうという設定で、運命は変えられるか、つまりは
 どう生きるかということがテーマでしょうか。
 
 夢を追い続けても諦めても、きっと「もしもあのとき…」という思いは
 一生つきまとうものなのかもしれません。結局のところ、どちらの道を
 選ぶかということが重要な問題なのではなく、きちんと自分で選択する
 ことと、どちらの道を選んだとしてもどう生きていくかということが 
 大切なんでしょう。

 あとこの著者、若者の持つ寄る辺の無さややるせなさ、若者特有の
 不安定さみたいなものに敏感な気がします。

 それと脚本家出身らしく、ああなるほどとおもいました。場面描写がちょっと台本ぽい
 感じがしたもので。

 なかなか面白かったです。


6時間後に君は死ぬ」 高野 和明 ★★★
10132581.jpg<br />  19歳で失明してしまった主人公の女子大生。その後母親を交通事故で失い、
 父親は失踪、残された彼女と2歳年上の決して仲の良くない兄が
 それからの12年間を交互に語ります。

 初めは仲の良くない兄妹ですが、お互いに全盲という障害を受け入れて
 行く過程で、いろんなことに遭遇しながらお互いを思いやれるように
 成長していきます。

 ただ、全ての疑問が解明されるワケではないので、そのあたりを
 不満に思う人もいるかもしれません。でも全てのことが明らかになる
 ことのほうが少ないんじゃないでしょうかね。

 なんでも明快な答えを今すぐ求めたがる風潮は、個人的には疑問に
 思います。

 良質の小説だと思います。


明日この手を放しても」 桂 望実 ★★★
5cacdc78.png  プラハが続きます。

 チェコという国は、こういう言い方はどうかと思うけれども
 少なくとも私にとってはあまりメジャーではないというか、 

 「プラハの春」「ビロード革命」あたりは知識としておぼろげに
 知ってはいるものの、果たしてどこまで判っているのか
 とても怪しく。

 で、この「プラハの春」であります。

 第二次大戦後ロシア軍によってナチから解放され、ソ連の指揮下で共産主義路線を取って
 きたチェコに、民主化の波が押し寄せる。強力なリーダー(第1書記)のもと、民主化を
 進めようとしたらなんとソ連が軍事介入して民主化を潰されてしまう、

 というのがざくっとした歴史ですが、この本ではその場所に第三者として居合わせた
 日本人外交官の目から事件の一連が、民主化を求める国民の熱意や、ソ連との緊張関係が
 徐々に高まっていく様、そしてなにより軍事介入の実際がリアルに語られています。

 そしてその中で国際ラブロマンスが展開されるのですが…。

 惜しい。なんとも惜しい。惜しいなんてもんじゃない。
 プロットもストーリィも、そしてなによりその目で見た歴史的事件をベースにしていると
 いうのに、文章が…。キャラクターの描き出し方が…。

 いちばん気になるのは、申し訳ないけど会話が台本みたいというか、棒読みのセリフのようで
 そこにキャラクターが感じられない。文章もあちこちひっかかる。 

 まあ文章のプロじゃないですしね。外交官の方のようだから仕方ないのでしょうけれども
 もう返す返すも惜しい。これをプロが書いたらそれは壮大な小説になったであろうに…。


プラハの春(上)」「プラハの春(下)」 春江 一也 ★★★
01331071.jpg  『珠玉の』という形容詞がまさしくぴったりな短編集。

 著者自身が後書きで書いていますが、
 「エッセイでもノンフィクションでも小説でもなく、しかし同時に
  それらすべての気配を漂わせる」作品集。

 単行本の刊行は1991年と20年近く前ですが、まったく古さも
 感じさせません。

 相変わらず鋭い観察眼でいろんな人生を掬い上げていますが、
 その鋭さの片鱗も見せつけることなく、渇いた空気を感じさせながらも
 決して冷たいわけではなく。まったく羨ましい文章能力。

 どの短編も短いですがそこにはどれも濃縮された「人生」が詰まっています。
 個人的には「手帳」と「ネクタイの向こう側」「大根を半分」が、特に
 この著者らしい良い作品だと思います。


彼らの流儀」 沢木 耕太郎 ★★★★★
ISBN.jpg  これぞ正しく、上質のエンタテインメント小説ですね。
 
 フィリップ・マーロウに憧れ、しかし自分はフィリップ・マーロウからは
 ほど遠い探偵と、およそヒロインらしくないヒロイン(秘書)。

 テンポ良く面白く読ませますが、そこには人間の機微や動物の哀しみなども
 しっかり描かれていて、ぐいぐい読んでしまいます。

 フィリップ・マーロウを理想としながらもそれからはほど遠い自分。
 でもそれも捨てたもんじゃないよというのが、同じく理想を求めて生きた
 ヒロインからのメッセージのように思います。 



ハードボイルド・エッグ」 荻原 浩 ★★★★
31725364.jpg  自分が見たわけでもなく経験したことでもないことを、経験者以上に
 表現するのが作家だとしたら、まさしく著者は本物の作家なのだと思います。

 沖縄が舞台です。時折ひっかかる、決して読みやすいとはいえない文体は、
 著者の「確信犯」であろうと思うし、その文体が非常に効果的に効いている。

 ここには戦争の悲惨さはもちろん、沖縄の持つ悲哀、それに呼応してしまう
 日系二世の苦労、そして極限に追い込まれた時の人間の哀しい本性が見事に
 描き出されています。

 特に極限状態の人間を描き出すのが(本作に限らず)上手い作家だと思う。

 この作家は、「罪」というものを見続けているのかな。
 戦争の罪というよりも、「人間そのものの罪」を。


接近」 古処 誠二 ★★★★
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