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本はごはん。
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58177597.png  木曾義仲ものは入手困難な本が多くて困ります。

 基本的に一般的(平家物語?)な木曾義仲をたどっているように思います。
 義仲や巴の心情的な部分の描き込みについてちょっと不満がないでもない
 ですが、義仲の生涯をひととおりさらうには良い本だと思います。

 あくまで義仲が中心なので、平家や皇室のことについても必要最低限と
 なっているように思います。

 後半は読むのが辛いですね。

 自分が権力者になりたいがためではなく、あくまで源氏の再興のため、
 平家の圧政に苦しむ人々を解放するがためであったのに、そういう志の人
 ほど早く逝ってしまい、単純に権力を求める人間がはびこるように、
 世の中できているのでしょうか。

 それにつけても。
 どの本を読んでも、ほんとに行家はどーしようもないですね。まったく。


木曽義仲 「朝日将軍」と称えられた源氏の豪将」 小川 由秋 ★★★
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31ce3727.png  なかなか面白かったです。

 もともとは「通い婚」時代が長かった日本ですが、武家社会になって
 男性が「家」を継ぐ風習となり、「家」つまり「経営」継承のための
 「お世継ぎ」施策を中心に、主に江戸時代の文化や統治システムの
 一端を紹介しています。

 ただ、同じ江戸時代であっても、武家は長男が家督相続、しかし商家では
 娘に働き者の婿をとって相続、というのが一般的であったなど、とにかく
 江戸時代の様々なことが羅列されてる、というのが正直な印象。

 つまり、構成のしかたに難があるというか、話はあちこちに飛んで飛んだまま
 帰ってこず、江戸時代についての散文を読んでいるかのような印象を受けます。

 このタイトルで出すなら「お世継ぎの作り方と統治システム」について、もっちゃんと纏めて
 体系立てて展開して欲しかったようにおもいます。

 また、ときどき「えっ?」とおもう日本語(特に接続詞や助詞)があって、たびたび読書の
 リズムを乱される。

 あと、断定表現が多いんですが、そう断定するにはいささか根拠提示が薄いのでは…
 と思うところも数カ所。

 まあ、江戸時代についての雑学、という風に思えば面白いんですけどね。
 せっかくのネタなので、ちゃんとまとめ上げればもっと面白いんじゃないかと
 思うんですけれども。


お世継ぎのつくりかた 大奥から長屋まで 江戸の性と統治システム」 鈴木 理生 ★★★
41FNPDFYYZL.jpg  チェコの歴史です。
 
 教科書のようにチェコの歴史を淡々と解説するのではなく、時代ごとに
 切り取って一人の人物にフォーカスすることにより、その時代のチェコを
 描き出しています。

 しかし複雑ですねこの国の歴史。それをよくここまで纏めたなぁ、という
 のが素直な感想です。プラハの春を初めとする近年の動向について、
 もうちょっと紙面を取って貰えると良かったんですが、そこまで詰め込む
 には新書ではちょっと難しいかも。

 良くも悪くも四方を海に囲まれていて、1,000年近く他民族の威力に
 さらされることのなかった島国の住民から見ると、地続きかつ他民族
 という状況は、リアルには想像しにくいものであるなぁと思います。

 プラハの地図を眺めながら読むと楽しいですね。


物語チェコの歴史―森と高原と古城の国」 薩摩 秀登 ★★★★
4121018125.jpg  悪名高き西太后です。

 この本では彼女と彼女が生きた時代を、きちんとした史料に基づいて
 描き出しながら、中国の統治システムにまで論を広げています。

 「西太后の治世(清朝末期)は、現代中国の小規模実験工場(パイロット・
  プラント)であった」

 という著者の説はとても興味深いものがあります。

 男性権力者と女性権力者との違いや、統治方法の種類など、そして西太后
 その人に迫っていますが、「悪女」のイメージばかりが先行していた
 彼女をきちんと評価していると思います。

 恐らく彼女は著者の言うように、「支配欲」よりも、国母として敬われ贅沢できることが
 目的であったのだろうと思いますが、それにしても数度の政権の危機を上手く乗り越えている
 あたり、センスがあったのかカンが良かったのか…。
 
 ただやっぱり中国ではまだ、彼女に限らず歴史を客観的に評価することは難しいみたいですね。


西太后―大清帝国最後の光芒」 加藤 徹 ★★★★
32158510.jpg  明治時代、1907年の現東京新聞に寄せられた身の上相談を集めています。
 約100年前ですね。しかしこの100年、世の中がいかに様変わりしてしまった
 のかということがありありと判ります。たった100年なのに。

 『隅田川に徳川家の鐘が落ちているから引き上げるべきである。徳川慶喜公に
  何回も手紙を出しているのに返事が来ない!』(明治時代ですから、慶喜は
  生存していたようですがもちろん既に将軍ではない)とか、

 『美人だが学はなくしかし資産家の娘と、不美人であるが教養の高い娘と
  どちらを嫁に貰うべきか』とか、

 『預かっている姪が毎晩夜遊びして困る。一度連れて行くから説教してやって
  くれないか』とかいろいろ相談しています。

 それらの質問に対し編集者が回答しているのですが、

 「シベリヤの中原に追放したい」とか
 「真面目に相手になることを好みませぬ(=まったく相手になんかしてらんないよ)」とか
 「(回答を)書くのも筆の汚れと思うたから屑籠に投げ込もうとしましたが
  見せしめのためにここに掲げて」とか、

 数々のキツイお言葉、この時代の編集者は編集者さまなんですね。

 質問と回答を読んでいると、冒頭に記したとおりたった100年前のことなのに世俗や風俗は
 隔絶の感がありますが、しかし質問の内容というか本質は、現代と変わらないように思うのです。

 たとえば「買い食いがやめられない」というのは過食に対する悩みのように思いますし、
 隣人トラブルやストーカー、職場でのいじめなど、結局のところ根本的なものは一緒というか、
 変わらないんですね。

 しかしこの本、カテゴリー分けにほんと困りました。


明治時代の人生相談」 山田 邦紀 ★★★
51dSRhfwAgL._SL160_.jpg  ヒトラー率いるナチスが政権を握った時代の経済政策について論じています。

 ヒトラーが政権を握った時代のドイツは、第一次世界大戦敗戦による莫大な
 賠償金を抱えているところにアメリカの世界恐慌の影響をまともに受け、
 
 労働者の3人に1人が失業者、国内第2位の銀行が破綻、「国際的貸しはがし」
 にも直面するというまさに経済危機の状況だったようです。

 そのなかで、ほぼ2年で経済を立て直し、単に立て直すだけではなく、労働者に
 有給休暇や定期健康診断、メタボ対策に全面禁煙まで、実に近代的な制度まで
 取り入れています。

 しかしこれらの制度の普及の原動力となったも思想が
 「ゲルマン民族は健康でなければならぬ」というのがまったくドイツぽいですが
 (もちろん、病気の予防、早期発見が最終的に医療費を減少させるという経済的理由もあります)。

 ヒトラー自身に経済政策のセンスがあったわけではなく、その道の第一人者を据えて数々の施策を
 実施しているわけですが、しかしナチス党ではない人物を経済の最高ポストに据えたという事実が
 あり、

 また、実際に彼の政権下において極めて短期間に経済状況を回復した実績に対し当初ドイツ国民は
 ナチスを支持していたというのも頷けます。

 近年のロシアを見ていても思うのですが、やはり為政者が国民の支持を取り付けるには
 一にも二にも効果的な経済政策が必須であると言うことなのでしょう。
 まずは食わせてなんぼ。

 しかし、ではめざましい経済回復を実現した指導者がどこからか道を踏み外し始めた時、
 それを抑制する何かを、我々は持ち得ることができるのか。「民主主義」だけでそれを背負うのは
 いささか荷が重いようにも思います。

 自分も含めて大衆は、「強い人になんにも考えずついて行けばいい状況」、が結構好きなように
 思いますし。


ヒトラーの経済政策-世界恐慌からの奇跡的な復興」 武田 知弘 ★★★
101963.jpg  ヨーロッパの歴史物に一時期ハマったことがあるのですが、
 それ以来かなり久しぶりです。

 フランス革命の始めから終わりまで時系列に紹介されていますが、とても
 判りやすい。かといって「簡単」に紹介されているわけではなく、たくさんの
 人がエピソードも交えて紹介されており、また一度だけでなく何度か繰り返し
 出てきたりするので、その人物像を重層的に掴みやすい。

 有名なフランス革命であるがためか、ルイ16世は「ふがいない人」
 ロベスピエールは「恐怖政治を行って沢山の人をギロチンに送った残酷な人」
 みたいなステレオタイプなイメージがついちゃってるように思いますが、
 そのひとの本来の(であろう)姿、何故そうなってしまったかなど、いわゆる
 再評価がきっちりされています。

 歴史的事実としてのフランス革命だけではなく、本来のフランス革命の「理想」とか、男性の
 女性に対する矛盾した真理とか、革命政府の本音と葛藤などもきちんと描かれているため、
 厚みのある歴史検証となっているように思います。

 しかし「サンージェストのファンクラブが東京にある」というのには驚きました。
 

 「物語フランス革命―バスチーユ陥落からナポレオン戴冠まで」 安達 正勝 ★★★★
c7652eda.jpg  現在、写本が1冊しか残っていない(見つかっていない)という古文書から
 水戸光圀をはじめとする大名の素顔を追っています。

 いちばん面白いのは、本の中でも多くのページを割かれている加賀前田家と
 徳川家との駆け引きです。前田利家からの3代にスポットが当たっていますが、
 『主君への忠誠』と『家の存続』とに引き裂かれながら、非常に見事な政治力
 を発揮しています。

 しかし政治としては見事ですが、人間的にはとても哀しいものでもあります。

 最後の『本多作左衛門』は、「忠誠心」というものと「為政者のあり方と孤独」
 についていろいろ考えさせられます。
 
 政略結婚の本当の恐ろしさ(嫁入りでついてくる乳母とか局とかがみんなスパイ)とか、
 赤穂浪士の討ち入りは『殿の遺言』説とか、なかなか面白かったです。

 どれももう少し膨らませれば小説にもなるんじゃないかしら、と思いました。


 「殿様の通信簿」 磯田 道史 ★★★
9784167753047.jpg  かなり久しぶりです。

 10年以上前、桐生氏の本は良く読みました。この著者の数々の著作が、私に
 中世ヨーロッパのブルーブラッドを中心とした社会への扉を開けさせたと
 言っても過言ではありません(ええ、今のあたくしのブームは「幕末」なん
 ですが、すこし前は「中性〜近代ヨーロッパ」がブームで、読み倒して
 おりました)。

 相変わらすの軽い文体で、ひとつひとつも短いのでさくさく読めます。
 ということは同時に、広く浅くと言うことでもあるのですが、「死」にまつわる
 ことがとにかくだーっと集められています

 昔の解剖図とか、図版も面白いです。が、欲を言えばもっと図版が欲しいかも。
 文章で説明されている絵画とか蝋人形とか、見てみたいなぁと思ったものが多かった。


 「世界情死大全―「愛」と「死」と「エロス」の美学 」 桐生 操 ★★★
4121019458.jpg  もう、文句なしに面白いです。

 江戸城内部の詳細を紹介しながら、徳川の政治システムも紹介しています。
 データや図版が豊富です。江戸城全体地図、江戸城内の間取り図もあるので、
 さくらや菖蒲なんかを目当てに何度か散歩に行った皇居の現在の地図を脳内で
 当てはめてみたりして、ほんとに楽しいです。

 確か、『「松の廊下」はこのあたりにありました』みたいな表示が実際に
 あったのですが、この本を見ると確かにそのあたりに。

 公式行事などを執り行う『表』、将軍の居住空間である『奥』、そして例の
 『大奥』と、それぞれがどんな間取りで、それが政治的にどんな役割を果たして
 いたか丁寧に解説されており、間取りが将軍の威光を最大限に演出するために
 とても上手く使われていることがわかります。

 良く耳にするこの時代の役職『老中』『奉行』『目付』『小姓』などなども、組織図で
 示されているのでその関係性が大変判りやすい。
 将軍が社長だとすると、社長秘書は側衆(側用人)、老中は執行役員でその秘書が奥右筆。
 将軍が首相だとすると、幹事長が側衆(側用人)、老中は大臣で事務次官が奥右筆。

 で、ですよ。
 奥右筆は老中から、各種案件の検討を指示され、検討の上対策案を提出するんですが
 (正式なコマンドラインは、老中ー若年寄ー奥右筆)、老中は奥右筆があげてきた
 プランを、ほぼ丸呑みしていた(時期があった)んだそうですよ!

 老中は、大名でないと就任できません。
 奥御右筆は大名でなくても旗本以上(?)であれば、就職できたようです。
 つまり、この時代からもう官僚政治みたいなことが行われていたということなんでしょうか。
 だとしたら(だからこそ?)そう簡単には官僚政治は崩れないのかもしれません。

 大奥とハーレムの違いとか、やっぱり吉宗って名君だったんだなぁとか、情報量も豊富。
 間取り図や組織図などを合わせて当時の政治システムを解説するという手法自体も、
 面白いアプローチだと思いました。


 「江戸城―本丸御殿と幕府政治 」 深井 雅海 ★★★★★
03033740.jpg  幕末から明治維新にかけての新撰組ものや会津ものや徳川ものに必ずと
 いっていいほど出てくる医者「松本良順」の足跡を追ったモノです。

 前述したとおり幕末モノにはよく登場する人物なのでよく知っていたつもり
 でしたが、全然知らないことばっかりでした。

 多くの歴史物で彼はどちらかというと脇役でありましたが、彼を主人公とする
 ことで、彼の目を通して描かれる幕府の重臣や松平容守、新撰組近藤土方など
 の姿が新鮮です。

 この時代、医者も武士なんですね。激動の時代でありながら自分の信じる道を
 行く生き様は、潔く凛としています。
 
 晩年の彼を襲った、まるで連鎖するかのような身内の不幸は気の毒としか言いようがありませんが、
 それにしてもこの時代、すごいひとが沢山いたのだなぁと改めて思います。
 

 「暁の旅人 」 吉村 昭 ★★★★★
3342520.gif<br />   引き続き下巻です。

 この時代の通訳外交官は、拳銃をもって戦場を走り回るんですね。
 すごいなぁ。
 食事に招かれたときの当時のお作法(床の間の前の上座を勧められても
 3回は断る)とか、すごく丁寧に紹介されています。

 とくにびっくりしたのは「切腹」のお作法。
 切腹するときに諸肌を脱いで(片肌脱ぐのが遠山の金さんですね)、
 垂れ下がった袖を正座した脚の下にたくし込むのだそうですが、
 これは切腹したときに「ぱたん」と後ろに倒れてしまうのを防ぐためだ
 そうですよ。まあ日本人の考えそうなことと言うか、拘りそうなことですね。

 背後にイギリスとフランスの日本外交政策に於ける勢力争いがかいま見える中、日本は
 明治維新に突っ込んでいきます。勝海舟や西郷隆盛、岩倉具視や大久保利通など、そうそう
 たるメンバーとの会談の様子などが、リアルに表現されています。

 また、明治維新後の組閣についても相談され「高貴な家柄の"人形”によって占められている
 官僚があまりにもおおく、実際の仕事は下僚がやるのだ」と率直に書かれているのですが、
 これは現代をも象徴しているようにも思えます。

 「アーネスト・サトウ」という名前を見て、「日本に長くいて日本が好きになっちゃって
 日本の娘さんのところに婿養子にでも行ったのかしら」と思いましたが、本名というか
 もともとそういう名前なのだそうです。めずらしいですね。

 それから、著者は「野口」という名の会津藩出身者を従者として使っていましたが、この
 「野口」さん、たとえば、

 『翌朝、出航時間になっても“案の定”野口は現れず遅刻したので、野口を待たずに船は
 出航した。』

 とか、いたるところで良い味を出しているのですが(ちなみに上記に引用した部分のところは、
 野口さんは小船で追っかけて追いついたようですよ)、著者が6年の日本滞在を終えて
 イギリスに帰国する際、彼を同道させています。

 野口さんは、そのあとどんな人生を歩んだのでしょうね。


一外交官の見た明治維新〈下〉」 アーネスト サトウ ★★★★
3342510.gif<br />   明治維新の直前、日本に通訳としてやってきたイギリス人が書いた
 戦前の日本では禁書であった本です。

 実質の権限はもはや持たないものの日本の頂点として君臨する天皇と、
 実質的な最高執政者でありながら朝廷の臣下である幕府(将軍)の二重構造
 は、合理的発想を旨とする欧米の人々にはなかなか理解が難しかったようで、
 初めのうちは、

 「実質の最高権力者であり最高施政者である幕府(将軍)を、名実共にトップ
  にしてしまえばよいではないか。不満分子であるいくつかの大名は、我々が
  手を貸して黙らせてしまえばいい」

 と、ストレートに考えていたみたいですね。
 
 事実幕府にそのように申し入れもしたようですが(断られ)、瀬戸内海の通航を巡って
 長州と戦争した後、数々の交渉を重ねながら彼らは長州と薩摩に対して親近感を抱いてきます。
 やっぱり対話は大事ですね。

 しかしまあこの時代のことですから、いたって本には無邪気に書かれていますが、英、仏、米、蘭ら
 の言い分(戦争に負けた長州に連合軍の戦費を負担させるとか。これは最終的に幕府が負担する
 ことになりますが)は何ともまあ傲慢というかなんというか。通商条約と言いながら、実は武力を
 背景に行け行けどんどんの植民地化思想の延長線上ではないか。これに対して日本は、長いこと
 鎖国なんかしてたもんだから世間知らずな小娘みたいにいいようにやられてます。
 そもそも国中がぐちゃぐちゃでそれどこじゃないしね。

 かたや日本に初めてやってきてから2〜3年で、諸大名の情勢はもちろん、幕府の
 かなり正確な情報まで入手するルートを構築し、幕府にも必要以上には肩入れせず時局を冷静に
 判断して進めていくイギリスの政治手腕はもう芸術的(老練)ですね。

 また、彼らは「天皇」「将軍」「女王」などをどのように翻訳するかに心を砕いています。
 当初「将軍(大君)」を「His Majesty(陛下)」と英文化しており、これは 「Queen」と
 同レベルの地位を示す敬称であったようですが、これだと「将軍」より上位である「天皇」は、
 「将軍」と同格である「Queen」よりも同時に上位であるということになってしまうので、
 「Queen」を「女王」ではなく「皇帝(Emperor)」と訳すことにしたようです。

 さらりと書かれていますがこのこの名称決定プロセスを通して、彼らは同時に
 「日本のEmperorは天皇であり、将軍は執政の代行者にすぎない」
 と、明確な定義を確定し表明した重要な決定であったということになるのでしょう。
 言語化による定義の持つ力の強さを改めて感じます。

 当時の日本の風景や生活する人々の姿が生き生きと描かれ、また人名や地名にはカタカナで
 ルビ(よみ)が ふられていますが、このルビは原文の読み方をそのまま
 ふってあるとのことで(「天皇(ミカド)」「大坂(オーザカ)」など)、
 ということはつまり、当時彼らはそう読(呼)んでいたのであろうと思われ、
 なかなか興味深いです。


一外交官の見た明治維新〈上〉」 アーネスト サトウ ★★★★
31996922.JPG<br />  幕末から明治維新へと突入する動乱の時期、この頃のことについて
 あたくしは「会津びいき」を自認しておりますが、それにしても…。

 初めのうちは「ふんふん」と読んでいたのですが、だんだんと
 「ん?」「え?」「あれ?」「……」。
 
 著作の中において著者が主観を入れるべきではない、などとは全く
 思っていません。しかしこの本は著者の主観というより思いこみ、
 感情的な表現が多いような気がします。

 例えば「…の日記には、薩長に対する恨みは一切書かれていなかった」
 としながらも「しかし強い怨念を抱いていに違いない」という余計な一言
 というか決めつけというか、そういう表現があちこちに出てきてちょっと食傷します。

 挙げ句の果てには「原爆」(しかも他人の言)まで引っ張ってくるのはどうなんだろう。
 参考文献の少なさにもちょっと唖然とします。

 また、著者は「薩長憎しだけでなく、会津の戦略不足などの苦言も呈してきた」
 と言っていますが、この本を読む限り、そうは思えません。

 神保修理という会津藩の家老の長男が切腹させられた件に関して、「気の毒」とひと言
 で終わりにしていますが、この神保修理の切腹は、会津藩内に於ける権力闘争であった
 という「説」もあったりします。

 あくまで「説」なので真偽の程は判りませんが、もしそうだとすると、鳥羽伏見の戦いが
 勃発しているのにもかかわらず、藩内の権力闘争であたら優秀な人材を散らしてしまう。
 しかしこの本は、こういった類のことには一切突っ込んでいきません。

 正しい歴史を伝えると言うことは大切だと思います。しかし今はもう、会津を討てと
 命じた宸翰も錦旗も捏造であったことや、会津の人たちがなめた辛酸、薩長の仕打ちなど
 広く知られるようになってきていると思うのですが。
 そんななかで被害者意識だけで突っ走ってしまうと、かえって逆効果ではないかと思います。


31583488.JPG<br />  しかしこれだけだと何なので、会津関連で秀逸だと思われる本を
 1冊あげておきます。

 しばらく前に読んだ本ですが、おそらく膨大な資料を読み込んで著したと
 思われる連作短編集です。当時の会津の悲劇、絶望、そして気質などが
 とてもよく表現されています。

 タイトルにもなっている最初の短編「修理さま 雪は」は、前述した
 神保修理の妻、雪の話ですが、戊辰戦争が勃発し実家は全員自刃、
 雪はひとりで、殺戮、強奪、暴力、陵辱のなかを死に場所を求めて
 彷徨います。

 彷徨いながら彼女は、切腹した夫に心の中でいろいろな思いを
 語りかけます。

 しかし最後の最後、彼女が夫に語りかけた血を吐くような心の叫びは、封建時代を
 生きた女性の叫びであり、会津の悲劇だけにとどまらない作品にまで昇華されています。
 
 週末、本棚ほじくり返してもう一度読んでみよう。


偽りの明治維新―会津戊辰戦争の真実」 星 亮一
修理さま 雪は」 中村 彰彦 ★★★★★
00a3761b.jpg<br />  面白いの一言に尽きます。
 
 江戸時代の旗本の奥様の日記。こんなのが残ってるんですねー。
 しかもこの奥様、かなり知的。水野忠邦の天保の改革を手厳しく批判
 しています。その批判が当たっているかどうかではなく、まずこの
 時代の女性が批判していたという事実と、かなりしっかりとした
 論理を展開しているところに驚きます。

 またこの時代の風俗や文化、例えば今も続く隅田川の花火なんかに
 ついてもとても生き生きと表現されていて、なまじっかな資料を
 読むより面白くリアルです。

 この本は彼女の日記の現代語訳というわけではなく、著者が解説を加えつつ
 日記を引用しながら紹介していくスタイルなのでちょっと物足りなさを
 感じますが、入門というか、とばくちにはとても良い本だと思います。


 「旗本夫人が見た江戸のたそがれ—井関隆子のエスプリ日記」 深沢 秋男 ★★★★

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Writer 【もなか】  Powered by NinjaBlog