bookshelf 『一外交官の見た明治維新〈上〉 』 アーネスト サトウ 忍者ブログ
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3342510.gif<br />   明治維新の直前、日本に通訳としてやってきたイギリス人が書いた
 戦前の日本では禁書であった本です。

 実質の権限はもはや持たないものの日本の頂点として君臨する天皇と、
 実質的な最高執政者でありながら朝廷の臣下である幕府(将軍)の二重構造
 は、合理的発想を旨とする欧米の人々にはなかなか理解が難しかったようで、
 初めのうちは、

 「実質の最高権力者であり最高施政者である幕府(将軍)を、名実共にトップ
  にしてしまえばよいではないか。不満分子であるいくつかの大名は、我々が
  手を貸して黙らせてしまえばいい」

 と、ストレートに考えていたみたいですね。
 
 事実幕府にそのように申し入れもしたようですが(断られ)、瀬戸内海の通航を巡って
 長州と戦争した後、数々の交渉を重ねながら彼らは長州と薩摩に対して親近感を抱いてきます。
 やっぱり対話は大事ですね。

 しかしまあこの時代のことですから、いたって本には無邪気に書かれていますが、英、仏、米、蘭ら
 の言い分(戦争に負けた長州に連合軍の戦費を負担させるとか。これは最終的に幕府が負担する
 ことになりますが)は何ともまあ傲慢というかなんというか。通商条約と言いながら、実は武力を
 背景に行け行けどんどんの植民地化思想の延長線上ではないか。これに対して日本は、長いこと
 鎖国なんかしてたもんだから世間知らずな小娘みたいにいいようにやられてます。
 そもそも国中がぐちゃぐちゃでそれどこじゃないしね。

 かたや日本に初めてやってきてから2〜3年で、諸大名の情勢はもちろん、幕府の
 かなり正確な情報まで入手するルートを構築し、幕府にも必要以上には肩入れせず時局を冷静に
 判断して進めていくイギリスの政治手腕はもう芸術的(老練)ですね。

 また、彼らは「天皇」「将軍」「女王」などをどのように翻訳するかに心を砕いています。
 当初「将軍(大君)」を「His Majesty(陛下)」と英文化しており、これは 「Queen」と
 同レベルの地位を示す敬称であったようですが、これだと「将軍」より上位である「天皇」は、
 「将軍」と同格である「Queen」よりも同時に上位であるということになってしまうので、
 「Queen」を「女王」ではなく「皇帝(Emperor)」と訳すことにしたようです。

 さらりと書かれていますがこのこの名称決定プロセスを通して、彼らは同時に
 「日本のEmperorは天皇であり、将軍は執政の代行者にすぎない」
 と、明確な定義を確定し表明した重要な決定であったということになるのでしょう。
 言語化による定義の持つ力の強さを改めて感じます。

 当時の日本の風景や生活する人々の姿が生き生きと描かれ、また人名や地名にはカタカナで
 ルビ(よみ)が ふられていますが、このルビは原文の読み方をそのまま
 ふってあるとのことで(「天皇(ミカド)」「大坂(オーザカ)」など)、
 ということはつまり、当時彼らはそう読(呼)んでいたのであろうと思われ、
 なかなか興味深いです。


一外交官の見た明治維新〈上〉」 アーネスト サトウ ★★★★
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