bookshelf 『切羽へ』 井上荒野 忍者ブログ
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a08b456c.png  小さな島で、それこそなんでも筒抜けになってしまうような、限定された
 とても濃い人間関係のなかに夫と共に暮らす主人公の、秘めた恋、
 というより強い情念の物語。

 夫にも毎日の生活にも島の暮らしにも不満なものはなく。それでもどうしても
 惹かれていく自分を止められない主人公。

 妻の様子になにかを感じ、不安に思いながらもひたすら妻を見つめる夫。

 恐らく何かを渇望して漂流する男。

 情交シーンはおろか、キスすることもなく男は去るのだけれど、ここまで
 官能的な空気を濃密に漂わせることができるのは著者ならでは。
 
 相変わらず美しい文章と、心理描写も巧み。夫に対する心理なんてもうすごいとしか
 言いようがない。

 こういう作品って恐らく「大人の恋」って表されるのではないかと思うのですが、大人の恋って、
 なんだろう。配偶者がいながら配偶者以外の異性に惹かれること?
 私は、彼女が初めて男を見たとき「ミシルシ」だと思ってしまった、そのあたりが、良くも悪くも
 大人の恋なんじゃないかと思ったりするのですが。

 「切羽」とは、トンネルを掘っている最中の最先端箇所だそうで、トンネルが完成すると切羽は
 消滅してしまう。タイトルが「切羽にて」ではなく、「切羽へ」であることを考えると、人生とは
 常にトンネルを掘り続け「切羽」にあり続けることなのかもしれない。なんてことを考えました。


切羽へ」 井上 荒野 ★★★
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