bookshelf 忍者ブログ
本はごはん。
[5]  [6]  [7]  [8]  [9]  [10]  [11]  [12]  [13]  [14]  [15
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

4-08-746105-X.jpg  うーん。これはなかなか、野心的な作品ですね。
 タイトルや設定の大胆さにつられて読むと、ちょっと肩すかしを食うかも
 しれません。

 タイトル通り、自分の住む町が隣町と戦争を始め、いつの間にか主人公も
 戦争に巻き込まれていくのですが、これが巻き込まれているんだかいないん
 だか判らない。つまり、自分も「戦争の当事者」のひとりであるにも
 かかわらず、「戦争の実感」が全く感じられない。

 「戦争の影響」はある。間違いなくある。しかしそれも、実感できる、
 つまりははっきりと認識される影響はごくわずか、それも極個人的なこと
 でしか実感されない。

 恐らく多くの人は、「これは小説の中の話で、それも、となりの町との戦争
 だから実感も自覚も出来ないだけで、本当の戦争は違う」と思うかもしれま
 せんが、恐らく著者は、「本当の戦争だってこんなもんだ」ということを言っている。

 別章で出てくる「24時間営業のコンビニが林立する中でエコを声高に叫ぶ矛盾」もまったく
 同じ構造。

 何も自覚も実感も出来なくても、今のこの世に生まれ今のこの世に生きている我々は、誰かの
 血と死の上に安穏とした世界を築いているのだということ。

 「戦争は、日常と切り離された対極にあるのではなく、日常の延長線上にあるのだ」。

 「なぜ戦うのか」と問われた戦闘員が、
 「そうしてでも守りたいものがあるからじゃないでしょうか」と答えますが、続けて、
 「わたしのそれ(=戦ってまで守りたいもの、守るべきもの)は何だったか、もう忘れて
  しまいましたけれど」と。

 つまりは、いつの間にか当初の目的は薄れ、戦うこと、殺し合うこと自体が目的化してしまうのが
 戦争ということなんでしょう

 著者の野心(いや、意欲?)は大いに評価するのですが、それを「小説という作品」に昇華
 するという意味合いではもう一声期待したいところであります。


となり町戦争」 三崎 亜記 ★★★
PR
131005.jpg  事件物の読み物、とでも言うんでしょうか。
 実際にあった事件の、行間と当事者達の感情を作家が想像力で埋めて
 読み物にしたと言っていいのかな。

 良くも悪くも軽く読めます。
 正直ちょっと浅すぎだけど、週刊誌の連載だからこんなもんなんでしょう。

 ただ、前作の「黒い報告書」を読んだときにも思ったんですが、
 どの程度の「事件に関する」取材がなされているのであろうか、と。

 というのも「読み物」であるということはつまり、被害者側に軸足を置いて展開
 するのかそれとも加害者側に置くのかによって、事件の印象ががらりと変わって
 しまうと思うのです。

 ぜんぶが架空の話ならともかく、実際の事件がベースになっているわけですから
 そのあたりちょっと、どうなんだろうかと。

 作家陣のバラエティが魅力でつい読んじゃうんですけどね。
 「黒い報告書・クラッシックス」と題された昭和30年代に著された新田次郎、笹川佐保の
 作品がやはり、さすがという感じです。


黒い報告書 2」 「週刊新潮」編集部 ★★★
9784480426512.jpg  サブタイトルにある通り、「死の生命科学」です。

 おそらく、ここに書かれていることすべてを読み下せたわけではないと
 思うけど、生物によって異なる「死のありかた」や寿命、また進化の歴史の
 なかにおける変遷など、具体例を豊富に上げて解説しており、わかりやすい。

 ただ、欲を言えば図解などがあるとさらに分かりやすかったと思う
 (DNAの紡錘体とか)。

 結局、死とは細胞の死である。
 しかし体細胞は死ぬが、生殖細胞だけは死ぬことがなく、DNAの複製を
 面々と続け、命をつないでいる、ということか。

 科学的に「死」を見つめ、科学的アプローチを綿々と積み重ねた上で
 最後に「死のとらえかた」を各方面から考察しており、名著であると思います。


われわれはなぜ死ぬのか―死の生命科学」 柳澤 桂子 ★★★★
shin.jpg  探していた絶版本を見つけました。哲学者による「新選組」です。

 新選組隊士たちの日常の生活の断片を拾い上げた外伝のような短編集ですが、
 これが何とも面白く、「女性の好み」や「浮気」、「スポーツとしての剣道」
 など、新しい切り口で新選組に光を当てています。

 もう知るよしはないのだけれど、彼らにもこんな日常があったと思いたいし、
 実際そうだったのだろうと思う。

 いちばん胸に残るのは、やっぱり山南の話でしょうか。
 同じ男に惚れ込みながら、彼らの考える方法論が決定的に違った。
 どちらが正しかったとか間違えていたとかではなく、それがあまりに
 かけ離れていたという悲劇だったのかもしれません。
 
 数ある新選組関連の中でちょっと異色で、とても面白い本です。
 新選組について一通りの流れを把握してから読んだ方が良いと思いますが、ほんと復刊されると
 良いなぁとおもう本です。


新選組の哲学」 福田 定良 ★★★★
4101490066.jpg  短編集ですが、ぜんぶの短編が「黄泉がえり」のサイド・ストーリィだと
 思っていたのですが、それは1編だけでした。残念。

 ちょっとシュールな惑星探索もの、そのまま落語になりそうな外科医と
 板前の話、または筒井康隆あたりが書きそうな「魅」の話、星新一を
 思い出す侵略ものなど、バラエティに富んでいます。

 どれもそれなりに面白いんですが、「誰かの作品を想起させる」範囲に
 あるのがちょっと残念なところでしょうか。そうである限り無意識の
 うちに比べてしまうし、そうするとやっぱり本家の方が上かなと。

 悪くないんですけどね。面白いんだけどなぁ。あと一声。


黄泉びと知らず」 梶尾 真治 ★★★
4334741657.jpg  「猫」と「建築」と「美」。
 この組み合わせを思いつく人がどれだけいるのだろうか。

 詩的でありそれ以上に哲学的であり。
 判っていたつもりのことが、実はなにも判っていなかったということにも
 気づかされます。

 街の音が聞こえてくるのに、静謐な「しん」とした世界。


猫の建築家」 森 博嗣 ★★★★


4344980182.jpg  最近この手の論調の本が増えているような気がする。

 ええと。著者が言うには「健康で長生き出来るのはほんの一握りのひとだけ」
 だそうで。大抵の高齢者は、足が痛いだの腰が痛いだの心臓が弱いだの何かしら
 問題がある。まあそりゃそうでしょうねぇ。

 しかも健康上、または経済面でもさして問題のない人でも「心理的に問題を
 抱えているケースが多い」。同居問題相続問題 ETC…。

 そして更に、高齢者同士がけんかをしたとき、相手に向かって
 「あんたなんか死ねない!」と言うそうです。
 「あんたなんか死んじゃえ!」じゃなくて、「あんたなんか死ねない!」。
 こんなセリフが悪口となっているこの時代。

 うろ覚えですが、動物というのは生殖機能がなくなる=寿命なんだそうで、つまり生殖機能を
 失う頃に死ぬんだそうですが、しかし人間だけが生殖機能がなくなっても生きながらえるため、
 更年期障害を初めとする、動物にはない症状が出てきたとか。痴呆などの症状もそうなのかも
 しれません。

 「死に時」を逃さないようにするしかないようですが、本書にも書かれているとおり、
 病院に運ばれてあれよあれよという間に気管切開されちゃうのが現実なんじゃないでしょうか。
 安楽死の問題はなかなか進みそうもないし…。

 そういえば思い出したのですが、去年女優さんが孤独死していろいろ話題になりました。
 その頃からちょっと違和感があったのですが、「孤独死」ってそんなに哀れで可愛そうなこと
 なんでしょうか?

 私は大切な人を見送ったら、ひとりで気ままに暮らしてそして孤独死でもいいやと思うのですが。
 少なくとも病院でスパゲッティになるよりずいぶんいいんじゃないかと、そう思います。


日本人の死に時―そんなに長生きしたいですか」 久坂部 羊 ★★★
149004.jpg  確か映画化されたんですよね(観てない)。
 最近食指の動く新刊がないので、「そのうち読もう」と思っていた
 この作品を。

 死んだ人がある日突然蘇る(=黄泉がえる)という難しい設定ですが、
 それによって起こる様々な問題や感情なども上手く展開しています。

 ラストはどうするつもりなんだろう…と思いながら読みましたが、すごく
 うまくまとまっていると思います。SFの設定をベースにしていますが、
 これは喪失と再生の物語なのではないかと、そう思います。

 説明されないままに残されたところもありますが、それが「消化不良」
 ではなく「上質の余韻」として残るのが上手いなぁ。

 正直、文章で「あれ?」と思うところがなくもないですが、なかなか良い本だと思います。
 

黄泉がえり」 梶尾 真治 ★★★★
fe21d306.jpeg  2匹の猫を見送った著者の記録です。
 
 猫に限らず、大切な人や動物を持つ人には共感できる部分が多いんじゃ
 ないでしょうか。
 こんなふうに奪われるのならなぜ与えたのだ、と呪いたくもなる気持ち。

 しかし哀しいけれどそれでも、出会えて一緒に過ごせた喜びの方が
 ずっとずっと大きいから。
 そう思ってなんとかやり過ごすしかないのですけれどね。

 それにしても。
 やっぱり猫って不思議です。
 


猫の神様」 東良 美季 ★★★★
978-4-08-746539-6.jpg  「とりつくしま」も良かったですが、この作品もなかなか。
 ただ、賛否の分かれるところかもしれません。

 基本的に詩的な展開で、設定やストーリィがすべてきちんと辻褄が合っている
 ものが好きなひとは、ちょっと消化不良に思うかもしれません。

 ひとつの遊園地を舞台に、自分の居場所を作りきれない人たちが迷い込んで
 きますが、この著者の紡ぎ出す世界は、なにかがすこし歪んでいて、
 あるかなしかの微妙な違和感、なんとなくしっくり来ない、

 それなのになんとなく落ち着いてしまうようなそんな雰囲気で、
 不安に安住する心地よさみたいで、

 そしてそれは、読みやすいのだけれどなにかが引っかかるように組み立て
 られている文章に如実に表れていると思います。

 著者が歌人だからだろうかこの文章は。
 まあ文章はあくまで表現だから、そう表現させる何かがあるのだろうけれど。

 面白い作家です。

 あ、「あとがき」が、きらきらした小品にまで昇華されています。
 ほんとに美しい。
 ため息が出るほど美しい。

 (文庫化にあたり改題されたようです。単行本時のタイトルは「長崎くんの指」)


水銀灯が消えるまで」 東 直子 ★★★★
9784480065339.jpg  刑務官経験者による本です。
 刑務所の現場で起きていること、そして検察やマスコミの報道の在り方まで
 現場の目線で著された良書であると思います。

 著者によれば「変われない人間はいない」そうです。そうかもしれません。
 矯正教育の重要さも訴えています。確かにそうだと思います。矯正教育の
 成果が出れば再犯率は減り、犯罪発生率と社会コストの抑制も可能になるかも
 しれません。

 今のまま終身刑を導入することに対する危険性も訴えていますが、「死刑廃止」
 については、著者も訴えている「冤罪」や「刑務官の人手不足による重労働化」
 「お粗末な矯正プログラム」や「出所後の社会内処遇」などなどの問題に対する
 対応策を検討してからでないと、単に「死刑廃止」だけを論じでも片手オチだし
 付随する問題はそのままで死刑制度だけ廃止って言われても、ちょっと賛成し難い。

 そして冒頭の「変われない人間はいない」、ですが。
 確かにそうかもしれませんが。酷い言い方をすればそれは、人を殺してそして税金で再教育
 してもらえるってことになりかねませんかね?

 自分が被害者遺族だったら、それって受け入れられるんだろうか。
 正直なところ疑問です。

 神戸の「酒鬼薔薇事件」、あれだってそうそうたる心理療法士やらの専門家を何人もべったり
 貼り付けて、数億円のコスト(もちろん税金)と聴いたことがありますが、はたして被害者側
 にはどのくらいの保障がされたんでしょうか?
 おそらく桁が足りませんよねきっと。
 
 目に見えやすい「死刑」を単品でとらえて是非を検討するのではなく、現実の、現場で起きて
 いる問題を地道にひとつずつ解決していくことのほうが、そういった積み重ねが大事なんじゃ
 ないかと、そんな風に思うんですが。


死刑と無期懲役」 坂本 敏夫 ★★★
276570-2.gif  恥ずかしながら、この本を読むまでフィジーの政治情勢については
 全く知りませんでした。

 地上の楽園とも言われるフィジーですが、そころには先住民である
 フィジー人と、奴隷として連れてこられたインド系移民が混在し、
 そしてその両者の間にはやはりどうにも埋めがたい価値観や習慣の違い、
 そして心理的反発があるのでした。

 そこに日系移民も絡んでストーリィは展開していきますが、はっきり
 言ってさほど壮大な話ではありません。しかし地味な問題をとても
 うまく展開していると思います。

 幸せとは何か。

 お金も便利な道具も生活インフラさえ整っていないのに幸せに暮らしていたフィジー人。

 苦労して苦労してお金と生活を手にして、それでもどこか不幸そうなインド系移民。

 だからやっぱり幸せにはお金なんて必要ないのよ! なんて安直な結論を出せないくらい、
 丁寧に描かれているのが良いと思います。

 地味な作品ですが、良い作品だと思います。


真夏の島に咲く花は」 垣根 涼介 ★★★
9784480688323.jpg  昭和16年の真珠湾攻撃から同20年の終戦まで、終戦当時15歳だった
 少年の目に映った戦争というものが描かれています。

 当時の大人達の言動、日々変わっていく日常、そしてどんどんすさんでいく
 人心などが、著者の個人的思いはむしろ控えめに、淡々とやさしい言葉で
 綴られています。

 著者が住んでいた向島近辺、つまり下町一帯は東京大空襲でターゲットにされた
 場所で、その時のリアルな記述は、それが現実に起きたことであると言うことが
 にわかには信じがたいほどです。

 ほんとにやさしい言葉で書かれているので、中学生でも充分読めると思いますし、
 読んで欲しいと思います。こういうことを「なかったこと」にして「見ないで」
 生きていくこともできますしそのほうが楽かもしれません。

 でも、知るべきだと、知らなければならないと思うのです。


15歳の東京大空襲」 半藤 一利 ★★★★
102262b.jpg  限りなくノンフィクションらしいですが、結末が決定的に事実と違うらしく、
 そのことについて賛否両論あるようですが、私は良いんじゃないかと
 思いますけどね。

 差別問題がテーマですが、自分よりほんの少し上の世代で、もちろん
 地域性なんかもあるとは思うけれど、これほどまでの差別があったと
 いうことに驚きます。

 実体験だけあってか、等身大の目から見た「差別」というもの、普段は
 意識することはなくても、確実に自分の意識の中に巣くっている
 「差別意識」などがしっかりと描き出されています。

 事実と同様のハッピーエンドを望む人が多いみたいですが、
 それはこの本を読むことによって抱え込んでしまった「心の重荷」から
 解放されたいだけなのではないか、と感じてしまうのですが。

 「めでたしめでたし」で終われば、あとはすっきり忘れられますからね。
 「差別を乗り越えた!」という結末であれば、流した涙も爽快です。

 しかし現実は人の心の中に巣くう「差別意識」はそんな甘いもんじゃなくて、ずたずたに
 傷ついたり周りを巻き込んだり、10戦して1勝しかできなくてもそれでも戦い続けて、
 その1勝1勝を積み上げていくしかなく、

 そして誰もが傍観者でいることは許されないのだ、という力強いメッセージなのではないかと
 思うのです。

 見たくないからといって目をつむっても、それが社会から消えてなくなるわけではない
 のだから。


太郎が恋をする頃までには…」 栗原 美和子 ★★★★
45104.jpg  たまたま書店の店頭に積まれていて、
 ああそういえばこの著者は「ボトルネック」が素晴らしかったなぁ
 と思いだし、読んでみることにしました。

 やっぱりこの著者、文章がすごく上手い。ものすごく上手い。
 ストレスなくさくさく読めます。

 東京で仕事に挫折して田舎に戻り、犬探し専門の調査会社を設立したの
 だけれど、人捜しの依頼が舞い込んで…というミステリーです。

 正直に書いてしまえば(私には)「ボトルネック」ほど強い
 インパクトでもなくミステリーとしても「ほう!」と思うようなものでも
 ないのですが(いや、ミステリーをそんなに読んでるわけでもないので
 アレですが…)、

 とにかく文章が上手いのと、構成。ネットでチャットしているときの表現とか、キャッシュ
 から過去ログをサルベージすることろとか、いろんな要素が上手く構成され、無理と無駄のない
 文章で綴られているところが秀逸です。

 そしてこれは「ボトルネック」と共通しているところですが、

 「強烈かつ独特の読後感」

 この著者の魅力はこれに尽きるとおもいます。


犬はどこだ」 米澤 穂信 ★★★
bar code.
search.
※ 忍者ブログ ※ [PR]
 ※
Writer 【もなか】  Powered by NinjaBlog