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本はごはん。
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9784167219284.jpg  戦争体験記ですが、ちょっと変わっています。

 著者は、父親が銀行や証券会社を経営し、麹町一番町という一等地に住み
 (近隣は首相やらフォード日本支社長などのお家)、暁星に通うという
 いわゆる良家の子息で、戦争中もあまり食べ物に困ったりはしなかった
 ようです。

 一方で、というかだから、というのか、箱根に居住していたドイツ軍兵士
 たちとの交流(なんとこのドイツ兵たちは、宮ノ下の駅からアメリカの
 戦闘機を銃撃した)や、B29の上に日本の戦闘機が馬乗りになった話など、

 「え、そんなことあったの?」と思うような、あまり耳にしたことの
 ない話がたくさんあります。

 そして戦時中であろうが非常時であろうが、青年は恋をする。
 恋をしながら、時には無気力になりながら、戦後の混乱期を生きていく成長譚でもあります。

 全く古くささを感じさせず、読みやすい本でもあります。
 こういう立場の人による戦争体験記はあまりないと思うので、いろんな意味で戦争の意外な
 一面を知ることができると思います。


歩調取れ、前へ! ―フカダ少年の戦争と恋 」 深田 祐介 ★★★★
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32403859.jpg  なかなか興味深い本でした。

 三島が自衛隊への体験入隊を繰り返した際に、彼に接した自衛官達を
 取材し、彼らの目に映った三島由紀夫を追っています。

 そこには、ノーベル文学賞候補の、ちょっと狂気の混じったような
 派手できらきらした世界の三島ではなく、

 繊細で無邪気で、そして愚直なまでに真面目に努力する三島由紀夫、
 いや、平岡公威の姿があります。

 自衛隊への体験入隊は、三島に、自衛隊に対する更なる期待と同時に、
 絶望をも感じさせたのかもしれません。

 しかし三島が感じた期待は自衛官個人個人に担われている精神である一方、当時の自衛隊が
 既に備えていた自衛隊幹部の「役人体質」であるとするならば、三島の「悠久の大儀」は
 はじめから勝ち目がなかったのではないか。

 それでも立ち上がらないわけにはいかなかったのだろうし、もう止まれなかったのだろう
 けれど。


「兵士」になれなかった三島由紀夫」 杉山 隆男 ★★★★
ISBN.jpg  これぞ正しく、上質のエンタテインメント小説ですね。
 
 フィリップ・マーロウに憧れ、しかし自分はフィリップ・マーロウからは
 ほど遠い探偵と、およそヒロインらしくないヒロイン(秘書)。

 テンポ良く面白く読ませますが、そこには人間の機微や動物の哀しみなども
 しっかり描かれていて、ぐいぐい読んでしまいます。

 フィリップ・マーロウを理想としながらもそれからはほど遠い自分。
 でもそれも捨てたもんじゃないよというのが、同じく理想を求めて生きた
 ヒロインからのメッセージのように思います。 



ハードボイルド・エッグ」 荻原 浩 ★★★★
31725364.jpg  自分が見たわけでもなく経験したことでもないことを、経験者以上に
 表現するのが作家だとしたら、まさしく著者は本物の作家なのだと思います。

 沖縄が舞台です。時折ひっかかる、決して読みやすいとはいえない文体は、
 著者の「確信犯」であろうと思うし、その文体が非常に効果的に効いている。

 ここには戦争の悲惨さはもちろん、沖縄の持つ悲哀、それに呼応してしまう
 日系二世の苦労、そして極限に追い込まれた時の人間の哀しい本性が見事に
 描き出されています。

 特に極限状態の人間を描き出すのが(本作に限らず)上手い作家だと思う。

 この作家は、「罪」というものを見続けているのかな。
 戦争の罪というよりも、「人間そのものの罪」を。


接近」 古処 誠二 ★★★★
123514.jpg  ルポルタージュの名手による小説です。
 14歳で殺人を犯してしまった男がふりかえる自分。

 初めは、膨大な取材を積み重ねたルポルタージュを著していくうちに、
 ルポルタージュという方法では表現しきれないものが少しずつ著者の
 中に溜まっていって、それが「小説」という形で現れたのかと思いましたが。

 読み進めるうちにこれは、「著者自身のなかにあるもの」なのだという
 ことに気付きました。

 14歳の日常の描き方、視線/視点はさすがだなと思います。
 全体を貫くピリッとした緊張感は、14歳という年齢のもつ緊張感を
 よく表していると思う。

 要所要所、そしてラストも曖昧に終わらせているのでいろんな解釈が可能だと思うのだけれど、
 「勇敢であること」「父親が読んでいた本」そして「犬のエピソード」。
 特に犬のエピソードでさいごに母親が言った言葉がちょっと引っかかる。

 全体的に沈鬱なムードで(しかし実際、プライドだけは一人前の14歳の頃って、こんなもん
 じゃないでしょうか)、しかもあちこちすっきりしないところが残るので、好みの分かれる
 ところかもしれません。


血の味」 沢木 耕太郎 ★★★★
41014.jpg  実話で、映画化されるようですね。

 ハーバードのMBAを取得し、マーケティング・マネージャーという
 地位と高収入、そして妻と3人の子供をもつ幸せを手にしたものの、
 子供ふたりがポンペ病という難病に冒され、その病気に立ち向かう
 両親の記録です。

 ポンペ病は筋ジストロフィーと似ていて、徐々に筋力を失い最後には
 自発呼吸すらできなくなって死に至る病ですが、このポンペ病に
 対する治療薬がない(当時)。

 その状況で父親は患者会を作って資金を集め、そこから製薬会社へ投資し、その製薬会社の
 CEOにまでなってしまいます。このあたりとってもアメリカ的ですね。

 そして数々の困難を乗り越えながら、治療薬の早期完成と、子供達に治療を受けさせる
 ために奔走するのですが、時折弱音を(妻に)はきながらも力強くぐんぐん進んでいく
 あたりも、やっぱりアメリカ的強い父親です。

 ほんの数年で新薬開発までこぎ着けたバイタリティは、親の子供に対する愛と
 いうものの強さ故なのでしょうか。

 製薬会社のCEOになったものの、自分の子供達を新薬の臨床試験の対象とすることには
 さまざまな障害があって思うようにならず、会社の経営を預かるCEOとしての自分と、
 父親としての自分との狭間でジレンマに陥りながらも諦めないタフさや、

 そもそも自分の子供が難病にかかり薬がないとなったときに、製薬会社を作ろうという
 発想自体が自分にはないものだったので、もしかしたらこれもアメリカン・ドリームの
 ひとつかもしれないなどとも思う。

 メインのストーリィから外れますが、新薬、特に難病に対する新薬の開発は、現状はやはり
 こうなんだなぁ、と。技術情報、開発情報を元にベンチャーファンドが巨額投資。
 身売りする場合は投資額の5倍のリターンが基本。

 まあこの巨額投資が研究開発の元になるわけだし、利益目的だからこそ開発スケジュール
 なんかもシビアにコントロールされるという利点もあるわけですが、なんとなく危うさも
 同時に感じてしまうのはなぜでしょう。

 そしてこれも本書そのものの評価ではないですが、翻訳がちょっと…。
 もうちょっと頑張って欲しかった。


小さな命が呼ぶとき(上)」「小さな命が呼ぶとき(下)」 ジータ アナンド ★★★
41014.jpg  やっぱり…。
 そうじゃないかと思ったんですが、売春「論」にまでは至っていません。
 残念ながら。

 10年くらい前と今との日本(のみ)における風俗産業の変化について、
 ドキュメンタリーを交えたエッセイ、という感じでしょうか。

 分析と言っても、経済状況の悪化と援助交際を初めとする素人の売春行為の
 蔓延による風俗産業の衰退とか、風俗産業に係わる女性の意識の変化
 (バイト感覚)という程度の言われるまでもないことで、しかも論拠となる
 データも一切ないので「論」と言うにはあまりにも無謀かと。

 また、各章に分かれているものの、書かれ方がエッセイの域を出ていない
 のもなんとも残念なところ。

 そして最大の疑問は、誰に読ませたいのかよく判らない。
 現役風俗譲? 風俗譲予備軍? 男性? 風俗ユーザー?
 それとも業界に警鐘を鳴らしたい?

 なんとなくお局様的なお姉様が、「昔はこんなんじゃなかったわ。まったく今時は…」
 とボヤいているような。

 業界のことはそれなりに判りますので、興味のある方には読みやすくていいんじゃないで
 しょうか。


売春論」 酒井 あゆみ ★★
978-4-08-746543-3.jpg  樹齢千年の巨大なくすの樹のまえで繰り広げられた様々なことが、
 現在と過去とを行き来しながら描かれています。

 この樹の前で命を落としたひと、待ち続けた人、様々なんですが、
 どれだけ時が移ろっても、愛する人を失う哀しみとか、生きなければ
 ならない辛さとか、自分の境遇を呪うことしかできない苦しみとか、

 そういったことは普遍のものであるのだなぁ、と。

 どれだけ科学が進歩しても、どれだけ世の中が便利になっても、やっぱり
 人間は、同じ感情世界を生きているのでしょう。

 なかなか面白い連作短編集で、特に過去とシンクロして進んでいく
 ストーリィはとても良いんですが、もう一声お願いしたい。


千年樹」 荻原 浩 ★★★
9784334745974.jpg  少年のひと夏の成長譚なんですが、厳密には「モノローグ」
 なのだと思います。

 転校していった先の小学校では、仲良くなった近所の子たちは実は差別されて
 いて、自分はどちらに付くのか迫られ、ついには自分もいじめられる側に
 なってしまうのだけれども、それに向かって立ち上がります。

 いじめというのは昔からあって(質はずいぶん変わってきているようですが)
 それに対する大人の対応も、そして「寝た子を起こさない」という言い回しで
 差別を初めとする面倒なことは「見なかったこと」にする大人の「逃げ」も、

 この本を読みながら自分の子供時代を思い出しても、ああやっぱりそれに
 近しいことはあったなぁと思います。

 この本の良いところは「一挙に解決めでたしめでたし」ではないところ。
 そう、日常はそう劇的には変わらない。
 どうせ変わらないのだから何もしないのか、そのなかでも何かを成すのか。
 それだけの違いが実は大きな違いなのだと思います。

 濃厚に立ち上がってくる「昭和の匂い」、いまよりもっと近しかった近隣の人々の「体温」、
 そして「正義」という言葉を純粋に抱いていた時期への限りない優しさに満ちた良作である
 と思います。



七夕しぐれ」 熊谷 達也 ★★★
32289599.jpg  三島晩年の担当編集者であった著者による三島本。

 三島についてはいろんな人が書いていますが、

 「ひとりの死者も出さなかった安田講堂攻防戦(警察、学生共にひとりの
  死者も出なかった)の学生達への、あてつけに、ひとりの学生を道連れ
  にするアイディアを思いついた」

 という記述に、唖然としてしまいました。
 もし「あてつけ」が必要だったとしても、 世界的にも著名な三島が、
 切腹というショッキングな方法で自決することで充分でしょう。
 なにも学生を道連れにする必要などない。

 つまり「学生を道連れにすること」で「あてつけ」ようとしたという
 論法はまったく的外れにしか思えないし、何より故人に対して
 失礼極まりないのではないか。

 結局、週刊誌三流ライターの下衆の勘ぐりなのではないか、そう思われても仕方ないのでは
 ないかと。
 この記述が早い段階で出てくるため、事実関係以外の著者の推論部分はかなり疑問を持って
 読むようになってしまいました。

 まあ、職業柄、ほんの一部を見てさも全てを知っているかのように書かなきゃならないんで
 しょうが、この著者もそれなりに三島に近いところにいたのでしょうけれど、三島のことは
 何にも判ってなかったんだなぁ、というのが正直な感想です。

 一方で、週刊誌ライターであるためか、当時の世相やそのなかにある三島由紀夫「像」と
 いうものを、たとえば「今で言えば木村拓哉並の人気」など、判りやすく紹介していると思います。

 またユングやプラトンが三島に与えた影響を一生懸命探っていますが、このあたりは難しいなぁ。
 ユングやプラトンが三島の頭の中でどのように形造られたのか、例え三島が生きていてもそれを
 知ることはできないのではないかと。

 句読点がかなり違和感があります。


平凡パンチの三島由紀夫」 椎根 和 ★★★
119718.jpg  うーん。
 
 サラ金に借金のある学生が、「一緒に都内を散歩してくれたら100万円」
 くれると誘われて、霞ヶ関を目指して歩きます。その道中いろいろ
 あるのですが。そもそも彼が借金をしなければならなかった原因とか。

 風景描写なんかはとても丁寧で、その風景を通しての心理描写も悪くないし、
 巣鴨の(ビル持ち)バーのママとのやり取りは、ラストまで読むと
 「なるほど」とおもうような丁寧な伏線が張られていたりする一方、
 ちょっと粗いなぁと思う部分もあり。

 なんというか。
 主人公の若者は、それまで「渇いた世界」というか「色のない世界」を
 生きてきて、ラストではじめて自分の足で歩き始めた、つまりは自立の
 ストーリィだと思うのですが、

 ちょっとエピソード盛り込み過ぎなのかなぁ。薄い膜に閉じこもるのではなく、他者との
 関わりの中で感情を揺さぶられたり揺さぶったりしながら果たしていく本当の意味での自立
 みたいなものを描きたかったのかなぁとも思うのですが。

 こう、著者が抱える「充足感の圧倒的な欠落」みたいなものはあちこちに顔を出しているん
 ですが、全体として、小説としてはちょっと弱いかなぁ。なんか勿体ないなぁ。


転々」 藤田 宜永 ★★★
I4062766035L.png  兵士としてベトナム戦争を体験した著者の体験記です。

 彼は家族から疎まれ、PTSDに悩まされ、ホームレスになりますが、
 学校に招かれて戦争の体験を生徒達に話したことから人生が変わります。

 タイトルは、最初に学校で話をした際、生徒から出た質問です。

 彼はこの質問の前に絶句してしまいますが、絞り出すように「YES.」と
 答えたあと、涙に暮れてしまいます。
 その彼に、子供達は癒すように寄り添ったそうですが、

 子供というのは全てを「理解」することはできないかもしれないけど、
 「感じる」ことはできるのだろうなぁ、と。

 著者の深い深い悲しみ、出口の見えない絶望、そんなものを確実に
 感じ取れるのは、大人よりむしろ、子供の方なのかもしれません。

 戦地はもちろん、沖縄基地での「アメリカ軍海兵隊の所行」もきちんと書かれており、
 クジラだマグロだと騒ぐ前に、こっちの方がよっぽど先だろうと思ってしまいますよ。

 著者はその後精力的に平和活動に従事し、日本にもたびたびやってきたようですが、
 亡くなったそうです。残念ですね。


ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?」 アレン・ネルソン ★★★★
1102891288.jpg  みをつくし料理帖シリーズです。
 「八朔の雪」 「花散らしの雨」と続いて、 シリーズも3作目となり、
 硬さみたいなものがずいぶん和らいで、こなれてきたように感じます。

 日本人が忘れてきている「誠実さ」とか「(良い意味での)愚直さ」
 とか「人情」とか、そういったものを思い起こさせてくれます。

 その「人情」も(前にも書きましたが)ただ優しいだけの人情では
 なくて、厳しさも併せ持ったものとして描かれているのが良いですね。

 「料理」というテーマを時代小説の中心に据えた事もとてもいいと
 思うのですが、この作品は、続けようと思えばいくらでも続けられる
 と思うのです。どうやって終幕へ持っていくのか興味があります。

 売れるからって、不必要に引っ張らないで欲しいなぁ(特に編集者)。
 本編を無理に引っ張るより、サイドストーリィでの展開とかも面白のではないかと思うのですが。


想い雲―みをつくし料理帖」 高田 郁 ★★★
9784167772024.jpg  読後、「ああ、白石作品だなぁ」と思います。

 50近くになって片や癌を患い、片やうつ病を患う幼なじみ。
 良くも悪くもそれなりにいろんな経験を積み上げ、来し方行く末に思いを
 馳せる年代なんでしょう。

 恐らくこのあたりは賛否の分かれるところなのかもしれませんが、日常の
 何気ない会話やディティールからも、「死」や「生」について模索する
 姿が描かれており、

 つまり大上段に「死とはなんぞや」と哲学的に語り下ろすのではなく、
 日常生活の中で感じたり考えたりする、等身大の「死について」描き出さ
 れています。

 ドラマティックな展開ではなく、むしろ淡々とした日常ですが、その日常に潜む、日常と
 隣り合わせの「生」とか「死」、そして「人間」について静かな想いが綴られている良書
 だと思います。

 『おそらく人間は自らの孤独と向きあわなければ、自身の真価を見出すことが
  むずかしい生き物なのだ』。


永遠のとなり」 白石 一文 ★★★
9784167671051.jpg  エッセイです。犬猫を巡るものが中心。

 とても平易な言葉で綴られた文章には「毛深い家族」への暖かい眼差しが
 が溢れていますが、その合間合間に知性の高さが伺えます。

 「抱腹絶倒」の代名詞も持つ著者ですが、「ユーモア」と「知性」。

 このふたつは、著者の幼少時代の様々な経験、それもどちらかというと
 辛かったり、傷ついたり、傷つけたり、どうしようもない巨大な力の前に
 なすすべもなく立ちつくすしかなかったり、

 つまりは「哀しい経験」のうえに築かれたものではないかと、なんとなく
 そんな風に思うのです。

 必ずしも愉快ではない経験が彼女の中で知性と明るさとなって花開いた、そうすることの出来る
 強さを持ったひとだったのではないかと、「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」などを読んでいると
 そんな風に感じるのです。


終生ヒトのオスは飼わず」 米原 万里 ★★★
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Writer 【もなか】  Powered by NinjaBlog