本はごはん。
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より処刑(斬首)。当時、上官の命令に背くことなど考えられなかったとは
いえ、死刑をおそれ逃亡した兵士の手記を元にしたノンフィクションです。
逃亡中であり、発見されないためには勤勉に働くしかないという意識も働いた
のでしょうが、この時代の人の勤勉さ、几帳面さ、誠実さには驚きます。
そして手記からうかがい知れるのは観察眼の鋭さ。
つまり頭のいい人だったのでしょう。
辛い仕事に耐え、周りからの厚い信頼を勝ち取りながらも、同胞の裁判結果に
一喜一憂し、いつ発見されるか恐怖と孤独との戦いの日々が、緻密に綴られて
います。
それにしても、東京裁判の理不尽さが際だちます。もちろん中には被告
(日本人)に心を砕いた米国人弁護士なども居たようですが、非戦闘員の
大量虐殺(当時の国際法でも認められていない)行為を棚に上げた裁判。
戦争に向かって突き進んでしまった当時の日本の指導者たちの罪はもちろん裁かれるべきことでは
ありますが、東京裁判は果たして裁判たり得たのか。
この逃亡兵は陸軍中野学校の出身で、その経験が逃亡生活での彼の言動にも影響しているという
記述があり、興味があります。陸軍中野学校関連、探してみることにします。
「逃亡「油山事件」戦犯告白録」 小林 弘忠 ★★★★
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東京駅が「中央停車場」という名前だった時から終戦までのあいだ、そこで
出会ったりすれ違ったりした人々のドラマでありますが、うーん。
悪くはないんですけどね。好みの問題かな…。
なんというか登場人物の台詞とか心情描写が、甘いというか浅いというか、
「迫ってこない」ように感じる。
こう、人々の「哀しみ」とか「慟哭」みたいなものが、表現されきってない
というか、表面的な表現というか。従って深みが感じられないというか。
素材としても、そして明治から昭和の戦後まで「時」を連ねたこともとても
良いと思うだけに、ちょっと残念かも。
「東京駅物語」 北原 亞以子 ★★
阪急電車に馴染みのある人にはもっとしみじみくるのかな。
阪急電車を利用する人々が、時にすれ違い時にささやかに交わって
いくのですが、何気ない日常の中に潜む機微を、簡潔に掬い上げて
いるのは見事です。
文体がちょっと軽いけど、それが合っているようにも思います。
ただ思うのは、電車が舞台ですからそれちょっとどうなんですか的
些細なトラブル(にまで至らないものも含めて)取り上げられていて、
それはバッグを放り投げて座席を確保するおばさんだったりするの
ですが、
これを読んだ人は私も含めて、「そんな非常識なことはしない!」と思っているのだと思うのです。
でも、一歩間違えれば(座席確保にバッグは投げないにしても)、自分も同じ側の人間に、
いつの間にかなってしまっていた、ということが往々にしてあり得るのではないかと。
それは「しない」という行為だけではなくて(非常識なことはしないのが当たり前)、必要な時には
声を挙げる、手をさしのべるということができなければ、結局そちら側の人間に賛同したことに
なって、気がついたら自分もそちら側の人間にすっかりなってしまっていた、というような。
そんな危険性を孕んでいるのだと言うことを忘れないでおこうと思う。
「阪急電車」 有川 浩 ★★★
翻訳書を読んでるような感じがするのは渇いた文体のせいかと思ったんですが、
おそらく言葉の選び方と文章のリズム、これがとてもセンスよくまとまってる
からかもしれません。
言葉と肉。罪と赦し。生と死。遺伝子と魂。手応えのない生に、ありふれた死。
一人歩きをはじめるシステム。ぶつかり合う正義。
近未来を舞台にしたSFであるけれども、そこにあるテーマは人間にとって普遍
のもの。
様々な要素が惜しげもなく詰まっていて、これだけ盛り込んでも決して破綻
することなく織り上げる筆力。計算され尽くされた緻密さというよりも、
感覚的なものではないかと思わせる繊細さ。
いつかまた必ず読み返すであろう1冊。
「虐殺器官」 伊藤 計劃 ★★★★★
なんと切ないタイトルか。
妻を失った深い哀しみが端的に表れていると思います。
妻との出会いから別れまで。決して文章量は多くないんですが、たとえば
冒頭の短いエピソードで、著者の愛した妻の性格が見事に表現されて
いたり、薄い本でありながらその人物描写やふたりの関係が詰まっています。
もう何十年も前のふたりの出会いを著者はこう語る。
「天から妖精が落ちてきた」と。
その出会いの時の想いを忘れずに、いっしょに歳を重ねていける相手に
出会えるということは何と幸せなことであろうと思うのと同時に、
その幸せに奢ることなく、寄り添い愛を育てていく努力を忘れてはいけないのだろうと思います。
抑制したのか、はたまた妻に対する想いに集約したのか、恐らく書かれていないことがたくさん
あるのだろうなと思うのです。幸せとか本当の愛とか、そういうものは降ってくるものではなく、
自分(たち)で創り上げるしかないのだから。
どこまで思いを馳せることが出来るか。それも読書の醍醐味でしょう。
「そうか、もう君はいないのか」 城山 三郎 ★★★★
ありませんでした。なんか淋しいですね。
時代物ですが、遊女屋の娘を通して吉原の内側と、吉原の外の世界
である芝居小屋の内側の両方を描き出しています。そして同時に、
江戸から明治へと移りゆく激動の時代背景をも上手く取り込んでいて、
この上なく重奏な世界を、淡々と紡いでいます。
遊女ものというと吉原の壁の内側だけが舞台のものが多いですが、
吉原だけでも膨大な資料になるであろうに、芝居文化や明治初期の
時代考証もきっちりとなされていて、そしてそれらが惜しげもなく
1冊に詰め込まれていて濃密。
この作品に限らず、著者の目線は常に一定の距離が保たれていて、それがいささかも
ぐらつくことないのがすごい。これだけの濃密な世界を、ここまで突き放して書けるのか。
遊女屋の一人娘、という立場ならではの苦悩と哀しみをかかえながら自分の道を模索していく
主人公の姿が品のある文章でりりしく描かれ、感傷を排除した凜とした空気が読後にも残る
作品だと思います。
「恋紅」 皆川 博子 ★★★★
ドキュメンタリーです。
最終試験に残った10人は、宇宙ステーションを模した施設、それも80平米
程度の密室に、いきなり1週間放り込まれます。初めて逢った人たちと。
そこで様々な課題をこなしていくのですが、24時間監視カメラにさらされ、
一挙手一投足がすべて評価の対象となる、つまりは日常の生活態度も含めて
試験されるプレッシャーはいかばかりなものか。
そして試験はそのままアメリカのNASAに会場を移して続きますが、
そのなかで誰もが失敗したり落ち込んだりしながら、それでも「宇宙」と
いう夢を目指していきます。
この本は宇宙を目指す人たちの人間ドラマであると同時に、近年、事業仕分けなどでやり玉に
挙がりやすい「未来への投資」関連事業の在り方についても考えさせられます。
そして「採用」という行為の在り方について。
私がとある企業の採用責任者をしていた時、特に新卒対象者に口が酸っぱくなるほど言った
のは「等身大(自然体)であれ」ということ。
誰でも自分を良く見せたいという気持ちがあるし、そう思うのは無理もないことなのですが、
自然体で話せるかどうか、自分の言葉で語れるかどうか。それがいちばん重要だと考えて
いましたが、本書の中でもまったく同じことが語られています。
つまり、選抜の種類、レベルなどが違っても、本質は一緒だということなんですね
きっと。
通常知ることのできない世界をかいま見せてくれたことは高く評価出来るのですが
(NHKで放送したドキュメンタリー番組の書籍化なので)、書籍化に当たって最終候補者の
背景など、もうちょっと深く突っ込んでもよかったのではないかしら。
TV番組をそのまま書籍にしました、という感じで、素材が素材だけにちょっと勿体ないように
思います。
「ドキュメント 宇宙飛行士選抜試験」 大鐘 良一 小原 健右 ★★★
短編集です。
どの作品も、一枚の薄い薄い紗を挟んで見る世界のような、ちょっと幻惑感を
覚える世界の中で、強烈な「寄る辺の無さ」を鮮やかに描き出しています。
舞台がみな戦前から戦後にかけてであるためか、すこし沈鬱であったり
どこか退廃的な妖艶さを漂わせていたりするなかで、一切の感傷を排した
「渇いた目」で淡々と語られていくのですが、もしかしてこの短編集は
作家自身の総括なのだろうか、と、ちらりと思う。
私が感じた印象は、
江戸川乱歩の空気感を谷崎潤一郎の文章で表現したような、
または太宰治から女々しさを排除したような、
もしくは朱川湊人の世界から感傷的な部分を一切排除したような、
そんな感じ。
どの短編も高い完成度を誇り、そして見事としか言いようのない文章。
とくに冒頭、導入部の文章は完璧というべきもの。
妖艶かつ幻想的な純文学、とでも言えばいいのだろうか。
この作家の作品は絶版が多いなぁ…。発掘の旅に出ます。
「蝶」 皆川 博子 ★★★★★
BL級刑務所(凶悪犯かつ長期刑受刑者対象刑務所)にて服役中の著者が
描き出す「受刑者の姿」それは「反省しているのはせいぜい1〜2%」で
かつ「被害者のせいで自分はこんな目に遭っている」と考えている者が
大多数、と。
しかも「加害者の人権のインフレ」のため、受刑者は安穏と刑務所のなかで
笑って暮らしている、と。
ちょっとそれは本当なのかと思いたくもなるのだけれど、具体的記述が
多く、こちらから想像する壁の中と、実際の壁の中とには相当なギャップが
あるのだろうと認めざるを得ないのではないか。
私は少なくとも死刑廃止論者ではないが、熱心な死刑存続論者というわけでもなく、ただ、
「死刑」が存在することの意味、というものをきちんと考えずに世界的時流で廃止にして
しまうのはどうかと思う程度なのだけれど、
この著書には論理的に「死刑肯定」の理由を積み上げていて、死刑廃止論にいつも漂って
いる(と感じてしまう)「感情論」や「自己満足的発想」が一切排されており、
それなりに説得力がある。
また、「死刑の賛否単体」ではなくて、(すべての課題に対して解決案が提示されている
わけではないけれども)矯正教育のありかたや刑務所のシステムなど、包括的に考察され
ているところが評価できると思います。
結局のところ日本は、教化教育も刑罰も中途半端だってことですね。
でもまず変わらないんだろうなあ。裁判員制度だって、言い訳のためにやってるように
見えるのは、私だけでしょうか?
この著者と同じく当事者でありながら対照的な立場である元刑務官の著した「死刑と無期懲役」
とセットで読むと面白いかと思います。
「死刑絶対肯定論―無期懲役囚の主張」 美達 大和 ★★★★
(エリザベスサンダースホーム)で育ち、養子としてアメリカに渡り、
ベトナム戦争にてわずか22歳でその生涯を閉じた一人の日本人の生涯です
(大学進学時にアメリカに帰化していますが)。
アメリカに渡ってから彼は、人一倍の努力で野球やフットボールの選手と
して活躍しますが一方で、
親切にしてくれる養子先の家族や友人たちの暖かい愛情を充分判って
いながらもそれでも求めてしまう実の母親やゆるぎない自分の居場所。
心に抱えたものは決して小さくはないはずなのに、明るく前を向いて
生きていく強さに心を打たれます。
出自が出自であるだけに、自分の存在価値を常に周りに提示することでしか自分の存在を
許して貰えないと思い込んでいた彼が、成長して愛する人と家庭を築くことで、本当の自分の
居場所を創り上げるという機会を得ることが出来なかったことが本当に残念だと思います。
構成が素晴らしく、丁寧で読みやすい文章と共にぐいぐい読ませます。
国境や人種を越えて共通して存在する悪意(差別)もあるけれど、同じように
国境や人種を越えて存在する「想い」というものを忘れてはいけないと思いました。
「ヨシアキは戦争で生まれ戦争で死んだ」 面高 直子 ★★★★★
逮捕された当時19歳の男に、面会や手紙を通して迫っていきます。
反省の色は全くなく限りなく他罰的で、自己中心的な様子を見ていると
なんとも暗澹たる気持ちになってきます。
ただ、何度か出てくる「彼の計り知れない心の闇」という表現にはちょっと
疑問を感じたりします。4人も殺して反省するどころか平気でいられる
からには、ものすごい心の闇があるのだろうと思いたくなる心理は
判らないではないけれど、
心の闇なんて誰だって持ってるものであって、この加害者の場合は
心の闇ではなくて、なにか大切なものの「喪失」状態なのではないか。
なんでもかんでも「心の闇」で片付けてしまうならそもそも取材を重ねる
必要はないのではないか。
併せて、前半部分はともかく、真ん中あたりから著者が前面に出てくるわ、繰り返される
記述が多いわでちょっとどうなんでしょうか。
事件と加害者を追ったノンフィクション、というよりも、著者自身のノンフィクション
のように感じます。
そんなこんなを考えると、一体著者はどこまで加害者の心に迫ることができたのかしらと
思ってしまうのです。
「19歳 一家四人惨殺犯の告白」 永瀬 隼介 ★★★
児童小説とか、子供が中心の小説は、基本的には私は敬遠傾向にあるのです。
いつだったかも書きましたが、(それは仕方のないことなのだとは思い
ますが)どうしても「大人の考える子供目線」の範疇を出ていないように
思うので。なので本書も実はあまり期待せずに手に取ったのでありますが。
結論から言えば、「大人の考える子供目線」を完全に脱しているとは思え
ません(いやそれはそもそも無理なことなのだとは思うのです)が、
子供の社会の中にも厳然として存在する格差、嫉妬心、見栄、虚栄心、
絶望、死、一見普通の家庭に見えても、どの家庭にもそれぞれの形で
存在する「歪み」、そしてそれからくる「心に巣くう闇」などなど、
通常「なかったこと」「見なかったこと」にしてしまわれがちなことを正面から捉えていて、
綺麗事にまとめなかったところが高く評価できると思います。
ラストもこれ以外あり得ず、
「いろいろあったけど冒険して帰ってきてたくましくなりましたちゃんちゃん」で終わらせ
なかったことにこの作品の意味があるのではないかと。。
なかなか良い作品でありました。
「ぼくらは海へ」 那須 正幹 ★★★★
江戸という時代の、遊郭という舞台で、様々な哀しみが
美しい日本語によって情操的に繰り広げられる。
その哀しみとは単に性を売ることによってしか生き延びることができないとか
思い思われても添うことができないとか、そういった判りやすいことだけでは
なくて
たとえば第1話で主人公が、吉原が火事になってしまったため仮楼閣に
居る時、他の楼の女郎が身請けされて出て行くところをたまたま目にして、
「こんな仮宅からじゃなくて、どうして吉原に戻ってから見送って
貰わないのかしら。」と思うようなシーン、
つまり、幼い頃から吉原で女郎になるべくして育てられた彼女の哀しい価値観などにも
表されていて、このあたりの深みが単なる女郎小説と一線を画すものとしているように
思います。
重層的な構成、無駄な言葉を一切排除しながら奥行きのある世界を見せる文章、
哀切あふれる濡れ場、文句の付け所がありません。
「花宵道中」 宮木 あや子 ★★★★★
ジェネラル・速水が主人公らしいから、読まないわけにはいかない。
ただ、残念ながら番外編といった小品の趣。
ジェネラル誕生となった事件は、若き日の冴子が出てくるものの、
「ジェネラル・ルージュの凱旋」で語られた範囲に留まっており、
ボリューム感(ページ数)からしてもちょっと物足りない感じ。
しかも本の半分くらいは、海堂氏の個人史やら、自作解説やらで、
つまりこれはファンブックなのですね。
作品には興味がありますが、作家そのものにはあまり興味を持たない
私のような人にはちょっと物足りなさが残るかもしれません。
「ジェネラル・ルージュの伝説」 海堂 尊 ★★★
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